IFRS第11号「共同支配の取決め」は、複数の企業が共同して事業を行う際の会計処理を定める重要な基準です。本記事では、共同支配の定義や厳密な判定ステップ、基準設定の背景、そして実務に即した具体的なケーススタディについて、該当する条項番号を交えながら詳細に解説いたします。
共同支配の取決めと共同支配の規定詳細
共同支配の取決めの定義と必須となる特徴
IFRS第11号において、共同支配の取決めとは、複数の当事者が共同支配を有する取決めであると厳密に定義されています(IFRS11.4)。この取決めを構成するためには、以下の2つの特徴を必ず具備している必要があります(IFRS11.5)。
| 特徴 | 詳細要件 |
|---|---|
| 契約上の取決めによる拘束 | 当事者が契約上の取決めで拘束されていること。通常は文書化されますが、法制上の仕組みから生じることもあり、目的や意思決定プロセス、権利義務を定めます(IFRS11.5(a)、IFRS11.B2-B4)。 |
| 共同支配の存在 | 当該契約上の取決めにより、複数の当事者が取決めに対する共同支配を有していること(IFRS11.5(b))。 |
さらに、共同支配の取決めは、各当事者の権利及び義務の実質に基づき、共同支配事業または共同支配企業のいずれかに分類されます(IFRS11.6)。
共同支配の定義と厳格な判定ステップ
共同支配とは、取決めに対する契約上合意された支配の共有を指します。具体的には、取決めのリターンに著しく影響を及ぼす関連性のある活動に関する意思決定が、支配を共有している当事者の全員一致の合意を必要とする場合にのみ存在すると規定されています(IFRS11.7)。共同支配の有無は、以下のステップで判定します。
| 判定ステップ | 確認内容 |
|---|---|
| 集団的な支配の判定 | すべての当事者(または当事者のグループ)が、関連性のある活動を指図するために一緒に行動しなければならないかを確認します(IFRS11.8、IFRS11.B5)。 |
| 全員一致の合意の要否 | 集団で支配している当事者の「全員一致の合意」が意思決定に必要かを確認します。特定の議決権割合によって黙示的に生じることもあります(IFRS11.9、IFRS11.B6-B7)。 |
共同支配の取決めにおいては、単一の当事者が単独で支配することはなく、共同支配を有する当事者は他の当事者の単独の意思決定を阻止する権利を持ちます(IFRS11.10、IFRS11.B9)。なお、仲裁などの紛争解決条項の存在は、共同支配の成立を妨げるものではありません(IFRS11.B10)。
非共同支配当事者の存在と状況変化への対応
取決めに参加するすべての企業が共同支配を有している必要はありません。IFRS第11号では、共同支配を有する当事者(共同支配事業者または共同支配投資者)と、取決めに参加しているものの共同支配を有していない単なる当事者とを明確に区別して取り扱います(IFRS11.11)。
企業は、すべての事実と状況を総合的に考慮して判断を行う必要があり(IFRS11.12)、事実や状況に変化が生じた場合には、依然として共同支配を有しているかを継続的に再検討しなければなりません(IFRS11.13)。要件を満たさなくなった場合は、IFRS第10号など他の関連基準が適用されます(IFRS11.B11)。
基準設定の背景とIFRS第10号との関係性
用語の変更と基本的な特徴の維持
旧基準であるIAS第31号からIFRS第11号への移行に伴い、国際会計基準審議会は用語と概念の整理を実施しました。旧基準の「ジョイント・ベンチャー」という用語は「共同支配の取決め」へと変更されました(IFRS11.BC19)。しかし、取決めを成立させるための2つの基本的な特徴(当事者を拘束する契約上の取決めの存在、および契約による共同支配の存在)は変更されることなく維持されています(IFRS11.BC13、IFRS11.BC19)。
共同支配概念とIFRS第10号との整合性
旧基準では「共有された意思決定」という表現が用いられていましたが、活動が別個の企業で行われるか否かにかかわらず、各当事者が行う活動こそが支配を共有している事項であると判断されました。その結果、共同支配という用語が採用され、IFRS第10号における新しい「支配」の定義(パワー、リターンに対するエクスポージャー、それらを関連付ける能力)と整合させるための判定ステップが導入されました(IFRS11.BC20、IFRS11.BC21)。
投資者という用語の廃止と参加当事者の明確化
