企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」は、法人税・地方法人税・住民税・事業税・特別法人事業税といった「所得等に対する税金」の会計処理と表示を定めた基準です。ポイントは、税金費用を原則として損益に計上しつつ、その他の包括利益や株主資本に直接計上された取引に対応する税金は、その取引と同じ区分に計上するという計上区分の考え方にあります。本記事では、上場準備企業の経理・財務の実務目線で、会計処理・表示区分・未払法人税等の表示を整理します。企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
法人税等会計基準(第27号)の全体像
この基準は、日本の法令に従って納付する法人税・住民税・事業税等について、連結財務諸表と個別財務諸表の双方に適用されます。もともと日本公認会計士協会の実務指針で扱われていた税金の会計処理・開示を、企業会計基準委員会(ASBJ)の会計基準として整理し直したものです。実務では「税額をどこに計上し、どの科目でどこに表示するか」を判断するための拠り所になります。
会計処理の骨格はシンプルです。当事業年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等は、原則として損益に計上します。ただし、純資産に対する持分所有者との直接的な取引や、資産・負債の評価替えによる評価差額等に対して課される税金は、その取引・評価差額と同じ区分に計上する例外が設けられています。企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
対象となる税金の範囲
「所得等に対する法人税、住民税及び事業税等」には、所得に対する法人税・地方法人税・住民税・事業税(所得割)・特別法人事業税(基準法人所得割)のほか、住民税(均等割)、事業税(付加価値割)、事業税(資本割)も含まれます。所得を課税標準としない外形標準課税部分まで基準の範囲に取り込まれている点が、実務で見落とされやすいところです。なお、特別法人事業税は所得割に代わって国税として創設された税金で、地方税である事業税とあわせて負担を考える必要があります。企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
税効果会計との違い
混同されやすいのが税効果会計(一時差異等に対する繰延税金資産・繰延税金負債の会計処理)との関係です。第27号が扱うのは、当期に実際に負担する税金そのもの(いわゆる納税額ベースの税金費用)とその表示区分です。一方、税効果会計は会計上の利益と課税所得のズレ(一時差異)を将来の税負担として調整する仕組みで、対象が異なります。本記事は前者、すなわち法人税等そのものの会計処理と表示に焦点を当てています。
税金費用の計上区分
第27号の実務上の肝は、税金費用を「損益」「株主資本」「その他の包括利益(個別財務諸表では評価・換算差額等)」のいずれに計上するかという計上区分の判断です。原則は損益ですが、課税の原因となった取引が損益以外の区分に計上されている場合は、対応する税金もその区分に計上して、税引前当期純利益と税金費用の対応関係を保ちます。企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
損益・株主資本・その他の包括利益の三区分
計上区分は、課税の対象となった取引がどこに計上されているかで決まります。株主資本に直接計上される取引(純資産に対する持分所有者との直接的な取引で損益に反映されないもの)に課される税金は株主資本の対応する内訳項目から控除し、評価差額等に課される税金は、個別財務諸表では評価・換算差額等、連結財務諸表ではその他の包括利益で認識したうえでその他の包括利益累計額に計上します。整理すると次のとおりです。企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
| 課税の対象となった取引 | 税金費用の計上区分 |
|---|---|
| 通常の所得に対する課税 | 損益(法人税、住民税及び事業税) |
| 株主資本に直接計上される 取引に対する課税 |
株主資本の対応する内訳項目 |
| 評価差額等に対する課税 | その他の包括利益 (個別上は評価・換算差額等) |
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その他の包括利益に対する課税の会計処理
その他の包括利益や株主資本に計上する税額は、原則として、その区分に計上した額に、課税の対象となる期間の法定実効税率を乗じて算定します。損益に計上する税額は、法令に従って算定した税額の全体から、この区分別に計算した税額を控除した残りとなります。
その他有価証券評価差額金などに対して課される税金がこの典型例です。実務では、グループ通算制度への加入時に市場価格のあるその他有価証券の評価差額が課税所得に取り込まれるケースなどで、この区分別計上の判断が必要になります。なお、課税所得が生じずに法令上の税額がゼロとなる場合は、区分別に計上する税額もゼロとするなど、他の合理的な計算方法によることも認められています。企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
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未払法人税等の表示
会計処理と並んで実務で問われるのが、貸借対照表・損益計算書での表示です。第27号は、損益に計上する税金を損益計算書のどこに、未納付・未収の税金を貸借対照表のどの区分に表示するかを具体的に定めています。決算書のドラフト段階で科目区分を誤ると、監査対応で必ず指摘される論点です。企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
損益計算書上の表示科目
損益に計上する法人税・地方法人税・住民税・事業税(所得割)及び特別法人事業税(基準法人所得割)は、損益計算書の税引前当期純利益(又は損失)の次に、「法人税、住民税及び事業税」等の適切な科目で表示します。一方、事業税(付加価値割)及び事業税(資本割)は、所得を課税標準としないため、原則として販売費及び一般管理費として表示します(合理的な配分方法に基づき一部を売上原価とすることも可能です)。所得割部分と外形標準課税部分で表示場所が分かれる点に注意が必要です。企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
未払法人税等・未収還付法人税等の表示
