退職給付の簡便法とは、従業員数が比較的少ない小規模な企業等において、期末の退職給付の要支給額を用いた見積計算を行う等の簡便な方法により、退職給付に係る負債および退職給付費用を計算する方法をいいます(退職給付に関する会計基準 第26項)。原則法のように退職給付見込額の見積りや期間帰属の計算を行わないため、退職給付債務の算定にかかる負担を大きく抑えられます。一方で、適用できる企業の範囲や計算方法は適用指針で具体的に定められており、そこから外れた運用は監査上の論点になります。
この記事では、簡便法を適用できる要件、簡便法による退職給付債務と退職給付費用の計算方法、原則法へ移行する場合の会計処理、そして注記までを、企業会計基準第26号と企業会計基準適用指針第25号の条項番号を示しながら整理します。上場準備の過程で監査法人から指摘を受けやすい論点にも触れます。
退職給付の簡便法の位置づけ
退職給付会計では、退職給付債務を退職給付見込額のうち期末までに発生していると認められる額を割り引いて計算することが原則です(退職給付に関する会計基準 第16項)。この原則的な方法を実務では原則法と呼びます。これに対して簡便法は、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合、または退職給付に係る財務諸表項目に重要性が乏しい場合に認められる例外的な取扱いです(同 第26項)。
簡便法が維持されている理由は、費用対効果にあります。小規模な企業などでは年齢や勤務期間に偏りがあることなどにより、数理計算の結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合があり得るため、簡便な方法を認める必要性は変わらないと整理されています(同 第73項)。国際的な会計基準にそろえて重要性が乏しい場合のみに限定すべきという意見もありましたが、見直しは行われませんでした(同 第73項)。
簡便法の具体的な会計処理は、企業会計基準適用指針第25号の第48項から第51項に定められています(退職給付に関する会計基準の適用指針 第47項)。原則法との主な違いは次のとおりです。
| 原則法 | 簡便法 |
|---|---|
| 退職給付見込額を見積り、期間帰属させたうえで割り引いて退職給付債務を計算します | 期末の自己都合要支給額や年金財政計算上の数理債務を用いて退職給付債務を計算します |
| 割引率、長期期待運用収益率、予想昇給率などの計算基礎を設定します | 計算基礎の設定は原則として不要で、必要な係数も限定されます |
| 数理計算上の差異と過去勤務費用が発生し、平均残存勤務期間以内の一定の年数で費用処理します | 数理計算上の差異と過去勤務費用は生じず、負債の増減額がそのまま退職給付費用になります |
| 会計基準第30項に定める11項目の注記が必要です | 適用指針第62項に定める5項目の注記に代えることができます |
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簡便法を適用できる企業の要件
従業員数300人未満という目安
簡便法を適用できる小規模企業等とは、原則として従業員数300人未満の企業をいいます(退職給付に関する会計基準の適用指針 第47項)。ここでの従業員数は、退職給付債務の計算対象となる従業員数を意味します(同 第47項)。したがって、退職給付制度の対象外である従業員や役員を含めた在籍者数とは一致しない点に注意が必要です。
従業員数が300人以上の企業であっても、年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより、原則法による計算の結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合には、簡便法によることができます(同 第47項)。ただし、この判断は根拠を示して説明できる必要があり、単に人数がやや多い程度の理由では認められにくいのが実務の感覚です。要件を整理すると次のとおりです。
| 原則的な目安 | 従業員数300人未満の企業 |
|---|---|
| 300人以上の場合 | 年齢や勤務期間の偏り等により、原則法の計算結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合 |
| 従業員数の範囲 | 退職給付債務の計算対象となる従業員数 |
| 判断の単位 | 複数の退職給付制度を有する事業主は制度ごとに判断 |
| 将来の見込み | 従業員数は毎期変動するため、一定期間の従業員規模の予測を踏まえて適用を決定 |
制度ごとの判断と連結グループでの取扱い
簡便法の適用は制度ごとに判断されます(退職給付に関する会計基準の適用指針 第47項)。そのため、子会社および持分法を適用する関連会社を含めて、連結グループのすべての制度について原則法と簡便法のいずれかに統一する必要はありません(同 第110項)。親会社が原則法、子会社が簡便法という組合せも認められます。
また、親会社と同一の連合設立型厚生年金基金に加入している子会社等の場合には、小規模企業等に該当するときでも、連結財務諸表上は親会社による一括計算という実務上の理由から原則法の計算方法によるケースがあると考えられています(同 第110項)。この場合でも判断は制度ごとに行われるため、当該子会社が連合設立型厚生年金基金のほかに退職一時金制度等を有していれば、その制度については簡便法によることができます(同 第110項)。
