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退職給付の数理計算上の差異とは|過去勤務費用と費用処理

2026-07-28
目次

退職給付会計における数理計算上の差異過去勤務費用は、いずれも発生した期に全額を損益へ計上せず、原則として平均残存勤務期間以内の一定の年数にわたって費用処理する「遅延認識」が採られている点が特徴です。連結財務諸表では、発生時にその他の包括利益で認識したうえで、費用処理した部分を組替調整(リサイクリング)します。本記事では、上場準備企業の経理・監査対応を念頭に、両者の定義・発生原因・費用処理の方法、割引率などの計算基礎の設定、個別財務諸表における取扱いまでを、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」および同適用指針第25号に沿って整理します。

数理計算上の差異・過去勤務費用とは

退職給付債務や退職給付費用は、割引率や昇給率などの計算基礎に基づく見積りによって算定されます。この見積りと実績とのずれ、あるいは制度そのものの改訂によって生じる債務の増減が、数理計算上の差異と過去勤務費用です。両者はいずれも、当期純利益を構成する項目として費用処理されていない部分を「未認識」として区別します。企業会計基準委員会 企業会計基準第26号 退職給付に関する会計基準

数理計算上の差異 年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異、見積数値の変更等により発生した差異
過去勤務費用 退職給付水準の改訂等に起因して発生した退職給付債務の増加または減少部分

数理計算上の差異

数理計算上の差異とは、年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異、および見積数値の変更等により発生した差異をいいます。このうち、当期純利益を構成する項目として費用処理されていないものを「未認識数理計算上の差異」といいます。あらかじめ定めた計算基礎に基づく数値と各事業年度における実際の数値との差異のほか、計算基礎を変更した場合に生じる差異も含まれます。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第25号 退職給付に関する会計基準の適用指針

過去勤務費用

過去勤務費用とは、退職給付水準の改訂等に起因して発生した退職給付債務の増加または減少部分をいいます。退職金規程等の改訂に伴い退職給付水準が変更された結果生じる、改訂前の退職給付債務と改訂後の退職給付債務の改訂時点における差額を意味します。このうち費用処理されていないものを「未認識過去勤務費用」といいます。なお、給与水準の変動(ベースアップ)による退職給付債務の変動は過去勤務費用には該当しません。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第25号 退職給付に関する会計基準の適用指針

退職給付費用の構成と費用処理

退職給付費用は、次の各項目を合算して算定され、当期純利益を構成する項目に含めて計上します。数理計算上の差異と過去勤務費用は、その期の費用処理額としてこの計算に組み込まれます。企業会計基準委員会 企業会計基準第26号 退職給付に関する会計基準

退職給付費用 = 勤務費用 + 利息費用 - 期待運用収益 ± 数理計算上の差異に係る当期の費用処理額 ± 過去勤務費用に係る当期の費用処理額

発生時の会計処理と組替調整(連結)

数理計算上の差異および過去勤務費用のうち、当期に費用処理されない部分は、未認識数理計算上の差異・未認識過去勤務費用として、法人税等および税効果を調整のうえ、その他の包括利益に含めて計上し、純資産の部のその他の包括利益累計額に計上します。その後、その他の包括利益累計額に計上されている未認識項目のうち、当期に費用処理された部分については、その他の包括利益の調整(組替調整)を行います。これにより、発生した差異は貸借対照表にただちに反映されつつ、損益への影響は費用処理期間にわたって配分されます。企業会計基準委員会 企業会計基準第26号 退職給付に関する会計基準

費用処理の方法(定額法・定率法)

数理計算上の差異は、原則として各年度の発生額について、発生年度に費用処理する方法、または平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分する方法(定額法)により費用処理します。このほか、未認識数理計算上の差異の残高の一定割合を費用処理する方法(定率法)によることもできます。定額法と定率法は選択適用でき、いったん採用した費用処理方法は、正当な理由により変更する場合を除き、継続的に適用しなければなりません。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第25号 退職給付に関する会計基準の適用指針

定率法では、数理計算上の差異を発生年度ごとに管理せず、その残高に一定年数に基づく定率を乗じた金額が当年度の費用処理額となります。この定率は、費用処理期間以内で、当該発生金額のおおむね90%が費用処理されるように決定します。適用指針では、費用処理期間5年の定率は0.369、10年の定率は0.206と示されています。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第25号 退職給付に関する会計基準の適用指針

過去勤務費用の費用処理方法は、数理計算上の差異の費用処理方法に準じますが、退職金規程等の改訂による過去勤務費用については、頻繁に発生するものでない限り、発生年度別に一定の年数にわたって定額法により費用処理することが望ましいとされています。過去勤務費用と数理計算上の差異は発生原因や発生頻度が相違するため、費用処理年数はそれぞれ別個に設定することができます。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第25号 退職給付に関する会計基準の適用指針

平均残存勤務期間は、在籍する従業員が貸借対照表日から退職するまでの平均勤務期間であり、原則として退職率と死亡率を加味した年金数理計算上の脱退残存表を用いて算定します。標準的な退職年齢から貸借対照表日現在の平均年齢を控除して算定することもできます。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第25号 退職給付に関する会計基準の適用指針

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割引率・長期期待運用収益率の設定

退職給付債務の計算に用いる割引率は、安全性の高い債券の利回りを基礎として決定します。この安全性の高い債券の利回りには、期末における国債、政府機関債および優良社債の利回りが含まれ、優良社債には、複数の格付機関による直近の格付けがダブルA格相当以上を得ている社債等が含まれます。割引率は退職給付の支払見込期間を反映するものでなければならず、支払見込期間および期間ごとの金額を反映した単一の加重平均割引率を使用する方法や、支払見込期間ごとに設定された複数の割引率を使用する方法が認められます。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第25号 退職給付に関する会計基準の適用指針

