工場や自社ビルにアスベスト(石綿)含有建材が使われている場合、建物を解体するときには法令に従った特別な方法で除去しなければなりません。この将来の支出について、上場準備の過程で「資産除去債務を計上していない」と監査人から指摘を受けるケースが少なくありません。
資産除去債務は、有形固定資産の除去そのものが義務でなくても、除去する際に有害物質を法令等の要求による特別の方法で除去する義務があれば計上対象となります(資産除去債務に関する会計基準 第3項(1))。つまり「建物を壊す義務」がなくても、「壊すときにアスベストを除去する義務」があれば負債になります。
本コラムでは、アスベスト等の有害物質に係る資産除去債務について、計上要件の判定の順序、割引前将来キャッシュ・フローの見積り、割引率の決め方、計上時・決算時・履行時の仕訳、注記までを、条項番号を示しながら整理します。
アスベストの除去義務が資産除去債務となる理由
資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいいます(資産除去債務に関する会計基準 第3項(1))。この法律上の義務には、有形固定資産を除去する義務のほか、有形固定資産の除去そのものは義務でなくとも、除去する際に当該有形固定資産に使用されている有害物質等を法律等の要求による特別の方法で除去するという義務も含まれます(同 第3項(1))。
アスベストはまさにこの後者にあたります。建物を保有し続けること自体には解体義務がありませんが、いずれ建物を除去する時点では、法令に基づき飛散防止措置を講じたうえでアスベスト含有建材を除去しなければなりません。将来、有形固定資産の除去時点で有害物質の除去を行うことが不可避であるならば、現時点で当該有害物質を除去する義務が存在しているものと考えられる、というのが基準の立場です(同 第29項)。
対象となるのは有害物質の除去に直接関わる費用
ここで実務上もっとも間違えやすいのが、計上対象の範囲です。この場合に資産除去債務の計上の対象となるのは、当該有形固定資産の除去費用全体ではなく、有害物質の除去に直接関わる費用に限られます(資産除去債務に関する会計基準 第29項)。建物の解体工事費の総額をそのまま資産除去債務として計上すると、過大計上になります。
実務では、解体業者の見積書を「通常の解体工事に係る部分」と「アスベストの事前調査・養生・隔離・除去・運搬・処分に係る部分」に区分し、後者だけを集計します。区分できない見積りしか入手できていない場合は、区分の依頼を含めて見積りを取り直すのが確実です。
なお、有形固定資産の使用期間中に実施する環境修復や修繕は、除去に関わるものではないため資産除去債務の対象とはなりません(同 第24項)。使用中に実施するアスベストの囲い込み工事や封じ込め工事は、この整理に照らして資産除去債務ではなく、通常の修繕費や資本的支出として処理することになります。
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計上要件の判定ステップ
アスベストに係る資産除去債務を計上するかどうかは、次の3つの要件を順に確認します。いずれか1つでも満たさない場合は、負債としての計上には至りません。
| 法律上の義務又は それに準ずるものか |
法令又は契約で要求される義務であることが必要です。法律上の義務に準ずるものとは、債務の履行を免れることがほぼ不可能な義務を指し、法令又は契約で要求される法律上の義務とほぼ同等の不可避的な義務が該当します。企業の自発的な計画のみによって除去が行われる場合は該当しません。 |
|---|---|
| 通常の使用によって生じたものか | 取得、建設、開発又は通常の使用によって生じたものであることが必要です。通常の使用とは、有形固定資産を意図した目的のために正常に稼働させることをいい、不適切な操業等の異常な原因によって発生した場合は、資産除去債務ではなく引当金の計上や減損の対象と考えられます。 |
| 金額を合理的に 見積ることができるか |
発生時に金額を合理的に見積ることができない場合には計上せず、見積ることができるようになった時点で負債として計上します。この場合には、債務の概要と合理的に見積ることができない旨及びその理由を注記します。 |
法律上の義務及びそれに準ずるものかどうか
資産除去債務は、法令又は契約で要求される法律上の義務及びこれに準ずるものと定義されています(資産除去債務に関する会計基準 第3項(1))。ここでいう法律上の義務に準ずるものとは、債務の履行を免れることがほぼ不可能な義務を指し、法令又は契約で要求される法律上の義務とほぼ同等の不可避的な義務が該当します。具体的には、法律上の解釈により当事者間での清算が要請される債務に加え、過去の判例や行政当局の通達等のうち、法律上の義務とほぼ同等の不可避的な支出が義務付けられるものが該当すると考えられます(同 第28項)。
したがって、有形固定資産の除去が企業の自発的な計画のみによって行われる場合は、法律上の義務に準ずるものには該当しません(同 第28項)。「この建屋はいずれ建て替える予定である」という社内計画があるだけでは、資産除去債務にはなりません。アスベストの場合は、除去そのものが法令で義務付けられている点が、この要件を満たす根拠になります。
通常の使用によって生じたものかどうか