簡便法による退職給付債務の計算方法
簡便法を適用する場合、次に示す方法のうち、各事業主の実態から合理的と判断される方法を選択して退職給付債務を計算します(退職給付に関する会計基準の適用指針 第50項)。いったん選択した方法は、原則として継続して適用します(同 第50項)。制度の種類によって選択できる方法が異なる点が特徴です。
退職一時金制度における3つの方法
退職一時金制度については、いずれも期末の自己都合要支給額を基礎とする方法が定められています(退職給付に関する会計基準の適用指針 第50項(1)、第112項)。自己都合要支給額は大部分の事業主が退職金規程から算定できるため、実務上の利用可能性が高いことが背景にあります(同 第112項)。
| 比較指数を用いる方法 | 適用初年度の期首における退職給付債務を原則法で計算し、自己都合要支給額との比(比較指数)を求め、期末時点の自己都合要支給額に比較指数を乗じた金額を退職給付債務とします |
|---|---|
| 係数を乗じる方法 | 期末の自己都合要支給額に、平均残存勤務期間に対応する割引率および昇給率の各係数を乗じた額を退職給付債務とします |
| 要支給額による方法 | 期末の自己都合要支給額をそのまま退職給付債務とします |
比較指数を用いる方法では、翌年度以後において計算基礎等に重要な変動がある場合は比較指数を再計算します(同 第50項(1))。また、原則法により計算された親会社の比較指数を用いることに合理性があると判断される場合には、親会社の比較指数を自社の期末自己都合要支給額に乗じる方法も適用できます(同 第50項(1))。比較指数の考え方は次のとおりです。
企業年金制度における3つの方法
企業年金制度については、自己都合要支給額を基礎とした方法に加えて、年金財政計算上の数理債務を利用した方法が認められています(退職給付に関する会計基準の適用指針 第50項(2)、第112項)。年金財政計算上の数理債務の額とは、企業年金制度における将来の給付現価から将来の標準掛金による収入現価を控除したものをいい、厚生年金基金制度および確定給付企業年金制度における責任準備金とは異なるものです(同 第112項)。
| 比較指数を用いる方法 | 適用初年度の期首における退職給付債務を原則法で計算し、年金財政計算上の数理債務との比(比較指数)を求め、直近の年金財政計算における数理債務の額に比較指数を乗じた金額を退職給付債務とします |
|---|---|
| 在籍者と受給者を区分する方法 | 在籍する従業員については退職一時金制度と同様の方法で計算した金額とし、年金受給者および待期者については直近の年金財政計算上の数理債務の額を退職給付債務とします |
| 数理債務による方法 | 直近の年金財政計算上の数理債務をもって退職給付債務とします |
数理債務の額を用いる場合には、厚生年金基金および確定給付企業年金の貸借対照表の欄外に注記されている数理債務の額を勘案して計算します(同 第112-2項)。厚生年金基金の場合は、当該数理債務の額と貸借対照表に表示されている最低責任準備金の額との合計額を勘案する必要があります(同 第112-2項)。年金財政計算上の数理債務が貸借対照表本体に表示されていないため、資料の入手先を誤りやすい箇所です。
退職一時金制度の一部を企業年金制度へ移行している場合
退職一時金制度の一部を企業年金制度に移行している事業主は、次のいずれかの方法で退職給付債務を計算します(退職給付に関する会計基準の適用指針 第51項)。1つ目は、退職一時金制度の未移行部分に係る退職給付債務と企業年金制度に移行した部分に係る退職給付債務を、それぞれ別に計算する方法です(同 第51項(1))。2つ目は、在籍する従業員については企業年金制度に移行した部分も含めた退職給付制度全体としての自己都合要支給額を基に計算した額を退職給付債務とし、年金受給者および待期者については年金財政計算上の数理債務の額をもって退職給付債務とする方法です(同 第51項(2))。
定年時には企業年金から支給され、定年前に退職するときには一時金で支給されるような、いわゆる縦割り型の企業年金制度への移行では、それぞれ別に計算する方法を採ると、移行部分に係る債務が自己都合要支給額と年金拠出額の計算において二重に計算対象へ含められる可能性があります(同 第113項)。このような制度設計の場合は、全体として計算する方法によることが合理的と考えられています(同 第113項)。
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簡便法による負債と退職給付費用の算定
簡便法を適用する場合、非積立型の退職給付制度については、上記の方法により計算された退職給付債務の額をそのまま退職給付に係る負債とします(退職給付に関する会計基準の適用指針 第48項(1))。積立型の退職給付制度については、その金額から年金資産の額を控除した金額を退職給付に係る負債とします(同 第48項(2))。個別財務諸表上は、この負債を退職給付引当金の科目をもって固定負債に計上します(退職給付に関する会計基準 第39項(3))。
