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IFRS IAS第19号「確定拠出制度」を徹底解説!会計処理と具体事例

2024-12-09
目次

本記事では、IAS第19号「従業員給付」における「確定拠出制度(Defined Contribution Plans)」について、その定義から会計処理、そして実務上の判断が求められる具体的なケーススタディまでを、基準の根拠となる条項番号や結論の根拠(BC)を明記しながら、網羅的に解説します。IFRS導入や適用における実務上の疑問点を解消するための一助となれば幸いです。

確定拠出制度の定義と本質

確定拠出制度を理解する上で最も重要なのは、その定義と、企業と従業員のどちらがリスクを負うかという点です。会計処理の簡便さも、この本質的な特徴から生まれます。

確定拠出制度の定義と企業の義務

IAS第19号では、確定拠出制度を以下のように定義しています。

「退職後給付制度のうち、企業が一定の掛金を別個の事業体(基金)に支払い、たとえ基金が従業員の当期及び過去の期間の勤務に関連するすべての従業員給付を支払うために十分な資産を保有しない場合でも、企業がそれ以上掛金を支払うべき法的義務または推定的義務を有しない制度」(第28項)

この定義の核心は、企業の義務が「基金への拠出に同意した金額」に限定される点にあります。つまり、約束した掛金を支払った時点で、企業の債務は完全に履行されたとみなされます。

リスクの所在は従業員

確定拠出制度の最大の特徴は、リスクの所在が従業員にあることです。従業員が受け取る退職後給付の金額は、企業などが支払った掛金額と、その掛金から得られる投資収益によって決まります(第28項)。その結果、以下のリスクは実質的に従業員が負担することになります。

リスクの種類 内容
数理計算上のリスク 最終的に受け取る給付額が、当初予想していた金額よりも少なくなるリスク。
投資リスク 基金によって投資された資産の運用実績が振るわず、期待される給付額を支払うのに不十分となるリスク。

企業はこれらのリスクを負わないため、会計処理も非常にシンプルになります。

会計処理(認識及び測定)

確定拠出制度の会計処理は、確定給付制度と比較して大幅に簡素化されています。企業の各期間における義務は、その期間に拠出すべき金額によって明確に決定されるため、複雑な計算は不要です。

会計処理の基本原則

確定拠出制度の会計処理では、将来の給付額を予測するための数理計算上の仮定は必要ありません。したがって、予測と実績の差異である「数理計算上の差異」が発生することもありません(第50項)。会計処理は、発生主義に基づき、従業員の勤務と掛金の支払義務を対応させることが基本となります。

費用・負債の認識

企業は、従業員が特定の期間に勤務を提供したことと交換に、確定拠出制度へ支払うべき掛金を、以下の通り認識しなければなりません(第51項)。

  • 負債(未払費用)として認識:期末時点で支払うべき掛金のうち、まだ支払っていない金額を負債として計上します。逆に、支払うべき金額を超えて拠出している場合は、その超過額が将来の支払額の減少や現金の返還につながる範囲で、資産(前払費用)として認識します。
  • 費用として認識:原則として、掛金は発生した期間の費用として認識します。ただし、IAS第2号「棚卸資産」やIAS第16号「有形固定資産」の規定により、資産の取得原価に含めることが要求または許容される場合は、資産計上します。

割引計算の要否

掛金の支払義務は、通常、割引計算を行わずに測定します(第50項)。しかし、例外として、従業員が関連する勤務を提供した事業年度の末日から12か月以内にすべてが決済されると予想されない場合には、IAS第19号第83項に定められた割引率(優良社債の利回りなど)を用いて割引計算を行う必要があります(第52項)。

基準設定の背景にある考え方

現在の確定拠出制度の定義は、過去の基準から変更されています。その背景には、IASB(国際会計基準審議会)の「リスクの所在」を重視するアプローチがあります。

リスクの所在を重視した定義への変更

1998年の改訂以前の旧基準では、制度の分類は「給付の算定式」に重点が置かれていました。しかしIASBは、このアプローチが企業の負うリスクを適切に反映していないと考えました。現在の定義は、企業にとって費用が予期せず増加し得るという「ダウンサイドのリスク」の所在に焦点を当てています(BC29項)。企業が将来、追加の掛金を支払う義務を負う可能性がなければ、それは確定拠出制度と分類されるのです。

「アップサイドの可能性」と制度分類

ここで重要な点は、制度の分類が「アップサイドの可能性」を排除しないことです。アップサイドの可能性とは、例えば基金の運用が好調で、企業が将来の掛金を減額できるといった、企業にとってコストが予想より少なくなる可能性を指します。企業がこのようなコスト削減の恩恵を受ける可能性があったとしても、資産不足時に追加拠出を求められるリスク(ダウンサイドのリスク)を負わない限り、その制度は確定拠出制度に分類されます(BC29項)。

具体的なケーススタディと判断事例

実務においては、制度の条件が複雑で、確定拠出制度と確定給付制度のどちらに分類すべきか判断に迷うケースがあります。ここではIFRIC(国際財務報告解釈指針委員会)のアジェンダ決定などを基に、具体的な事例を見ていきます。

ケース1:掛金の割引(減額)権利がある制度(E7)

