種類株式を発行した、あるいは引き受けたときに最初に迷うのが、貸借対照表にいくらで計上するのかという点です。日本基準では、この論点を正面から扱った定めが保有者側にしか置かれていません。実務対応報告第10号は種類株式の保有者側の取扱いを明らかにしたものであり、発行者側の会計処理は取り扱っていないと明記されています(実務対応報告第10号 目的)。
この非対称を理解しないまま、保有側のルールを発行側にあてはめてしまう誤りは実務でも起こりがちです。本記事では、保有者側の貸借対照表価額と減損処理を実務対応報告第10号にそって整理したうえで、発行者側で拠り所になる純資産の部の表示のルールを分けて解説します。どこまでが会計基準で決まっていて、どこからが個別判断なのかを見分けられる状態を目指します。
種類株式の概要と会計上の論点の所在
会社法上の種類株式と実務での典型
種類株式とは、剰余金の配当や残余財産の分配、議決権の行使、譲渡の制限、会社に対する取得の請求などについて、標準となる株式(普通株式)と内容の異なる株式をいいます。会社法はこれらの事項を組み合わせて株式を設計することを認めており、発行会社の資本政策に応じて多様な設計が可能です。
スタートアップや上場準備企業の資金調達で使われるのは、残余財産の分配や剰余金の配当について普通株式に優先する優先株式が中心です。これに、普通株式への転換を請求できる取得請求権や議決権の制限を組み合わせて設計されるのが一般的で、シリーズごとに条件の異なる優先株式が積み重なっていきます。
保有者側と発行者側で分かれる会計上の論点
会計上、種類株式の論点は保有者側と発行者側で完全に分かれます。保有者側については実務対応報告第10号が貸借対照表価額と減損処理の考え方を示していますが、発行者側の会計処理は同報告の対象外です(実務対応報告第10号 目的)。発行者側で拠り所になるのは、純資産の部の表示を定める企業会計基準第5号とその適用指針です。
そもそも株式の貸借対照表価額の定めは普通株式を念頭に置いたものでした。種類株式には債券と同様の性格を持つと考えられるものや、発行会社の普通株式の市場価格との密接な連動性を有するものもあり、普通株式の場合とは異なる考慮が働く余地があります。この点が実務上必ずしも明らかではなかったため、実務対応報告第10号が公表されています(実務対応報告第10号 目的)。企業会計基準委員会 実務対応報告第10号 種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い
実務対応報告第10号が定める貸借対照表価額
対象となる種類株式の範囲
実務対応報告第10号における種類株式とは、会社法第108条第1項に従い内容の異なる2以上の種類の株式を発行する場合の標準となる株式以外の株式をいいます(実務対応報告第10号 用語の定義)。この定義は2025年の改正で会社法第108条第1項を参照する形に改められたもので、改正前は会社法の施行に伴い削除された旧商法の条文を参照したままになっていました(実務対応報告第10号 目的)。
会社法第108条第1項では旧商法で認められていなかった種類の株式を発行することが可能とされ、旧商法で認められていた種類の株式についても設計の柔軟化が図られています。このため、2025年改正後の適用対象は、実務対応報告第10号の開発時に想定されていなかった種類株式にまで広がっています(実務対応報告第10号 目的)。
ただし射程には限界もあります。実務対応報告第10号は、種類株式のうち実務上の取扱いを明確にする必要性が高いと考えられるもののみを取り上げたものであり、必要がある場合には貸借対照表価額についての取扱いを追加することがあるとされています(実務対応報告第10号 目的)。設計が特殊な種類株式では、同報告の定めだけで結論が出ないことがある点は押さえておく必要があります。
債券と同様の性格を持つと考えられる種類株式
形式的には株式であっても、発行会社が一定の時期に一定額で償還すると定めている種類株式や、発行会社や保有者が一定額で償還する権利を有し取得時点において一定の時期に償還されることが確実に見込まれる種類株式があります。これらは経済的には清算時の弁済順位を除き債券と同様の性格を持つと考えられるため、その貸借対照表価額は債券の貸借対照表価額と同様に取り扱うことが適当とされています(実務対応報告第10号 Q1のA、金融商品に関する会計基準 第15項、第16項、第18項、第20項、第22項及び第23項)。企業会計基準委員会 企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準
実務では、償還条項が付いているかどうか、償還が確実に見込まれるかどうかを取得時点で検討することになります。ここを株式という形式だけで判断すると、本来は債券に準じて処理すべきものを株式の評価に乗せてしまうことになります。
債券と同様の性格を持つもの以外の種類株式
債券と同様の性格を持つもの以外の種類株式は、市場価格の有無で取扱いが分かれます。市場価格のある種類株式は時価をもって貸借対照表価額としますが、子会社及び関連会社が発行した種類株式は取得原価によります(実務対応報告第10号 Q2のA(1)、金融商品に関する会計基準 第15項、第17項及び第18項)。市場価格のない種類株式は取得原価をもって貸借対照表価額とします(実務対応報告第10号 Q2のA(2))。
| 債券と同様の性格を持つと 考えられる種類株式 |
債券の貸借対照表価額と同様に取り扱う |
|---|---|