資産除去債務は、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用により生じるものとされています(資産除去債務に関する会計基準 第3項(1))。ここでいう通常の使用とは、有形固定資産を意図した目的のために正常に稼働させることをいい、有形固定資産を除去する義務が不適切な操業等の異常な原因によって発生した場合には、資産除去債務として使用期間にわたって費用配分すべきものではなく、引当金の計上や固定資産の減損に係る会計基準の適用対象とすべきものと考えられます(同 第26項)。
また、有形固定資産の使用を終了する前後において、当該資産の除去の方針の公表や、有姿除却の実施により除去費用の発生の可能性が高くなった場合であっても、有形固定資産を取得した時点又は通常の使用を行っている時点において法律上の義務又はそれに準ずるものが存在していないのであれば、取得、建設、開発又は通常の使用により生じるものには該当しないと考えられます(同 第27項)。この場合は減損の対象となるほか、引当金上の対象となる余地もあるものと考えられます(同 第27項)。
合理的に見積ることができるかどうか
資産除去債務の発生時に、当該債務の金額を合理的に見積ることができない場合には、これを計上せず、当該債務額を合理的に見積ることができるようになった時点で負債として計上します(資産除去債務に関する会計基準 第5項)。合理的に見積ることができない場合とは、決算日現在入手可能なすべての証拠を勘案し、最善の見積りを行ってもなお、合理的に金額を算定できない場合をいいます(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第2項)。
ここは実務でしばしば誤解されるところです。履行時期を予測することや将来の最終的な除去費用を見積ることが困難であることを理由に「見積れない」と結論づけるケースがありますが、履行時期や除去の方法が明確にならないことなどにより金額が確定しない場合でも、履行時期の範囲及び蓋然性について合理的に見積るための情報が入手可能なときは、合理的に見積ることができる場合に該当します(同適用指針 第17項)。見積りが難しいことと、見積ることができないことは別という整理です。
それでもなお合理的に見積ることができない場合は、資産除去債務は発生しているものの貸借対照表に計上していない旨として、当該資産除去債務の概要、合理的に見積ることができない旨及びその理由を注記します(資産除去債務に関する会計基準 第16項(5))。この注記は、資産除去債務の内容についての簡潔な説明と関連付けて記載することが必要です(同適用指針 第11項)。
言い換えれば、計上しない場合であっても「何もしない」という選択肢はありません。要件を満たすのに計上も注記もしていない状態は、上場準備の監査で修正を求められる典型的な論点です。
割引前将来キャッシュ・フローの見積り
資産除去債務は、それが発生したときに、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)で算定します(資産除去債務に関する会計基準 第6項)。割引前の将来キャッシュ・フローは、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づく自己の支出見積りによります(同 第6項(1))。
その見積金額は、生起する可能性の最も高い単一の金額(最頻値)又は生起し得る複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額(期待値)とします(同 第6項(1))。将来キャッシュ・フローには、有形固定資産の除去に係る作業のために直接要する支出のほか、処分に至るまでの支出(例えば、保管や管理のための支出)も含めます(同 第6項(1))。
自己の支出見積りは、次の情報を基礎として行います(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第3項)。
- 対象となる有形固定資産の除去に必要な平均的な処理作業に対する価格の見積り
- 対象となる有形固定資産を取得した際に、取引価額から控除された当該資産に係る除去費用の算定の基礎となった数値
- 過去において類似の資産について発生した除去費用の実績
- 当該有形固定資産への投資の意思決定を行う際に見積られた除去費用
- 有形固定資産の除去に係る用役(除去サービス)を行う業者など第三者からの情報
これらにより見積られた金額に、インフレ率や見積値から乖離するリスクを勘案します。また、合理的で説明可能な仮定及び予測に基づき、技術革新などによる影響額を見積ることができる場合には、これを反映させます(同適用指針 第3項)。なお、将来キャッシュ・フローの見積りには、法人税等の影響額を含めません(同適用指針 第4項)。
アスベストのような有害物質は、この見積りが比較的行いやすい類型です。有害物質等に汚染された有形固定資産については、法令等によりその平均的な処理作業が定められ、その工程が明確にされているため、ほぼ画一的に将来キャッシュ・フローを見積ることができる場合があるとされています(同適用指針 第19項)。このような場合において、将来キャッシュ・フローの発生時期の見積りに必要な情報が得られるときには、インフレーション等を考慮した当該発生時期における将来キャッシュ・フローを見積った上で、現在価値に割り引くことになります(同適用指針 第19項)。
