収益認識に関する会計基準の適用によって、貸借対照表に契約資産と契約負債という科目が登場しました。どちらも顧客との契約から生じる項目ですが、性格は正反対です。契約資産は「先に履行したが、まだ無条件の請求権になっていない権利」、契約負債は「先に対価を受け取ったが、まだ履行していない義務」を表します。
実務で迷いやすいのは、契約資産と売掛金(顧客との契約から生じた債権)の線引きです。分かれ目は金額でも回収時期でもなく、対価に対する権利が無条件かどうかという一点にあります。この記事では、収益認識に関する会計基準と適用指針の定めに沿って、3つの用語の定義と区分の判定、具体的な仕訳、貸借対照表の表示と注記までを整理します。
契約資産・契約負債・債権の違い
収益認識に関する会計基準は、顧客との契約から生じる貸借対照表項目を、契約資産・契約負債・顧客との契約から生じた債権の3つに整理しています(収益認識に関する会計基準 第10項、第11項、第12項)。まず全体像を押さえます。
| 契約資産 | 顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する権利のうち、顧客との契約から生じた債権に該当しないもの |
|---|---|
| 契約負債 | 財又はサービスを顧客に移転する義務に対して、顧客から対価を受け取ったもの又は対価を受け取る期限が到来しているもの |
| 顧客との契約 から生じた債権 |
顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する権利のうち無条件のもの(対価に対する法的な請求権) |
3つの関係を一言でまとめると、企業が先に履行していれば資産(契約資産または債権)、顧客が先に支払っていれば負債(契約負債)が計上されます。そして、資産のうち権利が無条件になったものが債権、まだ無条件になっていないものが契約資産です。
収益認識の5ステップそのものの流れは、次のコラムで解説しています。
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用語の定義と区分の判定基準
契約資産の定義
契約資産とは、企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利(ただし、顧客との契約から生じた債権を除く)をいいます(収益認識に関する会計基準 第10項)。すでに収益を認識しているにもかかわらず、請求書を発行できる状態にはなっていない、いわば「請求前の権利」が契約資産です。
典型的なのは、工事やシステム開発のように一定の期間にわたり履行義務を充足する契約で、進捗度に応じて収益を認識するものの、対価の請求は検収完了後という契約です。また、複数の履行義務がある契約で、一部の財だけを引き渡した段階でも、全部の引渡しが対価請求の条件になっていれば、その部分は契約資産になります。
契約負債の定義
契約負債とは、財又はサービスを顧客に移転する企業の義務に対して、企業が顧客から対価を受け取ったもの又は対価を受け取る期限が到来しているものをいいます(収益認識に関する会計基準 第11項)。従来の実務で前受金や前受収益として扱ってきた項目の多くが、これに当たります。
顧客から現金を受け取っていなくても、契約上の支払期限が到来していれば契約負債を計上する点に注意が必要です。入金の有無だけで判断すると計上漏れが生じます。ポイント制度のように、将来の財又はサービスを提供する義務を負う取引でも契約負債が生じます。
顧客との契約から生じた債権の定義
顧客との契約から生じた債権とは、企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件のもの、すなわち対価に対する法的な請求権をいいます(収益認識に関する会計基準 第12項)。実務で用いる科目としては売掛金が代表例です。
ここでいう無条件とは、時の経過以外に対価の支払を求めるための条件が残っていない状態を指します。回収期日が将来であっても、請求のためにこれ以上の履行や手続が求められないのであれば、その権利は無条件です。
区分の分かれ目は「無条件の権利かどうか」
契約資産と債権は、どちらも企業が先に履行したことによって生じる資産であり、収益を認識している点でも共通します。両者を分けるのは、対価に対する権利が無条件になっているかどうかという一点です(収益認識に関する会計基準 第10項、第12項)。
判定にあたっては、契約書の支払条件を確認し、対価を請求するために残っている条件を洗い出します。実務では「検収の完了」「全数の納品」「他の履行義務の充足」といった条件が残っているかどうかが分かれ目になります。なお、企業が履行する前に支払期限が到来する契約では、入金の有無にかかわらず契約負債が生じます。
計上のタイミング
