IFRS第11号「共同支配の取決め」は、共同支配を有する企業の財務報告に関する原則を定めています。本記事では、共同支配の判定要件から取決めの種類、具体的な会計処理の要求事項までを一切の省略なく詳細に解説します。
目的と範囲
規定の詳細と適用範囲
本基準書の目的は、共同支配の取決めに対する持分を有する企業の財務報告に関する原則を定めることです(IFRS11.1)。この目的を満たすため、当事者に対して、関与している取決めの種類を自らの権利及び義務を評価することにより決定し、その種類に従って会計処理することを要求しています(IFRS11.2)。本基準書は、共同支配の取決めの当事者であるすべての企業が適用しなければなりません(IFRS11.3)。
基準設定の背景
以前の基準であるIAS第31号では、取決めが別個のビークルを通じて組成されているかどうかという構造のみによって異なる会計処理が要求されていました(IFRS11.BC7)。また、共同支配企業に対しては比例連結と持分法の選択肢が認められていました(IFRS11.BC7)。その結果、権利と義務が同じ取決めが異なる方法で処理される実務の不統一が生じていました(IFRS11.BC8)。この選択肢を削除し、権利と義務を忠実に反映する原則ベースのアプローチを確立するために本基準書が開発されました(IFRS11.BC9〜BC11)。
具体的なケーススタディ
旧基準下で比例連結を採用していた企業は、本基準書の適用により会計方針の選択肢が排除されます(IFRS11.2、IFRS11.3)。自らの権利義務を評価し、共同支配企業に該当する場合は一律に持分法を適用します。これにより、財務諸表の検証可能性、比較可能性、理解可能性が向上します(IFRS11.BC11、IFRS11.BC73)。
共同支配の取決めと共同支配の定義
規定の詳細と判定要件
共同支配の取決めとは、複数の当事者が共同支配を有する取決めであり、当事者が契約上の取決めで拘束されていること、およびその契約により複数の当事者が共同支配を有しているという2つの特徴を持ちます(IFRS11.4、IFRS11.5)。この取決めは、共同支配事業又は共同支配企業のいずれかとなります(IFRS11.6)。共同支配とは、契約上合意された支配の共有であり、関連性のある活動に関する意思決定が、支配を共有している当事者の全員一致の合意を必要とする場合にのみ存在します(IFRS11.7)。企業は、すべての当事者が集団で取決めを支配しているか(IFRS11.8)、意思決定に全員一致の合意が必要か(IFRS11.9)を判定します。共同支配の取決めにおいて、単一の当事者は単独で支配していません(IFRS11.10)。共同支配を有さない参加当事者も存在し得ます(IFRS11.11)。事実及び状況が変化した場合には再検討が必要です(IFRS11.13)。
基準設定の背景
旧基準の「共有された意思決定」という用語は、IFRS第10号の「支配」の定義と整合させるために「共同支配」に置き換えられました(IFRS11.BC20、IFRS11.BC21)。共同支配を持たない単なる投資者等の当事者が存在し得ることを明確化し、適用上の混乱を避ける措置がとられました(IFRS11.BC22)。
具体的なケーススタディ
3名の当事者(Aが50%、Bが30%、Cが20%の議決権を保有)が取決めを交わし、関連性のある活動の決定に少なくとも75%の議決権が必要と契約で定めたケースを想定します。Aは単独で決定を阻止できますが、可決には必ずBの同意(50%+30%=80%)が必要です。Cが同意しても70%にしかならず決定できません。したがって、意思決定にはAとBの両者の全員一致の合意が必須となるため、この契約上の取決めはAとBが共同支配を有していることを示唆しています(IFRS11.B7、IFRS11.IE1)。
共同支配の取決めの種類と分類
共同支配事業と共同支配企業の違い
企業は、関与している共同支配の取決めの分類を、自らの権利及び義務に応じて決定しなければなりません(IFRS11.14、IFRS11.17)。分類は以下の2種類です。
| 取決めの種類 | 定義と特徴 |
|---|---|
| 共同支配事業 | 共同支配を有する当事者が、資産に対する権利及び負債に対する義務を有している取決め(IFRS11.15) |
| 共同支配企業 | 共同支配を有する当事者が、当該取決めの純資産に対する権利を有している取決め(IFRS11.16) |
分類の決定にあたり、取決めの構造と法的形態、契約上の取決めにおいて当事者が合意した契約条件、及びその他の事実及び状況を考慮して権利及び義務を評価します(IFRS11.17)。事実と状況が変化した場合は再検討が必要です(IFRS11.19)。
基準設定の背景
旧基準の3分類から、資産と事業は会計上の結果が同じであるため、本基準書では共同支配事業と共同支配企業の2種類に統合されました(IFRS11.BC24、IFRS11.BC25)。別個のビークルを通さずに組成された取決めは常に共同支配事業となります(IFRS11.BC26)。別個のビークルを通す場合は、法的形態が純資産への権利を示唆する初期指標となりますが、契約条件や他の事実によって資産への権利と負債への義務が当事者に帰属すると判断されれば共同支配事業に分類されます(IFRS11.BC30〜BC33)。
具体的なケーススタディ