除去について平均的な処理作業に要する価格が明らかでない場合には、過去において類似の資産について発生した除去費用の実績を基礎として将来キャッシュ・フローを見積ることが考えられます(同適用指針 第21項)。各地域に分散した多数の同種の資産について将来キャッシュ・フローを見積る場合には、毎期末時点で、発生実績などに基づき、除去が予想される固定資産の面積を見積り、過去の実績から算定された面積当たりの除去費用を乗じて見積ることが考えられます(同適用指針 第21項)。工場や倉庫を全国に複数保有する企業では、この面積按分による見積りが実務上の現実解になります。
なお、資産除去債務の測定値の属性を自己の支出見積りとしたことから、除去サービスを行う業者など第三者へ見積りを依頼することまでは求められていません。ただし、合理的で説明可能な仮定及び予測を置くに際し、第三者からの情報を適宜利用することが考えられます(同適用指針 第22項)。
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割引率の決め方と資産除去債務の算定
割引率は、貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率とします(資産除去債務に関する会計基準 第6項(2))。将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクは将来キャッシュ・フローの見積りに反映されるため、資産除去債務の算定に際して用いられる割引率は、将来キャッシュ・フローが発生すると予想される時点までの期間に対応する貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の割引率とします(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第5項)。
したがって実務上は、将来キャッシュ・フローが発生するまでの期間に対応した利付国債の流通利回りなどを参考に割引率を決定することになります(同適用指針 第23項)。割引前将来キャッシュ・フローが税引前の数値であることに対応して、割引率も税引前の数値を用いる必要があります(同適用指針 第23項)。自社の信用リスクを加味した利率や、社債の利回りを用いるのは誤りです。
ここでは、2026年4月1日に取得した自社工場建屋(取得原価200,000千円、耐用年数10年、定額法、残存価額ゼロ)について、10年後の解体時にアスベスト含有建材を法令に従い除去する義務があり、その除去に直接関わる費用の割引前将来キャッシュ・フローを12,000千円と見積り、10年物利付国債の流通利回りを参考に割引率を年1.0%とした自社作例で算定します(単位:千円)。
この10,863千円が、負債計上額であると同時に、関連する有形固定資産の帳簿価額に加える除去費用の資産計上額になります(資産除去債務に関する会計基準 第7項)。
なお、割引率は負債計上時のものに固定し、毎期の見直しは行いません(資産除去債務に関する会計基準 第9項)。時の経過による調整額は、期首の負債の帳簿価額に当初負債計上時の割引率を乗じて算定します(同 第9項)。この方法は、時の経過によって一定の利息相当額を配分するものであり、関連する有形固定資産について減価償却という費用配分が行われることとも整合的であると考えられています(同 第49項)。
計上時・決算時・履行時の仕訳
以下では、上記の前提(割引前将来キャッシュ・フロー12,000千円、割引率年1.0%、残存耐用年数10年、単位:千円)に基づく仕訳を示します。分かりやすさのため、建屋本体の取得原価200,000千円に係る減価償却は省略し、資産除去債務に対応する除去費用部分のみを記載しています。
計上時の仕訳(資産負債の両建処理)
資産除去債務は、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって発生した時に負債として計上します(資産除去債務に関する会計基準 第4項)。資産除去債務に対応する除去費用は、資産除去債務を負債として計上した時に、当該負債の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加えます(同 第7項)。この処理は資産負債の両建処理と呼ばれ、除去費用を別の資産として計上する方法は採用されていません(同 第42項)。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 建物 | 10,863 | 資産除去債務 | 10,863 |
資産計上された金額は、実務上の管理の便宜から関連する有形固定資産と区分して別の資産として管理することは妨げられませんが、その場合でも、財務諸表上は有形固定資産として表示することが必要です(同 第43項)。
決算時の仕訳(減価償却と時の経過による調整額)