顧客から対価を受け取る前又は対価を受け取る期限が到来する前に財又はサービスを顧客に移転した場合は、収益を認識し、契約資産又は顧客との契約から生じた債権を貸借対照表に計上します(収益認識に関する会計基準 第77項)。企業が先に走った場合の処理です。
反対に、財又はサービスを顧客に移転する前に顧客から対価を受け取る場合には、顧客から対価を受け取った時又は対価を受け取る期限が到来した時のいずれか早い時点で、顧客から受け取る対価について契約負債を貸借対照表に計上します(収益認識に関する会計基準 第78項)。顧客が先に支払った場合の処理です。
契約のいずれかの当事者が履行している場合等には、企業の履行と顧客の支払との関係に基づいて、契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権を計上します(収益認識に関する会計基準 第79項)。つまり、契約単位で「どちらが先行しているか」を見て、資産側か負債側かを決める構造になっています。
具体例と仕訳
ここからは自社作例により、実際にどの科目が動くのかを確認します。金額はすべて自社で設定した仮の数値です。
一定の期間にわたり充足される履行義務で生じる契約資産
システム開発契約(契約金額3,000千円)を締結し、一定の期間にわたり履行義務を充足するものと判定したとします。当期末の進捗度は40%で、契約上、対価の請求は検収完了後とされています。この場合、進捗度に基づいて収益1,200千円を認識するとともに、対価に対する権利はまだ無条件ではないため契約資産を計上します(収益認識に関する会計基準 第41項、第77項)。単位は千円です。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 契約資産 | 1,200 | 売上高 | 1,200 |
一定の期間にわたり充足される履行義務の判定と進捗度の見積りについては、次のコラムで詳しく解説しています。
関連コラム一定の期間にわたり充足される履行義務|進捗度と原価回収基準▸
権利が無条件になった時の売掛金への振替
翌期に開発が完了して顧客の検収を受け、残りの収益1,800千円を認識するとともに、契約金額3,000千円の全額について無条件の請求権を得たとします。対価に対する権利が無条件になったことにより、契約資産は顧客との契約から生じた債権に振り替わります(収益認識に関する会計基準 第12項)。単位は千円です。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 契約資産 | 1,800 | 売上高 | 1,800 |
| 売掛金 | 3,000 | 契約資産 | 3,000 |
収益の認識と債権への振替は別の事象です。収益を認識した時点では契約資産、対価に対する権利が無条件になった時点で債権、と2段階で整理すると誤りが起きにくくなります。
前受けにより生じる契約負債
年間保守サービス(契約金額1,200千円)について、契約開始時に1年分の対価を一括で受け取り、サービスの提供に応じて月ごとに均等に収益を認識するとします。受取時は履行義務を充足していないため契約負債を計上し、1か月経過ごとに100千円を収益に振り替えます(収益認識に関する会計基準 第78項、第46項)。単位は千円です。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 1,200 | 契約負債 | 1,200 |
| 契約負債 | 100 | 売上高 | 100 |
入金がなくても契約上の支払期限が到来していれば契約負債を計上します(収益認識に関する会計基準 第78項)。この場合、実務上は現金預金ではなく売掛金等の債権を相手勘定として計上することになるため、請求書の発行状況と入金状況の両方を突き合わせる決算手続が必要です。
貸借対照表の表示と注記
表示科目
契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権は、適切な科目をもって貸借対照表に表示します(収益認識に関する会計基準 第79項)。適用指針では、次のような科目例が示されています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第104-3項)。
| 契約資産 | 契約資産、工事未収入金 など |
|---|---|
| 契約負債 | 契約負債、前受金 など |
| 顧客との契約 から生じた債権 |
売掛金、営業債権 など |
科目名は自由に決めてよいわけではなく、その項目の性格を適切に表すものである必要があります。従来の前受金という科目を残す場合でも、その残高が契約負債であることを財務諸表利用者が理解できるようにしておくことが求められます。
区分表示しない場合の注記
