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労働組合の会計監査で組合員が担う範囲|内部監査と外部監査の違い

2026-08-19
目次

労働組合の会計監査について、組合員から選ばれた会計監査委員が帳簿と通帳を突き合わせ、総会で「適正である」と報告する。多くの単組で長く続いてきた運用です。しかし労働組合法は、組合員による組合内部のチェックとは別に、職業的に資格がある会計監査人による証明書を規約の要件として求めています。両者は目的も担い手も異なり、内部のチェックだけでは資格審査の場面で要件を満たさないことがあります。

この記事では、労働組合の会計監査で組合員が担える範囲と、その限界を法令の条文に沿って整理します。そのうえで、組合内部の監査と外部の会計監査人による証明の違い、両者をどう組み合わせて年間の運営に組み込むかを、単組・企業内労組の役員の方に向けて解説します。

労働組合の会計監査における組合員の位置づけ

結論から述べると、組合員による会計監査は労働組合の民主的運営を支える重要な仕組みですが、労働組合法が規約の要件として求めている「会計監査人による証明書」とは別のものです。まず、組合員が実務として何を担っているのか、そして法律が何を求めているのかを分けて確認します。

組合内部で組合員が担う監査の実際

多くの労働組合では、規約に基づいて会計監査委員や監査委員といった役職を置き、組合員のなかから選出しています。担当者は、現金出納帳と預金通帳の残高照合、領収書と支出伝票の突合、予算と決算の差異確認といった作業を行い、その結果を総会で報告します。

この運用そのものは、組合の自治に基づく仕組みです。労働組合法には、組合内部に監査担当者を置くことを直接求める規定はありません。一方で法律は、単位労働組合の組合員がその労働組合のすべての問題に参与する権利および均等の取扱いを受ける権利を有することを、規約に定めるべき事項としています(労働組合法 第5条第2項第3号)。組合財政の状況を組合員が知り、確認できる状態にしておくことは、この権利を実質的に支える運営上の土台にあたります。

また、役員は組合員の直接無記名投票により選挙されること(労働組合法 第5条第2項第5号)、総会は少なくとも毎年1回開催すること(労働組合法 第5条第2項第6号)も規約の要件です。組合員が選んだ役員が執行した財政を、組合員が総会で確認するという流れは、これらの規定と一体で機能しています。

労働組合法が規約に求める会計報告の要件

組合内部の運用とは別に、労働組合法は会計報告について具体的な要件を規約に含めることを求めています。条文は、すべての財源および使途、主要な寄附者の氏名ならびに現在の経理状況を示す会計報告を、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表することを規約に定めるよう求めています(労働組合法 第5条第2項第7号)。

この一文には、実務上おさえるべき要素が複数含まれています。整理すると次のとおりです。

会計報告の内容 すべての財源および使途、主要な寄附者の氏名、現在の経理状況を示すもの
添えるべき書面 職業的に資格がある会計監査人による、正確であることの証明書
会計監査人を
委嘱する主体
組合員(役員や執行部ではなく組合員による委嘱と定められている)
頻度と公表先 少なくとも毎年1回、組合員に対して公表する

ここで注意したいのは、条文が「組合員によって委嘱された」と定めている点です。委嘱する主体は組合員ですが、証明書を作成するのは職業的に資格がある会計監査人であり、この二つは別の役割です。組合員が会計監査委員として組合内部のチェックを行うことは、条文が求める証明書の作成にはあたりません。

なお「職業的に資格がある会計監査人」の範囲については、公認会計士法に規定する公認会計士および監査法人ならびに信託業法に規定する信託会社が該当するとされています。組合員のなかにこれらの資格を持つ方がいない限り、組合内部だけで証明書を用意することはできません。

組合員による内部監査の限界

組合員による内部監査には、独立性と専門性という二つの面で構造的な制約があります。この制約は担当者の努力で埋められる性質のものではなく、仕組みとして別の手当てが必要になります。

独立性の制約

会計監査委員も組合員であり、日常の組合活動では執行部と同じ職場・同じ組織のなかにいます。役員の親しい同僚が監査を担当する、前任の会計担当者がそのまま監査側に回る、といった状況は単組では珍しくありません。この場合、形式上は監査が行われていても、指摘しにくい関係が残ります。

この点について、行政の解釈では、組合役員、組合専従職員、組合会計の責任ある担当者など、組合の会計運営の上に著しい利害関係がある方(過去1年以内にこれらの立場にあった方を含む)が、自己の所属する労働組合の会計の監査や証明を行うことは適当でないとされています。一方、そうした立場にない一般の組合員である場合には、自己の所属する労働組合の会計を監査・証明することは一般的には差し支えないとされています。

