オフィスや店舗を賃借している企業でも、賃貸借契約で原状回復が要求されているときは、賃借建物に施した内部造作等について資産除去債務を計上する必要があります。資産除去債務は、有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものを指し、発生した時に負債として計上します(資産除去債務に関する会計基準 第3項(1)、第4項)。企業会計基準委員会 企業会計基準第18号 資産除去債務に関する会計基準
もっとも、賃貸借契約に関連して敷金を支出し、これを資産計上している場合には、資産除去債務の負債計上及び除去費用の資産計上に代えて、敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、そのうち当期の負担に属する金額を費用に計上する方法によることができます(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第9項)。実務では、この簡便法を採用している賃借企業が少なくありません。
本記事では、建物賃貸借契約に伴う原状回復義務という場面に絞り、計上要否の判定、簡便法の適用要件と費用配分、原則法との数値の違い、注記、上場準備で指摘されやすい論点までを、公認会計士の実務目線で整理します。
賃借建物の原状回復義務と資産除去債務の関係
資産除去債務の定義と「法律上の義務に準ずるもの」
資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいいます(資産除去債務に関する会計基準 第3項(1))。ここでの「除去」は、有形固定資産を用役提供から除外することを指し、売却、廃棄、リサイクルその他の方法による処分等が含まれますが、転用や用途変更は含まれません(同 第3項(2))。
「法律上の義務に準ずるもの」とは、債務の履行を免れることがほぼ不可能な義務を指し、法令又は契約で要求される法律上の義務とほぼ同等の不可避的な義務が該当します。したがって、有形固定資産の除去が企業の自発的な計画のみによって行われる場合は、これに該当しません(同 第28項)。賃貸借契約書に原状回復条項が明記されている場合は、契約で要求される法律上の義務そのものに当たるため、判断は比較的明確です。
計上対象となるのは賃借建物ではなく内部造作等
賃借しているオフィスや店舗の建物そのものは、借手の有形固定資産ではありません。計上の対象になるのは、借手が自ら資産計上した内部造作、間仕切り、電気設備、看板といった資産です。適用指針も、建物等の賃借契約において、当該賃借建物等に係る有形固定資産(内部造作等)の除去などの原状回復が契約で要求されていることから、当該有形固定資産に関連する資産除去債務を計上しなければならない場合がある、という前提を置いています(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第9項)。
なお、土地の原状回復費用等が法令又は契約で要求されている場合の支出は、一般に当該土地に建てられている建物や構築物等の有形固定資産に関連する資産除去債務であると考えられ、当該有形固定資産の減価償却を通じて各期に費用配分されます(資産除去債務に関する会計基準 第45項)。事業用定期借地権を設定して自社で店舗を建設しているケースは、この整理に当てはまります。
計上要否の判定と「計上しない」と結論づけられる場面
契約条項から確認する判定ステップ
実務では、次の順序で確認すると判断が整理できます。契約書の文言を確認せずに「賃借だから不要」と結論づけることが、最も多い誤りです。
- 賃貸借契約書に原状回復条項があるか、対象範囲(スケルトン返還か、通常損耗の扱いか)を確認します。
- 借手が資産計上している内部造作等の有形固定資産があるかを確認します。除去すべき自社資産が存在しなければ、除去義務の対象となる有形固定資産がありません。
- 除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを合理的に見積ることができるかを検討します。
- 当該賃貸借契約に関連する敷金が資産計上されているかを確認し、簡便法の適用可否を判断します。
合理的に見積ることができない場合の取扱い
資産除去債務の発生時に当該債務の金額を合理的に見積ることができない場合には、これを計上せず、当該債務額を合理的に見積ることができるようになった時点で負債として計上します(資産除去債務に関する会計基準 第5項)。ここでいう「合理的に見積ることができない場合」とは、決算日現在入手可能なすべての証拠を勘案し、最善の見積りを行ってもなお、合理的に金額を算定できない場合をいいます(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第2項)。
重要なのは、これが計上しなくてよいという結論ではなく、注記が求められる状態であるという点です。この場合には、資産除去債務の概要、合理的に見積ることができない旨及びその理由を注記しなければなりません(資産除去債務に関する会計基準 第16項(5)、同適用指針 第2項)。適用指針の設例でも、賃貸借契約が自動更新され、再移転の計画もないために継続期間を合理的に見積ることができないオフィスについて、資産除去債務を計上せず注記のみを行う例が示されています(同適用指針 設例8)。
