IFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」では、企業が一度「売却目的保有」に分類した非流動資産や処分グループの売却計画を変更または中止した場合の厳格な会計処理が定められています。本記事では、分類の中止、資産の再測定、処分方法の直接変更といった実務上の重要論点について、具体的な金額を用いたケーススタディを交えながら詳細に解説いたします。
売却目的保有分類の中止と基本的な会計処理
分類中止の要件とタイミング
企業が非流動資産や処分グループを売却目的保有または所有者分配目的保有に分類した後、直ちに処分可能であることや処分の可能性が非常に高いといった分類要件を満たさなくなった場合、ただちにその分類を中止しなければなりません。後述する処分方法の直接変更の特例に該当しない限り、企業は定められたガイダンスに従って会計処理を遡及的に見直す必要があります。(参考:IFRS5.26)
| 判定項目 | 実務上の対応 |
|---|---|
| 要件を満たさなくなった場合 | 直ちに売却目的保有等の分類を中止し、第27項から第29項のガイダンスに従い会計処理を行う |
分類を中止する資産の測定方法
分類を中止する非流動資産は、過去にさかのぼって減価償却を実施していたと仮定した帳簿価額と、売却を中止した時点の回収可能価額(使用価値と処分コスト控除後の公正価値のいずれか高い金額)とを比較し、いずれか低い金額で測定します。これにより、事業に再投入した際の適切な価値評価と減損の認識が可能となります。(参考:IFRS5.27、IFRS5.BC49-51)
具体例として、帳簿価額1,000万円の製造設備を売却目的に分類し減価償却を停止したものの、9か月後に市況悪化により売却を断念したケースを想定します。この場合、以下の2つの金額を比較します。
| 比較項目 | 算定金額 |
|---|---|
| 仮定の帳簿価額 | 900万円(当初1,000万円から9か月分の減価償却費100万円を控除) |
| 現在の回収可能価額 | 850万円(売却中止時点での事業使用を前提とした評価額) |
低い金額で測定するという原則に従い、企業はこの設備を850万円で再評価します。
帳簿価額の修正と財務諸表への表示
再評価による帳簿価額の修正額は、要件を満たさなくなった期間における継続事業からの純損益として認識します。ただし、分類前に再評価モデルを適用していた有形固定資産の場合は、再評価の増減として処理します。また、決定に至った事実や状況、財務諸表への影響額を注記として開示する必要があります。(参考:IFRS5.28、IFRS5.42)
| 財務報告上の項目 | 処理および開示方法 |
|---|---|
| 損益の認識 | 帳簿価額の修正額(上記例では差額50万円と未計上減価償却費100万円の合計150万円)を継続事業からの純損益に計上 |
| 注記開示 | 売却計画変更の事実と、過去および当期の経営成績へ与える影響額を詳細に説明 |
処分グループからの個別資産の除外
個別資産除外時のグループ全体の判定
企業が売却目的に分類された処分グループから特定の個別の資産や負債を除外する場合、残された処分グループ全体が引き続き売却要件を満たすかを再判定します。満たす場合は残りのグループ全体として測定を継続し、満たさない場合は個々の資産ごとに要件判定を行い、要件を満たさない資産は個別に分類を中止します。(参考:IFRS5.29)
| 除外後の状況 | 対応方法 |
|---|---|
| 残りのグループが要件を満たす | 残りの資産・負債を引き続き処分グループとして一括して測定 |
| 残りのグループが要件を満たさない | 個々の資産ごとに判定し、満たさないものは個別に分類を中止して再測定 |
子会社等の持分に係る分類中止の修正
持分法の遡及的な適用と財務諸表の修正
子会社、共同支配事業、関連会社に対する持分の一部を売却目的として分類し、持分法の適用を停止していたものの、その後に売却計画を中止した場合、分類した以後の期間に係る財務諸表を遡及的に修正する必要があります。あたかも投資を継続して保持していたかのように持分法を適用し直すことが求められます。(参考:IFRS5.28、IFRS5.BC72A)