貸借対照表では、法人税・住民税及び事業税等のうち納付されていない税額は流動負債の区分に「未払法人税等」など、その内容を示す科目で表示します。反対に、中間申告で納付した税額が確定税額を上回るなどで還付されるとき、まだ受領していない税額は流動資産の区分に「未収還付法人税等」など、その内容を示す科目で表示します。上場準備で多いのは、中間納付額と確定額の差額を相殺表示してしまう誤りで、未払と未収は別区分で表示するのが原則です。企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
| 納付されていない税額 | 流動負債(未払法人税等) |
|---|---|
| 還付されるが未受領の税額 | 流動資産(未収還付法人税等) |
更正・修正申告による追徴と還付
過年度の所得等に対する税金について、税務調査などによる更正や修正申告(あわせて「更正等」といいます)で追加の税金が生じることがあります。第27号では、更正等により追加で徴収される可能性が高く、その税額を合理的に見積ることができる場合、原則として当該追徴税額を損益に計上します。更正等に伴う延滞税・加算税・延滞金及び加算金は、この追徴税額に含めて処理します。企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
反対に、更正等により還付されることが確実に見込まれ、その税額を合理的に見積ることができる場合は、当該還付税額を損益に計上します。いずれも、企業会計基準第24号に定める過去の誤謬に該当するときは、この取扱いではなく誤謬の訂正として処理する点に留意が必要です。追徴税額のうち未納付の額は当事業年度の未払法人税等に、還付税額のうち未受領の額は当事業年度の未収還付法人税等に含めて表示します。企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
適用時期と改正の経緯
第27号は2017年に公表され、公表日以後適用されています。その後、複数回の改正を重ねており、上場準備企業の実務では最新の改正内容まで押さえておく必要があります。主な改正と適用時期は次のとおりです。企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
| 改正の区分 | 適用時期 |
|---|---|
| 2017年公表(原基準) | 公表日以後適用 |
| 2022年改正 | 2024年4月1日以後開始 事業年度の期首から適用 |
| 2025年改正 | 2025年4月1日以後開始 事業年度の期首から適用 |
| 2026年改正 | 2028年4月1日以後開始 事業年度の期首から適用 |
2022年改正は、その他の包括利益や株主資本に計上された取引に対して課される法人税等の計上区分を見直したもので、2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(2023年4月1日以後開始する事業年度からの早期適用も認められていました)。本記事で説明した区分別計上の考え方は、この改正で整備されたものです。企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
2025年改正は、2024年年次改善プロジェクトの一環として特別法人事業税(基準法人所得割)の取扱いを明確化したもので、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています。特別法人事業税は国税として創設され、2019年10月1日以後に開始する事業年度から課されている税金で、この改正で基準上の位置づけが整理されました。企業会計基準委員会 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正
さらに、2026年7月7日には、基準の名称を「法人税等に関する会計基準」に改める最新の改正が公表されています。適用対象となる税金について具体的な税金を列挙する方法から、原則的な定めを置く方法へ見直すもので、主として住民税(均等割)の表示が変更されます。この2026年改正は2028年4月1日以後に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用され、公表日以後開始する事業年度からの早期適用も認められています。会計処理の基本的な考え方は改正前を引き継ぐものの、すべての企業に何らかの表示上の影響があるとされているため、適用初年度に向けた影響の把握が実務課題となります。企業会計基準委員会 改正企業会計基準第27号 法人税等に関する会計基準
税金費用の計上区分や表示、更正等の会計処理は、取引の実態や個社の税務ポジションによって判断が分かれます。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
お問い合わせはこちら ▸まとめ
企業会計基準第27号は、法人税・住民税・事業税等の税金費用について、原則として損益に計上しつつ、株主資本やその他の包括利益に計上された取引に対応する税金はその区分に計上するという計上区分の考え方を定めています。表示面では、所得割部分は税引前当期純利益の次に、外形標準課税部分は販管費に、未払法人税等は流動負債・未収還付法人税等は流動資産に区分して表示します。2022年改正と2025年改正はすでに適用されており、2026年改正(名称変更・住民税均等割の表示見直し)は2028年4月1日以後開始事業年度から適用されます。上場準備の過程では、これらの計上区分・表示区分の整合を早めに確認しておくことが実務のポイントです。
参考文献
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第27号 法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正
- 企業会計基準委員会 改正企業会計基準第27号 法人税等に関する会計基準
よくある質問
法人税等会計基準(第27号)と税効果会計はどう違いますか。
第27号は、当期に実際に負担する法人税・住民税・事業税等そのものの会計処理と表示区分を定めた基準です。これに対して税効果会計は、会計上の利益と課税所得の一時差異を将来の税負担として調整し、繰延税金資産・繰延税金負債を計上する仕組みで、対象が異なります。両者は別の基準として並行して適用されます。
未払法人税等はどの区分に表示しますか。
法人税・住民税及び事業税等のうち納付されていない税額は、貸借対照表の流動負債の区分に「未払法人税等」など、その内容を示す科目で表示します。中間申告による納付額が確定税額を上回るなどで還付される未受領の税額は、流動資産の区分に「未収還付法人税等」など、その内容を示す科目で表示します。
その他の包括利益に対する課税はどのように会計処理しますか。
その他有価証券評価差額金などの評価差額等に対して課される税金は、損益ではなく、個別財務諸表では評価・換算差額等、連結財務諸表ではその他の包括利益で認識したうえでその他の包括利益累計額に計上します。金額は、原則としてその区分に計上した額に法定実効税率を乗じて算定します。