一方、履行時期や除去の方法が明確にならないことなどにより金額が確定しない場合でも、履行時期の範囲及び蓋然性について合理的に見積るための情報が入手可能なときは、合理的に見積ることができる場合に該当します(同適用指針 第17項)。「移転時期が決まっていない」という理由だけで一律に未計上とする運用は、この考え方に照らして支持されません。
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原則法による会計処理と数値の流れ
原則法は、資産除去債務を負債として計上すると同時に、同額を関連する有形固定資産の帳簿価額に加える資産負債の両建処理です(資産除去債務に関する会計基準 第7項)。資産除去債務はそれが発生したときに、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)で算定します。割引前の将来キャッシュ・フローは合理的で説明可能な仮定及び予測に基づく自己の支出見積りにより、割引率は貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率とします(資産除去債務に関する会計基準 第6項(1)(2))。
資産計上された除去費用は、減価償却を通じて当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり各期に費用配分します(同 第7項)。また、時の経過による資産除去債務の調整額は、期首の負債の帳簿価額に当初負債計上時の割引率を乗じて算定し、その発生時の費用として処理します(同 第9項)。
オフィス内部造作の設例(原則法)
賃借期間5年のオフィスについて、期首に内部造作10,000を取得し、契約上の原状回復に要する割引前の将来キャッシュ・フローを1,000、割引率を年3.0%、内部造作は残存価額0の定額法により5年で償却すると仮定します。数値は千円単位の想定です。
表示面では、資産除去債務は貸借対照表日後1年以内にその履行が見込まれる場合を除き、固定負債の区分に資産除去債務等の適切な科目名で表示します(同 第12項)。除去費用に係る費用配分額は、損益計算書上、当該有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上し、時の経過による調整額も同じ区分に含めて計上します(同 第13項、第14項)。時の経過による調整額を営業外費用に計上している例を見かけますが、基準の定めとは異なります。
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敷金が資産計上されている場合の簡便法
簡便法の適用要件
建物等の賃借契約において、当該賃借建物等に係る有形固定資産(内部造作等)の除去などの原状回復が契約で要求されていることから資産除去債務を計上しなければならない場合において、当該賃借契約に関連する敷金が資産計上されているときは、当該計上額に関連する部分について、資産除去債務の負債計上及びこれに対応する除去費用の資産計上に代えて、当該敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、そのうち当期の負担に属する金額を費用に計上する方法によることができます(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第9項)。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第21号 資産除去債務に関する会計基準の適用指針
条文を分解すると、要件は次の3点に整理できます。第一に、当該賃借契約に関連する敷金が資産として計上されていること。第二に、簡便法によることができるのは、敷金の計上額に関連する部分に限られること。第三に、敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積ることができることです。敷金を差し入れていない賃貸借契約や、敷金の計上額を超える原状回復費用が見込まれる部分については、この方法の対象外です。
この取扱いが認められた趣旨は、敷金を支出している場合に資産除去債務と除去費用を両建処理すると、敷金と除去費用が二重に資産計上されるという見方があること、及び資産除去債務に係る実務負担を考慮したことにあります(同適用指針 第27項)。重要性が乏しいから簡便法を使ってよい、という趣旨の定めではない点に注意が必要です。
費用配分の期間と方法
この処理による場合、当期の負担に属する金額は、同種の賃借建物等への平均的な入居期間など合理的な償却期間に基づいて算定することが適当と考えられています(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第27項)。契約期間が2年でも自動更新が前提であれば、契約期間ではなく実際の平均入居期間を用いる方が実態に合います。