つまり、独立性の判断は「組合員かどうか」ではなく「会計運営に対する利害関係の有無」で分かれます。組合内部で監査担当者を選ぶ際にも、この視点を持っておくと運用の説得力が変わります。

専門性と検証手続の制約

もう一つの制約は、検証手続の範囲です。組合内部の監査は、実務上は帳簿と証憑の突合が中心になります。これは支出の記録漏れや誤記を見つけるうえでは有効ですが、会計報告の全体が正確であることを裏づけるには十分ではありません。

労働組合法が求める会計報告は、すべての財源および使途を示すものとされています(労働組合法 第5条第2項第7号)。組合費収入だけでなく、上部団体からの交付金、共済事業に係る収支、特設した基金の動きまでを含めて網羅性を確かめる必要があります。特に、共済事業その他福利事業のために特設した基金を他の目的に流用する場合には総会の決議を経なければならないとされており(労働組合法 第9条)、基金の区分管理は監査上の重要な確認点になります。

こうした網羅性の検証には、残高確認や分析的手続といった専門的な監査技術が求められます。組合内部の担当者が本業のかたわらで実施する範囲を超えるため、証明書の作成を外部の会計監査人に委嘱することが条文上の建て付けになっていると理解できます。

内部監査と外部監査の違い

組合内部の監査と、職業的に資格がある会計監査人による会計証明は、目的も成果物も異なります。どちらかがどちらかの代わりになるものではありません。主な違いは次のとおりです。

比較の観点 組合員による内部の監査 会計監査人による会計証明
担い手 規約に基づき組合員から選出された会計監査委員など 組合員によって委嘱された、職業的に資格がある会計監査人
根拠 各組合の規約・内規(法律上の設置義務はない) 労働組合法第5条第2項第7号が規約に含めるよう求める事項
主な目的 執行の適正性を組合員の目で確認し、総会で説明できる状態にすること 会計報告が正確であることを、独立した第三者の立場から証明すること
成果物 総会に対する監査報告(様式は組合ごと) 正確であることの証明書
資格審査での扱い それだけでは第5条第2項第7号の要件を満たさない 規約要件の充足を示す前提となる

資格審査・法人登記の場面での扱い

この違いが実際に効いてくるのが、労働委員会による資格審査の場面です。労働組合が労働組合法に規定する手続に参与し、救済を受けるためには、労働委員会に証拠を提出して第2条および第5条第2項の規定に適合することを立証しなければならないとされています(労働組合法 第5条第1項)。

中央労働委員会の案内によれば、資格審査は、不当労働行為の救済申立てをする場合、労働委員会の労働者委員候補者を推薦する場合、法人登記をするために資格証明書の交付を受ける場合、労働協約の地域的拡張適用の申立てをする場合、職業安定法で定められている無料の労働者供給事業の許可申請を行う場合などに必要とされます。過去に適格決定を受けたことがある労働組合であっても、その都度あらためて資格審査を受ける必要があります。

審査は労働委員会の公益委員会議で行われ、労働組合が自主的な組合であるか、民主的な組合としての規約を備えているかなどの要件について確認されます。規約の要件には第5条第2項第7号が含まれるため、会計報告と証明書に関する定めが規約に置かれているかが確認の対象になります。なお、労働委員会から「認証」を受けているという表示が見られることがありますが、労働組合の認証制度はありません。

法人格を取得する場合はさらに直結します。労働組合法の規定に適合する旨の労働委員会の証明を受けた労働組合は、その主たる事務所の所在地において登記することによって法人となるとされています(労働組合法 第11条第1項)。規約の整備が不十分なまま登記の準備を進めても、その前段で止まることになります。

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内部監査と外部監査の使い分け

ここまでを踏まえると、実務上の方針は明確です。組合内部の監査はやめるのではなく続けたうえで、規約が求める会計監査人による証明を別に確保する。この二層構造にしておくことが、資格審査にも組合員への説明にも耐える形になります。

規約の記載の点検

最初に行うべきは、自組合の規約の点検です。会計に関する条項が「会計監査委員が会計を監査し、総会に報告する」とだけ書かれている規約は、組合内部の運用としては成立していても、第5条第2項第7号が求める記載を欠いている可能性があります。

点検の観点は、会計報告の内容(すべての財源および使途、主要な寄附者の氏名、現在の経理状況)、証明書を作成する主体(職業的に資格がある会計監査人)、委嘱の主体(組合員)、頻度と公表先(少なくとも毎年1回、組合員に公表)の四つです。いずれかが抜けている場合は、規約改正の議案として総会にかける準備が必要になります。規約の改正には、単位労働組合であれば組合員の直接無記名投票による過半数の支持が必要である旨も規約に定めておかなければなりません(労働組合法 第5条第2項第9号)。