2社が別個の法人(ビークル)を設立し、それぞれが必要とする材料を製造する取決めを行ったケースを想定します。法人の法的形態は、資産・負債が法人に帰属することを示唆しています(IFRS11.IE5)。しかし、両当事者が法人の産出物のすべてを購入する義務を負っており(法人の資産の経済的便益のほぼすべてに対する権利を有する)(IFRS11.B31、IFRS11.IE5)、購入価格がコストをカバーするよう設定され、法人は負債の決済を継続的に両当事者からのキャッシュ・フローに依存しています(負債に対する義務を有する)(IFRS11.B32、IFRS11.IE5)。これら他の事実と状況を考慮した結果、法的形態の推定は覆り、この取決めは共同支配事業に分類されます(IFRS11.17、IFRS11.IE5)。
財務諸表における会計処理の要求事項
共同支配事業及び共同支配企業の会計処理
共同支配事業の会計処理として、共同支配事業者は自らの資産、負債、収益、費用を認識しなければなりません(IFRS11.20)。これらは関連する特定のIFRSに従って処理されます(IFRS11.21)。その活動が事業を構成する共同支配事業に対する持分を取得する場合、IFRS第3号等の企業結合の会計原則を適用しなければなりません(IFRS11.21A、IFRS11.B33A〜B33D)。
共同支配企業の会計処理として、共同支配投資者は持分を投資として認識し、IAS第28号に従って持分法で会計処理しなければなりません(IFRS11.24)。
共同支配を有していない当事者は、資産及び負債の権利義務を有していれば共同支配事業と同様に処理し、有していなければIFRS第9号等に従って処理します(IFRS11.23、IFRS11.25)。個別財務諸表においても、共同支配事業は同様に資産・負債を認識し、共同支配企業はIAS第27号に従って処理します(IFRS11.26、IFRS11.27)。
基準設定の背景
共同支配事業の処理は、旧基準の比例連結が所有持分に基づくのに対し、契約上の取決めで定められた権利及び義務の持分相当額に基づくため、より忠実な表現となります(IFRS11.BC38)。共同支配企業に対しては、純資産に対する権利を有するという経済的実質を反映するため、比例連結を廃止し持分法に一本化しました(IFRS11.BC41、IFRS11.BC43)。活動が事業を構成する共同支配事業の取得については、実務の不統一を解消するためIFRS第3号の適用を義務付けました(IFRS11.BC45A〜BC45H)。
具体的なケーススタディ
企業Eが、活動が事業を構成する共同支配事業Dに対する40%の所有持分を、取得関連コストCU50を含む総額で取得したケースを想定します。契約により有形固定資産の持分は48%、買掛金の持分は40%と定められています(IFRS11.IE7)。
| 会計処理ステップ | 処理内容 |
|---|---|
| 資産・負債の認識 | 契約上の持分(有形固定資産48%、買掛金40%等)の割合で、取得日の公正価値により測定・認識(IFRS11.B33A、IFRS11.IE7) |
| のれんと費用の処理 | 移転対価と純資産の持分の公正価値の差額をのれんとして認識。取得関連コストCU50は発生時に費用処理(IFRS11.B33A、IFRS11.IE7) |
これにより、IFRS第3号の原則に従った適切な会計処理が実現されます(IFRS11.21A)。
まとめ
IFRS第11号「共同支配の取決め」は、取決めの法的形態や構造のみに依存せず、各当事者が有する実質的な権利と義務に基づいて会計処理を決定する原則ベースのアプローチを採用しています。共同支配事業と共同支配企業の分類を正確に行い、それぞれに規定された会計処理(資産・負債の直接認識または持分法の適用)を適切に実施することが、透明性の高い財務報告において不可欠です。
IFRS第11号「共同支配の取決め」のよくある質問まとめ
Q. IFRS第11号における共同支配の取決めの目的は何ですか?
A. 共同で支配されている取決めに対する持分を有する企業の財務報告に関する原則を定めることです(IFRS11.1)。
Q. 共同支配とはどのように定義されていますか?
A. 契約上合意された支配の共有であり、関連性のある活動に関する意思決定が、支配を共有している当事者の全員一致の合意を必要とする場合にのみ存在します(IFRS11.7)。
Q. 共同支配の取決めにはどのような種類がありますか?
A. 当事者が資産への権利と負債への義務を有する「共同支配事業」と、純資産への権利を有する「共同支配企業」の2種類に分類されます(IFRS11.15、IFRS11.16)。
Q. 共同支配事業の会計処理はどのように行いますか?
A. 共同支配事業者は、自らの資産、負債、収益、費用を、共同で保有・負担する持分を含めて直接認識します(IFRS11.20)。
Q. 共同支配企業の会計処理はどのように行いますか?
A. 共同支配投資者は、共同支配企業に対する持分を投資として認識し、IAS第28号に従って持分法で会計処理しなければなりません(IFRS11.24)。
Q. 事業を構成する共同支配事業の持分を取得した場合の処理はどうなりますか?
A. IFRS第3号「企業結合」の原則を適用し、資産・負債を公正価値で認識し、のれんの認識や取得関連コストの費用化を行います(IFRS11.21A)。