契約資産と顧客との契約から生じた債権のそれぞれについて、貸借対照表に他の資産と区分して表示しない場合には、それぞれの残高を注記します。また、契約負債を貸借対照表において他の負債と区分して表示しない場合には、契約負債の残高を注記します(収益認識に関する会計基準 第79項なお書き)。
売掛金に契約資産を含めて表示する運用も可能ですが、その場合は注記で残高を開示することになります。表示と注記のどちらで対応するかを決算方針として決め、勘定科目の設計に反映しておくと決算作業が安定します。
契約資産及び契約負債の残高等の注記
履行義務の充足とキャッシュ・フローの関係を理解できるよう、顧客との契約から生じた債権、契約資産及び契約負債の期首残高及び期末残高(貸借対照表に区分して表示していない場合)、当期に認識した収益の額のうち期首現在の契約負債残高に含まれていた額、当期中の契約資産及び契約負債の残高の重要な変動がある場合のその内容などを注記します(収益認識に関する会計基準 第80-20項)。期首・期末残高の注記が求められるのは区分表示していない場合であり、残高の重要な変動の内容などはその区別なく注記の対象になります。
残高の重要な変動の例としては、企業結合による変動、進捗度の見積りの変更や取引価格の見積りの見直しによる修正のうち契約資産又は契約負債に影響を与えるもの、対価に対する権利が無条件となるまでの通常の期間の変化、履行義務が充足されるまでの通常の期間の変化が挙げられています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第106-8項)。なお、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においてはこれらの注記を記載しないことができます(収益認識に関する会計基準 第80-26項)。
実務上の留意点
契約資産は収益認識に関する会計基準に定めのない部分について、金融商品会計基準における債権の取扱いに準じて処理します(収益認識に関する会計基準 第77項)。したがって、契約資産についても債権と同様に貸倒見積高の算定を検討することになります。実務では、売掛金と同じ債権区分の考え方を適用し、貸倒実績率等の算定基礎に契約資産を含めるかどうかを会計方針として整理しておくことになります。
また、外貨建ての契約資産に係る外貨換算については、外貨建取引等会計処理基準の外貨建金銭債権債務の換算の取扱いに準じて処理します(収益認識に関する会計基準 第77項)。決算日の為替相場による換算対象に契約資産が含まれる点は、システム設計で漏れやすい論点です。
相殺表示についても整理が必要です。返金負債の決済時に顧客から商品又は製品を回収する権利として認識した資産は、返金負債と相殺しません(収益認識に関する会計基準の適用指針 第105項)。実務では、契約ごとに企業の履行と顧客の支払の関係を把握できる管理単位になっているかを、決算前に確認しておくことが有効です。
上場準備企業では、契約ごとの支払条件を一覧化し、対価請求の条件が何かを整理する作業が出発点になります。契約資産と債権の振替が正しく行われていることを説明できる資料がないと、監査対応で追加の作業が発生しやすくなります。
適用時期と改正の経緯
収益認識に関する会計基準は2018年3月に公表され、2020年3月に改正されました。2020年に改正した本会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(収益認識に関する会計基準 第81項)。契約資産・契約負債の定義や表示・注記の定めも、この改正で整備されたものが現在適用されています。
早期適用として、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することも認められていました(収益認識に関する会計基準 第82項)。適用指針についても、2021年に改正した適用指針の適用時期は2020年改正会計基準と同様とされています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第107項)。
その後、2024年にリース会計基準の公表に伴う改正が行われています。2024年に改正した本会計基準の適用時期は、2024年に公表されたリース会計基準の適用時期と同様とされています(収益認識に関する会計基準 第83-3項)。そのリース会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます(リースに関する会計基準 第58項)。適用指針についても同様の定めが置かれています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第107-2項)。