| 市場価格のある種類株式 | 時価(子会社及び関連会社が発行した種類株式は取得原価) |
| 市場価格のない種類株式 | 取得原価 |
売買目的有価証券以外の市場価格のある種類株式について時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損失として処理します(実務対応報告第10号 Q2のA(1)、金融商品に関する会計基準 第20項、移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針 第91項)。市場価格のない種類株式については、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときに相当の減額を行い、評価差額を当期の損失として処理します(実務対応報告第10号 Q2のA(2)、金融商品に関する会計基準 第21項)。
なお、市場価格のない株式は、たとえ何らかの方式により価額の算定が可能としても、それを時価とはしません(金融商品に関する会計基準 第19項)。一方で、種類株式自体は市場で取引されていなくとも、転換を請求できる権利を行使して市場価格のある普通株式に容易に転換し取引できるような場合は、市場価格のある株式として取り扱われると考えられるとされています(実務対応報告第10号 Q2のA(1))。転換請求が可能で、かつディープ・イン・ザ・マネーの状態にある場合が例として挙げられています。企業会計基準委員会 実務対応報告第10号 種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い
種類株式も有価証券であることに変わりはなく、売買目的有価証券に該当するかどうかといった保有目的区分の考え方は普通株式と共通です。保有目的区分の全体像は次の記事で整理しています。
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市場価格のない種類株式の減損処理と実質価額
市場価格のない株式の減損処理を行うにあたり、実質価額とは、通常、一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠して作成した財務諸表を基礎に、資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額に、所有株式数を乗じた金額とされています(移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針 第92項)。ただしこれは普通株式を念頭においた取扱いであり、優先株式その他の種類株式については普通株式と異なる考慮が必要と考えられます(実務対応報告第10号 Q3のA)。
原則は評価モデルを利用する方法
市場価格のない種類株式のうち、満期の定めのない永久債に類似したようなものや、現在は転換できないものの将来において転換を請求できる権利を行使して市場価格のある普通株式に転換できること等により普通株式の市場価格と関連性を有するものについては、困難であると認められる場合を除き、割引将来キャッシュ・フロー法やオプション価格モデルなどを利用した評価モデルによる価額を実質価額とします。評価モデルは原則として毎期同様のものを使用します(実務対応報告第10号 Q3のA(1))。
評価モデルを利用して算定された価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合には、原則として当該価額まで減額し、評価差額は当期の損失として処理しなければなりません。50%程度以上低下しないときでも、減損処理の要否を判断することが適当とされています(実務対応報告第10号 Q3のA(1)、移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針 第91項、第92項及び第285項)。
評価モデルによる価額を得ることが困難な場合
評価モデルを利用して算定された価額を得ることが困難である場合には、1株当たりの純資産額を基礎とする方法か、優先的な残余財産分配請求額を基礎とする方法により実質価額を算定します(実務対応報告第10号 Q3のA(2))。どちらを用いるかは種類株式の設計によって決まり、機械的に選べるものではありません。
1株当たりの純資産額を基礎とする方法は、利益配当請求権に関する普通株式との異同や転換を請求できる権利の条件等を考慮して、種類株式の普通株式相当数を算定することが可能な場合に用います。資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した発行会社の純資産額を、種類株式の普通株式相当数と普通株式数の合計で除し、これに所有する当該種類株式の普通株式相当数を乗じて実質価額を算定することが考えられます(実務対応報告第10号 Q3のA(2)①)。
ここでいう普通株式相当数とは、例えば普通株式への転換を仮定した場合の普通株式数など、1株当たり純資産額を基礎とする方法に用いられる当該種類株式の株式数に対応すると考えられる普通株式数をいいます。転換価格が固定されている場合には当該転換価格により、普通株式の市場価格に基づいて決定・修正される場合には貸借対照表日現在の普通株式の市場価格に基づいて算定された転換価格によります(実務対応報告第10号 Q3のA(2)①)。