なお、当該償却期間等を算定することが困難で、決算日現在で入手可能なすべての証拠を勘案して最善の見積りを行ってもなお合理的に金額を算定できない場合には、資産除去債務に関する会計基準 第16項(5)に定める開示を行う必要があります(同適用指針 第27項)。簡便法を選んだからといって、見積りの検討を省略できるわけではありません。
敷金がある場合の設例(簡便法)
賃貸借契約の締結時に敷金1,000を支払って資産計上し、同種の賃借建物等への平均的な入居期間が5年と見積られており、敷金のうち500について原状回復費用に充てられるため返還が見込めないと認められた場合を考えます。適用指針の設例と同じ前提です(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 設例6)。
仕訳は、費用(敷金の償却)100を計上し、敷金100を減額する処理になります。原則法のように割引現在価値を算定する必要はなく、時の経過による調整額も生じません。先の原則法の設例で除去費用関連の費用が初年度199であったのに対し、簡便法では100となりますが、これは見積額と配分方法の前提が異なる結果であり、どちらが有利かという性質のものではありません。
原則法と簡便法の比較
両者は、貸借対照表に何が載るかという点で大きく異なります。簡便法では資産除去債務という負債が計上されないため、負債総額や有利子負債以外の固定負債の水準を比較する際には留意が必要です。
| 原則法(資産除去債務の両建処理) | 簡便法(敷金の費用配分) |
|---|---|
| 負債:割引前の将来キャッシュ・フローを割り引いた金額を資産除去債務として計上します。 | 負債:当該敷金の計上額に関連する部分について、資産除去債務の負債計上を行いません。 |
| 資産:負債計上額と同額を内部造作等の帳簿価額に加算します。 | 資産:除去費用の資産計上を行わず、資産計上済みの敷金を取り崩していきます。 |
| 費用:除去費用の資産計上額の減価償却と、時の経過による調整額の2つが生じます。 | 費用:回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的な償却期間で配分した1つのみです。 |
| 割引計算:必要です。割引率は貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率とします。 | 割引計算:不要です。合理的な償却期間の設定が見積りの中心になります。 |
| 前提:当該賃借契約に関連する敷金の有無を問わず適用できます。 | 前提:当該賃借契約に関連する敷金が資産計上されていることが必要です。 |
注記事項と開示上の留意点
資産除去債務の会計処理に関連して、重要性が乏しい場合を除き、次の事項を注記します(資産除去債務に関する会計基準 第16項)。
- 資産除去債務の内容についての簡潔な説明
- 支出発生までの見込期間、適用した割引率等の前提条件
- 資産除去債務の総額の期中における増減内容
- 資産除去債務の見積りを変更したときは、その変更の概要及び影響額
- 資産除去債務は発生しているが、その債務を合理的に見積ることができないため、貸借対照表に資産除去債務を計上していない場合には、当該資産除去債務の概要、合理的に見積ることができない旨及びその理由
このうち「資産除去債務の内容についての簡潔な説明」では、資産除去債務の発生原因となっている法的規制又は契約等の概要(法令等の条項及び契約条件等)を簡潔に記載します(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第10項)。賃貸借契約に基づく原状回復義務であれば、対象物件の性質と契約上の原状回復条項に触れる記載が求められます。合理的に見積ることができない場合の「その旨及びその理由」の注記は、この簡潔な説明と関連付けて記載することが必要です(同適用指針 第11項)。
キャッシュ・フロー計算書では、資産除去債務を実際に履行した場合の支出額は「投資活動によるキャッシュ・フロー」の項目として取り扱い、重要な資産除去債務を計上したときは「重要な非資金取引」として注記を行います(同適用指針 第12項、第13項)。原状回復工事の支出を営業活動の区分に含めている例は、この定めとの整合性を確認する価値があります。
上場準備で指摘されやすい論点と見積りの変更
上場準備の局面で多いのは、賃借オフィスの内部造作について資産除去債務が全く計上されておらず、監査法人から網羅性を問われるケースです。拠点数が多い企業では、契約書の原状回復条項を拠点ごとに棚卸しし、内部造作等の資産計上額と突き合わせる作業から始めることになります。多数の有形固定資産について同種の資産除去債務が生じている場合には、重要性の判断に基づき、有形固定資産をその種類や場所等に基づいて集約し、概括的に見積ることができます(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第3項)。
