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財務会計

企業結合の会計処理【仕訳・のれん計算例】取得企業の判定と配分

目次
  1. 企業結合の会計処理の3ステップと代表的な仕訳
  2. ステップ1 取得企業の決定
  3. ステップ2 取得原価の算定
  4. 段階取得における個別と連結の相違
  5. 取得関連費用と株式交付費の区別
  6. 条件付取得対価(アーンアウト)の取扱い
  7. ステップ3 取得原価の配分(PPA)
  8. 識別可能無形資産の範囲
  9. 企業結合に係る特定勘定
  10. 取得企業の税効果会計とのれんへの影響
  11. 配分が完了しない場合の暫定的な会計処理
  12. のれん・負ののれんの会計処理
  13. 償却の開始時期・表示区分と企業結合年度の減損の兆候
  14. 企業結合の注記事項
  15. 取得法を適用しない企業結合と適用時期
  16. 実務で陥りやすい落とし穴
  17. まとめ
  18. 参考文献
  19. よくある質問
  20. 取得法とパーチェス法は違うものですか。
  21. 企業結合に係る特定勘定とは何ですか。
  22. 取得原価の配分(PPA)はいつまでに行う必要がありますか。
  23. のれんは何年で償却しますか。
  24. 無形資産を識別すると、のれんはその金額だけ減りますか。
  25. M&Aの仲介手数料やデューデリジェンス費用は取得原価に含めますか。

企業結合の会計処理は、取得企業の決定 → 取得原価の算定 → 取得原価の配分(PPA)という3つのステップで進みます。共同支配企業の形成と共通支配下の取引以外の企業結合は「取得」となり、取得企業が被取得企業の資産・負債を企業結合日の時価で受け入れる取得法(パーチェス法)で処理します(企業結合に関する会計基準 第17項)。配分し切れなかった差額がのれん(または負ののれん)です。

本稿では、M&Aや組織再編、上場準備に携わる実務者・経営者に向けて、3ステップの流れ・のれんの計算例・代表的な仕訳を冒頭に示したうえで、実務で判断に迷いやすい取得関連費用、識別可能無形資産に係る繰延税金負債、企業結合に係る特定勘定、のれんの償却年数と表示区分、注記までを公認会計士の視点で整理します。

企業結合の会計処理の3ステップと代表的な仕訳

取得とされた企業結合の会計処理は、次の3ステップに分解すると全体像をつかみやすくなります。どのステップで判断を誤っても、最終的に計上されるのれんの金額がずれる点が、この処理の難しさです。

ステップ1 取得企業の決定 いずれの結合当事企業が被取得企業の支配を獲得したかを決定します。連結財務諸表に関する会計基準の考え方を用い、明確でない場合は議決権比率や意思決定機関の構成などを総合的に勘案します。
ステップ2 取得原価の算定 支払対価となる財の企業結合日における時価で取得原価を算定します。取得関連費用は取得原価に含めず、発生した事業年度の費用として処理します。
ステップ3 取得原価の
配分(PPA)
識別可能資産・負債の企業結合日時点の時価を基礎として、企業結合日以後1年以内に取得原価を配分します。配分後の差額がのれんまたは負ののれんとなります。

まず、もっとも基本的な形の仕訳を確認します。前提として、A社が現金1,000,000千円を対価としてB社を吸収合併し、取得企業と判定されたものとします。受け入れた識別可能資産の時価は1,400,000千円、引き受けた負債の時価は600,000千円で、無形資産の追加識別はないものとします(単位:千円)。取得原価と配分された純額800,000千円との差額200,000千円がのれんとなります(企業結合に関する会計基準 第28項、第31項)。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
諸資産 1,400,000 諸負債 600,000
のれん 200,000 現金預金 1,000,000

のれんの金額は、取得原価と配分額の差額として決まります。関係を式で示すと次のとおりです。

のれん = 取得原価 − 識別可能資産及び負債に配分された純額

上記の前提を当てはめると、のれんの金額は次のように計算されます(単位:千円)。

識別可能資産及び負債に配分された純額 = 1,400,000 − 600,000 = 800,000
のれん = 1,000,000 − 800,000 = 200,000

この計算式が示すとおり、ステップ3で識別可能資産・負債にいくら配分できたかによって、のれんの金額は増減します。無形資産を追加で識別すれば配分される純額が増えてのれんは減り、その無形資産に係る繰延税金負債を認識すれば配分される純額が減ってのれんは増えます。3ステップのどこで判断を誤ってものれんの金額がずれるのは、このためです。実際の配分を織り込んだ仕訳は、後述のステップ3で改めて示します。

