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IFRS概念フレームワーク第6章「測定」の完全解説

2025-03-24
目次

IASB(国際会計基準審議会)が公表する「財務報告に関する概念フレームワーク」における第6章「測定」は、財務諸表に計上される資産や負債の金額を決定するための重要な指針です。本記事では、歴史的原価や公正価値などの測定基礎の種類、それらを選択する際の考慮要因、および具体的な実務ケーススタディを交えて詳細に解説いたします。

測定基礎の選択と混合測定アプローチの背景

測定基礎とは何か

財務諸表に認識される資産、負債、収益、費用などの構成要素は、貨幣によって定量化される必要があり、そのために測定基礎の選択が不可欠です。測定基礎とは、測定対象の識別された特徴を指し、これを適用することで具体的な測定値が生み出されます。有用な財務情報の質的特性やコストの制約を考慮すると、項目ごとに異なる測定基礎が選択される可能性が高くなります。参考:概念フレームワーク第6.1項、概念フレームワーク第6.2項

単一の測定基礎から混合測定アプローチへ

2010年版の概念フレームワークには測定に関するガイダンスが乏しく、重大な空白部分とされていました。2018年の改訂議論では、すべての項目に歴史的原価または公正価値を適用すべきという単一の測定基礎を提唱する意見もありました。しかしIASBは、企業の事業活動や状況に応じて関連性の高い情報が異なるため、複数の測定基礎を使い分ける混合測定アプローチを正式に採用しました。参考:概念フレームワークBC6.3項、概念フレームワークBC6.10項

歴史的原価と現在の価値の違い

測定基礎は大きく分けて歴史的原価現在の価値に分類されます。それぞれの特徴を理解することが適切な会計処理の第一歩となります。

測定基礎の分類 主な特徴
歴史的原価 過去の取引価格に基づく。減損等を除き価値の変動を反映しない。
現在の価値 測定日現在の状況を反映する。公正価値、使用価値、現在原価など。

歴史的原価の特徴と更新メカニズム

資産の取得時の歴史的原価は、支払った対価(例えば1,000万円)に取引コスト(例えば50万円)を加算した1,050万円となります。負債の発生時は、受け取った対価から取引コストを控除して算定します。その後、資産の歴史的原価は減価償却(毎年100万円など)や減損を反映して更新され、金融資産の償却原価も利息の発生や元本回収に伴い更新されます。無償贈与など市場条件でない場合は、当初測定時に現在の価値をみなし原価として使用します。参考:概念フレームワーク第6.4項、概念フレームワーク第6.5項、概念フレームワーク第6.6項

公正価値・使用価値・履行価値・現在原価

現在の価値は、測定日現在の状況を反映するように更新された情報を使用し、過去の取引価格からは導き出されません。

現在の価値の種類 詳細な定義と要件
公正価値 測定日の市場参加者間の秩序ある取引における出口価格(取引コストを含まない)。
使用価値・履行価値 企業固有の観点に基づく将来キャッシュ・フローの現在価値(将来の取引コストを含む)。
現在原価 測定日現在に同等の資産を取得するための入口価格(取得時の取引コストを含む)。

参考:概念フレームワーク第6.12項、概念フレームワーク第6.17項、概念フレームワーク第6.21項

特定の測定基礎が提供する情報の有用性

歴史的原価が提供するマージン情報

歴史的原価による測定は、資産の原価(例えば仕入原価500万円)と売却による収益(例えば販売価格800万円)を対応させることで、300万円の差益(マージン)の情報を提供します。このマージン情報は、企業が将来の販売からどれだけのキャッシュ・フローを生み出せるかという予測価値や、過去の予測に対する確認価値を持ち、経営者の受託責任の評価に極めて有用です。参考:概念フレームワーク第6.27項、概念フレームワーク第6.30項

現在の価値が提供する予測価値と確認価値

公正価値は市場参加者の現在の予想とリスク選好を反映するため、将来キャッシュ・フローに関する予測価値を持ちます。一方、使用価値や履行価値は、企業固有の見積キャッシュ・フローの現在価値を示すため、将来の正味キャッシュ・フローの見通し評価に役立ちます。現在原価は、価格変動が激しい環境下において、歴史的原価よりも将来予測に有用な現在の差益を示します。参考:概念フレームワーク第6.32項、概念フレームワーク第6.37項、概念フレームワーク第6.40項

測定基礎の選択時に考慮すべき諸要因

関連性と事業活動の性質

測定基礎の選択において、関連性は資産や負債の特徴と、それが将来キャッシュ・フローにどのように寄与するか(事業活動)に影響を受けます。例えば、棚卸資産のように他の資源と組み合わせて製品を生産し間接的にキャッシュを生む事業活動では、歴史的原価が関連性を持ちます。独立して直接キャッシュを生む売却可能な資産については、公正価値が最も関連性の高い情報を提供します。参考:概念フレームワーク第6.49項、概念フレームワーク第6.54項、概念フレームワーク第6.56項

忠実な表現と測定の不確実性

関連する資産と負債に異なる測定基礎を用いると会計上のミスマッチが生じ、忠実な表現を損なう場合があります。また、見積りには不確実性が伴いますが、不確実性のレベルが非常に高すぎる場合(例えば1億円から100億円まで見積りがばらつく訴訟賠償金など)、その測定基礎による情報は忠実な表現を提供しません。その際は、関連性が少し低くても不確実性が低い別の測定基礎を選択することが適切です。参考:概念フレームワーク第6.58項、概念フレームワーク第6.60項