資産計上された資産除去債務に対応する除去費用は、減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分します(資産除去債務に関する会計基準 第7項)。また、時の経過による資産除去債務の調整額は、その発生時の費用として処理し、期首の負債の帳簿価額に当初負債計上時の割引率を乗じて算定します(同 第9項)。1年目の各金額は次のとおりです。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 1,086 | 建物減価償却累計額 | 1,086 |
| 利息費用 | 109 | 資産除去債務 | 109 |
この調整額は、退職給付会計における利息費用と同様の性格を有するものといえます(同 第48項)。損益計算書上、資産計上された除去費用に係る費用配分額は、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上し(同 第13項)、時の経過による調整額も同じ区分に含めて計上します(同 第14項)。営業外費用に区分しない点に注意が必要です。
履行時の仕訳(履行差額)
資産除去債務の履行時に認識される資産除去債務残高と資産除去債務の決済のために実際に支払われた額との差額は、損益計算書上、原則として、当該資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上します(資産除去債務に関する会計基準 第15項)。10年後に負債残高が割引前の12,000千円まで累増した状態で、実際のアスベスト除去工事費が12,500千円となった場合の仕訳は次のとおりです。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 資産除去債務 | 12,000 | 現金預金 | 12,500 |
| 履行差額 | 500 |
キャッシュ・フロー計算書上、資産除去債務を実際に履行した場合の支出額は、投資活動によるキャッシュ・フローの項目として取り扱います(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第12項)。営業活動によるキャッシュ・フローではない点は、見落とされやすい論点です。
法令改正で除去義務が新たに生じた場合
アスベストのような有害物質は、規制の強化によって取扱いが変わることがあります。この点について基準は明確な定めを置いており、資産除去債務が法令の改正等により新たに発生した場合も、見積りの変更と同様に取り扱うとされています(資産除去債務に関する会計基準 第10項)。
割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じた場合の当該見積りの変更による調整額は、資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して処理します(同 第10項)。過年度に遡って修正するのではなく、将来に向かって修正するプロスペクティブ・アプローチによる処理です(同 第51項)。
調整額に適用する割引率は、キャッシュ・フローが増加するか減少するかで異なります。割引前の将来キャッシュ・フローに重要な見積りの変更が生じ、当該キャッシュ・フローが増加する場合には、その時点の割引率を適用します。これに対し、当該キャッシュ・フローが減少する場合には、負債計上時の割引率を適用します(同 第11項)。なお、過去に割引前の将来キャッシュ・フローの見積りが増加した場合で、減少部分に適用すべき割引率を特定できないときは、加重平均した割引率を適用します(同 第11項)。
さらに、法令改正の影響が特に重要である場合には、注意が必要です。この場合、重要な法律改正又は規制強化による法律的環境の著しい悪化として、減損の兆候に該当することとなります(同 第52項)。また、これまで合理的に見積ることができなかった資産除去債務の金額を合理的に見積ることができるようになった場合についても、将来キャッシュ・フローの見積りの変更と同様に処理しますが、この場合も、資産に係る将来キャッシュ・フローに関する不利な予想が明確になったものであることから、減損の兆候として扱うべきものと考えられます(同 第52項)。資産除去債務の見直しと減損の検討は、セットで進めるのが実務上の作法です。
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表示と注記
資産除去債務は、貸借対照表日後1年以内にその履行が見込まれる場合を除き、固定負債の区分に資産除去債務等の適切な科目名で表示します。貸借対照表日後1年以内に資産除去債務の履行が見込まれる場合には、流動負債の区分に表示します(資産除去債務に関する会計基準 第12項)。
注記事項は、重要性が乏しい場合を除き、次の5項目です(同 第16項)。
| 資産除去債務の内容 | 資産除去債務の内容についての簡潔な説明を記載します。発生原因となっている法的規制又は契約等の概要(法令等の条項及び契約条件等)を簡潔に記載します。 |
|---|---|
| 見込期間と割引率 | 支出発生までの見込期間、適用した割引率等の前提条件を記載します。 |
| 総額の増減内容 | 資産除去債務の総額の期中における増減内容を記載します。 |
| 見積りの変更 | 資産除去債務の見積りを変更したときは、その変更の概要及び影響額を記載します。 |
