条件付取得対価(アーンアウト)とは、企業結合契約において定められるものであって、契約締結後の将来の特定の事象または取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付される若しくは引き渡される、または返還される取得対価をいいます(企業結合に関する会計基準(注2))。M&Aの買収価格の一部を対象事業の将来業績に連動させるアーンアウト条項が、これに該当します。
日本基準の処理は後追い型です。企業結合日に見積額を計上するのではなく、交付または引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で支払対価を取得原価として追加的に認識し、のれんを追加的に認識する、または負ののれんを減額します(同 第27項(1))。追加するのれんは企業結合日時点で認識されたものと仮定して計算するため、過年度に対応する償却額の修正が同時に必要になります(同(注4))。
条件付取得対価の定義と二つの類型
条件付取得対価は、追加的な交付若しくは引渡し、または返還が企業結合日後に行われるものに限定されると解されます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第47項(1))。基準はこれを、特定事業年度の業績水準に応じて対価を追加交付または一部返還する類型(企業結合に関する会計基準(注3))と、特定の株式または社債の市場価格に応じて当初合意した価額を維持するために追加交付する類型(同(注5))に分け、処理を分けています。
| 将来の業績に依存する 条件付取得対価 |
交付・引渡しまたは返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で取得原価を追加または減額し、のれんを追加計上または減額する。アーンアウト条項の大半がこの類型に当たる。 |
|---|---|
| 特定の株式・社債の 市場価格に依存する条件付取得対価 |
当初合意した価額を維持するための追加交付であるため、取得原価は追加しない。追加交付可能となった対価を時価で認識し、交付済みの株式・社債を時価に修正する。 |
前提として、取得原価は原則として取得の対価となる財の企業結合日における時価で算定し(同 第23項)、識別可能資産および負債の企業結合日時点の時価を基礎に企業結合日以後1年以内に配分します(同 第28項)。配分された純額を上回る超過額がのれんであり(同 第31項)、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって規則的に償却します(同 第32項)。
次の作例では、X1年4月1日にA社がB社から事業を譲り受け、現金600,000千円を支払いました。識別可能資産の時価620,000千円、引き受けた負債の時価120,000千円で、配分された純額は500,000千円です(同 第28項、第31項)。単位は千円とします。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 諸資産 | 620,000 | 諸負債 | 120,000 |
| のれん | 100,000 | 現金預金 | 600,000 |
アーンアウト条項が付されていても、この時点では条件付取得対価の仕訳は生じません。
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将来の業績に依存する場合ののれんの追加計上
追加認識の時点を決める二つの要件
対価を追加的に交付または引き渡すときは、交付または引渡しが確実となり、かつその時価が合理的に決定可能となった時点で、支払対価を取得原価として追加的に認識し、のれんを追加的に認識する、または負ののれんを減額します(企業結合に関する会計基準 第27項(1))。二つの要件は同時に満たす必要があり、業績見込みが上振れしている段階では会計処理は生じません。実務では対象事業年度の決算が確定し算定式で支払額が一義的に定まった時点を基準としますが、算定基礎に係争がある場合や上限・下限の調整条項がある場合は、時価が合理的に決定可能かを個別に検討します。
のれん償却額の修正
追加的に認識するのれんまたは減額する負ののれんは、企業結合日時点で認識または減額されたものと仮定して計算し、追加認識または減額する事業年度以前に対応する償却額および減損損失額は損益として処理します(企業結合に関する会計基準(注4)、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第47項(1))。のれん残高を当初から追加後の金額で償却していた状態に揃え、償却不足額を当期の損益で一括して取り込みます。
先の作例の続きです。のれん100,000千円を10年で定額償却しており、X3年3月期末に追加支払60,000千円の支払が確実となり、その時価が合理的に決定可能となりました。企業結合日はX1年4月1日のため、対応する償却期間は2年です(同 第27項(1)、同(注4))。単位は千円とします。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| のれん | 60,000 | 未払金 | 60,000 |
| のれん償却額 | 12,000 | のれん | 12,000 |
のれん当期償却額は販売費及び一般管理費の区分に表示します(同 第47項)。上場準備企業では、この一括計上が申請期の営業利益に効くため、アーンアウトの確定時期と審査スケジュールの重なりを事前に確認しておく必要があります。
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対価の一部が返還される場合の処理
業績が一定水準に届かない場合に、支払済みの対価の一部が買手へ返還される設計もあります。この場合、返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、返還される対価の金額を取得原価から減額するとともに、のれんを減額する、または負ののれんを追加的に認識します(企業結合に関する会計基準 第27項(1))。のれんを企業結合日時点で減額されたものと仮定して償却額を修正する点も、追加交付の場合と同じです(同(注4))。
この取扱いは平成31年改正会計基準で明確化されました。対価の一部が返還される条件付取得対価は、追加交付される場合と同様に買手側と売手側のリスク分担によって設定されるものであり、両者に異なる性質はないと整理されています(同 第96-2項、第96-3項)。
同じ作例で、X3年3月期末に対価40,000千円の返還を受けることが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった場合を示します(同 第27項(1)、同(注4))。単位は千円とします。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 未収入金 | 40,000 | のれん | 40,000 |
