退職一時金制度から確定拠出年金(DC)への移行や、確定給付企業年金(DB)の制度変更・終了は、退職給付債務が一度に大きく動く重い論点です。判断の軸になるのは、企業会計基準適用指針第1号「退職給付制度間の移行等に関する会計処理」と、実務対応報告第2号「退職給付制度間の移行等の会計処理に関する実務上の取扱い」です。
この2つは、退職給付制度の「終了」に該当するかどうかで処理を分けています。終了に該当すればその部分の退職給付債務は消滅したものとして一時に損益認識し、該当しなければ過去勤務費用として期間配分します。本記事では、範囲・終了の判定・終了損益の算定・確定拠出年金への移行実務を、計算例と仕訳例で整理します。
退職給付制度間の移行の会計処理の全体像
適用指針第1号の範囲と対象外の取引
適用指針第1号は、確定給付型の退職給付制度について、退職給付制度間の移行等により退職給付債務が増加又は減少した場合に適用されます。確定給付型には、厚生年金基金、規約型確定給付企業年金、基金型確定給付企業年金及び退職一時金制度が含まれます。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第1号 退職給付制度間の移行等に関する会計処理の公表
一方、移行前の制度が確定拠出型である場合には適用されません。退職給付会計基準は、確定拠出制度を掛金以外に追加的な拠出義務を負わない制度、確定給付制度をそれ以外の制度と定義しており、確定拠出制度は要拠出額をもって費用処理するためです。企業会計基準委員会 企業会計基準第26号 退職給付に関する会計基準及び企業会計基準適用指針第25号 退職給付に関する会計基準の適用指針の公表また、新制度を新規加入者からのみ適用する場合は併設にすぎず、移行に該当しません。
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終了と増額又は減額の区分
分岐の軸は、退職給付債務の減少に支払等が伴うかどうかです。支払等を伴わない増加部分又は減少部分は「増額」「減額」と呼ばれ、退職給付会計基準上の過去勤務費用に該当します。これに対し、減少分相当額の支払等を伴って減少する場合は「終了」となり、増額又は減額には該当しません。
| 区分 | 会計処理 |
|---|---|
| 退職給付制度の終了 | 終了部分の退職給付債務と支払等の額との差額を終了の時点で一時に損益認識し、未認識項目の終了部分も同時に損益認識したうえで、原則として特別損益に純額で表示する。 |
| 退職給付債務の増額又は減額 | 過去勤務費用として、原則として各期の発生額について平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分した額を毎期費用処理する。増減前の未認識項目は従前の費用処理方法・年数を継続する。 |
実務では「制度を変えたから一時に損益が出る」と早合点しがちですが、支払等を伴わない給付水準の引下げは終了ではありません。制度設計の段階で、債務の減少に現金の支払や年金資産の分配・移換が伴うかを確認することが出発点になります。
適用指針第1号と実務対応報告第2号の改正履歴・適用時期
適用指針第1号は2002年(平成14年)1月31日に公表され、平成14年4月1日以後に生じた対象事象について適用されています。最新の改正は2016年(平成28年)12月16日で、実務対応報告第33号がリスク分担型企業年金の会計処理を明らかにしたことに伴う改正であり、2017年(平成29年)1月1日以後適用されています。企業会計基準委員会 実務対応報告第33号 リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い等の公表
実務対応報告第2号は2002年(平成14年)3月29日に公表されました。企業会計基準委員会 実務対応報告第2号 退職給付制度間の移行等の会計処理に関する実務上の取扱いの公表最新の改正は2007年(平成19年)2月7日で、複数事業主制度に係る制度間移行等の取扱いが追加され、平成19年4月1日以後開始する事業年度から適用されています。企業会計基準委員会 改正実務対応報告第2号 退職給付制度間の移行等の会計処理に関する実務上の取扱いの公表
退職給付会計基準(第26号)は定めごとに適用時期が分かれます。2012年(平成24年)改正の基準本体は平成25年4月1日以後開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から、退職給付債務及び勤務費用の定めと特別損益の表示の定めは平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されています。最新の2016年改正は平成29年1月1日以後適用されており、将来適用を待つ定めはありません。
退職給付制度の終了の定義と判定
退職給付制度の終了に該当する事象