年間スケジュールへの組み込み

次に、決算から総会までの日程に外部の会計監査人による手続を組み込みます。組合の会計年度末に帳簿を締め、組合内部の監査を先に済ませたうえで会計監査人に資料を引き渡す流れにすると、資料の不足や整理漏れを事前に潰せるため手続が円滑になります。

会計報告と証明書は少なくとも毎年1回組合員に公表するものとされているため(労働組合法 第5条第2項第7号)、通常は定期大会や定期総会に間に合う日程を逆算します。総会が年1回であること(労働組合法 第5条第2項第6号)を踏まえると、決算から総会までの限られた期間に組合内部の監査と外部の証明手続の両方を収める必要があり、早めの依頼が実務上の要点になります。

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委嘱にあたっての留意点

会計監査人を委嘱する際は、条文が委嘱の主体を組合員としている点に沿った手続を踏みます。実務上は、総会または大会の議案として会計監査人の委嘱を諮り、議事録に残す形が説明しやすい方法です。執行部の判断だけで契約し、組合員への報告がないままになっていると、条文の建て付けとずれます。

また、独立性の観点から、組合の会計運営に著しい利害関係がある方を選ばないことが重要です。組合役員や専従職員、会計担当者として直近まで関与していた方は、たとえ有資格者であっても自組合の証明を担う相手としては適当ではないと解されています。上部団体や他組合との関係についても、選定の段階で整理しておくと後の説明が容易になります。

まとめ

労働組合の会計監査において、組合員が担うチェックは組合運営の透明性を支える基盤であり、これ自体は続けるべき仕組みです。ただし労働組合法は、会計報告に職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書を添えて、少なくとも毎年1回組合員に公表することを規約に含めるよう求めており(労働組合法 第5条第2項第7号)、組合員による内部のチェックだけでこの要件を満たすことはできません。

独立性と検証手続の両面で、組合内部の監査には構造的な限界があります。会計監査委員による確認と、外部の会計監査人による証明を二層で用意し、規約の記載・委嘱の手続・年間スケジュールの三点を整えておくことが、資格審査や法人登記の場面で確実に通る形につながります。まずは自組合の規約に第5条第2項第7号に対応する条項があるかを確認するところから着手してください。

規約の記載が要件を満たしているかの判断や、会計監査人への委嘱の進め方は、組合の規模や事業の内容によって具体的な対応が変わります。個別の状況に応じた判断が必要な場面では、公認会計士へのご相談をおすすめします。

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参考文献

よくある質問

組合員による会計監査だけでは足りないのですか

組合内部の会計監査は運営上有用ですが、それだけでは労働組合法が規約に求める要件を満たしません。会計報告には、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であることの証明書を添えて、少なくとも毎年1回組合員に公表する旨を規約に定める必要があります(労働組合法 第5条第2項第7号)。

会計監査委員を置かなければならないという法律上の定めはありますか

労働組合法には、組合内部に監査担当者を置くことを直接求める規定はありません。会計監査委員や監査委員は各組合の規約に基づく仕組みです。一方、会計報告と会計監査人の証明書に関する定めは規約に含めるべき事項とされています(労働組合法 第5条第2項第7号)。

組合員のなかに公認会計士がいれば、その方に証明を依頼できますか

組合の会計運営に著しい利害関係がない一般の組合員である場合には、自己の所属する労働組合の会計を監査・証明することは一般的には差し支えないと解されています。ただし、組合役員、専従職員、組合会計の責任ある担当者など(過去1年以内にこれらの立場であった方を含む)に該当する場合は適当でないとされています。

資格審査はどのような場面で必要になりますか

中央労働委員会の案内では、不当労働行為の救済申立て、労働委員会の労働者委員候補者の推薦、法人登記のための資格証明書の交付、労働協約の地域的拡張適用の申立て、無料の労働者供給事業の許可申請などの場面が挙げられています。過去に適格決定を受けた組合でも、その都度あらためて審査を受ける必要があります。

規約に第5条第2項第7号に対応する条項がない場合はどうすればよいですか

規約改正の議案として総会にかける準備が必要です。単位労働組合の規約は、組合員の直接無記名投票による過半数の支持を得なければ改正しない旨を規約に定めることとされているため(労働組合法 第5条第2項第9号)、改正手続そのものも規約の定めに沿って進めます。

事務所概要
社名
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住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

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