IFRS第16号「リース」では、借手はリース開始日に「使用権資産」と「リース負債」を認識します。しかし、会計処理はそこで終わりではありません。開始日以降、これらの資産・負債をどのように測定していくか、いわゆる「事後測定」が重要となります。本稿では、IFRS第16号における使用権資産の事後測定について、原則である「原価モデル」を中心に、代替的な測定モデル、基準設定の背景、そして具体的な設例を交えながら、条項番号や結論の根拠を明記し、詳細に解説します。
原則的な測定方法:原価モデル
IFRS第16号では、借手はリース開始日後、原則として「原価モデル」を適用して使用権資産を測定することが求められます(第29項)。これは、有形固定資産など他の多くの非金融資産の会計処理との整合性を図るためのアプローチです。
原価モデルの算定式
原価モデルを適用する場合、使用権資産は開始日の取得原価から、その後の減価償却累計額および減損損失累計額を控除し、さらにリース負債の再測定に伴う調整額を加減算して測定します(第30項)。
| 取得原価 | 開始日に測定された金額 |
| (マイナス)減価償却累計額及び減損損失累計額 | 開始日以降に発生した減価償却費および減損損失の累計額 |
| (プラス・マイナス)リース負債の再測定による調整 | リース期間の変更や変動リース料の見積り変更などによりリース負債が再測定された場合の修正額(第36項(c)) |
減価償却の方法と期間
使用権資産の減価償却は、IAS第16号「有形固定資産」の要求事項に準じて行います(第31項)。償却期間は、リースの条件によって以下のように決定されます(第32項)。
| 所有権が移転する場合など | リース期間終了までに原資産の所有権が借手に移転する場合、または購入オプションの行使が原価に反映されている場合。この場合は、「原資産の耐用年数の終了時」まで減価償却します。 |
| それ以外の場合 | 上記以外の場合。この場合は、「使用権資産の耐用年数の終了時」または「リース期間の終了時」のいずれか早い方まで減価償却します。 |
減損の判定
使用権資産も他の資産と同様に、その価値が著しく減少する可能性があります。そのため、借手はIAS第36号「資産の減損」を適用し、使用権資産が減損しているかどうかを定期的に判定し、識別された減損損失を会計処理しなければなりません(第33項)。これにより、資産の帳簿価額が回収可能価額を超えないようにします。
代替的な測定モデル
原則は原価モデルですが、特定の状況下では、他の測定モデルの適用が要求または選択されることがあります。
投資不動産の公正価値モデル(強制適用)
借手がIAS第40号「投資不動産」の公正価値モデルを自社の投資不動産に適用している場合、その借手は、投資不動産の定義を満たす使用権資産(例えば、賃貸収益を得る目的でリースした土地や建物)にも、公正価値モデルを適用しなければなりません(第34項)。これは、所有している投資不動産とリースしている投資不動産で会計処理を統一し、比較可能性を確保するためです。
有形固定資産の再評価モデル(選択適用)
使用権資産が、借手がIAS第16号の再評価モデルを適用している有形固定資産のクラス(例えば、特定の地域の全てのオフィスビル)に関連するものである場合、借手はそのクラスに属するすべての使用権資産に対して、再評価モデルを適用することを選択できます(第35項)。この選択は、同一クラスの資産について一貫した会計方針を適用するために認められています。
基準設定の背景(結論の根拠)
IASB(国際会計基準審議会)がなぜこのような会計処理を定めたのか、その背景(結論の根拠)を理解することは、基準の深い理解につながります。
| 原価モデル採用の理由 | 使用権資産を公正価値で事後測定する案もありましたが、採用されませんでした。その理由は、①有形固定資産など他の多くの非金融資産の測定方法と整合しないこと、②公正価値の算定が複雑で企業にとってコスト負担が大きいこと、が挙げられます(BC175項)。 |
| 減損規定適用の理由 | IAS第36号の減損規定を使用権資産に適用することで、自己所有資産とリース資産の経済的実態が財務諸表上でより適切に比較可能となり、利用者にとって有用な情報が提供されると考えられました(BC176項)。 |
| 投資不動産への公正価値モデル適用理由 | 投資不動産については、所有形態(自己所有かリースか)に関わらず、すべて同一の測定基礎(公正価値)で評価する方が、投資家にとってより有用な情報を提供できると判断されたためです(BC178項)。 |
具体的なケーススタディ
IFRS第16号の設例(IE)に基づき、事後測定の具体的な処理を見ていきましょう。
