国際財務報告基準(IFRS)におけるIAS第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」では、企業が投資先に対して重要な影響力や共同支配を有する場合の会計処理を定めています。本記事では、持分法の適用原則から免除規定、売却目的保有への分類、持分法の使用中止に伴う会計処理まで、具体的なケーススタディを交えて詳細に解説します。
持分法の適用原則と免除規定
企業が投資先に対して共同支配又は重要な影響力を有している場合、原則として関連会社又は共同支配企業に対する投資を持分法で会計処理しなければなりません(IAS28.16)。しかし、特定の条件を満たす場合には、この適用が免除されます。
持分法適用の免除要件
IFRS第10号に基づく連結財務諸表の作成が免除される場合や、以下の4つの条件をすべて満たす場合には、持分法を適用する必要はありません(IAS28.17)。
| 条件 | 詳細な要件(IAS28.17) |
|---|---|
| 他の所有者の同意 | 企業が完全子会社または一部所有子会社であり、持分法を適用しないことについて他のすべての所有者が反対していないこと。 |
| 非公開の金融商品 | 企業の負債性又は資本性金融商品が公開市場(国内外の証券取引所や店頭市場)で取引されていないこと。 |
| 規制機関への未提出 | 公開市場で金融商品を発行する目的で、証券委員会等の規制機関に財務諸表を提出しておらず、その過程にもないこと。 |
| 親会社のIFRS適用 | 最上位又は中間の親会社が、IFRSに準拠した公表用の連結財務諸表を作成していること。 |
ベンチャー・キャピタル等による測定の特例
ベンチャー・キャピタル企業やミューチュアル・ファンド等(投資連動保険ファンドを含む)が保有する関連会社等に対する投資については、持分法ではなく純損益を通じて公正価値で測定することを選択できます(IAS28.18)。
| 要件・状況 | 会計処理の選択(IAS28.18、IAS28.19) |
|---|---|
| 選択のタイミング | 各関連会社又は共同支配企業について別個に、当初認識時に選択しなければなりません。 |
| 間接保有の特例 | 投資の一部をベンチャー・キャピタル等を通じて間接保有する場合、その部分のみ公正価値測定とし、残存部分には持分法を適用できます。 |
売却目的保有への分類と取扱い
投資の状況が変化し、売却が予定される場合には、IFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」に基づく処理が必要となります。
IFRS第5号に基づく売却目的保有への分類
関連会社又は共同支配企業に対する投資の一部または全部が、IFRS第5号の売却目的保有への分類要件を満たす場合、企業は当該部分にIFRS第5号を適用しなければなりません(IAS28.20)。投資の一部のみが分類された場合、分類されていない残存部分については、実際の処分が発生するまで引き続き持分法を適用して会計処理します。
売却目的保有分類の要件を満たさなくなった場合
一度売却目的保有に分類された投資が、状況の変化により要件を満たさなくなった場合は、分類した日に遡って持分法で会計処理を行わなければなりません。また、分類後の期間の財務諸表は遡及的に修正する必要があります(IAS28.21)。
持分法の使用中止と投資の性質移行
投資先に対する重要な影響力や共同支配を喪失した場合、企業は持分法の使用を中止しなければなりません。
関連会社等ではなくなった場合の使用中止
投資が関連会社又は共同支配企業ではなくなった日から、持分法の使用を中止し、以下の通り会計処理を行います(IAS28.22)。
| 移行後の状態 | 会計処理の要件(IAS28.22) |
|---|---|
| 子会社となった場合 | 当該投資をIFRS第3号「企業結合」及びIFRS第10号に従って会計処理します。 |
| 金融資産となった場合 | 残存持分を公正価値で測定し、処分収入との合計額と帳簿価額との差額を純損益に認識します。 |
その他の包括利益(OCI)の純損益への振替
持分法の使用を中止する場合、過去に当該投資に関連してその他の包括利益(OCI)に認識した金額のすべてを、投資先が関連する資産又は負債を直接処分したとした場合と同じ基礎で処理します(IAS28.22)。例えば、在外営業活動体の為替差額累計額など、処分時に純損益に振り替えられる性質のものは、持分法を中止する際に資本から純損益へと組替調整額として全額振り替えます(IAS28.23)。
投資の性質が移行した場合の取扱い
投資の性質が「関連会社から共同支配企業」へ、あるいは「共同支配企業から関連会社」へと移行した場合には、投資の根本的な性質の喪失とはみなされません。この場合、企業は持分法の適用を継続し、残存持分の公正価値での再測定は行いません(IAS28.24)。
所有持分が減少した場合の会計処理
保有割合が減少しても、依然として重要な影響力等を維持している場合には、特有の会計処理が求められます。
重要な影響力等を維持している場合の処理
関連会社等に対する所有持分が減少したものの、引き続き重要な影響力又は共同支配を維持している場合、企業は持分法の適用を継続します。ただし、過去にOCIに認識した利得又は損失のうち、所有持分の減少割合に相当する金額のみを純損益に振り替えなければなりません(IAS28.25)。
| 処理対象 | 会計処理(IAS28.25) |
|---|---|
| 持分法の適用 | 重要な影響力等を維持しているため、持分法の適用をそのまま継続します。 |