積立型の制度における期末日の年金資産の額については、時価を入手する代わりに、直近の年金財政決算における時価を基礎として合理的に算定された金額を用いることができます(退職給付に関する会計基準の適用指針 第48項(2))。例えば、直近の時価に期末日までの拠出額および退職給付の支払額を加減し、当該期間の見積運用収益を加算した金額がこれに当たります(同 第48項(2))。
退職給付費用は、期首と期末の負債残高の差額として計算します(同 第49項)。非積立型の制度では、期首の退職給付に係る負債残高から当期の退職給付の支払額を控除した後の残高と、期末の退職給付に係る負債との差額が退職給付費用となります(同 第49項(1))。積立型の制度では、期首の負債残高から当期拠出額を控除した後の残高と期末の負債との差額が退職給付費用となります(同 第49項(2))。
この計算構造から、簡便法では負債の増減額がそのまま当期の退職給付費用になります。原則法のように数理計算上の差異や過去勤務費用が発生し、平均残存勤務期間以内の一定の年数で費用処理するという仕組みは働きません(同 第49項)。退職給付費用は、原則として売上原価または販売費及び一般管理費に計上します(退職給付に関する会計基準 第28項)。
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具体的な仕訳を確認します。以下は、非積立型の退職一時金制度のみを採用し、期末の自己都合要支給額をそのまま退職給付債務とする方法を選択している会社の作例です。単位は千円とし、期首の退職給付引当金は48,000千円、当期の退職一時金の支払額は6,000千円、期末の自己都合要支給額は54,000千円とします。この場合、当期の退職給付費用は54,000千円から42,000千円を差し引いた12,000千円となります(退職給付に関する会計基準の適用指針 第48項、第49項、第50項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 退職給付引当金 | 6,000 | 現金預金 | 6,000 |
| 退職給付費用 | 12,000 | 退職給付引当金 | 12,000 |
1行目が当期の退職一時金の支払時、2行目が決算時の処理です。簡便法では、決算時に計上する退職給付費用が期末残高から逆算されるため、期中の支払額や拠出額の集計を誤ると費用が直接ゆがみます。退職金規程に基づく自己都合要支給額の算定表と総勘定元帳の突合を、決算手続の中に組み込んでおくことが重要です。
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原則法への移行と変更時の会計処理
変更が認められる場合と認められない場合
簡便法から原則法への変更は認められます(退職給付に関する会計基準の適用指針 第111項)。一方で、原則法から簡便法への変更は、従業員数の著しい減少もしくは退職給付制度の改訂等により高い水準の信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難になった場合、または退職給付に係る財務諸表項目の重要性が乏しくなった場合を除き、認められないものと考えられています(同 第111項)。変更の方向によって扱いが大きく異なる点が、この論点の核心です。
また、数年に一度だけ原則法による計算を行う方法を採用している場合には、原則として、継続して簡便法を適用しているものとして取り扱うことが適当とされています(同 第111項)。数年ごとに原則法の計算を挟んでいることをもって原則法を採用していると整理することはできません。事業拡大で従業員数が増加している企業では、簡便法から原則法への一方向の変更を前提に計画を立てることになります。
移行した期の会計処理と注記
会計基準および適用指針には、簡便法から原則法へ移行した場合の差額の処理を直接定めた規定は置かれていません。実務では、退職給付債務の計算方法の変更は会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合に当たると整理し、会計上の見積りの変更と同様に取り扱う考え方が採られています。この場合、過去の財務諸表への遡及適用は行いません(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準 第19項)。
会計上の見積りの変更は、当該変更が変更期間のみに影響する場合には当該変更期間に会計処理を行い、将来の期間にも影響する場合には将来にわたり会計処理を行います(同 第17項)。注記については、会計方針の変更の内容、変更を行った正当な理由、および将来の期間に影響を及ぼす可能性がある場合の影響額に関する記載を行います(同 第19項ただし書き、第11項(1)、第11項(2)、第18項(2))。差額の重要性が大きい場合は、注記の要否と記載内容を監査人と事前に確認しておくと手戻りを防げます。
次は、前掲の会社が翌期首から原則法へ移行した場合の作例です。単位は千円とし、移行直前の退職給付引当金は54,000千円、当期は退職一時金の支払がなく、期末に原則法により算定した退職給付債務は61,500千円、年金資産はないものとします。差額の7,500千円を移行した期の退職給付費用として一括して処理する前提です(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準 第17項、第19項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 退職給付費用 | 7,500 | 退職給付引当金 | 7,500 |