「終了」とは、退職金規程の廃止、厚生年金基金や基金型確定給付企業年金の解散、規約型確定給付企業年金の終了のように制度が廃止される場合や、制度間の移行又は改訂により退職給付債務がその減少分相当額の支払等を伴って減少する場合をいいます。支払等には、年金資産からの支給又は分配、事業主からの支払又は現金拠出額の確定、確定拠出制度に分類される制度への資産の移換が該当します。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第1号 退職給付制度間の移行等に関する会計処理の公表
具体例としては、給付減額に伴う年金資産からの分配、確定拠出年金制度への資産移換、退職一時金の一部を給与払いに変更して過去勤務期間分を支払う場合、大量退職、確定給付制度からリスク分担型企業年金への移行が挙げられています。なお、制度が廃止された場合は、支払等を伴わずに債務が減少したときでも終了に該当します。
確定給付型どうしの移行の取扱い
確定給付型から他の確定給付型へ移行した場合は、原則として移行前後の制度を一体のものとみなし、移行前の制度は終了に含めません。債務の消滅と発生が同時に生じ、移行後も同様の債務及び年金資産を引き継いでいると考えることが実態に即しているためです。ただし、移行前の制度が移行後の制度に名目的にしか引き継がれていない場合は、終了と導入として取り扱います。
複数の制度に移行した場合は、それぞれの移行ごとに終了を判断します。例えば一部を確定拠出年金制度へ移換し、残りを他の確定給付型へ移行した場合、前者は終了となり、後者は終了に含めません。
退職給付制度の終了の時点
終了の会計処理を行う時点は、実務対応報告第2号が整理しています。全部終了は廃止日、一部終了は改訂規程等の施行日(改訂された規程や規約の適用が開始される日)が終了の時点とされています。
| 事象 | 終了の時点 |
|---|---|
| 退職金規程を廃止する場合 | 退職金規程の廃止日 |
| 厚生年金基金又は基金型確定給付企業年金を解散する場合 | 厚生年金基金又は基金型確定給付企業年金の解散の日 |
| 規約型確定給付企業年金を終了する場合 | 規約型確定給付企業年金の廃止日 |
| 確定給付年金制度において年金資産からの分配が行われる場合 | 分配を伴う改訂規程等の施行日 |
| 確定給付年金制度の一部について確定拠出年金制度へ資産を移換する場合 | 移換を伴う改訂規程等の施行日 |
| 退職一時金制度の一部について確定拠出年金制度へ資産を移換する場合 | 移換を伴う改訂規程の施行日 |
| 退職一時金制度の一部を給与として支払う方法への変更等に伴って、過去勤務期間分の一部を支払う場合 | 改訂規程の施行日 |
決算期をまたぐ場合には注意が必要です。廃止日又は施行日が翌期であっても、規程等の改訂日が当期中で、終了損失の発生の可能性が高く金額を合理的に見積ることができる場合には、当該終了損失を当期の退職給付費用として計上します。この処理を行った場合を除き、施行日が翌期首のときは翌期の財務諸表に与える影響額を当期の財務諸表に注記します。企業会計基準委員会 実務対応報告第2号 退職給付制度間の移行等の会計処理に関する実務上の取扱いの公表
終了損益の算定と損益計算書上の表示
終了した部分に係る退職給付債務の算定
終了した部分に係る退職給付債務は、感覚的な按分ではなく、終了前の計算基礎に基づいて数理計算した退職給付債務と、終了後の計算基礎に基づいて数理計算した退職給付債務との差額として算定します。年金資産は終了前において時価により計算し、終了前の予測額との差は数理計算上の差異として取り扱われます。
未認識項目の按分と損益認識
未認識過去勤務費用、未認識数理計算上の差異及び会計基準変更時差異の未処理額は、終了部分に対応する金額を、終了した時点における退職給付債務の比率その他合理的な方法により算定し、損益として認識します。制度を終了した以上、これらを一時の費用としない理由が失われていると考えられるためです。
ただし比率按分は第一順位ではありません。まず発生原因を分析し、終了部分に個別対応することが明らかな部分は終了した時点で損益認識し、原因別の対応額を特定することが困難である場合に比率按分することとされています。
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特別損益への純額表示
債務の減少に伴う差額と未認識項目の損益は、退職給付制度の終了という同一の事象に伴って生じたものであるため、原則として特別損益に純額で表示します。未認識項目の費用処理額を通常の退職給付費用に混ぜて販売費及び一般管理費に計上すると、営業利益と特別損益の双方が誤ります。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第1号 退職給付制度間の移行等に関する会計処理の公表
終了損益の計算例と仕訳