状況:企業は第三者が管理する制度に年間掛金を支払っています。この制度では、資産が負債を上回るなど運用が好調な場合、企業は将来の掛金について割引(減額)を受ける権利(アップサイドの可能性)があります。しかし、資産が不足した場合でも、企業に追加の掛金を支払う義務はありません。

会計上の判断:この制度は確定拠出制度に分類されます。IFRICは、割引を受ける権利(アップサイド)が存在するだけでは確定給付制度にはならないと結論付けています。分類の決め手は、資産不足時に企業が追加拠出を支払う義務(ダウンサイドのリスク)を負っているかどうかであり、このケースではその義務がないためです。

ケース2:権利確定条件がある制度(E9)

状況:ある確定拠出制度では、従業員が一定期間勤務しないと給付の権利が確定しない「権利確定条件」が付されています。従業員が条件を満たさずに退職した場合、企業は拠出した掛金の返還を受けたり、将来の拠出を減額したりできます。

会計上の判断:

論点 結論
制度の分類 権利確定条件の存在自体は、制度の分類に影響しません。企業が資産不足時に追加拠出を求められない限り、確定拠出制度として扱います。
費用の認識 費用は、掛金を「実際に支払った期間」や「権利が確定する期間」に配分するのではなく、「企業が拠出を支払う義務の生じる原因となった勤務が提供された期間」にわたって認識します。

ケース3:保険が付された給付(第46項)

状況:企業が従業員の退職後給付のために、保険会社に保険料を支払っているケースです。

会計上の判断:このような制度は、原則として確定拠出制度として扱います。ただし、以下のいずれかの義務を企業が保持している場合は、実質的にリスクが企業に残っていると見なされ、確定給付制度として会計処理しなければなりません(第46項)。

  • (a) 期日が到来した際に、従業員給付を直接支払う法的または推定的義務がある場合。
  • (b) 保険会社の運用失敗や破綻などにより、保険会社が将来の給付の全額を支払わない場合に、企業がその不足分を支払う義務がある場合。

ケース4:公的年金制度(第45項)

状況:多くの国で運営されている公的年金制度(社会保障制度など)への加入。

会計上の判断:大多数の公的制度は、確定拠出制度として処理されます。これは、企業の義務が期日の到来した掛金を支払うことに限定されており、国が運営する制度の将来の給付額に対して、個別の企業が直接的な法的義務や推定的義務を負うことは通常ないためです(第45項)。

開示要求事項

確定拠出制度に関する開示は比較的簡潔です。企業は財務諸表の注記において、以下の情報を開示する必要があります。

  • 確定拠出制度に関して費用として認識した金額(第53項)。
  • IAS第24号「関連当事者についての開示」により要求される場合には、経営幹部に関する確定拠出制度への拠出額についての情報(第54項)。

まとめ

IAS第19号における確定拠出制度は、「リスクの所在」という観点から定義され、会計処理は掛金の支払義務が発生した期間に費用認識するというシンプルなものです。しかし、実務では掛金の割引権利や権利確定条件など、判断に迷う特殊な条件が付いた制度も存在します。そのような場合でも、「企業が追加拠出というダウンサイドのリスクを負っているか」という基本原則に立ち返ることで、適切な会計処理を行うことができます。本記事が、貴社のIFRS適用における一助となれば幸いです。

確定拠出制度(IAS第19号)のよくある質問まとめ

Q. 確定拠出制度と確定給付制度の最も大きな違いは何ですか?

A. 最も大きな違いは「リスクの所在」です。確定拠出制度では、投資リスクや数理計算上のリスクは従業員が負担します。一方、確定給付制度では、企業がこれらのリスクを負担し、約束した給付額を支払う義務を負います。

Q. 確定拠出制度の会計処理で、割引計算は必要ですか?

A. 原則として割引計算は不要です。ただし、掛金の支払いが、関連する勤務が提供された年度の末日から12か月を超えて行われる場合には、例外的に割引計算が必要となります。

Q. 基金の運用が好調で将来の掛金が安くなる可能性がある場合、確定給付制度になりますか?

A. いいえ、それだけでは確定給付制度にはなりません。将来の掛金が安くなる可能性(アップサイドの可能性)があっても、基金の資産が不足した際に追加の支払義務(ダウンサイドのリスク)を企業が負わない限り、確定拠出制度に分類されます。

Q. 従業員が権利確定条件を満たさずに退職した場合、費用はどう認識しますか?

A. 費用の認識は、従業員の権利が確定した時点ではなく、「企業が拠出を支払う義務の生じる原因となった勤務が提供された期間」に行います。権利未確定による掛金の返還などは、返還を受ける権利を得た時点で資産及び収益として認識します。

Q. 保険会社に保険料を支払って退職給付を賄っている場合、常に確定拠出制度として処理できますか?

A. 原則は確定拠出制度として扱いますが、常にそうとは限りません。保険会社が給付を支払えなくなった場合に企業が不足分を支払う義務を負っているなど、実質的に企業にリスクが残っている場合は、確定給付制度として会計処理する必要があります。

Q. 国が運営する公的年金制度は、どちらに分類されますか?

A. 通常、公的年金制度は確定拠出制度として処理されます。これは、企業の義務が定められた掛金の支払いに限定されており、制度全体の将来の給付に対して直接的な支払い義務を負わないためです。

事務所概要
社名
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対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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