公認会計士事務所プライムパートナーズ
お問い合わせ

契約資産・契約負債とは|前受金・売掛金との違いと仕訳をわかりやすく

2024-10-17
目次

決算で「この売上に対応する相手勘定は売掛金でよいのか、それとも契約資産か」「顧客から先に受け取った入金は前受金のままでよいのか」と迷う場面は少なくありません。答えの起点は、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」といいます)が定める契約資産契約負債顧客との契約から生じた債権という3つの区分です。

結論を先に述べると、判断の軸は2つだけです。企業と顧客のどちらが先に履行したか(企業が先なら資産、顧客が先なら負債)、そして対価に対する権利が無条件かどうか(無条件なら債権、条件が残っていれば契約資産)です。この2軸を押さえれば、売掛金・前受金・前受収益・前払金といった従来からの勘定科目との使い分けも整理できます。

本稿では、収益認識会計基準の定義と条項に沿って3つの区分をわかりやすく整理したうえで、紛らわしい勘定科目との違い、貸借対照表の表示科目、仕訳例、そしてIFRS第15号との関係までを解説します。

契約資産・契約負債とは

収益認識会計基準は、顧客との契約から生じる残高を、企業の履行と顧客の支払の関係に応じて3つに区分しています。まずはそれぞれの定義を確認します。

契約資産とは

契約資産とは、企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち、顧客との契約から生じた債権を除いたものをいいます(収益認識に関する会計基準 第10項)。つまり、売上は計上したものの、まだ無条件には請求できない状態の権利です。

典型的なのは、複数の履行義務を含む契約で、一部の履行義務だけを充足した段階です。機器の引渡しは終わっていても、契約上、代金の請求には据付けや保守の完了が必要であれば、その時点の権利は無条件ではありません。この場合、収益は認識しつつ、相手勘定は売掛金ではなく契約資産になります。

契約負債とは

契約負債とは、財又はサービスを顧客に移転する企業の義務に対して、企業が顧客から対価を受け取ったもの、又は対価を受け取る期限が到来しているものをいいます(収益認識に関する会計基準 第11項)。先にお金を受け取ったが、まだ提供していない分の義務を負債として示す区分です。

年会費、前売りチケット、サブスクリプションの年額前払い、自社ポイントの付与などが該当します。入金が先行しているという事実だけでなく、「対価を受け取る期限が到来している」場合にも認識対象になる点が実務上の注意点です。

顧客との契約から生じた債権とは

顧客との契約から生じた債権とは、企業が顧客に移転した財又はサービスと交換に受け取る対価に対する企業の権利のうち無条件のもの(すなわち、対価に対する法的な請求権)をいいます(収益認識に関する会計基準 第12項)。実務でいう売掛金・受取手形・完成工事未収入金などが、この区分に当たります。

「無条件」とは、対価を請求するために時の経過以外の条件が残っていない状態を指します。支払期日が翌々月末であっても、請求のために追加の履行が要らないのであれば、その権利は無条件であり債権に該当します。

3つの区分の関係

3つの区分は、企業の履行と顧客の支払のどちらが先行しているかによって整理できます。

契約資産 企業の履行が先行し、対価を受け取る権利にまだ条件が残っている状態(収益認識に関する会計基準 第10項)
顧客との契約から生じた債権 企業の履行が先行し、対価を受け取る権利が無条件になった状態(収益認識に関する会計基準 第12項)
契約負債 顧客の支払(又は支払期限の到来)が先行し、企業に財又はサービスの移転義務が残っている状態(収益認識に関する会計基準 第11項)

同一の契約について、企業の履行と顧客の支払の関係に基づき、契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権のいずれかを貸借対照表に計上します(収益認識に関する会計基準 第79項)。1つの契約から資産と負債が常に両建てで生じるわけではない、という構造を押さえておくと判断が安定します。

関連コラム契約資産と契約負債の違い|売掛金との区分と表示・仕訳

契約資産と売掛金(売上債権)の違い

最も質問が多いのが、契約資産と売掛金の線引きです。両者はいずれも「企業が先に履行したことで生じる資産」であり、収益を認識している点は共通しています。違いは、対価に対する権利が無条件かどうかという一点にあります(収益認識に関する会計基準 第10項、第12項)。