| 計上していない場合の理由 | 資産除去債務は発生しているが、その債務を合理的に見積ることができないため貸借対照表に計上していない場合には、当該資産除去債務の概要、合理的に見積ることができない旨及びその理由を記載します。 |
多数の有形固定資産について資産除去債務が生じている場合には、有形固定資産の種類や場所等に基づいて、これらの注記をまとめて記載することができます(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第10項)。工場・倉庫を複数保有する企業では、この集約記載が現実的です。
また、重要な資産除去債務を計上したときは、キャッシュ・フロー計算書に重要な非資金取引として注記を行います(同適用指針 第13項)。固定資産の取得に伴う資産除去債務の認識は、資金の移動を伴わずに資産及び負債を計上するものであり、資産除去債務が将来の支出となることから、重要性がある場合に注記することとされたものです(同適用指針 第29項)。
上場準備で指摘されやすい論点
上場準備企業の監査で論点になりやすいのは、次の3点です。
1つ目は、アスベスト含有の有無の調査そのものが行われていないケースです。資産除去債務を計上していないという結論を出すためには、法令上の除去義務が存在しないことか、または合理的に見積ることができないことのいずれかを示す必要があります。調査未実施のまま「該当なし」としている状態は、判定の根拠が存在しないことを意味します。まずは保有する建物ごとに、建築時期と使用建材から調査対象を洗い出すところから始めます。
2つ目は、除去費用の範囲を誤って解体工事費の全額としているケースです。前述のとおり、有害物質の除去に直接関わる費用に限られます(資産除去債務に関する会計基準 第29項)。
3つ目は、減損の将来キャッシュ・フローとの二重計上です。資産除去債務が負債に計上されている場合には、除去費用部分の影響を二重に認識しないようにするため、減損の判定・測定に用いる将来キャッシュ・フローの見積りには除去費用部分を含めません(同 第44項)。減損の計算シートと資産除去債務の計算シートを別々の担当者が作成していると、この調整が漏れがちです。
なお、賃借しているオフィスや店舗の原状回復義務も資産除去債務の論点ですが、そちらは対象が内部造作等であることや、敷金が資産計上されている場合の簡便的な処理が用意されている点で取扱いが異なります(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第9項)。自社所有の建物と賃借物件は分けて整理してください。
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適用時期と改正の経緯
資産除去債務に関する会計基準は2008年3月31日に公表され、2010年4月1日以後開始する事業年度から適用されています(資産除去債務に関する会計基準 第17項)。公表当初は、2010年3月31日以前に開始する事業年度から適用することもできるとされていました(同 第17項)。適用初年度における期首残高の算定方法や、適用初年度において両者の差額を原則として特別損失に計上する取扱いも定められていましたが(同 第18項)、適用開始から相当期間が経過しているため、現在の実務上の関心は日々の測定・注記に移っています。
適用指針についても、2008年3月31日に公表され、適用時期は会計基準と同様とされています(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第14項)。その後2011年に改正され、当該改正適用指針は2011年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(同適用指針 第15-2項)。この改正では、四半期財務諸表における注記を定めていた項が削除されました(同適用指針 第30-2項)。
さらに、会計基準は2024年に改正されています。この2024年改正会計基準では、リースに関する会計基準の公表に伴い、結論の背景における用語の定義及び会計処理の一部について所要の改正が行われました(資産除去債務に関する会計基準 第22-2項)。具体的には、本会計基準でいう有形固定資産には、建設仮勘定や使用権資産のほか、財務諸表等規則において投資その他の資産に分類されている投資不動産なども含まれることが明確にされています(同 第23項)。
この2024年改正会計基準の適用時期は、リースに関する会計基準の適用時期と同様とされています(同 第20-2項)。リースに関する会計基準は2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの早期適用も認められています(リースに関する会計基準 第58項)。したがって、2008年会計基準の本体部分はすでに適用されている一方、2024年改正部分はこれから適用されるという整理になります。使用権資産に係る資産除去債務の取扱いは、リース会計基準への対応と併せて検討することになります。
資産除去債務の計上要否や見積りの妥当性は、保有資産の実態や契約内容によって判断が分かれる論点です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
まとめ
