国際財務報告基準(IFRS)第3号「企業結合」では、すべての企業結合において「取得法」の適用が義務付けられています。本記事では、取得法の4つのステップから、のれんや割安購入益の測定、段階取得などの追加的指針まで、条項番号や設例を交えながら詳細に解説いたします。
取得法の概要と適用義務
取得法の4つのステップ
企業結合を行う際、企業は例外なく取得法を適用して会計処理を行わなければなりません(第4項)。取得法の適用には、以下の4つのステップが要求されます(第5項)。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ステップ1 | 取得企業の識別 |
| ステップ2 | 取得日の決定 |
| ステップ3 | 識別可能な資産・負債及び非支配持分の認識と測定 |
| ステップ4 | のれん又は割安購入益の認識と測定 |
持分プーリング法の廃止と背景
過去に認められていた「持分プーリング法」は、すべての企業結合が経済的に類似しているという判断の下、現在では棄却されています(BC29項、BC35項)。持分プーリング法は取得原価モデルと整合せず(BC41項)、経営者の投資に対する説明責任を不明確にする要因となっていました(BC36項)。すべての企業結合に取得法を適用することで、財務報告情報の比較可能性、関連性、および信頼性が向上します(BC24項、BC25項)。
取得企業の識別(ステップ1)
取得企業の識別基準
企業結合においては、結合に参加する企業のうち1社を必ず取得企業として識別しなければなりません(第6項)。識別の基本は、IFRS第10号「連結財務諸表」における「支配」の概念に基づきます(第7項)。支配の有無が明確でない場合は、以下の指標を考慮して取得企業を決定します(B14項~B16項)。
| 考慮する指標 | 取得企業となる一般的な特徴 |
|---|---|
| 移転対価 | 主に現金を支払う企業 |
| 議決権の割合 | 結合後企業の相対的な議決権を多く保持する企業 |
| 統治機関の構成 | 取締役などの過半数を選出・任命できる企業 |
| 企業の相対的規模 | 資産や収益の相対的規模が著しく大きい企業 |
また、新設された企業が資本性金融商品を発行して企業結合を実行する場合でも、実質を重んじ、結合前から存在していた企業のうちの1つを取得企業としなければなりません(B18項、BC100項、BC101項)。
逆取得のケーススタディ
公開企業(法律上の取得企業)が非公開企業(法律上の被取得企業)の株式を取得する対価として、自社の株式を発行するケースがあります。この取引の結果、実質的に非公開企業の株主が結合後企業の支配を獲得する場合、非公開企業が会計上の取得企業となります。これを逆取得と呼びます(B19項)。
例えば、法律上の子会社(企業B)が会計上の取得企業となり、法律上の親会社(企業A)が会計上の被取得企業となる場合、連結財務諸表は法律上の親会社(企業A)の名前で発行されますが、実質的には会計上の取得企業(企業B)の財務諸表の継続として作成されます(IE1項、B21項)。
取得日の決定(ステップ2)
取得日の決定原則
取得企業は、被取得企業に対する支配を獲得した日を取得日として識別しなければなりません(第8項)。通常は、取得企業が法的に対価を移転し、資産を取得して負債を引き受ける「実行日」が取得日となります。ただし、書面による契約等により、実行日前や実行日後に支配を獲得するケースも存在します(第9項)。
過去の基準で認められていた期首や月末を便宜的な取得日とする例外規定は、取得企業の財政状態を忠実に表現しないという理由から廃止されました(BC108項、BC109項)。
資産・負債および非支配持分の認識と測定(ステップ3)
認識の原則と条件
取得企業は、取得日において、取得した識別可能な資産、引き受けた負債、および被取得企業の非支配持分を、のれんとは区別して認識する義務があります(第10項)。これらの項目が認識されるためには、取得日時点で「財務報告に関する概念フレームワーク」の資産・負債の定義を満たし(第11項)、かつ企業結合という交換取引の一部である必要があります(第12項)。
この原則により、被取得企業が内部創出していたブランド名や顧客関係など、過去の財務諸表では認識されていなかった無形資産も、分離可能性規準または契約法律規準を満たす場合には新たに認識されます(第13項、B31項)。
測定の原則と例外
取得した識別可能な資産および引き受けた負債は、原則として取得日公正価値で測定しなければなりません(第18項)。被取得企業の非支配持分については、企業結合ごとに以下の2つの測定方法から選択することが認められています(第19項、BC210項、BC216項)。
| 測定方法 | 概要 |
|---|---|
| 公正価値測定 | 取得日時点の公正価値(全部のれん法) |
| 比例的持分測定 | 被取得企業の識別可能純資産の認識金額に対する比例的な取り分 |
ただし、一部の項目には例外が存在します。偶発負債は現在の義務であり公正価値が信頼性をもって測定できる場合は認識されますが、偶発資産は認識されません(第23項、第23A項)。法人所得税はIAS第12号、従業員給付はIAS第19号、リース(被取得企業が借手)はIFRS第16号に従って処理されます(第24項、第26項、第28A項)。
顧客関連無形資産の認識例
