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IFRS第10号「連結財務諸表」における支配の判定基準と実務解説

2025-12-11
目次

国際財務報告基準(IFRS)を適用する企業において、連結範囲の決定は財務諸表に極めて重大な影響を及ぼします。本記事では、IFRS第10号「連結財務諸表」に基づく「支配(Control)」の概念について、支配を構成する3つの要素、基準設定の背景、および具体的なケーススタディを交えて詳細に解説いたします。

IFRS第10号における「支配」の基本原則と3要件

投資者は、投資先への関与の形態にかかわらず、自らが投資先を支配しているかどうかを判定し、親会社に該当するかを決定する義務を負います。IFRS第10号では、支配の有無を判定するための厳密な要件が規定されています。(参考:IFRS10.5)

支配を構成する3つの必須要素

投資者が投資先を支配していると認められるのは、以下の3つの要素をすべて満たす場合に限定されます。これらの要素のいずれかが欠けている場合、連結の対象とはなりません。(参考:IFRS10.6、IFRS10.7、IFRS10.B2)

支配の3要素 概要
パワー 投資先に対するパワーを有していること(IFRS10.7(a))
リターン 投資先への関与により生じる変動リターンに対するエクスポージャー又は権利を有していること(IFRS10.7(b))
能力 投資者のリターンの額に影響を及ぼすように、投資先に対するパワーを用いる能力を有していること(IFRS10.7(c))

また、投資者はすべての事実と状況を考慮して支配を判定し、上記3要素のいずれかに変化を示す事実が生じた場合には、支配の再検討を行わなければなりません。(参考:IFRS10.8、IFRS10.B80〜B85)

共同支配における取り扱い

複数の投資者が関連性のある活動を指図するために共同して行動しなければならない取決めがある場合、それは「共同支配」に該当します。この場合、いかなる投資者も単独では投資先を支配していないと判定されます。(参考:IFRS10.9)

支配の要素1:投資先に対する「パワー」の評価

支配の第一要素であるパワーは、単なる議決権の過半数保有にとどまらず、実質的な能力の有無によって評価されます。

関連性のある活動を指図する現在の能力

投資者は、投資先のリターンに著しく影響を及ぼす活動である「関連性のある活動」を指図する現在の能力を与える既存の権利を有している場合に、パワーを有していると判定されます。この指図する権利を実際にまだ行使していなくても、能力を保持していればパワーの要件を満たします。(参考:IFRS10.10、IFRS10.12、IFRS10.B11〜B13)

複雑な権利関係と防御的な権利

パワーは議決権から直接生じることもあれば、複数の契約上の取決めから生じる複雑なケースも存在します。複数の関連のない投資者が異なる活動を指図する能力を持つ場合は、投資先のリターンに「最も著しく影響を及ぼす活動」を指図する能力を持つ者がパワーを有します。一方で、自らの利益を保護するためだけの防御的な権利のみを有する投資者は、パワーを有しているとはみなされません。(参考:IFRS10.11、IFRS10.13、IFRS10.14、IFRS10.B14〜B21、IFRS10.B26〜B28)

支配の要素2・3:変動リターンとパワーの関連性

パワーの存在に加えて、投資先から得られるリターンの性質と、そのリターンを獲得するためにパワーをどのように用いるかが支配の判定において重要となります。

変動リターンに対するエクスポージャー

投資者は、投資先への関与によって生じる自らのリターンが、投資先の業績結果に応じて変動する可能性がある場合、変動リターンに対するエクスポージャー又は権利を有しているとされます。このリターンは、正の値のみ、負の値のみ、あるいはその両方の形態をとり得ます。(参考:IFRS10.15)

リターンの特徴 説明
変動性 業績結果に応じて正の値、負の値、またはその両方にリターンが変動すること(IFRS10.15)
共有の可能性 支配者は1名に限定されるが、非支配持分保有者などとリターンを共有することは可能(IFRS10.16)

本人と代理人の区分(パワーとリターンの関連)

投資者は、パワーとリターンへのエクスポージャーを有するだけでなく、自らのリターンに影響を及ぼすようにパワーを用いる能力を有していなければなりません。ここで重要なのが、意思決定権を有する投資者が本人として行動しているか、他者のために行動する代理人であるかの判定です。代理人として委任された意思決定権を行使しているに過ぎない場合、自らのためにパワーを用いているわけではないため、投資先を支配していないと結論付けられます。(参考:IFRS10.17、IFRS10.18、IFRS10.B58〜B72)

基準設定の背景:単一の支配モデルと代理人関係

IFRS第10号が策定された背景には、過去の会計基準における実務上の不統一や、金融危機におけるオフバランス問題の反省があります。

IAS第27号およびSIC第12号からの移行と単一モデルの導入

以前は、議決権に着目したIAS第27号と、リスクや経済的便益に着目した特別目的事業体(SPE)向けのSIC第12号が混在し、適用に不統一が生じていました。特に金融危機時においてオフバランス・ビークルの透明性欠如が問題視されたため、国際会計基準審議会(IASB)は、投資先の性質に関係なく適用できる首尾一貫した単一の支配モデルを構築しました。なお、リスクや経済価値へのエクスポージャーのみを基準とする定量的なモデルは、操作の余地があるとして採用されませんでした。(参考:IFRS10.BC29、IFRS10.BC31、IFRS10.BC35)