もう一方の優先的な残余財産分配請求額を基礎とする方法は、普通株式よりも利益配当請求権や残余財産分配請求権が優先的であるような場合に用います。資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した発行会社の純資産額が優先的な残余財産分配請求権総額を下回っている場合には当該純資産額を、上回っている場合には当該残余財産分配請求権総額に配当可能限度額のうち種類株式相当分を加えた金額を、当該種類株式数で除した1株当たりの純資産額に、所有する当該種類株式数を乗じて実質価額を算定します(実務対応報告第10号 Q3のA(2)②)。
いずれの方法でも、算定された実質価額が少なくとも取得原価に比べて50%程度以上低下した場合には、当該実質価額まで減額し、評価差額は当期の損失として処理しなければなりません(実務対応報告第10号 Q3のA(2)、移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針 第92項及び第285項)。また、普通株式の市場価格と連動性があると想定される種類株式については、評価モデルを利用した価額を得ることが困難であっても、普通株式の市場価格が当該種類株式の取得時点に比べて著しく下落した場合には、当該種類株式の実質価額も著しく低下していると想定され、減損処理を行うことが合理的と考えられる場合が多い点に留意が必要です(実務対応報告第10号 Q3のA(2))。企業会計基準委員会 実務対応報告第10号 種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い
種類株式を発行している会社の普通株式を保有している場合
見落とされやすいのが、優先株式を発行している会社の普通株式を保有している側の処理です。市場価格のない普通株式を発行している会社が種類株式も発行している場合、普通株式の1株当たりの純資産額は、発行会社の純資産額をそのまま用いて算定するのではなく、発行会社の純資産額から種類株式に帰属すべき純資産額を控除して算定される点に留意する必要があります(実務対応報告第10号 Q4のA、移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針 第92項)。
優先株式による調達を重ねたスタートアップの普通株式を保有している場合、この控除を行わずに算定すると実質価額を過大に見積もることになり、必要な減損が漏れる原因になります。優先株式の残余財産分配請求権の総額が純資産額に近づいているケースでは、影響は特に大きくなります。
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発行者側の純資産の部での表示
ここまでは保有者側の話です。発行者側の会計処理は実務対応報告第10号の対象外であるため(実務対応報告第10号 目的)、種類株式を発行した会社が拠り所にするのは、純資産の部の表示を定める企業会計基準第5号と、その適用指針である企業会計基準適用指針第8号になります。
貸借対照表は資産の部、負債の部及び純資産の部に区分し、純資産の部は株主資本と株主資本以外の各項目に区分します(貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 第4項)。株主資本は資本金、資本剰余金及び利益剰余金に区分し、個別貸借対照表上、資本剰余金はさらに資本準備金と資本準備金以外の資本剰余金(その他資本剰余金)に区分します(同会計基準 第5項、第6項(1))。企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
適用指針第8号が示す純資産の部の標準的な記載例では、個別貸借対照表上の株主資本は資本金、新株式申込証拠金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式、自己株式申込証拠金の順に表示されます(貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針 第3項)。ここに株式の種類ごとの区分は設けられていないため、種類株式の発行によって生じた払込資本も、普通株式と同じ資本金および資本剰余金の区分に含めて表示されることになります。企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第8号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針
注意したいのは、純資産会計基準が定めているのはあくまで表示であるという点です。貸借対照表項目の認識及び消滅の認識、貸借対照表価額の算定などの会計処理については、既存の会計基準によることとされています(貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 第1項、第26項)。株式の内容に応じて発行者側の表示区分を変えるといった定めは、同会計基準および適用指針第8号には置かれていません。設計が特殊な種類株式については、他の会計基準の適用も含めて個別に検討する必要があります。
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取得請求権付株式の取得と自己株式の処理
