国際財務報告基準(IFRS)の一つであるIAS第36号「資産の減損」は、企業の資産価値を適正に財務諸表へ反映させるための重要な会計基準です。特に、2004年3月に公表された改訂版以降、数多くの修正が加えられており、その適用開始日や経過措置は非常に複雑になっています。本記事では、IAS第36号の「経過措置及び発効日」に関するセクション(第139項、第140項)および、その後の修正条項について、条項番号を明記しながら詳細に解説いたします。正確な適用時期の把握は、適切な会計処理を行う上で不可欠です。
IAS第36号(2004年改訂版)の適用開始時期
2004年3月に改訂されたIAS第36号は、その適用開始日について資産の種類に応じて異なる定めを置いています。また、一定の条件下での早期適用も推奨されており、企業はこれらの規定を正確に理解する必要があります。
基本的な適用日(第139項)
第139項では、本基準書の要求事項をいつから適用すべきかが具体的に規定されています。適用対象となる資産は、大きく2つのカテゴリーに分類されます。
| 対象資産 | 適用開始のタイミング |
|---|---|
| のれん及び無形資産 | 合意日が2004年3月31日以後である企業結合で取得したものに適用されます。 |
| その他のすべての資産 | 2004年3月31日以後に開始する最初の事業年度の初日から、将来に向かって適用されます。 |
このように、企業結合で取得したのれんと無形資産については取引の合意日が基準となり、それ以外の資産については事業年度の開始日が基準となる点が重要なポイントです。
早期適用に関する規定(第140項)
国際会計基準審議会(IASB)は、第139項で定められた発効日よりも前に本基準書を適用すること、すなわち早期適用を推奨しています。これは、早期に適用することで、財務諸表利用者がより有用な情報を得られるという便益が、比較可能性が一時的に損なわれるデメリットを上回ると判断されたためです。
ただし、早期適用を行うには重要な条件があります。企業がIAS第36号を早期適用する場合には、以下の基準書も同時に適用しなければなりません。
- IFRS 第3号「企業結合」
- IAS 第38号「無形資産」(2004年改訂)
これらの基準書は相互に関連性が高いため、一貫性のある会計処理を確保する観点から同時適用が求められています。
旧基準の廃止(第141項)
第141項の規定により、この2004年改訂版の公表をもって、それ以前のIAS第36号「資産の減損」(1998年公表)は廃止されました。したがって、現行の会計処理は、本改訂版およびその後の修正条項に準拠する必要があります。
その後の主な修正内容とそれぞれの適用日
IAS第36号(2004年改訂版)は、公表後も他のIFRSの新設や改訂に伴い、数多くの修正を受けています。これらの修正は、それぞれ異なる適用日が定められており、実務においてはどの修正がいつから自社に影響するのかを正確に把握することが極めて重要です。
各修正条項の概要と適用日
以下に、主要な修正条項とその適用日をまとめます。これらの条項は、元の基準書に追加される形で組み込まれています。
| 修正条項と主な内容 | 適用開始事業年度 |
|---|---|
| 第140A項: IAS 第1号(2007年改訂)による修正 用語の修正、および第61項、第120項、第126項、第129項の修正。 |
2009年1月1日以後開始。早期適用も可能。 |
| 第140B項: IFRS 第3号(2008年改訂)による修正 第65項、第81項、第85項等の修正、一部項目の削除、付録Cの追加。 |
2009年7月1日以後開始。早期適用も可能。 |
| 第140C項: 2008年「IFRSの改善」による修正 第134項(e)の修正。 |
2009年1月1日以後開始。早期適用も可能。 |
| 第140D項: 投資原価に関する修正(2008年) 第12項(h)の追加。 |
2009年1月1日以後開始(将来に向かって適用)。早期適用も可能。 |
| 第140E項: 2009年「IFRSの改善」による修正 第80項(b)の修正。 |
2010年1月1日以後開始(将来に向かって適用)。早期適用も可能。 |
| 第140H項: IFRS 第10号及びIFRS 第11号による修正 第4項、第12項(h)の見出し及び本文の修正。 |
IFRS 第10号及びIFRS 第11号の適用時に適用。 |
| 第140I項: IFRS 第13号「公正価値測定」による修正 公正価値に関する多数の項目の修正、一部項目の削除、第53A項の追加。 |
IFRS 第13号の適用時に適用。 |
| 第140J項: 回収可能価額の開示に関する修正(2013年) 第130項及び第134項の修正。 |
2014年1月1日以後開始(遡及適用)。早期適用も可能だが条件あり。 |
| 第140L項: IFRS 第15号「顧客との契約から生じる収益」による修正 第2項の修正。 |
IFRS 第15号の適用時に適用。 |
| 第140M項: IFRS 第9号「金融商品」による修正 第2項、第4項及び第5項の修正、過去の修正条項の削除。 |
IFRS 第9号の適用時に適用。 |
| 第140N項: IFRS 第17号「保険契約」による修正 第2項の修正。 |
IFRS 第17号の適用時に適用。 |
まとめ
IAS第36号「資産の減損」の適用は、2004年改訂版を基本としながらも、その後の数多くの修正を考慮に入れる必要があります。特に、適用開始日は資産の種類や関連する他のIFRSの適用状況によって変動するため、自社の状況と照らし合わせて慎重に判断しなければなりません。のれんや無形資産、その他の資産といった分類だけでなく、IFRS第3号やIFRS第9号、IFRS第15号といった主要な基準書の適用タイミングが、IAS第36号の会計処理に直接影響を及ぼします。会計担当者の皆様は、本記事を参考に、適用されるべき規定とその発効日を正確に把握し、適切な財務報告体制を構築することが求められます。
IAS第36号「資産の減損」の適用時期に関するよくある質問まとめ
Q. IAS第36号「資産の減損」(2004年改訂版)はいつから適用されますか?
A. 企業結合で取得したのれん及び無形資産は2004年3月31日以後の合意日から、その他の全資産は2004年3月31日以後開始の事業年度の初日から将来に向かって適用されます(第139項)。
Q. IAS第36号を定められた発効日より前に早期適用することは可能ですか?
A. はい、推奨されています。ただし、早期適用する場合はIFRS第3号「企業結合」及びIAS第38号「無形資産」(いずれも2004年改訂版)も同時に適用する必要があります(第140項)。
Q. 企業結合で取得した「のれん」の減損は、いつの取引からIAS第36号の対象になりますか?
A. 合意日が2004年3月31日以後である企業結合で取得したのれんが対象となります(第139項(a))。
Q. 2004年版のIAS第36号が公表された後、どのような修正がありましたか?
A. はい、IFRS第3号(2008年改訂)、IFRS第13号「公正価値測定」、IFRS第9号「金融商品」など、多くのIFRSの公表や改訂に伴い修正が加えられています。各修正には個別の適用日が定められています(第140A項以降)。
Q. IFRS第13号「公正価値測定」の適用は、IAS第36号にどのような影響を与えましたか?
A. IFRS第13号の公表に伴い、IAS第36号の公正価値に関連する複数の項(第5項、第6項、第12項など)が修正され、一部の項(第25項〜第27項)は削除されました(第140I項)。
Q. 2004年改訂版の公表により、古いIAS第36号(1998年公表)はどうなりましたか?
A. 2004年3月に改訂版が公表されたことにより、1998年に公表された旧IAS第36号「資産の減損」は廃止されました(第141項)。