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IFRS第9号の測定ルールを徹底解説!当初測定から減損、分類変更まで

2024-12-27
目次

IFRS第9号「金融商品」は、金融商品の会計処理に大きな変革をもたらしました。特に「測定」に関する規定は複雑であり、正確な理解が不可欠です。本記事では、IFRS第9号における金融商品の「測定」について、当初測定から事後測定、減損、分類変更、そして利得・損失の認識に至るまで、基準の要求事項を網羅的に解説します。

当初測定:すべての始まりは公正価値から

企業が金融資産または金融負債を最初に会計帳簿に記録する際、その測定方法が定められています。これを当初測定と呼びます。

測定の基本原則

当初認識時、金融資産・金融負債は原則として公正価値で測定されます。通常、この公正価値は、資産を取得または負債を発行するために支払った、あるいは受け取った対価である取引価格と一致します。しかし、市場とは異なる条件で取引が行われた場合など、公正価値と取引価格が異なるケースも存在します。その差額(Day 1 利得/損失)は、評価技法が観察可能な市場データのみに基づく場合などを除き、直ちに損益として認識するのではなく、繰り延べ処理が必要となる場合があります。

取引コストの会計処理

金融商品の取得や発行に直接関連して発生する取引コストの扱いは、その金融商品の分類によって異なります。

金融商品の分類 取引コストの取扱い
純損益を通じて公正価値(FVPL)で測定するもの 発生時に費用処理します。当初測定額には含めません。
上記以外(償却原価、FVOCIで測定するもの) 当初認識時の公正価値に加算(資産)または減算(負債)します。

営業債権の特例

IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の範囲に含まれる営業債権で、重大な金融要素を含まないものについては、例外的な扱いが認められています。これらの営業債権は、公正価値ではなく、IFRS第15号で定められる取引価格で当初測定しなければなりません。

金融資産の事後測定:4つの分類に応じた会計処理

当初認識後、金融資産は保有する「事業モデル」と「契約上のキャッシュ・フローの特性(SPPI要件)」に基づいて分類され、その分類に応じて事後測定の方法が決定されます。

償却原価(Amortised Cost)

契約上のキャッシュ・フロー(元本と利息)を回収することを目的とする事業モデルで保有される金融資産がこの分類に該当します。事後測定は、実効金利法を用いて行われ、利息収益を計算します。また、減損については、後述する予想信用損失(ECL)モデルに基づき、損失評価引当金を認識する必要があります。

その他の包括利益を通じて公正価値(FVOCI)- 負債性商品

契約上のキャッシュ・フローの回収と売却の両方を目的とする事業モデルで保有される負債性商品(社債など)が対象です。毎期末に公正価値で測定されますが、損益の認識が特徴的です。

損益項目 認識先
利息収益(実効金利法)、減損損失、為替差損益 純損益(P/L)
上記以外の公正価値の変動 その他の包括利益(OCI)

なお、当該資産の認識を中止(売却など)する際には、OCIに累積された利得・損失は純損益に振り替えられます(リサイクリング)。

その他の包括利益を通じて公正価値(FVOCI)- 資本性商品

売買目的で保有していない資本性商品(株式など)について、当初認識時に取消不能な選択をした場合に適用されます。こちらも公正価値で測定されますが、負債性商品とは損益認識のルールが大きく異なります。

  • 配当金:純損益(P/L)に認識します。
  • 公正価値の変動:その他の包括利益(OCI)に認識します。
  • 認識の中止時:OCIに累積された利得・損失は、純損益(P/L)に振り替えることは決してありません(ノー・リサイクル)。ただし、利益剰余金など、資本内の他の項目に振り替えることは可能です。

この「ノー・リサイクル」規定は、旧基準(IAS第39号)における資本性投資の複雑な減損判定を不要にする目的で導入されました。

純損益を通じて公正価値(FVPL)

上記のいずれにも分類されない金融資産(例:売買目的で保有する金融資産、SPPI要件を満たさない負債性商品など)が該当します。事後的に公正価値で測定され、公正価値の変動から生じる利得または損失は、すべて純損益(P/L)に認識されます。

金融負債の事後測定:原則と例外

金融負債の事後測定は、金融資産ほど複雑ではありません。原則として、すべての金融負債は実効金利法を用いた償却原価で測定されます。ただし、デリバティブ負債などの売買目的で保有する金融負債や、公正価値オプションを適用した金融負債は、FVPLとして公正価値で測定されます。

ここで重要なのが、公正価値オプションを適用した金融負債に関する「自己の信用リスク」の扱いです。負債の公正価値の変動のうち、企業自身の信用リスク(信用力)の変動に起因する部分は、原則としてその他の包括利益(OCI)に計上しなければなりません。これは、自社の信用力が悪化した結果、負債の価値が下がり、それが純損益上の利益として計上されるという、直感に反する会計処理を防ぐための規定です。OCIに計上されたこの金額は、その後P/Lにリサイクルされることはありません。

減損:将来を見据えた予想信用損失(ECL)モデル

IFRS第9号における最も大きな変更点の一つが、減損会計における予想信用損失(ECL)モデルの導入です。これは、信用損失が「発生」してから認識するのではなく、「予想」される段階で損失評価引当金を計上する、より将来予測的なアプローチです。

一般アプローチ(3ステージ・モデル)