優先株式には取得請求権が付されていることが多く、発行会社がその請求に応じると自己株式の取得になります。自己株式は、株主総会の決議に基づく方法のほか、取得請求権付株式の取得請求に応じる場合や、全部取得条項付種類株式を株主総会決議に基づき取得する場合などによっても取得されますが、取得の方法によって会計処理を区別する理由はないと考えられ、すべての自己株式の取得に同様の会計処理が適用されます(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第33項、第47項)。企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
取得した自己株式は、取得原価をもって純資産の部の株主資本から控除します。期末に保有する自己株式は、純資産の部の株主資本の末尾に自己株式として一括して控除する形式で表示します(同会計基準 第7項、第8項)。自己株式を消却した場合には、消却手続が完了したときに、消却の対象となった自己株式の帳簿価額をその他資本剰余金から減額します(同会計基準 第11項)。
その結果その他資本剰余金の残高が負の値となった場合には、会計期間末においてその他資本剰余金を零とし、当該負の値をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)から減額します(同会計基準 第12項)。優先株式の取得と消却を続けた結果、その他資本剰余金が枯渇して繰越利益剰余金に食い込むという流れは、資本政策の検討段階で織り込んでおきたいところです。
実務で見落としやすいのが帳簿価額の算定単位です。自己株式の処分及び消却時の帳簿価額は、会社の定めた計算方法に従って、株式の種類ごとに算定します(同会計基準 第13項)。普通株式と種類株式の自己株式を併せて保有している場合に、両者を合算して単価を計算することはできません。
上場準備で論点になりやすい場面
上場準備の過程では、優先株式を普通株式へ転換して株式を一本化するのが一般的です。この転換の設計自体が、保有者側の判定に直結します。転換を請求できる権利を行使して市場価格のある普通株式に容易に転換し取引できる状態かどうかで、市場価格のある株式として扱われるかが変わり(実務対応報告第10号 Q2のA(1))、実質価額の算定では転換価格が固定か普通株式の市場価格に連動して決定・修正されるかで普通株式相当数の計算が変わります(実務対応報告第10号 Q3のA(2)①)。
投資契約や種類株式発行要項をレビューする際は、償還条項の有無、転換価格の決定方法、優先的な残余財産分配請求権の内容という3点を先に押さえておくと、監査法人との議論がスムーズです。これらはいずれも、実務対応報告第10号のどの取扱いに乗るかを決める要素です。
また、優先株式を引き受けたベンチャーキャピタルや事業会社だけでなく、その発行会社の普通株式を保有している既存株主にも影響が及びます。発行会社の純資産額から種類株式に帰属すべき純資産額を控除して1株当たりの純資産額を算定するという取扱い(実務対応報告第10号 Q4のA)は、資金調達を重ねた会社ほど効いてきます。
上場申請に向けて優先株式を整理する局面では、自己株式の取得・消却を通じてその他資本剰余金の残高が動くため、資本政策と会計処理を並行して詰めておくことが欠かせません。種類株式の設計は個社ごとに大きく異なり、基準の定めだけで機械的に結論が出るものではない点にも注意が必要です。
適用時期と改正の経緯
本記事で取り上げた基準等は、いずれも2026年8月時点ですでに適用されています。それぞれの改正の経緯と適用時期は次のとおりです。
| 実務対応報告第10号 種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い |
2003年3月に公表され、2003年4月1日以後開始する事業年度に係る財務諸表から適用されています。2025年3月に2024年年次改善プロジェクトによる改正が行われ、2025年改正実務対応報告は2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後取得する種類株式について適用されています。 |
|---|---|
| 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 |
2005年12月に公表され、その後2009年、2013年、2021年に改正されています。最終改正である2021年改正会計基準は、会社法の一部を改正する法律の施行日である2021年3月1日以後終了する連結会計年度及び事業年度に係る連結財務諸表及び財務諸表から適用されています。 |
| 企業会計基準適用指針第8号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針 |
2005年12月に会計基準と同時に公表され、2009年、2013年、2021年に改正されています。2021年改正適用指針の適用時期は、2021年に改正された純資産会計基準と同様とされています。 |
| 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 |
2002年2月に公表され、2005年、2006年、2015年に改正されています。最終改正である2015年改正会計基準は、公表日以後最初に終了する事業年度の年度末に係る財務諸表から適用されています。 |