具体的なケースとして、取得対象会社(TC社)が顧客と5年間の商品供給契約を有している場合を想定します。この契約は「契約法律規準」を満たすため、取得会社(AC社)は、この顧客契約および関連する顧客関係を、のれんとは区別して識別可能な無形資産として認識しなければなりません(IE30項)。
のれん又は割安購入益の認識と測定(ステップ4)
のれんの測定方法
取得企業は、移転された対価の公正価値等の合計額が、取得した識別可能な資産・負債の正味金額を上回る超過額をのれんとして認識します(第32項)。のれんの測定要素は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 比較要素A(対価等の合計) | 移転対価の公正価値+非支配持分の金額+従来保有持分の取得日公正価値 |
| 比較要素B(純資産の金額) | 取得した識別可能な資産・負債の正味金額 |
移転された対価には、現金や株式だけでなく、条件付対価も取得日公正価値で含まれます(第37項)。のれんには、被取得企業の継続企業価値や期待される相乗効果が含まれます(BC316項、BC328項)。
割安購入益の認識手続き
識別可能な純資産の金額が対価等の合計額を上回る場合、これを割安購入と呼びます(第34項)。この場合、取得企業は直ちに利得を認識するのではなく、すべての資産・負債が正しく識別・測定されたかを手続のレビューを通じて再確認しなければなりません(第36項、BC371項、BC375項)。
例えば、AC社がTC社の80%持分を現金150で取得し、TC社の識別可能純資産の公正価値が200、非支配持分(20%)が42であったとします。純資産200が、移転対価150と非支配持分42の合計(192)を上回るため、AC社は測定手続をレビューします。結果が適切であれば、差額の8を割安購入益として取得日に純損益に認識します(IE46項~IE48項)。
取得法適用における追加的指針
段階取得と測定期間
取得企業がすでに被取得企業の持分を保有しており、追加取得によって支配を獲得する段階取得の場合、従来保有していた資本持分を取得日公正価値で再測定し、生じた差額を純損益に認識します(第41項、第42項)。支配の獲得は重大な経済的事象であるため、過去の帳簿価額は引き継ぎません(BC384項)。
また、企業結合の当初の会計処理が取得期末までに完了しない場合、暫定的な金額を認識します。取得日から1年以内を測定期間とし、取得日時点で存在していた事実に関する新しい情報を入手した場合は、暫定的な金額を遡及的に修正し、のれんも対応して修正します(第45項、第46項、BC392項、BC396項)。
別個の取引と取得関連コスト
企業結合の交渉中に、過去の訴訟の清算や従業員への将来の報酬付与などが行われる場合、これらは企業結合の一部とはみなされず、別個の取引として関連するIFRSに従って会計処理されます(第51項、第52項)。
さらに、企業結合を実行するために発生した仲介手数料や弁護士費用などの取得関連コストは、移転対価には含めず、発生時に費用処理しなければなりません(第53項)。これらのコストは受けたサービスの対価であり、事業に対する対価ではないためです(BC366項、BC367項)。
まとめ
IFRS第3号における取得法は、企業結合の経済的実態を財務諸表に忠実に反映させるための厳格な枠組みを提供しています。取得企業の識別から始まり、取得日の決定、資産・負債の公正価値による認識、そしてのれんや割安購入益の測定に至るまで、各ステップにおいて緻密な実務判断が求められます。特に、無形資産の識別や段階取得の再測定、取得関連コストの費用処理などは、実務上影響が大きいため、基準の要件を正確に理解し適用することが重要です。
IFRS第3号「企業結合」のよくある質問まとめ
Q.企業結合において持分プーリング法は使用できますか?
A.いいえ、使用できません。IFRS第3号ではすべての企業結合において取得法の適用が義務付けられており、持分プーリング法は廃止されています(第4項、BC35項)。
Q.取得企業を識別する際の基準は何ですか?
A.IFRS第10号の「支配」の概念に基づき識別します。明確でない場合は、主に現金を支払う企業や議決権を多く保持する企業などを取得企業とします(第7項、B14項~B16項)。
Q.取得関連コストは取得原価(のれん)に含めることができますか?
A.いいえ、含めることはできません。仲介手数料や弁護士費用などの取得関連コストは、事業に対する対価ではないため発生時に費用処理しなければなりません(第53項、BC366項)。
Q.段階的に支配を獲得した場合の会計処理はどうなりますか?
A.段階取得の場合、支配を獲得した取得日において、従来保有していた資本持分を取得日公正価値で再測定し、生じた利得または損失を純損益として認識します(第41項、第42項)。
Q.割安購入益が発生した場合、すぐに利益として認識してよいですか?
A.直ちに認識するのではなく、すべての資産・負債が正しく識別・測定されたかを手続のレビューを通じて再確認する必要があります。レビュー後も超過額が残る場合にのみ、取得日に純損益として認識します(第34項、第36項)。
Q.会計処理が取得期末までに完了しない場合はどうすればよいですか?
A.暫定的な金額を認識し、取得日から1年以内の「測定期間」であれば、取得日時点で存在していた事実に関する新しい情報に基づき、暫定的な金額を遡及的に修正することができます(第45項、第46項)。