移行した期は、原則法による計算基礎の設定と退職給付債務の算定を新たに行うため、退職給付費用が大きく増減しやすくなります。差額を一括して費用処理するか、数理計算上の差異として費用処理年数にわたり処理するかは判断が分かれる領域です。移行を決めた段階で、年金数理人と監査人を交えて処理方針を合意しておくことが実務上の要点になります。
簡便法を適用した場合の注記
簡便法を適用した退職給付制度がある場合、その制度については会計基準第30項および適用指針第52項から第60項の注記を要しません(退職給付に関する会計基準の適用指針 第62項)。代わりに、次の5項目を注記します(同 第62項)。原則法の詳細な注記が求められない点は、簡便法を選択する実務上のメリットの一つです。
| 会計処理基準に 関する事項 |
適用した退職給付債務の計算方法 |
|---|---|
| 制度の概要 | 確定給付制度の概要として、簡便法を適用した制度の概要 |
| 負債の調整表 | 簡便法を適用した制度の、退職給付に係る負債または資産の期首残高と期末残高の調整表(退職給付費用、退職給付の支払額、拠出額の内訳を示します) |
| 債務と資産の 調整表 |
退職給付債務および年金資産と、貸借対照表に計上された退職給付に係る資産および負債の調整表 |
| 退職給付費用 | 簡便法を適用した制度に係る退職給付費用 |
簡便法を適用した制度以外の制度について調整表や退職給付費用の注記を行う場合には、簡便法を適用した制度の内訳をそれらに合算し、または追加することができます(同 第62項)。原則法と簡便法を併用している企業では、注記の集計単位をどう設計するかをあらかじめ決めておくと、開示作成の負担を抑えられます。
上場準備で論点になりやすい点
上場準備企業では、簡便法の適用そのものよりも、適用を続けられるかどうかの判断根拠が論点になります。実務で監査法人から確認を受けやすいのは、次のような点です。いずれも、判断の過程を文書として残しておけるかどうかが分かれ目になります。
- 退職給付債務の計算対象となる従業員数の集計根拠と、採用計画を踏まえた将来の従業員規模の見通し(退職給付に関する会計基準の適用指針 第47項)
- 従業員数が300人に近づいている場合に、原則法へ移行する時期をいつと見込んでいるか
- 複数の退職給付制度がある場合に、制度ごとの判断を行っているか(同 第47項、第110項)
- 選択した計算方法を継続して適用しているか、比較指数を用いる方法で計算基礎等に重要な変動があった際に再計算しているか(同 第50項)
- 年金財政計算上の数理債務を用いる場合に、貸借対照表の欄外注記から正しい金額を採っているか(同 第112-2項)
- 簡便法を適用した制度について、適用指針第62項に沿った注記の作成体制が整っているか
とくに、成長段階の企業では従業員数が短期間で増加します。従業員数は毎期変動することが一般的であるため、簡便法の適用は一定期間の従業員規模の予測を踏まえて決定することとされています(同 第47項)。申請期に入ってから原則法へ移行すると、比較年度との整合や年金数理人の手配で負担が集中しやすくなります。
適用時期と改正の経緯
退職給付の会計基準は、企業会計審議会が平成10年(1998年)6月に公表した退職給付に係る会計基準に始まり、その後、積立超過の会計処理、複数事業主制度の取扱い、国際的なコンバージェンスの観点から3度にわたり一部改正が行われました(退職給付に関する会計基準 第43項、第44項、第45項、第46項)。これらを引き継ぐ形で、平成24年(2012年)5月17日に企業会計基準第26号として公表されています(退職給付に関する会計基準の適用指針 第1項)。
平成24年改正会計基準は、平成25年(2013年)4月1日以後開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用されています(退職給付に関する会計基準 第34項)。また、退職給付債務および勤務費用の定めならびに特別損益における表示の定めは、平成26年(2014年)4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されています(同 第35項)。適用指針第25号の適用時期も、会計基準と同様とされています(退職給付に関する会計基準の適用指針 第66項)。
その後、会計基準は平成28年(2016年)に改正され、平成29年(2017年)1月1日以後適用されています(退職給付に関する会計基準 第38-2項)。この改正は、実務対応報告第33号においてリスク分担型企業年金の会計処理および開示を明らかにしたことに伴い、確定拠出制度に係る注記事項を整備したものです(同 第49-2項、第32-2項)。現行の会計基準では、未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用に係る法人税等について、企業会計基準第27号 法人税等に関する会計基準の対象となることも明示されています(同 第24項、第25項)。ただし、簡便法ではこれらの未認識項目が生じないため、簡便法を適用している制度への影響はありません。