| OCIの振替 | 純損益へ振り替えられる性質のOCIについて、減少した持分割合分のみを純損益へ振り替えます。 |
会計基準改訂の背景と結論の根拠
IAS第28号の規定は、国際会計基準審議会(IASB)の議論を経て現在の形に整備されています。
測定の特例に関する背景
以前の基準では、ベンチャー・キャピタル企業等が保有する投資は持分法の適用範囲外とされていました。しかし、IASBはこれらの投資が関連会社等の特徴を有していないわけではなく、事業の性質上公正価値測定の方が財務諸表利用者にとって有用な情報を提供すると判断しました(IAS28.BC12)。そのため、これらを基準書の範囲内に含め、各投資先ごとにIFRS第9号による公正価値測定を選択できる特例として再整備しました(IAS28.BC13、IAS28.BC14)。
重大な経済事象の判断基準
共同支配や重要な影響力の喪失が重大な経済事象にあたるかについて、残存持分が金融資産へと移行する場合は投資の性質が根本的に変わるため、公正価値での再測定を決定しました(IAS28.BC29)。一方で、共同支配企業と関連会社間の移行は、引き続き持分法が適用される領域内の出来事であり、重大な経済事象ではないとして再測定を要求しないこととしました(IAS28.BC30、IAS28.BC31)。
具体的なケーススタディ
実務において直面しやすい具体的なシナリオを通じて、IAS第28号の適用方法を解説します。
ケーススタディ1:間接保有の特例
製造業を営む企業Aが、ベンチャー・キャピタルである子会社Bと一般事業子会社Cを有し、それぞれがスタートアップ企業D社の株式を20%ずつ(合計40%)取得したとします。企業Aの連結財務諸表において、子会社Bを通じて間接保有する20%については、IFRS第9号に従って純損益を通じて公正価値で測定することを選択できます(IAS28.19)。一方、子会社Cが保有する20%の持分には通常の持分法を適用しなければなりません。
ケーススタディ2:部分的な売却
企業Eが関連会社F社の株式30%を保有し持分法を適用していましたが、10%を第三者に売却する計画を確約し、IFRS第5号の要件を満たしました。企業Eは売却予定の10%を売却目的保有に分類して評価しますが、残りの20%については10%部分の実際の処分が完了するまで引き続き持分法を適用します(IAS28.20)。10%部分の処分後、残り20%に対して依然として重要な影響力を維持していれば持分法を継続します。
ケーススタディ3:重要な影響力の喪失と組替調整
企業Gが関連会社H社の株式40%を保有し、為替換算調整勘定(OCI)として500万円を資本に蓄積していました。当期に35%を売却し、保有割合が5%に低下して重要な影響力を完全に喪失した場合、企業Gは持分法を中止します。残存する5%の持分は金融資産として公正価値で再測定し、差額を純損益に認識します。さらに、OCIの500万円全額を純損益へ振り替えます(IAS28.22、IAS28.23)。もし売却が10%のみで重要な影響力を維持した場合、減少した割合(10%/40%=4分の1)に相当する125万円のみを純損益に振り替えます(IAS28.25)。
まとめ
IAS第28号における持分法の適用は、原則として重要な影響力や共同支配を有する投資に対して求められますが、ベンチャー・キャピタル等による保有や売却目的保有への分類など、実務上の特例や例外が詳細に定められています。投資の性質が変化した際の持分法の中止やOCIの振替処理を含め、各要件を正確に理解し、適切な会計処理を実施することが重要です。
持分法の適用に関するよくある質問まとめ
Q. 関連会社に対する投資には常に持分法を適用する必要がありますか?
A. 原則として持分法を適用しますが、親会社がIFRSに基づく連結財務諸表を作成している等の4つの要件をすべて満たす場合や、ベンチャー・キャピタル等を通じて保有する場合には適用が免除されることがあります(IAS28.16、IAS28.17)。
Q. ベンチャー・キャピタルが保有する関連会社株式の会計処理はどうなりますか?
A. ベンチャー・キャピタル企業等が保有する関連会社に対する投資は、当初認識時に選択することで、持分法ではなくIFRS第9号に従い純損益を通じて公正価値で測定することができます(IAS28.18)。
Q. 関連会社株式の一部を売却目的で保有する場合の処理を教えてください。
A. 売却目的保有の要件を満たした部分はIFRS第5号に従い分類・評価し、分類されていない残存部分については、実際の売却が完了するまで引き続き持分法を適用して会計処理します(IAS28.20)。
Q. 重要な影響力を喪失して金融資産となった場合、どのような処理が必要ですか?
A. 持分法の使用を中止し、残存持分を公正価値で再測定します。その公正価値と処分収入の合計額と、持分法中止時の帳簿価額との差額を純損益として認識します(IAS28.22)。
Q. 持分法を中止する際、過去に計上したその他の包括利益(OCI)はどうなりますか?
A. 投資先が関連する資産や負債を直接処分したとした場合と同じ基礎で処理します。為替差額累計額など純損益に振り替えられる性質のものは、資本から純損益へ全額振り替えます(IAS28.23)。
Q. 持分比率が減少しても重要な影響力を維持している場合、OCIの振替は必要ですか?
A. 持分法は継続して適用しますが、過去に認識したOCIのうち、所有持分の減少した割合に相当する金額のみを純損益に振り替える必要があります(IAS28.25)。