実務上とくに確認が必要なのは、2025年改正実務対応報告の経過措置です。2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首より前に取得した種類株式のうち、当該期首の直前の連結会計年度及び事業年度の末日において保有する種類株式については、従前の会計方針を継続する方法、2025年3月31日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の末日から将来にわたって適用する方法、当該期首から将来にわたって適用する方法のいずれかを選択できます(実務対応報告第10号 適用時期等)。過去に取得した種類株式が残っている場合は、どの方法を選択したかを整理しておく必要があります。
まとめ
- 実務対応報告第10号は種類株式の保有者側の取扱いを明らかにしたものであり、発行者側の会計処理は取り扱っていません(実務対応報告第10号 目的)。
- 債券と同様の性格を持つと考えられる種類株式は債券の貸借対照表価額と同様に取り扱い、それ以外は市場価格のある種類株式が時価(子会社及び関連会社が発行したものは取得原価)、市場価格のない種類株式が取得原価となります(実務対応報告第10号 Q1のA、Q2のA)。
- 市場価格のない種類株式の減損では、原則として評価モデルによる価額を実質価額とし、困難な場合に1株当たりの純資産額を基礎とする方法または優先的な残余財産分配請求額を基礎とする方法によります(実務対応報告第10号 Q3のA)。
- 発行者側は純資産の部の表示のルールによることになり、株主資本は資本金、資本剰余金及び利益剰余金に区分され、株式の種類ごとの区分は設けられていません(貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 第5項、同適用指針 第3項)。
- 取得請求権付株式の取得請求に応じた場合も自己株式の取得となり、処分及び消却時の帳簿価額は株式の種類ごとに算定します(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第33項、第13項)。
種類株式の会計処理は設計内容に強く依存し、同じ優先株式という呼び名でも結論が変わります。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。公認会計士事務所プライムパートナーズ/株式会社プライムパートナーズコンサルティングでは、上場準備企業の資本政策と会計処理を一体で検討する支援を行っています。
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- 企業会計基準委員会 実務対応報告第10号 種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第5号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第8号 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第1号 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準
- 企業会計基準委員会 企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準
よくある質問
実務対応報告第10号は発行者側の会計処理も定めていますか
定めていません。実務対応報告第10号は種類株式の保有者側の取扱いを明らかにしたものであり、発行者側の会計処理は取り扱っていないと明記されています(実務対応報告第10号 目的)。発行者側の純資産の部での表示は、企業会計基準第5号および企業会計基準適用指針第8号によることになります(貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 第4項、第5項、同適用指針 第3項)。
転換を請求できる優先株式は市場価格のある種類株式に該当しますか
種類株式自体が市場で取引されていなくとも、転換を請求できる権利を行使して市場価格のある普通株式に容易に転換し取引できるような場合には、市場価格のある株式として取り扱われると考えられるとされています(実務対応報告第10号 Q2のA(1))。現時点で保有者による転換請求が可能であって、ディープ・イン・ザ・マネーの状態にある場合が例として挙げられています。
市場価格のない優先株式の減損はどのように判断しますか
市場価格のない種類株式は取得原価をもって貸借対照表価額とし、実質価額が著しく低下したときに相当の減額を行います(実務対応報告第10号 Q2のA(2))。実質価額は、原則として割引将来キャッシュ・フロー法やオプション価格モデルなどを利用した評価モデルによる価額とし、それを得ることが困難な場合には1株当たりの純資産額を基礎とする方法または優先的な残余財産分配請求額を基礎とする方法によります。算定された価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合には、原則として当該価額まで減額します(実務対応報告第10号 Q3のA)。
優先株式を発行している会社の普通株式を保有しています。実質価額の算定で気をつける点はありますか
普通株式の1株当たりの純資産額は、発行会社の純資産額をそのまま用いるのではなく、発行会社の純資産額から種類株式に帰属すべき純資産額を控除して算定します(実務対応報告第10号 Q4のA、移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針 第92項)。この控除を行わないと実質価額を過大に見積もることになるため、優先株式による調達を重ねた会社ほど注意が必要です。