| のれん | 8,000 | のれん償却額 | 8,000 |
返還額が大きく負ののれんが生じる場合は、識別可能資産および負債の把握と取得原価の配分が適切かを見直したうえで、なお生じるときに発生した事業年度の利益として処理し(同 第33項)、原則として特別利益に表示します(同 第48項)。
株式や社債の市場価格に依存する条件付取得対価
交付した特定の株式または社債の市場価格が一定水準を下回ったときに、当初合意した価額を維持するために追加交付する条項も条件付取得対価です(企業結合に関する会計基準(注5))。当初合意された価額が維持されるにすぎないため、取得原価を追加的に認識するのは適切ではないとされています(同 第97項)。交付が確実となり時価が合理的に決定可能となった時点で、追加交付可能となった対価を時価で認識し、企業結合日現在で交付している株式または社債を時価に修正したうえ、修正により生じた社債プレミアムの減少額またはディスカウントの増加額を将来にわたって規則的に償却します(同 第27項(2)、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第47項(2))。交付株式数が将来業績に連動する設計であれば、支払手段が株式であっても第27項(1)の処理となる点に注意が必要です。
事業分離等における売却側の取扱い
条件付取得対価の定めは取得企業側の規定であり、売却側である分離元企業は事業分離等に関する会計基準に従います。分離元企業は、移転した事業に関する投資が清算されたとみる場合、受け取った対価となる財の時価と移転した事業に係る株主資本相当額との差額を移転損益として認識し(事業分離等に関する会計基準 第10項(1))、原則として特別損益に計上します(同 第27項)。受取対価が現金以外の資産等の場合の時価は、受取対価となる財の時価と移転した事業の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価によります(同 第12項)。
見落とされやすいのが継続的関与の評価です。分離元企業の継続的関与があり、それが重要であることによって移転した事業に係る成果の変動性を従来と同様に負っている場合には、投資が清算されたとみなされず、移転損益は認識されません(同 第10項(1))。継続的関与があるにもかかわらず移転損益を認識した場合は、その主な概要を注記します(同 第28項(5))。
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注記事項と適用時期
企業結合年度において取得とされた企業結合に係る重要な取引がある場合、取得原価の算定等に関する事項として、企業結合契約に定められた条件付取得対価の内容およびそれらの今後の会計処理方針を注記します(企業結合に関する会計基準 第49項(3)②)。支払が確実になっていない段階でも、契約に条項があれば注記の対象です。共通支配下の取引等として子会社株式を追加取得した場合も同様です(同 第52項(3)①)。
本会計基準は、平成15年に公表された会計基準が平成18年4月1日以後実施される企業結合から(同 第56項)、平成20年改正会計基準が平成22年4月1日以後実施される企業結合から(同 第57項)、平成25年改正会計基準が平成27年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されています(同 第58-2項(1))。条件付取得対価に直結する直近の改正は平成31年改正会計基準で、平成31年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される企業結合から適用されています(同 第58-3項)。企業会計基準委員会の公表物一覧では、その後に公表された他の会計基準等に伴う修正が反映され、最終修正日は2026年1月9日とされています。
アーンアウト設計で押さえる実務論点
| 認識時点の特定 | 算定式・調整条項・紛争条項の有無で「確実となった」時点が動く。契約段階で認識時点を想定しておく。 |
|---|---|
| 追加のれんと減損 | 追加のれんは残存期間で費用化されるうえ、過年度対応分が一括で損益に乗る。業績が計画を下回る局面では減損の検討が必要になる場合がある。 |
| 売手側との視点の差 | 買手は取得原価とのれん、売手は移転損益と継続的関与の問題として捉える。交渉時に双方の会計影響を並べて確認する。 |
まとめ
条件付取得対価(アーンアウト)の会計処理は、日本基準では企業結合日に見積計上せず、交付または引渡しが確実となり時価が合理的に決定可能となった時点で取得原価を追加し、のれんを追加的に認識する後追い型です(企業結合に関する会計基準 第27項(1))。追加するのれんは企業結合日時点で認識されたものと仮定して計算するため、対応する期間の償却額を当期の損益として処理します(同(注4))。
のれんの追加計上とその後の減損リスク、注記方針の決定は単独判断が難しい論点であり、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。公認会計士事務所プライムパートナーズ/株式会社プライムパートナーズコンサルティングでは、企業結合の会計方針の整理から実行後の決算対応までを支援しています。
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- 企業会計基準委員会 企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第7号 事業分離等に関する会計基準
よくある質問
企業結合日に、アーンアウトの見積額を計上する必要はありますか。
日本基準では計上しません。条件付取得対価は、交付または引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で取得原価として追加的に認識します(企業結合に関する会計基準 第27項(1))。ただし、企業結合契約に定められた条件付取得対価の内容と今後の会計処理方針は、企業結合年度に注記が必要です(同 第49項(3)②)。
追加で計上するのれんは、過年度に遡って処理するのですか。
追加的に認識するのれんは企業結合日時点で認識されたものと仮定して計算し、追加認識する事業年度以前に対応する償却額および減損損失額は損益として処理します(企業結合に関する会計基準(注4))。過年度の財務諸表を作り直すのではなく、対応する償却額を当期の損益に取り込みます。
業績が未達で対価の一部の返還を受けた場合は、どう処理しますか。
返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、返還される対価の金額を取得原価から減額するとともに、のれんを減額する、または負ののれんを追加的に認識します(企業結合に関する会計基準 第27項(1))。平成31年改正会計基準で、追加交付の場合と同様に整理されました(同 第96-2項)。