次に多いのが、簡便法を採用しているものの、費用配分期間の根拠が説明できないケースです。契約期間をそのまま用いているが自動更新が実態であるといった場合、同種の賃借建物等への平均的な入居期間という考え方に照らして再検討が必要になります(同適用指針 第27項)。
見積りを事後に変更する場合、割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じたときの調整額は、資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して処理します。資産除去債務が法令の改正等により新たに発生した場合も、見積りの変更と同様に取り扱います(資産除去債務に関する会計基準 第10項)。適用する割引率は、キャッシュ・フローが増加する場合はその時点の割引率、減少する場合は負債計上時の割引率とします(同 第11項)。
過年度分の取扱いについては、区別が重要です。合理的に見積ることができなかったために計上していなかった債務を、見積ることができるようになった時点で計上する場合の処理は、第10項及び第11項に準じて将来に向かって行います(同 第5項)。これに対し、見積ることができたにもかかわらず計上を失念していた場合は誤謬の問題となり、修正再表示の要否を監査人と協議することになります。
適用時期と改正の経緯
2008年(平成20年)に公表された資産除去債務に関する会計基準は、2010年(平成22年)4月1日以後開始する事業年度から適用されています。2010年(平成22年)3月31日以前に開始する事業年度から適用することもできるとされていました(資産除去債務に関する会計基準 第17項)。適用初年度における期首残高の算定は、適用初年度の期首時点における割引前将来キャッシュ・フローの見積り及び割引率により行い、両者の差額は原則として特別損失に計上することとされていました(同 第18項)。
適用指針についても、2008年(平成20年)公表分の適用時期は会計基準と同様とされています(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第14項)。敷金について簡便法の処理を行う場合には、適用初年度の期首において、敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額のうち前期以前の負担に属する金額を、当期の損失(原則として特別損失)として計上することとされていました(同 第15項)。その後、平成23年(2011年)改正の適用指針が平成23年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されており、四半期財務諸表に関する会計基準の改正に伴い、四半期財務諸表における注記を定めていた第30項が削除されています(同 第15-2項、第30-2項)。
会計基準本体はその後も改正されており、2024年に公表された企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」の公表に伴い、結論の背景における「用語の定義」及び「会計処理」の一部について所要の改正が行われました(資産除去債務に関する会計基準 第22-2項)。この2024年改正会計基準の適用時期は、リース会計基準の適用時期と同様とされています(同 第20-2項)。リース会計基準は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの早期適用が認められています(リースに関する会計基準 第58項)。したがって、2024年改正会計基準は現時点では未適用であり、今後リース会計基準と同じ時期に適用されることになります。現在の会計処理は、2010年(平成22年)4月1日以後開始する事業年度から適用されている2008年会計基準及び平成23年改正適用指針に基づいて行うことになります。企業会計基準委員会 企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
なお、本会計基準でいう有形固定資産には、財務諸表等規則において有形固定資産に区分される資産のほか、建設仮勘定や使用権資産なども含まれます(資産除去債務に関する会計基準 第23項)。賃借物件に係る使用権資産と、内部造作等に係る資産除去債務の関係は、リース会計基準への対応と併せて整理することが現実的です。
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まとめ
賃借建物の原状回復義務は、契約で要求される法律上の義務に当たるため、借手が資産計上した内部造作等について資産除去債務の計上が必要になります(資産除去債務に関する会計基準 第3項(1)、第4項)。判定にあたっては、原状回復条項の有無、除去対象となる自社の有形固定資産の有無、合理的な見積りの可否、敷金の資産計上の有無という順に確認すると整理しやすくなります。