ステップ1 取得企業の決定

取得とされた企業結合では、いずれかの結合当事企業を取得企業として決定します。被取得企業の支配を獲得することとなる取得企業を決定するにあたっては、連結財務諸表に関する会計基準の考え方を用います(企業結合に関する会計基準 第18項)。連結会計基準の考え方によってどちらが取得企業となるか明確でない場合には、次の要素を考慮して決定します。

主な対価の種類が現金その他の資産である場合には、通常、その資産を引き渡す企業が取得企業となります(企業結合に関する会計基準 第19項)。一方、主な対価の種類が株式である場合には、通常、株式を交付する企業が取得企業となりますが、必ずしも株式を交付した企業が取得企業とならない「逆取得」もあるため、次の要素を総合的に勘案して判断します(企業結合に関する会計基準 第20項)。

  • 総体としての株主が占める相対的な議決権比率の大きさ(潜在株式の存在も考慮します)
  • 最も大きな議決権比率を有する株主の存在
  • 取締役等を選解任できる株主の存在
  • 取締役会等の構成を事実上支配している役員・従業員の存在
  • 株式の交換条件(企業結合前の株価を超えるプレミアムを支払った企業があるか)

これらによっても判断がつかない場合には、結合当事企業のうち相対的な規模(総資産額、売上高あるいは純利益)が著しく大きい企業が取得企業となります(企業結合に関する会計基準 第21項)。結合当事企業が3社以上である場合には、いずれの企業がその企業結合を最初に提案したかについても考慮します(企業結合に関する会計基準 第22項)。実務では、規模の近い企業同士が株式を対価に統合するケースで判定が論点になりやすく、結合後の議決権比率と意思決定機関の実質的な支配関係を丁寧に検討することが求められます。

ステップ2 取得原価の算定

被取得企業または取得した事業の取得原価は、原則として、取得の対価となる財の企業結合日における時価で算定します。支払対価が現金以外の資産の引渡し、負債の引受けまたは株式の交付の場合には、支払対価となる財の時価と被取得企業または取得した事業の時価のうち、より高い信頼性をもって測定可能な時価で算定します(企業結合に関する会計基準 第23項)。市場価格のある取得企業等の株式が対価として交付される場合には、原則として企業結合日における株価を基礎にして算定します(企業結合に関する会計基準 第24項)。

段階取得における個別と連結の相違

複数の取引を経て段階的に支配を獲得する「段階取得」では、個別財務諸表と連結財務諸表で取得原価の算定方法が異なります。個別財務諸表上は、支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額をもって取得原価とします。これに対して連結財務諸表上は、個々の取引すべてを企業結合日における時価で算定し、当該取得原価と原価の合計額との差額は、当期の段階取得に係る損益として処理します(企業結合に関する会計基準 第25項)。持分法適用関連会社と企業結合した場合には、比較対象となる原価の合計額は持分法による評価額を指します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第46-2項)。

取得関連費用と株式交付費の区別

外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等の取得関連費用は、取得原価に含めず、発生した事業年度の費用として処理します(企業結合に関する会計基準 第26項)。仲介手数料やデューデリジェンス費用を取得原価に含めてしまう誤りは、実務で見られる典型的な落とし穴です。たとえば上記の企業結合に際してデューデリジェンス費用と仲介手数料の合計30,000千円を支払った場合、この30,000千円はのれんの金額を増やさず、支払手数料などの科目で支払時の費用として損益計算書に計上されます。

これと混同しやすいのが株式交付費です。企業結合に際して株式の交付に伴い発生する費用(登録免許税、証券会社への業務委託手数料等)は、支払対価の種類に影響される財務的な活動としての性格が強い支出と考えられるため、取得原価には含めず、別途、株式交付費として会計処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第49項)。同じ「M&Aに関連して支払った費用」であっても、根拠となる定めと表示が異なる点に注意が必要です。

条件付取得対価(アーンアウト)の取扱い

条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合には、対価の交付または引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、支払対価を取得原価として追加的に認識するとともに、のれんを追加的に認識するか負ののれんを減額します(企業結合に関する会計基準 第27項)。企業結合日時点でのれんを見積り計上するのではなく、条件の充足が確実になった時点で処理する点が特徴です。

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ステップ3 取得原価の配分(PPA)

取得原価は、被取得企業から受け入れた資産および引き受けた負債のうち企業結合日時点で識別可能なもの(識別可能資産・負債)の企業結合日時点の時価を基礎として、当該資産・負債に対して企業結合日以後1年以内に配分します(企業結合に関する会計基準 第28項)。この手続がいわゆる取得原価の配分(PPA:Purchase Price Allocation)です。配分額は、観察可能な市場価格に基づく価額を基礎とし、これがない場合には合理的に算定された価額を用います(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第53項)。