| 投資の種類 | 分類中止時の実務上の対応 |
|---|---|
| 関連会社・共同支配事業等 | 売却目的に分類した以後の期間の財務諸表を修正し、持分法を遡及適用する |
処分方法間の直接の分類変更の特例
売却から分配への変更(計画の継続)
第三者への売却から既存株主への現物配当(スピンオフ)へ処分方針を直接変更した場合、あるいはその逆の場合、企業から資産を切り離すという経済的実質が類似しているため、当初の処分計画の継続とみなされます。この場合、分類中止の複雑な会計処理(過去の減価償却費の再計算など)は行わず、新たな処分方法に基づく分類と測定を適用します。(参考:IFRS5.26A、IFRS5.BC72B-L)
たとえば、100%子会社株式の第三者への売却計画を、半年後に株主へのスピンオフへ即座に変更したケースでは、分類中止の処理は不要となります。
| 変更内容 | 会計上の取扱い |
|---|---|
| 売却から所有者への分配への直接変更 | 計画の中止ではなく継続とみなし、第27項から第29項の分類中止ガイダンスを適用しない |
分類変更時の測定と期間要件の取扱い
直接の分類変更が行われた場合、資産は新たな目的(分配コスト控除後の公正価値など)で再測定され、評価額の変動は純損益として認識されます。また、分類の日から1年以内に処分を完了するという期間要件の起算日は変更(リセット)されず、当初の分類日から起算された期限が引き続き適用されます。(参考:IFRS5.26A)
| 適用ルール | 具体的な内容 |
|---|---|
| 再測定の基準 | 新しい処分方法に基づくコスト(分配コスト等)控除後の公正価値で測定し、増減を認識 |
| 1年要件の起算日 | 当初の分類の日から変更せず、方針変更日を起点として期限を延長することは認められない |
まとめ
IFRS第5号における売却計画や分配計画の変更は、要件を満たさなくなった場合の分類中止による帳簿価額の遡及的な修正や、処分方法の直接変更による計画継続の特例など、状況に応じた厳密な会計処理が求められます。企業は、減価償却費の再計算や回収可能価額の算定、注記における開示要求を正確に把握し、透明性の高い適切な財務報告を実施する必要があります。
IFRS第5号の売却計画変更に関するよくある質問まとめ
Q.売却目的保有の要件を満たさなくなった場合、どのような処理が必要ですか?
A.直ちに売却目的保有の分類を中止し、仮に分類されていなかった場合の帳簿価額と現在の回収可能価額のいずれか低い金額で資産を再測定する必要があります。(参考:IFRS5.26、IFRS5.27)
Q.分類を中止した資産の帳簿価額の修正額はどこに表示しますか?
A.要件を満たさなくなった期間の包括利益計算書において、「継続事業からの純損益」として認識し表示します。(参考:IFRS5.28)
Q.売却計画の中止について、どのような注記開示が求められますか?
A.計画を変更する決定に至った事実および状況の説明と、過去および当期の経営成績に当該決定が与える影響額を開示しなければなりません。(参考:IFRS5.42)
Q.第三者への売却から株主への現物配当へ方針変更した場合、分類の中止になりますか?
A.時間差なく直接分類変更した場合は「当初の処分計画の継続」とみなされ、分類中止の処理ではなく新たな処分方法の測定要求に従います。(参考:IFRS5.26A、IFRS5.BC72B)
Q.処分方法を直接変更した場合、1年以内に処分する要件の起算日はリセットされますか?
A.起算日はリセットされません。最初に売却目的等に分類した日から起算して1年以内という期限が引き続き適用されます。(参考:IFRS5.26A、IFRS5.BC72L)
Q.関連会社株式の売却を中止した場合、過去の財務諸表はどうなりますか?
A.売却目的に分類した以後の期間に係る財務諸表を修正し、遡及して持分法を適用していたかのように会計処理を修正する必要があります。(参考:IFRS5.28、IFRS5.BC72A)