この2024年改正の内容は、本会計基準では結論の背景における「範囲」の記載の一部を削除したものであり(収益認識に関する会計基準 第96-3項)、適用指針では買戻契約の取扱いに関する改正です(収益認識に関する会計基準の適用指針 第109-4項)。いずれも契約資産・契約負債の定義そのものを変更するものではありません。
まとめ
契約資産は顧客に移転した財又はサービスの対価に対する権利のうち債権に該当しないもの、契約負債は財又はサービスを移転する義務に対して対価を受け取ったもの又は受け取る期限が到来したもの、顧客との契約から生じた債権は対価に対する無条件の権利をいいます(収益認識に関する会計基準 第10項、第11項、第12項)。契約資産と債権の分かれ目は、対価に対する権利が無条件かどうかという一点にあります。
企業が先に履行すれば契約資産又は債権、顧客が先に支払えば契約負債を計上し、いずれも適切な科目をもって貸借対照表に表示します(収益認識に関する会計基準 第77項、第78項、第79項)。区分して表示しない場合は残高を注記し、期首・期末残高や重要な変動についても注記が求められます(収益認識に関する会計基準 第79項、第80-20項)。
契約資産に対する貸倒引当金や外貨換算など、金融商品会計基準や外貨建取引等会計処理基準に準じた処理も必要になります(収益認識に関する会計基準 第77項)。契約条件によって判断が分かれる論点のため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら ▸参考文献
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第30号 収益認識に関する会計基準の適用指針
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
よくある質問
契約資産と売掛金はどのように使い分けますか。
対価に対する権利が無条件であれば顧客との契約から生じた債権として売掛金等で表示し、無条件になっていなければ契約資産として表示します(収益認識に関する会計基準 第10項、第12項)。判断の際は契約書の支払条件を確認し、対価を請求するために検収の完了や他の履行義務の充足といった条件が残っているかどうかを確かめます。時の経過以外に条件が残っていなければ、回収期日が将来であっても債権に該当します。
契約資産と契約負債は相殺して表示できますか。
同一の契約については、企業の履行と顧客の支払との関係に基づいて、契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権のいずれかを計上します(収益認識に関する会計基準 第79項)。つまり1つの契約から契約資産と契約負債が同時に両建てで生じるのではなく、どちらが先行しているかに応じて資産側か負債側のいずれか一方として表示される構造になっています。一方で、異なる契約から生じた契約資産と契約負債を一括して相殺する取扱いは定められていないため、相殺の判断は契約単位で行うことになります。
契約資産に貸倒引当金は設定しますか。
本会計基準に定めのない契約資産の会計処理は、金融商品会計基準における債権の取扱いに準じて処理します(収益認識に関する会計基準 第77項)。したがって、契約資産についても債権と同様に貸倒見積高の算定を検討することになります。貸倒実績率の算定基礎に契約資産を含めるかどうか、債権区分の判定をどの単位で行うかを、あらかじめ会計方針として整理しておくと決算作業が安定します。
契約負債を前受金という科目で表示してもよいですか。
契約負債は適切な科目をもって貸借対照表に表示することとされており、適用指針では契約負債や前受金といった科目が例示されています(収益認識に関する会計基準 第79項、収益認識に関する会計基準の適用指針 第104-3項)。前受金として表示すること自体は妨げられませんが、契約負債を他の負債と区分して表示しない場合には、契約負債の残高を注記します(収益認識に関する会計基準 第79項なお書き)。
契約資産の残高について注記が必要ですか。
顧客との契約から生じた債権、契約資産及び契約負債の期首残高及び期末残高(貸借対照表に区分して表示していない場合)や、当期中の契約資産及び契約負債の残高の重要な変動がある場合のその内容などを注記します(収益認識に関する会計基準 第80-20項)。重要な変動の例としては、進捗度の見積りの変更による修正や、対価に対する権利が無条件となるまでの通常の期間の変化が挙げられています(収益認識に関する会計基準の適用指針 第106-8項)。連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表ではこれらの注記を記載しないことができます(収益認識に関する会計基準 第80-26項)。