多くの金融資産には、信用リスクの変動に応じて減損の測定方法が変わる「3ステージ・モデル」が適用されます。

ステージ 内容
ステージ1 当初認識後、信用リスクが著しく増大していない金融資産。12か月の予想信用損失を損失評価引当金として認識します。
ステージ2 信用リスクが著しく増大した金融資産。全期間の予想信用損失を認識します。
ステージ3 信用減損している(客観的な証拠がある)金融資産。同じく全期間の予想信用損失を認識し、利息収益は純額(帳簿価額から引当金を控除した額)を基礎として計算します。

「信用リスクの著しい増大」の判定には、債務者の業績悪化や外部格付けの低下など様々な情報が用いられますが、実務上の目安として、契約上の支払が30日を超えて遅延している場合には、著しい増大があったと推定されます(反証可能)。

単純化されたアプローチ

信用リスクの増大を個別に追跡することが煩雑な、重大な金融要素を含まない営業債権(売掛金など)やリース債権については、より簡便なアプローチが認められています。これらの資産については、常に全期間の予想信用損失に等しい金額で損失評価引当金を測定します。実務上は、過去の貸倒実績や将来の経済予測を加味した「引当マトリクス」を用いて計算されることが一般的です。

分類変更:厳格な要件下でのみ可能

金融資産の分類は一度決定されると、安易に変更することはできません。分類変更が要求されるのは、金融資産を管理するための事業モデルを変更した場合に限られます。これは稀な事象であると想定されており、特定のポートフォリオの買収や売却など、企業の戦略に関わる重大な変更があった場合にのみ該当します。分類変更は、変更後の最初の報告期間の初日から将来に向かって適用され、過去の損益を修正再表示することはありません。なお、金融負債の分類変更は禁止されています。

まとめ

IFRS第9号の「測定」は、金融商品を「事業モデル」と「SPPI要件」に基づいて分類することから始まります。その分類に応じて、償却原価または公正価値での事後測定が行われ、損益の認識先(P/LまたはOCI)も異なります。特に、FVOCIに分類した資本性商品の評価差額がリサイクルされない点や、金融負債の自己信用リスクの変動をOCIに計上する点は重要なポイントです。また、将来予測情報を取り入れた予想信用損失(ECL)モデルによる減損会計は、企業の財務諸表に大きな影響を与えるため、正確な理解と適切なプロセス構築が求められます。

IFRS第9号「金融商品」の測定に関するよくある質問まとめ

Q. 金融資産の当初測定は、常に支払った対価(取引価格)と同じ金額になりますか?

A. 原則として、当初測定は公正価値で行われ、通常は取引価格と一致します。しかし、例えば市場金利から著しく乖離した利率での貸付など、取引価格が公正価値を反映していない場合は、両者に差異が生じます。この差額は「Day 1 利得/損失」と呼ばれ、一定の要件を満たさない限り、直ちに損益として認識することはできません。

Q. FVOCIに分類した株式の評価損は、売却時に損益計算書(P/L)に計上できますか?

A. いいえ、できません。FVOCIに分類された資本性商品(株式など)の公正価値の変動はその他の包括利益(OCI)に計上され、その資産を売却(認識の中止)した際にも、OCIに累積された評価損益を純損益(P/L)に振り替えること(リサイクリング)は禁止されています。これは「ノー・リサイクル」規定と呼ばれます。

Q. なぜ自社の信用力が低下すると、会計上は利益が計上されるのですか?

A. 公正価値で測定される負債は、企業の信用力が低下すると、債務不履行リスクが高まるため市場価値が下落します。会計上、負債の価値が減少することは利益となるため、このような事象が起こります。IFRS第9号では、この直感に反する利益計上を防ぐため、公正価値オプションを適用した負債の公正価値変動のうち、自己の信用リスクの変動に起因する部分は純損益(P/L)ではなく、その他の包括利益(OCI)に計上するよう定めています。

Q. IFRS第9号の減損(ECLモデル)と、従来の発生損失モデルとの最大の違いは何ですか?

A. 最大の違いは、損失を認識するタイミングです。従来の発生損失モデルでは、貸倒れなどの損失事象が「発生」した客観的証拠がある場合にのみ損失を認識していました。一方、IFRS第9号の予想信用損失(ECL)モデルでは、将来の信用損失を「予想」し、当初認識時点から将来の損失に備えた引当金を計上する、より将来予測的なアプローチを採用しています。

Q. 売掛金の減損は、どのように計算するのが実務的ですか?

A. 営業債権(売掛金など)には、信用リスクの著しい増大を個別に判定する必要がない「単純化されたアプローチ」の適用が認められています。実務的には、売掛金を回収遅延期間(例:期日経過なし、1-30日遅延、31-90日遅延など)でグループ分けし、各グループの過去の貸倒実績や将来の経済予測を加味した予想貸倒率を適用する「引当マトリクス」を作成して、損失評価引当金を計算する方法が一般的です。

Q. 金融資産の分類(償却原価、FVOCI、FVPL)は、後から自由に変更できますか?

A. いいえ、自由に変更することはできません。金融資産の分類変更は、企業が金融資産を管理するための「事業モデル」そのものを変更した場合にのみ要求されます。これは、特定の事業ラインを売却したり、従来は売却目的だったポートフォリオを長期保有に切り替えたりするなど、非常に稀で、かつ経営レベルでの意思決定に基づく事象に限られます。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
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対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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