権利の性質 契約資産は時の経過以外の条件が残っている権利、売掛金等の債権は無条件の法的な請求権
判断のポイント 対価を請求するために、検収の完了や他の履行義務の充足といった条件が残っているかどうか
その後の動き 条件が解消して権利が無条件になった時点で、契約資産から債権へ振り替える
評価の考え方 本会計基準に定めのない契約資産の会計処理は、金融商品会計基準における債権の取扱いに準じて処理する(収益認識に関する会計基準 第77項)

なお、外貨建ての契約資産に係る外貨換算については、企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」の外貨建金銭債権債務の換算の取扱いに準じて処理します(収益認識に関する会計基準 第77項)。契約資産は法的な請求権ではないものの、会計上は債権に近い性質のものとして扱われる、と理解しておくと整理しやすくなります。

「契約資産は売上債権に含まれるのか」という論点もよく挙がります。契約資産は法的な請求権ではないため、いわゆる売上債権そのものではありませんが、上記のとおり会計処理は債権に準じます。貸倒見積高の算定基礎に契約資産を含めるかどうかは、あらかじめ会計方針として整理しておくことが実務上重要です。

関連コラム一定の期間にわたり充足される履行義務|進捗度と原価回収基準

契約負債と前受金・前受収益の違い

契約負債についても、従来から使われてきた前受金・前受収益との関係が分かりにくいという声が多く聞かれます。押さえるべきは、契約負債は会計基準上の区分の名称であり、前受金・前受収益は貸借対照表上の表示科目であるという整理です。

契約負債 収益認識会計基準が定める区分。顧客への移転義務に対して対価を受け取った、又は受け取る期限が到来しているもの(収益認識に関する会計基準 第11項)
前受金 商品の販売やサービス提供の対価を前受けした場合に用いられてきた表示科目。契約負債に該当する残高を表示する科目として引き続き用いることができる
前受収益 一定の契約に従い継続して役務の提供を行う場合に、いまだ提供していない役務に対し支払を受けた対価をいう経過勘定項目(企業会計原則注解 注5(2))

前受収益は経過勘定項目であり、役務提供契約以外の契約等による前受金とは区別しなければならないとされています(企業会計原則注解 注5(2))。一方、収益認識会計基準は、契約負債を適切な科目をもって貸借対照表に表示することを求めており(収益認識に関する会計基準 第79項)、科目名そのものを「契約負債」に統一することまでは要求していません。

したがって実務では、従来どおり前受金や前受収益といった科目を使いつつ、それが収益認識会計基準上の契約負債に当たると整理するケースと、「契約負債」という科目を新たに設けるケースの両方があります。いずれの場合も、注記の対象となる契約負債の範囲を社内で明確にしておくことが必要です。

関連コラム自社ポイントの会計処理|契約負債への配分と仕訳

契約資産と前払金の違い

「契約資産と前払金はどう違うのか」という検索も見られますが、この2つはそもそも立場が逆です。契約資産は、自社が売手として財又はサービスを移転したことにより生じる権利です(収益認識に関する会計基準 第10項)。これに対して前払金(前渡金)は、自社が買手として仕入代金等を先に支払ったことにより生じる資産であり、収益認識会計基準の契約資産とは別の概念です。

契約資産 自社が売手。財又はサービスを移転済みで、対価を受け取る権利に条件が残っている
前払金(前渡金) 自社が買手。代金を先に支払い、財又はサービスの提供を受ける権利がある

取引の相手方から見れば、自社の前払金は相手方にとっての契約負債に対応します。どちらの立場で契約を見ているのかを最初に確認すると、区分を取り違えずに済みます。

貸借対照表の表示科目と注記

収益認識会計基準は、契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権を、適切な科目をもって貸借対照表に表示することを求めています(収益認識に関する会計基準 第79項)。「契約資産」「契約負債」という科目名の使用を義務付けるものではなく、取引の実態に合った科目名を用いることができます。

表示科目の考え方

資産側では、無条件の請求権となったものを売掛金・受取手形・完成工事未収入金などで表示し、条件が残っているものを契約資産・工事未収入金などで表示する、といった使い分けが行われています。負債側では、前受金・前受収益・契約負債などが用いられます。いずれの場合も、財務諸表利用者が契約資産と債権を区別できる情報が示されているかが要点です。

区分表示しない場合の注記

契約資産と顧客との契約から生じた債権のそれぞれについて、貸借対照表に他の資産と区分して表示しない場合には、それぞれの残高を注記します。また、契約負債を貸借対照表において他の負債と区分して表示しない場合には、契約負債の残高を注記します(収益認識に関する会計基準 第79項)。