アスベスト等の有害物質に係る資産除去債務は、有形固定資産の除去そのものが義務でなくても、除去する際に法令等の要求による特別の方法で有害物質を除去する義務があれば計上対象となります(資産除去債務に関する会計基準 第3項(1)、第29項)。計上の対象は解体工事費の全額ではなく、有害物質の除去に直接関わる費用に限られます(同 第29項)。
計上要否は、法律上の義務又はそれに準ずるものか、通常の使用によって生じたものか、金額を合理的に見積ることができるかの3点で判定します(同 第3項(1)、第4項、第5項)。見積ることができない場合でも注記が必要であり(同 第16項(5))、計上も注記もしないという選択肢はありません。
有害物質は法令等により平均的な処理作業と工程が明確にされているため、ほぼ画一的に将来キャッシュ・フローを見積ることができる場合があり(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第19項)、割引率は将来キャッシュ・フローの発生までの期間に対応した利付国債の流通利回りなどを参考に決定します(同適用指針 第23項)。法令改正により義務が新たに発生した場合は見積りの変更と同様に処理し、影響が特に重要であれば減損の兆候にも該当します(資産除去債務に関する会計基準 第10項、第52項)。
参考文献
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第18号 資産除去債務に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第21号 資産除去債務に関する会計基準の適用指針
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第34号 リースに関する会計基準
よくある質問
アスベストがあれば必ず資産除去債務を計上しますか
必ず計上するとは限りません。法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものであること、取得・建設・開発又は通常の使用によって生じたものであること、発生時に金額を合理的に見積ることができることの3つを満たしたときに負債として計上します(資産除去債務に関する会計基準 第3項(1)、第4項、第5項)。ただし、法令上の除去義務があり、将来の除去時点で有害物質の除去を行うことが不可避であるならば、現時点で当該有害物質を除去する義務が存在しているものと考えられます(同 第29項)。
建物の解体費用の全額が資産除去債務になりますか
なりません。有形固定資産自体を除去する義務はなくとも当該有形固定資産に使用されている有害物質自体の除去義務が資産除去債務に含まれるという整理であり、この場合に資産除去債務の計上の対象となるのは、当該有形固定資産の除去費用全体ではなく、有害物質の除去に直接関わる費用です(資産除去債務に関する会計基準 第29項)。解体業者の見積りを、通常の解体工事に係る部分と有害物質の除去に係る部分に区分して集計します。
除去費用を合理的に見積ることができない場合はどうしますか
発生時に合理的に見積ることができない場合には計上せず、合理的に見積ることができるようになった時点で負債として計上します(資産除去債務に関する会計基準 第5項)。合理的に見積ることができない場合とは、決算日現在入手可能なすべての証拠を勘案し、最善の見積りを行ってもなお合理的に金額を算定できない場合をいいます(資産除去債務に関する会計基準の適用指針 第2項)。この場合は、資産除去債務の概要、合理的に見積ることができない旨及びその理由を注記します(同会計基準 第16項(5))。
資産除去債務を計上しないとどうなりますか
計上要件を満たすにもかかわらず負債を計上していない場合、将来の不可避的な支出が貸借対照表に反映されず、負債計上が不十分であるという問題が生じます(資産除去債務に関する会計基準 第34項)。また、合理的に見積ることができないために計上しない場合であっても注記が求められており(同 第16項(5))、計上も注記も行わない状態は基準に適合しません。上場準備の過程では、過年度に遡った修正や、適用初年度の期首残高の算定が必要になることがあります(同 第18項)。
法令改正で除去義務が新たに生じた場合はどう処理しますか
資産除去債務が法令の改正等により新たに発生した場合は、見積りの変更と同様に取り扱い、調整額を資産除去債務の帳簿価額及び関連する有形固定資産の帳簿価額に加減して処理します(資産除去債務に関する会計基準 第10項)。キャッシュ・フローが増加する場合はその時点の割引率を、減少する場合は負債計上時の割引率を適用します(同 第11項)。影響が特に重要であれば、重要な法律改正又は規制強化による法律的環境の著しい悪化として減損の兆候に該当します(同 第52項)。
時の経過による調整額は損益計算書のどの区分に計上しますか
時の経過による資産除去債務の調整額は、損益計算書上、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上します(資産除去債務に関する会計基準 第14項)。資産計上された除去費用に係る費用配分額も同様に、関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上します(同 第13項)。営業外費用の区分ではありません。