旧基準では共同支配を有さない参加者を「投資者」と呼称していましたが、共同支配を有する当事者も実質的に投資者であるため、実務上の混乱を招くとの指摘がありました。これを解消するため、取決めに参加する「すべての」当事者が共同支配を有する必要はないことを明確化し、共同支配を有する当事者と有さない当事者を区別する規定が設けられました(IFRS11.BC22)。また、ガバナンス体制の変更等による支配状況の変化に適切に対応すべく、継続的な再判定の要求も追加されています(IFRS11.BC23)。
共同支配の判定に関する具体的なケーススタディ
ケース1:全員一致の合意により共同支配が認められる場合
共同支配の判定、特に全員一致の合意の要件が実務でどのように適用されるかを解説します。企業A(議決権50%)、企業B(議決権30%)、企業C(議決権20%)の3社が取決めを交わし、関連性のある活動に関する意思決定には「少なくとも議決権の75%」が必要と定められているケースです。
| 項目 | 分析内容と結論 |
|---|---|
| 判定 | 企業Aは50%のため単独では決定できませんが、いかなる決定も阻止可能です。75%を満たすには、A(50%)とB(30%)の組み合わせ(計80%)が不可欠です。 |
| 結論 | 意思決定には企業Aと企業Bの「両者の合意(全員一致)」が必ず必要となります。したがって、この取決めは企業Aと企業Bが共同支配を有していると判断されます(IFRS11.B7)。企業Cは共同支配を有さない当事者となります(IFRS11.11)。 |
ケース2:複数の組合せが存在し共同支配が認められない場合
続いて、企業A(議決権50%)、企業B(議決権25%)、企業C(議決権25%)の3社が取決めを交わし、意思決定には同じく「少なくとも議決権の75%」が必要と定められているケースを検証します。
| 項目 | 分析内容と結論 |
|---|---|
| 判定 | 75%の可決条件に達するための組み合わせとして、「AとB(計75%)」または「AとC(計75%)」という複数のパターンが存在します。 |
| 結論 | 要求された最低限の議決権割合が当事者の複数の組合せによる合意で達成できる場合、それは全員一致の合意を意味しません。契約で「AとB」または「AとC」が全員一致で合意しなければならないと具体的に指定されていない限り、共同支配の取決めには該当しません(IFRS11.B8)。 |
まとめ
IFRS第11号「共同支配の取決め」は、契約上の拘束と共同支配の存在という2つの特徴を基礎としています。特に、関連性のある活動に対する「全員一致の合意」の要否は、共同支配を判定する上で極めて重要な要素です。実務においては、議決権割合や契約内容を詳細に分析し、状況の変化に応じて継続的に判定を見直すことが求められます。本解説が、適切な会計処理の判断の一助となれば幸いです。
IFRS第11号「共同支配の取決め」のよくある質問まとめ
Q. 共同支配の取決めとは何ですか?
A. 共同支配の取決めとは、複数の当事者が共同支配を有する取決めのことです。契約上の取決めで拘束されていること、およびその契約により複数の当事者が共同支配を有していることという2つの特徴を持っています(IFRS11.4、IFRS11.5)。
Q. 共同支配はどのように定義されていますか?
A. 共同支配とは、取決めに対する契約上合意された支配の共有であり、関連性のある活動に関する意思決定が、支配を共有している当事者の全員一致の合意を必要とする場合にのみ存在すると定義されています(IFRS11.7)。
Q. 取決めに参加する全当事者が共同支配を有する必要がありますか?
A. いいえ、すべての当事者が共同支配を有している必要はありません。IFRS第11号では、共同支配を有する当事者と、取決めに参加しているが共同支配を有していない当事者を明確に区別しています(IFRS11.11)。
Q. 事実や状況が変化した場合の対応はどうなりますか?
A. 企業は、すべての事実と状況を考慮して判断を行い、事実や状況が変化した場合には、依然として共同支配を有しているかどうかを継続的に再検討しなければなりません(IFRS11.12、IFRS11.13)。
Q. 紛争解決条項が含まれている場合、共同支配は否定されますか?
A. いいえ、仲裁などの紛争解決条項が含まれていても、それ自体が共同支配の存在を妨げるものではありません(IFRS11.B10)。
Q. 複数の当事者の組み合わせで可決要件を満たせる場合、共同支配は成立しますか?
A. 要求された最低限の議決権割合が当事者の複数の組合せで達成できる場合、それは「全員一致の合意」を意味しないため、契約で特定の組合せが指定されていない限り共同支配の取決めには該当しません(IFRS11.B8)。