加えて、収益認識に関する注記として、顧客との契約から生じた債権、契約資産及び契約負債の期首残高及び期末残高などを注記することが求められています(収益認識に関する会計基準 第80-20項)。損益計算書側では、顧客との契約から生じる収益を適切な科目をもって表示し、それ以外の収益と区分して表示するか、区分しない場合はその額を注記します(収益認識に関する会計基準 第78-2項)。

契約資産・契約負債の仕訳例

ここからは、区分の切り替わりが分かるように仕訳で確認します。以下はいずれも自社の作例であり、金額の単位は千円です。

契約資産を計上する場合

A社は顧客と、機器の引渡し(独立販売価格800)と1年間の保守サービス(独立販売価格200)を提供する契約を締結し、取引価格1,000を各履行義務に配分しました。契約上、代金は保守サービスの提供が完了した後に一括して請求する条件です。機器を引き渡した時点では、対価を請求するために保守サービスの完了という条件が残っているため、収益を認識したうえで契約資産を計上します(収益認識に関する会計基準 第10項、第77項)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
契約資産 800 売上高 800

契約資産を債権へ振り替える場合

その後、保守サービスの提供が完了し、取引価格1,000の全額を無条件に請求できる状態になりました。この時点で残りの履行義務に配分した200の収益を認識するとともに、契約資産800を売掛金へ振り替えます(収益認識に関する会計基準 第12項、第77項)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
売掛金 1,000 契約資産 800
売上高 200

この振替により、貸借対照表上の表示は契約資産から債権へ移ります。振替のタイミングを契約書の支払条件と結び付けて管理できているかどうかが、決算作業の負荷を大きく左右します。

契約負債を計上する場合

B社は、1年間の保守サービスの対価600を契約開始時に一括して受け取りました。役務の提供前に対価を受け取っているため、入金時に契約負債を計上します(収益認識に関する会計基準 第11項、第78項)。その後、決算日までに4か月分の役務提供が完了したため、200を収益に振り替えます。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
現金預金 600 契約負債 600
契約負債 200 売上高 200

期末に残る契約負債400は、翌期以降に収益として認識される見込みの金額です。契約負債の期末残高と、当期に認識した収益のうち期首の契約負債残高に含まれていた額は注記の対象になります(収益認識に関する会計基準 第80-20項)。

IFRS第15号との関係

契約資産・契約負債という用語は、もともとIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」で用いられている概念です。日本の収益認識会計基準は、国内外の企業間における財務諸表の比較可能性の観点から、IFRS第15号の基本的な原則を取り入れることを出発点として開発されました(収益認識に関する会計基準 第97項)。

具体的には、連結財務諸表に関してIFRS第15号の定めを基本的にすべて取り入れる方針が定められており、会計処理の定めのうち収益認識会計基準第16項から第78項、適用指針第4項から第89項が、IFRS第15号の内容を基礎とした定めに当たります(収益認識に関する会計基準 第98項、第100項)。契約資産・契約負債・債権の3区分と、その表示の考え方も、この方針のもとで日本基準に取り込まれたものです。

したがって、IFRS第15号を適用する場合と日本基準を適用する場合とで、3区分の基本的な考え方は共通しています。異なるのは主に、財務諸表の名称(IFRSでは財政状態計算書、日本基準では貸借対照表)と、日本基準では従来の実務に配慮した代替的な取扱いが比較可能性を損なわせない範囲で追加されている点です(収益認識に関する会計基準 第97項、第98項)。IFRS任意適用を検討している企業にとっては、日本基準で契約資産・契約負債の把握体制を整えておくことが、そのまま移行準備になります。

適用時期と改正の経緯

収益認識会計基準は2018年に公表され、2020年に改正されました。2020年改正会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(収益認識に関する会計基準 第81項)。2020年の改正では、収益の表示科目、収益と金融要素の影響の区分表示の要否、契約資産と債権の区分表示の要否といった表示に関する事項と、注記事項の定めが新たに整備されました(収益認識に関する会計基準 第96-2項)。本稿で扱った表示・注記のルールは、この2020年改正で明確化されたものです。

その後、2024年にも改正が行われています。2024年改正会計基準は、2024年のリース会計基準の公表に伴い、結論の背景における「範囲」の記載の一部を削除したもので、会計処理そのものへの影響は限定的です(収益認識に関する会計基準 第96-3項)。その適用時期は、2024年に公表されたリース会計基準の適用時期と同様とされています(収益認識に関する会計基準 第83-3項)。

