国際会計基準(IFRS)における有形固定資産の会計処理では、資産の価値を実態に合わせて評価する「減損」が重要な論点です。本記事では、IAS第16号「有形固定資産」に定められた減損に関する要求事項について、該当する条項番号を基に、判定から補填、開示までを網羅的かつ明確に解説いたします。
減損の判定と会計基準の適用
有形固定資産が減損しているかどうかの判定は、IAS第16号第63項の規定により、IAS第36号「資産の減損」を適用して行います。このIAS第36号が、減損会計の具体的な手続きを定めています。
減損判定のプロセスとIAS第36号の役割
IAS第36号は、企業が資産の減損を適切に会計処理するための具体的な指針を提供します。具体的には、以下の3つの重要なステップについて詳細に説明しています(第63項)。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 資産の帳簿価額の見直し | 企業がどのような状況で、どのように資産の帳簿価額を減損の兆候がないか見直すべきかを定めています。 |
| 回収可能価額の算定 | 減損の判定に不可欠な「回収可能価額」をどのように算定するかの方法論(処分コスト控除後の公正価値と使用価値の比較)を規定しています。 |
| 減損損失の認識と戻入れ | 算定された回収可能価額に基づき、いつ減損損失を認識し、また、過去に認識した減損損失をいつ戻し入れるべきかを定めています。 |
減損損失の定義
IAS第16号では、減損損失を「資産の帳簿価額が回収可能価額を超過する金額」と定義しています(第6項)。この定義を構成する重要な用語は以下の通りです。
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| 帳簿価額 | 資産から減価償却累計額および減損損失累計額を控除した後の価額を指します(第6項)。 |
| 回収可能価額 | 資産の「処分コスト控除後の公正価値」と「使用価値」のいずれか高い方の金額を指します(第6項、IAS第36号)。 |
減損・滅失に対する補填の会計処理
有形固定資産が減損、滅失、または放棄された際に、保険会社など第三者から補填(保険金など)を受ける場合があります。この補填に関する会計処理は、減損損失の認識とは区別され、IAS第16号の第65項および第66項で独自の要求事項が定められています。
補填収益を認識するタイミング
第三者からの補填は、その補填が「受取可能となる時」に純損益として認識しなければなりません(第65項)。これは、実際に現金を受領した時点ではなく、補填を受け取る権利が確定した時点を意味します。
減損と補填の分離処理
IAS第16号は、資産の減損・滅失と、それに対する補填、そして代替資産の取得を「別個の経済事象」として捉え、それぞれを独立して会計処理することを要求しています(第66項)。これは、各事象の経済的実態を財務諸表に正確に反映させるためです。
| 経済事象 | 適用される会計処理 |
|---|---|
| 有形固定資産の減損 | IAS第36号に従って減損損失を認識します(第66項(a))。 |
| 除去・処分した資産の認識中止 | IAS第16号の認識の中止の規定に従って処理します(第66項(b))。 |
| 第三者からの補填 | 補填が受取可能となった時に純損益に認識します(第66項(c))。 |
| 代替資産の取得 | IAS第16号の取得原価の算定規定(第7項から第28項)に従って処理します(第66項(d))。 |
減損に関する開示要求
企業は、財務諸表の利用者が企業の財政状態を正しく理解できるよう、有形固定資産の減損に関する情報を適切に開示する義務があります。この開示要求は、IAS第16号とIAS第36号の両方で定められています。
帳簿価額の期中増減内訳における開示
IAS第16号第73項(e)は、有形固定資産の期首と期末の帳簿価額の調整表において、減損損失に関連する変動額を明記することを要求しています。具体的には、以下の項目が含まれます。
- IAS第36号に従って純損益に認識した減損損失(第73項(e)(v))
- IAS第36号に従って純損益に戻し入れた減損損失(第73項(e)(vi))
- 再評価から生じ、IAS第36号に従ってその他の包括利益(OCI)に認識または戻入れをした減損損失(第73項(e)(iv))
IAS第36号に基づく追加情報の開示
上記の調整表の情報に加えて、企業はIAS第36号で要求されるより詳細な情報を開示する必要があります(第78項)。これには、減損を認識した資産(または資金生成単位)の内容、減損損失額、回収可能価額の算定根拠(公正価値か使用価値か、およびその算定に用いた主要な仮定)などが含まれます。
まとめ
IAS第16号における有形固定資産の減損会計は、その判定と測定をIAS第36号に委ねる一方で、減損・滅失に対する補填の会計処理や開示要求については独自の規定を設けています。特に、減損と補填を「別個の経済事象」として処理する点は重要なポイントです。これらの基準を正しく理解し適用することが、IFRSに準拠した信頼性の高い財務報告の基礎となります。
有形固定資産(IAS第16号)の減損に関するよくある質問まとめ
Q. IAS第16号における有形固定資産の減損は、どの会計基準に従って判断しますか?
A. 有形固定資産が減損しているかどうかの判定には、IAS第36号「資産の減損」を適用します。IAS第36号では、資産の帳簿価額の見直し方法、回収可能価額の算定方法、減損損失の認識・戻入れのタイミングが定められています。
Q. IAS第16号で定義される「減損損失」とは何ですか?
A. 減損損失とは、資産の帳簿価額が回収可能価額を超過する金額のことです。帳簿価額は減価償却累計額と減損損失累計額を控除した後の金額を指します。
Q. 減損の判定で使う「回収可能価額」はどのように計算しますか?
A. 回収可能価額は、「処分コスト控除後の公正価値」と「使用価値」のいずれか高い方の金額で算定します。これはIAS第36号で定められています。
Q. 減損した有形固定資産に対して保険金などを受け取った場合、いつ利益として認識しますか?
A. 第三者からの補填(保険金など)は、その補填が「受取可能となった時」に純損益に含めて認識します。資産の減損損失とは別に処理されます。
Q. 有形固定資産の減損損失と、それに対する保険金などの補填は相殺して表示できますか?
A. いいえ、相殺できません。資産の減損、補填の受領、代替資産の取得は、それぞれ別個の経済事象として個別に会計処理する必要があります。
Q. 有形固定資産の減損について、どのような情報を開示する必要がありますか?
A. 財務諸表の注記において、期首と期末の帳簿価額の調整表の中で、IAS第36号に従って認識または戻し入れた減損損失の金額を開示する必要があります。また、IAS第36号で要求される追加情報も開示します。