確定給付企業年金制度の一部を確定拠出年金制度へ移行した設例で確認します。移行前の退職給付債務1,000、移行後600、年金資産から320を移換し、未認識項目は会計基準変更時差異150、未認識過去勤務費用50、未認識数理計算上の差異△60とします。税効果は考慮していません。
仕訳は次のとおりです。連結財務諸表を前提とした科目であり、個別財務諸表上は「退職給付に係る負債」を「退職給付引当金」と読み替えます。なお、個別財務諸表では未認識項目が貸借対照表に計上されていないため、2本目の仕訳の貸方科目も「退職給付引当金」となります。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 退職給付に係る負債 80 | 退職給付費用(終了損益) 80 |
| 退職給付費用(終了損益) 56 | 退職給付に係る調整額 56 |
債務が減っても、未認識項目の残高次第では純額が損失になります。移行の意思決定前に、未認識項目の残高と終了比率から純額の見込みを試算しておくことが欠かせません。
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確定拠出年金への移行の会計処理
移換額の確定時点と未移換額の負債計上
確定給付型の過去勤務に係る部分を確定拠出年金制度へ移行する場合、個人別管理資産への移換が行われるため、当該移換部分は終了に該当します。退職一時金制度からの移行では、資産の移換は移行日の属する年度から、翌年度から起算して3年度以上7年度以内の企業型年金規約で定める年度までの各年度に均等に分割して行われますが、終了に該当するのは実際に分割移換した時点ではなく、事業主からの移換額が確定した時点です。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第1号 退職給付制度間の移行等に関する会計処理の公表
事業主からの現金拠出の確定額は未払金等として計上します。移行前の債務1,000、移行後600で移換額380が確定し毎年95ずつ4回拠出する場合、終了部分400と移換額380の差額20を損益認識し、当期拠出分95を現金預金、残り285を未払金として計上します。利息相当額が明示されている場合は、純額を債務額とし、利息相当額は発生基準で計上することがより適切と考えられています。
将来勤務に係る部分のみの移行
将来勤務に係る部分のみを移行し、資産の移換が行われない場合は終了に該当せず、退職給付債務の減少は負の過去勤務費用として期間配分されます。移行前の制度に係る未認識項目は従来の費用処理方法及び年数を継続するため、未認識項目に関する仕訳は生じません。
会計基準変更時差異に関する経過措置
退職一時金制度から確定拠出年金制度へ移行する場合には、終了部分に係る会計基準変更時差異について、当面の間、残存の費用処理年数又は分割拠出年数のいずれか短い年数で定額法により費用処理することができます。適用範囲は退職一時金制度からの移行に限定されており、確定給付企業年金制度からの移行には使えません。適用する場合はその旨と貸借対照表及び損益計算書に与える影響額を注記します。
この経過措置の結果、退職給付に係る負債が借方残高となった場合には、未払金に計上した分割拠出の額と相殺表示することなく、退職給付に係る資産として資産に計上します。
一部終了・大量退職・複数事業主制度の論点
一部終了における按分の考え方
終了には全部終了だけでなく、債務の一部に相当する額の支払等を伴って該当部分が減少する一部終了も含まれます。確定給付型どうしの移行では未認識項目の費用処理方法・年数を継続しますが、移行に際して生じた増額又は減額と、移行前の制度に係る未認識項目は、退職給付制度ごとに区分して把握します。
大量退職の判定と会計処理
大量退職とは、工場の閉鎖や営業の停止等により相当数の従業員が一時に退職した結果、相当程度の退職給付債務が減少する場合をいい、会計処理は一部終了に準じます。一律の基準はありませんが、概ね半年以内に30%程度の退職給付債務が減少するような場合には該当することが多いとされ、企業の実態に応じて判断します。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第1号 退職給付制度間の移行等に関する会計処理の公表
混同しやすいのが早期割増退職金です。その費用処理は従業員が早期退職制度に応募し金額が合理的に見積られる時点で行われ、大量退職の会計処理とは別に行われます。設例でも、終了損益の算定に用いる支払額から早期割増退職金は除かれています。
複数事業主制度に係る制度間移行・解散・脱退
総合設立の厚生年金基金のように、自社の拠出に対応する年金資産を合理的に計算できず確定拠出制度に準じて処理する例外処理を採用している場合、当該制度に係る負債は計上されていません。この状態から他の確定給付型へ移行して原則法を採用する場合、新たに認識される未積立退職給付債務の額は移行の時点で一時の損益(原則として特別損益)として処理します。企業会計基準委員会 改正実務対応報告第2号 退職給付制度間の移行等の会計処理に関する実務上の取扱いの公表