敷金が資産計上されている場合には、その計上額に関連する部分について、資産除去債務の負債計上及び除去費用の資産計上に代えて、回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、当期の負担に属する金額を費用計上する簡便法によることができます(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第9項)。配分期間は、同種の賃借建物等への平均的な入居期間など合理的な償却期間に基づいて算定します(同 第27項)。
賃貸借契約の条件や拠点構成、敷金の状況は企業ごとに大きく異なり、簡便法を適用できる範囲や費用配分期間の設定は個別の判断を伴います。具体的なケースについては、公認会計士へのご相談をおすすめします。公認会計士事務所プライムパートナーズ/株式会社プライムパートナーズコンサルティングでは、上場準備段階での資産除去債務の網羅性検討から、注記文案の作成までをご支援しています。
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- 企業会計基準委員会 企業会計基準第18号 資産除去債務に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第21号 資産除去債務に関する会計基準の適用指針
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
よくある質問
賃借オフィスでも資産除去債務の計上が必要か
賃貸借契約で原状回復が要求されており、借手が内部造作等を有形固定資産として計上している場合には、当該有形固定資産に関連する資産除去債務を計上しなければならない場合があります(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第9項)。資産除去債務は法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものであり、発生した時に負債として計上します(資産除去債務に関する会計基準 第3項(1)、第4項)。建物そのものは借手の資産ではないため、判定は内部造作等の自社資産を対象に行います。
敷金を差し入れていれば簡便法を採用できるか
当該賃借契約に関連する敷金が資産計上されている場合に、その計上額に関連する部分について簡便法によることができます(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第9項)。敷金を差し入れていない契約や、敷金の計上額を超えて原状回復費用が見込まれる部分は対象外です。また、回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積ることが前提であり、償却期間等を算定することが困難で合理的に金額を算定できない場合には、資産除去債務に関する会計基準 第16項(5)に定める開示を行う必要があります(同適用指針 第27項)。
原状回復費用を合理的に見積れない場合の処理
発生時に金額を合理的に見積ることができない場合は計上せず、合理的に見積ることができるようになった時点で負債として計上します(資産除去債務に関する会計基準 第5項)。ここでいう見積ることができない場合とは、決算日現在入手可能なすべての証拠を勘案し、最善の見積りを行ってもなお合理的に金額を算定できない場合をいいます(同適用指針 第2項)。この場合でも、資産除去債務の概要、合理的に見積ることができない旨及びその理由の注記が必要です(資産除去債務に関する会計基準 第16項(5))。
簡便法における費用配分期間の決め方
当期の負担に属する金額は、同種の賃借建物等への平均的な入居期間など合理的な償却期間に基づいて算定することが適当と考えられています(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第27項)。自動更新が実態となっている契約で、契約期間をそのまま配分期間としている場合は、過去の退去実績等に基づく平均的な入居期間との整合性を確認することが有用です。
上場準備で未計上を指摘された場合の対応
合理的に見積ることができなかったために計上していなかった場合は、見積ることができるようになった時点で計上し、その処理は第10項及び第11項に準じます(資産除去債務に関する会計基準 第5項)。これに対し、見積ることが可能であったにもかかわらず計上を失念していた場合は誤謬の問題となるため、修正再表示の要否を含めて監査人と協議することになります。いずれの場合も、拠点ごとの契約条項と内部造作等の資産計上額を突き合わせ、網羅性を示せる資料を整えることが出発点になります。
資産除去債務に関する注記事項
重要性が乏しい場合を除き、資産除去債務の内容についての簡潔な説明、支出発生までの見込期間や適用した割引率等の前提条件、資産除去債務の総額の期中における増減内容、見積りを変更したときはその変更の概要及び影響額、合理的に見積ることができないため計上していない場合の概要と理由を注記します(資産除去債務に関する会計基準 第16項)。簡潔な説明には、発生原因となっている法的規制又は契約等の概要を記載します(同適用指針 第10項)。