割引率は各事業年度において再検討し、その変動が退職給付債務に重要な影響を及ぼすと判断した場合には、これを見直して退職給付債務を再計算する必要があります。重要な影響の有無の判断にあたっては、前期末に用いた割引率により算定した退職給付債務と比較して、期末の割引率により計算した退職給付債務が10%以上変動すると推定されるときには、重要な影響を及ぼすものとして期末の割引率を用いて退職給付債務を再計算しなければなりません。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第25号 退職給付に関する会計基準の適用指針

一方、期待運用収益の算定に用いる長期期待運用収益率は、年金資産が退職給付の支払に充てられるまでの時期、保有している年金資産のポートフォリオ、過去の運用実績、運用方針および市場の動向等を考慮して設定します。当年度の退職給付費用の計算に用いる長期期待運用収益率は、当期損益に重要な影響があると認められる場合のほかは、見直さないことができます。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第25号 退職給付に関する会計基準の適用指針

個別財務諸表における未認識項目の取扱い

ここまでの発生時にその他の包括利益で認識し組替調整を行う会計処理は、連結財務諸表におけるものです。個別財務諸表上は、当面の間、異なる取扱いが定められています。すなわち、個別貸借対照表上、退職給付債務に未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用を加減した額から、年金資産の額を控除した額を負債として計上します。年金資産の額がこれを超える場合には資産として計上します。個別財務諸表では未認識項目をその他の包括利益に計上せず、負債(退職給付引当金)または資産(前払年金費用)に直接反映する点が連結との違いです。連結財務諸表を作成する会社は、個別財務諸表において、未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用の貸借対照表における取扱いが連結財務諸表と異なる旨を注記します。企業会計基準委員会 企業会計基準第26号 退職給付に関する会計基準

適用時期と改正の経緯

企業会計基準第26号は、企業会計審議会が平成10年に公表した退職給付に係る会計基準を引き継ぎつつ、国際的な会計基準とのコンバージェンスの観点から見直され、企業会計基準委員会が平成24年(2012年)5月17日に公表したものです。この平成24年改正会計基準は、平成25年(2013年)4月1日以後開始する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用されています。また、退職給付債務および勤務費用の定め(期間帰属方法や割引率等)については、平成26年(2014年)4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されています。ただし、これが実務上困難な場合には、所定の注記を行うことを条件に、平成27年(2015年)4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することが認められていました。企業会計基準委員会 企業会計基準第26号 退職給付に関する会計基準

その後、本会計基準は平成28年(2016年)に改正されています。これは、リスク分担型企業年金の会計処理等を明らかにした実務対応報告に伴い、確定拠出制度に係る注記事項を整備するための改正であり、平成29年(2017年)1月1日以後に適用されています。上場準備企業においては、すでに適用されているこれらの基準に、上場準備の過程で対応していくことになります。企業会計基準委員会 企業会計基準第26号 退職給付に関する会計基準

数理計算上の差異・過去勤務費用の費用処理年数の設定や計算基礎の見直しの要否は、制度の実態や監査上の論点と密接に関わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

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まとめ

数理計算上の差異は、期待運用収益と実際の運用成果との差異や、退職給付債務の見積数値と実績との差異等から発生し、過去勤務費用は退職給付水準の改訂等に起因する退職給付債務の増減として発生します。いずれも原則として平均残存勤務期間以内の一定の年数で費用処理する遅延認識が採られ、連結財務諸表では発生時にその他の包括利益で認識したうえで費用処理分を組替調整します。費用処理方法は定額法・定率法から選択でき、割引率や長期期待運用収益率などの計算基礎の設定・見直しには重要性の判断が求められます。個別財務諸表では未認識項目を負債・資産に直接反映する当面の取扱いが定められており、連結との差異の注記が必要です。これらの取扱いはいずれもすでに適用されている基準に基づくものであり、上場準備の過程で自社の制度に即した対応を整えることが重要です。

参考文献

よくある質問

数理計算上の差異と過去勤務費用の違いは何ですか。

数理計算上の差異は、年金資産の期待運用収益と実際の運用成果との差異や、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異、見積数値の変更等により発生した差異です。一方、過去勤務費用は、退職金規程の改訂など退職給付水準の改訂等に起因して発生した退職給付債務の増加または減少部分です。発生原因が「見積りと実績のずれ」か「制度の改訂」かという点で異なります。

数理計算上の差異はなぜ発生した期に全額を費用処理しないのですか。

数理計算上の差異は、原則として各年度の発生額について平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分して毎期費用処理します。これは、単年度の見積りと実績の差異を長期的な視点で平準化して損益に反映させる遅延認識の考え方によるものです。連結財務諸表では、発生時にその他の包括利益で認識し、費用処理した部分を組替調整することで、貸借対照表への即時反映と損益への期間配分を両立させています。

連結と個別で会計処理はどう異なりますか。

連結財務諸表では、未認識数理計算上の差異および未認識過去勤務費用をその他の包括利益で認識し、純資産の部のその他の包括利益累計額に計上します。これに対し個別財務諸表では、当面の間、これらの未認識項目を退職給付引当金または前払年金費用に直接加減する取扱いが定められています。連結財務諸表を作成する会社は、個別財務諸表においてこの取扱いが連結と異なる旨を注記します。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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