パワーの定義の変更と代理人判定ガイダンスの明確化

IAS第27号の「財務及び営業の方針を左右する力」という定義から、「関連性のある活動を指図する現在の能力」へと変更されました。これは、法的な権利がなくとも実質的な能力があれば支配しているとみなす能力アプローチを採用したためです。(参考:IFRS10.BC42、IFRS10.BC48、IFRS10.BC50)

また、過去の基準には代理人と本人の判定ガイダンスが不足していました。IFRS第10号ではエージェンシー理論に基づき、単一の当事者が理由なしに意思決定者を解任できる実質的な解任権を持つ場合などは代理人とみなす整理を行いました。意思決定者の経済的関与(報酬や投資規模)が大きいほど、本人である可能性が高いと判断されます。(参考:IFRS10.BC125、IFRS10.BC129、IFRS10.BC134、IFRS10.BC141、IFRS10.BC142)

具体的なケーススタディ:事実上の支配とファンドマネージャー

実際のビジネス環境において支配の判定がどのように行われるか、適用指針の設例に基づく具体的なケーススタディを解説します。

議決権の過半数未満でパワーを有する場合(事実上の支配)

投資者Aが投資先の議決権を48%取得し、残りの52%が数千人の株主に広く分散しており、集団的意思決定の取決めがないケースを想定します。

評価項目 判定内容(事実上の支配)
パワーの評価 議決権の絶対的規模(48%)と他株主の分散状況(残り52%が数千人に分散)を考慮(IFRS10.B42(a))
結論 他株主が結託して反対票を投じる可能性が極めて低いため、パワーを有すると判定(IFRS10.B43、IFRS10.IE4)

このように、過半数(50%超)未満の議決権であっても、実質的に関連性のある活動を指図する能力があればパワーを満たし、他の要件を満たすことで支配していると結論付けられます。(参考:IFRS10.B42、IFRS10.B43、IFRS10.IE4)

ファンドマネージャーが代理人と判定される場合

意思決定者であるファンドマネージャーがファンドを管理し、10%の投資を行い市場ベースの定額報酬(1%)を受け取っているが、投資者に解任権がないケースです。

評価項目 判定内容(ファンドマネージャー)
エクスポージャーの考慮 市場ベースの定額報酬(1%)と10%の投資によるエクスポージャーは、本人とみなされるほど重大ではないと評価(IFRS10.B60、IFRS10.B71)
結論 制限された権限と重大でないエクスポージャーから、他の投資者のために行動する代理人と判定(IFRS10.B58、IFRS10.IE13)

マネージャーはファンドを指図する能力を持ちますが、そのエクスポージャーの規模が自身の便益のために支配しているとみなされるほど重大ではないため、他の投資者のために行動する代理人と判定され、ファンドを支配していないと結論付けられます。(参考:IFRS10.18、IFRS10.B58、IFRS10.B60、IFRS10.B71、IFRS10.B72、IFRS10.IE13)

まとめ

IFRS第10号における「支配」の判定は、単なる議決権の比率に基づく形式的な基準から、パワー、変動リターンへのエクスポージャー、およびパワーとリターンの関連性という3つの要素に基づく実質的な基準へと進化しました。企業は、複雑な契約関係やファンドの運用形態など、すべての事実と状況を総合的に勘案し、自らが本人として投資先を支配しているのか、あるいは単なる代理人に過ぎないのかを慎重に評価する必要があります。実務においては、本基準および適用指針の設例を十分に理解し、適切な連結範囲の決定を行うことが求められます。

IFRS第10号 支配の判定に関するよくある質問まとめ

Q. IFRS第10号において、投資先を支配していると判定するための3つの要素は何ですか?

A. 投資先に対するパワー、変動リターンに対するエクスポージャー又は権利、および自らのリターンに影響を及ぼすようにパワーを用いる能力の3要素をすべて満たす必要があります(IFRS10.7)。

Q. 議決権の過半数を持っていなくても、投資先を支配していると判定されることはありますか?

A. はい、あります。議決権が過半数(50%超)未満であっても、他の株主の分散状況などを考慮し、実質的に関連性のある活動を指図する現在の能力があればパワーを有すると判定されます(IFRS10.B42、IFRS10.IE4)。

Q. 投資先に対する「防御的な権利」のみを有している場合、支配していることになりますか?

A. いいえ。自らの利益を保護するためだけの防御的な権利のみを有する投資者は、投資先に対するパワーを有しておらず、したがって投資先を支配していません(IFRS10.14)。

Q. 意思決定者が「代理人」と判定された場合、その意思決定者は投資先を連結する必要がありますか?

A. いいえ、連結する必要はありません。代理人として委任されたパワーを行使している場合、自らのためにパワーを用いているわけではないため、投資先を支配していないと判定されます(IFRS10.18)。

Q. 複数の投資者が共同して投資先の活動を指図しなければならない場合、誰が支配者となりますか?

A. 関連性のある活動を指図するために一緒に行動しなければならない共同支配の取決めがある場合、いかなる投資者も単独では投資先を支配していないと判定されます(IFRS10.9)。

Q. IFRS第10号が導入される前と後で、支配の判定モデルはどのように変わりましたか?

A. 以前は議決権に着目する基準(IAS第27号)とリスク等に着目する基準(SIC第12号)が混在していましたが、IFRS第10号により、すべての投資先に適用される首尾一貫した単一の支配モデルに統一されました(IFRS10.BC29)。

事務所概要
社名
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住所
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電話番号
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対応責任者
公認会計士 島本 雅史

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