リース期間変更による調整(設例13)
状況:建物を10年間リース(使用権資産の取得原価CU420,391)。第6年度末に、リース期間を5年間延長するオプションを行使することが合理的に見込まれるようになりました。
事後測定の処理:
- 第6年度末までの減価償却:当初のリース期間10年で定額法償却を行います。毎年の減価償却費はCU42,039(CU420,391 ÷ 10年)です。第6年度末の修正前帳簿価額はCU168,157となります(IE5 パート2)。
- リース負債と使用権資産の再測定:リース期間の延長によりリース負債が再計算され、CU192,012増加しました。この増加額を、使用権資産の帳簿価額に加算します(第39項)。修正後の使用権資産はCU360,169(CU168,157 + CU192,012)となります(IE5 パート2)。
- 減価償却の見直し:第7年度以降は、修正後の帳簿価額CU360,169を、残りのリース期間(当初の残り4年+延長5年=9年)で減価償却します。新しい減価償却費は年額CU40,019となります(IE5 パート2)。
消費者物価指数(CPI)変動による調整(設例14A)
状況:10年間の不動産リースで、リース料は2年ごとにCPIに応じて変動します。第3年度首にCPIが上昇し、リース負債がCU27,145増加しました。
事後測定の処理:リース負債の再測定による増加額CU27,145は、そのまま使用権資産の帳簿価額に加算されます(第39項、IE6)。これにより、将来の減価償却費の計算基礎となる使用権資産の金額が増加します。
セール・アンド・リースバックにおける事後測定(設例25)
状況:企業が建物を売却し、それをリースバックしました。使用権資産の取得原価はCU250,000、リース期間は5年です。
事後測定の処理:セール・アンド・リースバック取引から生じた使用権資産も、通常のリースと同様に減価償却を行います。このケースでは、使用権資産CU250,000をリース期間5年にわたり定額法で償却し、毎年の減価償却費はCU50,000となります(IE12)。ただし、セール・アンド・リースバック特有の利得の認識など、初期測定やリース負債の測定には特別な規定がある点に留意が必要です。
まとめ
IFRS第16号における使用権資産の事後測定は、原則として原価モデルが適用され、減価償却と減損の検討が行われます。重要な点は、リース期間の変更や変動リース料の見直しなどによってリース負債が再測定された場合、その調整額が使用権資産の帳簿価額に反映されることです。これにより、資産と負債が連動して変動します。また、投資不動産や特定の有形固定資産クラスに属する使用権資産には、それぞれ公正価値モデルや再評価モデルといった代替的な測定モデルが適用される点も理解しておく必要があります。これらのルールを正しく適用することが、IFRSに準拠した適切な財務報告に不可欠です。
IFRS第16号「使用権資産の事後測定」のよくある質問まとめ
Q. IFRS第16号における使用権資産の事後測定の原則的な方法は何ですか?
A. 原則として「原価モデル」を適用します。これは、取得原価から減価償却累計額および減損損失累計額を控除し、リース負債の再測定による調整額を加減算して測定する方法です。
Q. 使用権資産の減価償却期間はどのように決定されますか?
A. リース期間終了までに所有権が借手に移転する場合などは「原資産の耐用年数」で償却します。それ以外の場合は、「使用権資産の耐用年数」と「リース期間」のいずれか短い方の期間で償却します。
Q. リース期間の変更などでリース負債の金額が変わった場合、使用権資産はどうなりますか?
A. リース負債の再測定による増減額は、原則として使用権資産の帳簿価額に加算または減算して調整します。
Q. 使用権資産の測定は、常に原価モデルを使用するのですか?
A. いいえ、例外があります。借手が公正価値モデルを適用している投資不動産に該当する使用権資産は、公正価値モデルを適用しなければなりません。また、再評価モデルを適用している有形固定資産クラスに関連する使用権資産は、再評価モデルの適用を選択できます。
Q. なぜ事後測定に公正価値ではなく原価モデルが原則とされているのですか?
A. 主に2つの理由があります。1つは有形固定資産など他の多くの非金融資産の会計処理との整合性を保つため、もう1つは公正価値の算定が複雑で企業にとってコスト負担が大きくなることを避けるためです。
Q. 使用権資産は減損会計の対象になりますか?
A. はい、なります。借手はIAS第36号「資産の減損」を適用して、使用権資産が減損していないかを判定し、必要に応じて減損損失を認識しなければなりません。