解散又は脱退の場合も、終了の時点で認識される損益を適用指針第1号第10項に準じて処理します。基金型では代議員会の議決、規約型では従業員の同意により、翌期以降の損失の発生の可能性が高くかつ金額を合理的に見積ることができる場合には、損失見積額を当期の費用(原則として特別損失)として計上します。
実務上の落とし穴と上場準備での留意点
誤りやすい点は4つに集約されます。第一に、終了の判定を「制度を変えたかどうか」で行ってしまうこと。第二に、終了の時点を実際の資金移動日で捉えてしまうこと。第三に、未認識項目の一括処理を落とし特別利益を過大計上すること。第四に、特別損益への純額表示を失念することです。
上場準備企業で多いのは、人事部門が期末近くに退職金規程の改訂を決議し、施行日が翌期首となるケースです。この場合でも当期処理や注記が必要になり得るため、決議日・改訂日・施行日・移換額確定日の4つを分けて管理してください。なお、制度移行に伴う会計処理は会計方針の変更や誤謬の訂正とは別の論点です。
まとめ
退職給付制度間の移行の会計処理は、退職給付制度の終了に該当するか、退職給付債務の増額又は減額にとどまるかの判定から始まります。終了に該当する場合は、終了部分の債務と支払等の額との差額に加えて未認識項目の終了部分を同時に損益認識し、原則として特別損益に純額で表示します。
確定拠出年金制度への移行では移換額が確定した時点で終了処理を行い、未移換額は未払金等として負債計上します。将来勤務分のみの移行は終了に該当せず負の過去勤務費用となる点が実務上の分水嶺です。適用指針第1号は2016年12月16日の改正が最新で2017年1月1日以後適用されており、実務対応報告第2号は2007年2月7日の改正が最新で2007年4月1日以後開始する事業年度から適用されています。
制度設計・数理計算・監査対応が絡み合う領域ですので、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。公認会計士事務所プライムパートナーズ/株式会社プライムパートナーズコンサルティングでは、退職給付制度の改定を会計処理の検討から開示まで支援しています。
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- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第1号 退職給付制度間の移行等に関する会計処理の公表
- 企業会計基準委員会 実務対応報告第2号 退職給付制度間の移行等の会計処理に関する実務上の取扱いの公表
- 企業会計基準委員会 改正実務対応報告第2号 退職給付制度間の移行等の会計処理に関する実務上の取扱いの公表
- 企業会計基準委員会 実務対応報告第33号 リスク分担型企業年金の会計処理等に関する実務上の取扱い等の公表
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第26号 退職給付に関する会計基準及び企業会計基準適用指針第25号 退職給付に関する会計基準の適用指針の公表
よくある質問
退職給付制度の終了と退職給付債務の減額はどのように区別しますか
退職給付債務の減少に支払等が伴うかどうかで区別します。支払等を伴う減少は終了、伴わない減少は減額として過去勤務費用に配分されます。ただし、退職金規程の廃止のように制度が廃止される場合は、支払等を伴わなくても終了に該当します。
終了損益は損益計算書のどこに表示しますか
債務の減少に伴う差額と未認識項目の終了部分の損益は、同一の事象に伴って生じたものであるため、原則として特別損益に純額で表示します。通常の退職給付費用と混ぜて売上原価や販売費及び一般管理費に計上しないよう、仕訳段階から区分することが実務上のポイントです。
確定拠出年金制度へ分割移換する場合、いつ終了の処理を行いますか
実際に分割して移換した時点ではなく、事業主からの移換額が確定した時点で終了の会計処理を行います。当期に拠出しない未移換額は、未払金等として負債に計上します。
制度改定の施行日が翌期首になる場合、当期の会計処理は必要ですか
原則として施行日である翌期首に終了の会計処理を行います。ただし、規程等の改訂日が当期中で、終了損失の発生の可能性が高くかつ金額を合理的に見積ることができる場合には、当期の退職給付費用として計上します。当期処理を行わない場合は、翌期の財務諸表に与える影響額を当期の財務諸表に注記します。
大量退職はどのような場合に該当しますか
工場の閉鎖や営業の停止等により相当数の従業員が一時に退職し、相当程度の退職給付債務が減少する場合をいいます。概ね半年以内に30%程度の退職給付債務が減少するような場合には該当することが多いとされ、企業の実態に応じて判断します。早期割増退職金の費用処理は、大量退職の会計処理とは別に行われます。