コストの制約と理解可能性・検証可能性

測定基礎の選択では、コストに見合う便益があるかが重要です。歴史的原価は一般に低コストで理解や検証がしやすい反面、比較可能性が低下する場合があります。公正価値は活発な市場があれば低コストで検証可能ですが、複雑な評価技法を用いる場合は主観的で高コストになります。使用価値も企業固有の仮定を用いるため高コストであり、定期的な測定よりも減損テストなどの臨時的な再測定に向いています。参考:概念フレームワーク第6.64項、概念フレームワーク第6.69項、概念フレームワーク第6.75項

具体的なケーススタディで学ぶ測定基礎の実務

事業活動の違いによる測定基礎の選択

製造業の企業が100万円で仕入れた鋼材を加工して販売する場合、この棚卸資産は他の資源と組み合わせて間接的にキャッシュを生み出します。そのため、毎期公正価値で評価するよりも、歴史的原価で測定し販売時に売上と原価を対応させる方が、本業のマージン評価に関連性の高い情報を提供します。一方、投資ファンドが短期売買目的で保有する1,000万円の上場株式は、独立してキャッシュを生むため、毎期末の市場価格に基づく公正価値で測定する方が関連性が高くなります。参考:概念フレームワーク第6.54項、概念フレームワーク第6.56項

複数の測定基礎とその他の包括利益(OCI)の活用

銀行が顧客からの預金を元手に長期の固定金利債券(帳簿価額10億円)に投資しているとします。利息収入が主目的ですが、流動性管理のために期中売却も行います。すべてを償却原価で測定すると金利変動による価値増減が反映されず、すべてを公正価値で純損益に計上すると本業の利息収入が時価変動ノイズで歪みます。そこで、財政状態計算書の資産額には公正価値を用い、純損益計算書の収益には償却原価に基づく利息収益を用います。その差額(未実現の時価変動分5,000万円など)をその他の包括利益(OCI)に計上することで、財政状態と業績の両方を忠実に表現できます。参考:概念フレームワーク第6.85項、概念フレームワーク第6.86項

極めて高い測定の不確実性への対応

企業が自社のブランド価値毀損で競合他社を訴え、勝訴の可能性は高いものの賠償金の見積りが1億円から100億円まで極端にばらつくケースを想定します。この権利を公正価値などのキャッシュ・フロー測定技法で算定しようとしても、結果の範囲が広すぎて忠実な表現を提供しません。この場合、弁護士費用等のすでに発生して回収が確実な500万円のみを歴史的原価として計上し、巨額の賠償金の不確実性については注記で説明する方が、投資家に対して有用な情報を提供します。参考:概念フレームワーク第6.60項、概念フレームワーク第6.20項

まとめ

財務報告に関する概念フレームワーク第6章「測定」は、単一の測定基礎ではなく、企業の事業活動や資産・負債の特徴に応じた混合測定アプローチを採用しています。歴史的原価と現在の価値(公正価値、使用価値、履行価値、現在原価)にはそれぞれ一長一短があり、関連性、忠実な表現、コスト、理解可能性、検証可能性を総合的に勘案して選択する必要があります。実務においては、事業活動の性質や測定の不確実性を慎重に評価し、必要に応じて複数の測定基礎とその他の包括利益(OCI)を組み合わせて活用することが求められます。

IFRS概念フレームワーク「測定」のよくある質問まとめ

Q.測定基礎とは何ですか?

A.財務諸表に認識される資産や負債などの金額を貨幣で定量化するための基準です。歴史的原価や公正価値などがあり、項目ごとに異なる測定基礎が選択される混合測定アプローチが採用されています。参考:概念フレームワーク第6.1項、概念フレームワークBC6.10項

Q.歴史的原価と現在の価値の主な違いは何ですか?

A.歴史的原価は過去の取引価格に基づいており、減損等を除き価値の変動を反映しません。一方、現在の価値(公正価値や使用価値など)は測定日現在の状況を反映するように更新された情報を使用します。参考:概念フレームワーク第6.4項、概念フレームワーク第6.10項

Q.測定基礎を選択する際の絶対的な優先順位はありますか?

A.絶対的な優先順位や機械的な意思決定ツリーはありません。関連性、忠実な表現、補強的な質的特性(比較可能性、検証可能性、適時性、理解可能性)、およびコストの制約を総合的に判断して選択します。参考:概念フレームワーク第6.46項、概念フレームワークBC6.35項

Q.キャッシュ・フローを基礎とした計算は独立した測定基礎ですか?

A.いいえ、それ自体は独立した測定基礎ではありません。公正価値や使用価値といった特定の測定基礎を適用して見積るための「測定技法」として位置づけられています。参考:概念フレームワーク第6.91項、概念フレームワークBC6.13項

Q.持分合計はどのように測定されますか?

A.持分合計は直接的には測定されず、認識した資産の合計から負債の合計を控除した「残余」として測定されます。そのため、企業の株式時価総額とは一般に一致しません。参考:概念フレームワーク第6.87項、概念フレームワーク第6.88項

Q.測定の不確実性が極めて高い場合、どのように対応すべきですか?

A.不確実性のレベルが非常に高すぎる場合、その測定基礎による情報は忠実な表現を提供しません。その際は、関連性が少し低くても不確実性が低い別の測定基礎を選択し、不確実性については注記で説明することが適切です。参考:概念フレームワーク第6.60項

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
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電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

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