適用指針第25号は、会計基準と同時に公表された後、平成27年(2015年)に改正されています。平成27年改正適用指針は、公表日以後最初に終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用されています(退職給付に関する会計基準の適用指針 第69-2項)。この改正では、厚生年金基金および確定給付企業年金の貸借対照表の表示方法の変更を受けて、年金財政計算上の数理債務の取扱いが明確化されました(同 第112-2項)。
まとめ
退職給付の簡便法は、高い信頼性をもって数理計算上の見積りを行うことが困難である場合、または退職給付に係る財務諸表項目に重要性が乏しい場合に認められる方法です(退職給付に関する会計基準 第26項)。適用できる小規模企業等は原則として従業員数300人未満の企業とされ、その従業員数は退職給付債務の計算対象となる人数を指します(退職給付に関する会計基準の適用指針 第47項)。判断は制度ごとに行うため、連結グループ内で原則法と簡便法が併存しても差し支えありません(同 第110項)。
計算方法は制度の種類ごとに定められ、いったん選択した方法は原則として継続して適用します(同 第50項)。退職給付費用は期首と期末の負債残高の差額として算定されるため、数理計算上の差異や過去勤務費用は生じません(同 第49項)。簡便法から原則法への変更は認められる一方、原則法から簡便法への変更は限定的な場合にしか認められません(同 第111項)。移行する場合は、遡及適用を行わない見積りの変更としての整理と、差額の処理方針を事前に固めておくことが実務の要点です(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準 第17項、第19項)。
退職給付の会計処理は制度設計や従業員構成によって判断が分かれる領域です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら ▸参考文献
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第26号 退職給付に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第25号 退職給付に関する会計基準の適用指針
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第24号 会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
よくある質問
従業員数が300人以上になった場合、簡便法を継続できますか。
従業員数300人未満はあくまで原則的な目安であり、300人以上であっても、年齢や勤務期間に偏りがあるなどにより原則法による計算の結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合には、簡便法によることができます(退職給付に関する会計基準の適用指針 第47項)。ただし、その判断根拠を説明できることが前提です。信頼性のある数理計算が可能な状況になったのであれば、原則法へ移行することになります。
簡便法から原則法へ変更した場合、過去の財務諸表を遡って修正しますか。
実務では、退職給付債務の計算方法の変更は会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合として整理され、会計上の見積りの変更と同様に取り扱われます。この場合、遡及適用は行いません(会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準 第19項)。変更の内容、変更を行った正当な理由、将来の期間への影響額に関する注記が必要です(同 第19項ただし書き、第11項(1)、第11項(2)、第18項(2))。
簡便法では数理計算上の差異は発生しますか。
発生しません。簡便法では、期首の退職給付に係る負債残高から当期の支払額または拠出額を控除した後の残高と、期末の退職給付に係る負債との差額がそのまま当期の退職給付費用になります(退職給付に関する会計基準の適用指針 第49項)。したがって、平均残存勤務期間以内の一定の年数で費用処理する未認識項目は生じません。
連結グループのなかで原則法と簡便法を併用できますか。
併用できます。簡便法の適用は制度ごとに判断されるため、子会社および持分法を適用する関連会社を含めて、連結グループのすべての制度について原則法と簡便法のいずれかに統一する必要はありません(退職給付に関する会計基準の適用指針 第110項)。同一の会社が複数の退職給付制度を有する場合も、制度ごとに判断します(同 第47項)。
簡便法を適用している場合、退職給付の注記はどこまで必要ですか。
簡便法を適用した制度については、会計基準第30項および適用指針第52項から第60項の注記は要しません(退職給付に関する会計基準の適用指針 第62項)。代わりに、適用した退職給付債務の計算方法、簡便法を適用した制度の概要、退職給付に係る負債の期首残高と期末残高の調整表、退職給付債務および年金資産と貸借対照表計上額の調整表、退職給付費用の5項目を注記します(同 第62項)。