まとめ

契約資産・契約負債・顧客との契約から生じた債権の区分は、「企業と顧客のどちらが先に履行したか」と「対価に対する権利が無条件かどうか」の2軸で判断できます。企業の履行が先行し権利に条件が残っていれば契約資産、条件が外れていれば債権、顧客の支払が先行していれば契約負債です(収益認識に関する会計基準 第10項から第12項)。

前受金・前受収益は表示科目の名称であり、収益認識会計基準上の区分である契約負債とは階層が異なります。前払金は自社が買手の立場で生じる資産であり、契約資産とは別物です。これらを混同しないためには、契約書の支払条件を起点に、どの時点で権利が無条件になるのかを整理しておくことが有効です。

実務上は、契約単位で残高を把握する仕組みと、契約資産から債権への振替を漏らさない運用の設計が要になります。契約形態が多様な企業ほど判断が個別的になりますので、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

お問い合わせはこちら

参考文献

よくある質問

契約資産と契約負債の違いは何ですか。

企業の履行が顧客の支払に先行し、対価を受け取る権利に時の経過以外の条件が残っている場合が契約資産です(収益認識に関する会計基準 第10項)。逆に顧客の支払(又は支払期限の到来)が先行し、企業に財又はサービスの移転義務が残っている場合が契約負債です(収益認識に関する会計基準 第11項)。同一の契約については、企業の履行と顧客の支払の関係に基づき、いずれか一方を貸借対照表に計上します(収益認識に関する会計基準 第79項)。

契約資産と売掛金はどのように使い分けますか。

対価に対する権利が無条件であれば顧客との契約から生じた債権として売掛金等で表示し、無条件になっていなければ契約資産として表示します(収益認識に関する会計基準 第10項、第12項)。無条件とは、対価を請求するために時の経過以外の条件が残っていない状態をいい、支払期日が将来であっても追加の履行が不要であれば債権に該当します。契約書の支払条件を確認し、検収の完了や他の履行義務の充足が請求の前提になっていないかを確かめてください。

契約負債と前受金の違いは何ですか。

契約負債は収益認識会計基準が定める区分の名称であり、前受金は貸借対照表上の表示科目です。収益認識会計基準は契約負債を適切な科目をもって貸借対照表に表示することを求めているため(収益認識に関する会計基準 第79項)、前受金という科目名を引き続き用いることもできます。科目名を変えるかどうかにかかわらず、契約負債に該当する残高の範囲を社内で明確にしておくことが必要です。

契約負債と前受収益はどう違いますか。

前受収益は、一定の契約に従い継続して役務の提供を行う場合に、いまだ提供していない役務に対し支払を受けた対価をいう経過勘定項目であり、役務提供契約以外の契約等による前受金とは区別されます(企業会計原則注解 注5(2))。これに対して契約負債は、顧客への移転義務に対して対価を受け取った、又は受け取る期限が到来しているものを指す会計基準上の区分です(収益認識に関する会計基準 第11項)。前受収益は、その契約負債を表示する科目の一つとして用いられます。

契約資産と前払金は同じものですか。

別のものです。契約資産は自社が売手として財又はサービスを移転したことにより生じる権利です(収益認識に関する会計基準 第10項)。一方、前払金(前渡金)は自社が買手として代金を先に支払ったことにより生じる資産であり、収益認識会計基準の契約資産とは別の概念です。自社の前払金は、取引の相手方から見れば契約負債に対応します。

契約資産に貸倒引当金は設定しますか。

本会計基準に定めのない契約資産の会計処理は、金融商品会計基準における債権の取扱いに準じて処理します(収益認識に関する会計基準 第77項)。したがって、契約資産についても債権と同様に貸倒見積高の算定を検討することになります。貸倒実績率の算定基礎に契約資産を含めるかどうかを、あらかじめ会計方針として整理しておくと決算作業が安定します。

契約資産や契約負債は必ずその科目名で表示する必要がありますか。

必要はありません。契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権は、適切な科目をもって貸借対照表に表示することとされています(収益認識に関する会計基準 第79項)。ただし、契約資産と顧客との契約から生じた債権のそれぞれを他の資産と区分して表示しない場合や、契約負債を他の負債と区分して表示しない場合には、それぞれの残高を注記します(収益認識に関する会計基準 第79項、第80-20項)。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。