なお、被取得企業が企業結合日の前日において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って適正な帳簿価額を算定しており、かつ、その帳簿価額と企業結合日の時価との差異が重要でないと見込まれる場合には、被取得企業の適正な帳簿価額を基礎として配分額を算定できます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第54項)。小規模なグループ会社の取得では、この簡便的な取扱いが使えるかどうかを早めに確認しておくと、決算作業の負担を見通しやすくなります。

識別可能無形資産の範囲

受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱います(企業結合に関する会計基準 第29項)。ここでいう「法律上の権利」とは、産業財産権(特許権、実用新案権、商標権、意匠権)、著作権、半導体集積回路配置、商号、営業上の秘密事項、植物の新品種等をいいます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第58項)。

また「分離して譲渡可能な無形資産」とは、受け入れた資産を譲渡する意思が取得企業にあるか否かにかかわらず、企業または事業と独立して売買可能なものをいい、そのためには当該無形資産の独立した価格を合理的に算定できなければならないとされています(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第59項)。特定の無形資産に着目して企業結合が行われた場合など、企業結合の目的の1つが特定の無形資産の受入れであり、その金額が重要になると見込まれる場合には、当該無形資産は分離して譲渡可能なものとして取り扱います(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第59-2項)。

本記事は企業結合の会計処理の全体像を3ステップで整理することを目的としているため、無形資産の識別・評価の進め方や配分作業の実務的な手順といったPPAそのものの詳細は、次のコラムで解説しています。どこまで無形資産を切り出すかで迷っている場合は、あわせてご覧ください。

関連コラムPPA(取得原価の配分)とは|無形資産の識別とのれんの算定▸

企業結合に係る特定勘定

取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用または損失であって、その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合には、負債として認識します。当該負債は、原則として固定負債として表示し、その主な内容および金額を連結貸借対照表および個別貸借対照表に注記します(企業結合に関する会計基準 第30項)。この負債が「企業結合に係る特定勘定」です。認識の対象となった事象が貸借対照表日後1年内に発生することが明らかなものは、流動負債として表示します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第62項)。

計上できるのは、企業結合日において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の下で認識される識別可能負債に該当しないもののうち、企業結合日後に発生することが予測され、被取得企業に係る特定の事象に対応した費用または損失に限られます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第63項)。さらに「取得の対価の算定に反映されている場合」とは、次のいずれかの要件を満たす場合をいいます(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第64項)。

  • 当該事象およびその金額が契約条項等(結合当事企業の合意文書)で明確にされていること
  • 当該事象が契約条項等で明確にされ、当該事象に係る金額が取得の対価の算定にあたり重視された資料に含まれ、取得の対価が減額されていることを取締役会の議事録等により確認できること
  • 当該事象が取得の対価の算定にあたって考慮されていたことが企業結合日現在の事業計画等により明らかであり、かつ当該事象に係る金額が合理的に算定されること

企業結合に係る特定勘定は、認識の対象となった事象が発生した事業年度、または当該事象が発生しないことが明らかになった事業年度に取り崩します。企業結合日以後、引当金または未払金など他の負債としての認識要件を満たした場合には、他の適切な負債科目へ振り替えます。事象が発生しないことが明らかになった場合の取崩額は、原則として特別利益に計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第66項)。

取得企業の税効果会計とのれんへの影響

配分の実務で見落とされやすいのが、取得原価の配分に伴って生じる一時差異の税効果です。組織再編の形式が、事業を直接取得することとなる合併、会社分割等の場合には、取得企業は企業結合日において、被取得企業または取得した事業から生じる一時差異等に係る税金の額を、将来の事業年度において回収または支払が見込まれない額を除き、繰延税金資産または繰延税金負債として計上します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第71項)。ここでいう一時差異等には、取得原価の配分額(繰延税金資産および繰延税金負債を除きます)と課税所得計算上の資産・負債の金額との差額のほか、取得企業に引き継がれる被取得企業の税務上の繰越欠損金等が含まれます。

一方、のれん(または負ののれん)は取得原価の配分残余であるため、のれんに対する税効果は認識しません(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第72項)。したがって、無形資産を識別すると、その無形資産に係る繰延税金負債の分だけ配分される純額が小さくなり、のれんは無形資産の全額ではなく税効果控除後の金額だけ減少します。無形資産を識別したのにのれんが想定ほど減らない、という違和感はここから生じます。なお、この繰延税金資産および繰延税金負債も暫定的な会計処理の対象であり、繰延税金資産の回収可能性は取得企業の収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等により判断します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第75項)。

前提として、冒頭の例において、顧客関連資産150,000千円を識別可能無形資産として識別し、この無形資産に係る一時差異について法定実効税率30%で繰延税金負債45,000千円を認識し、さらに企業結合後に実施する事業再編に係る費用50,000千円が上記の要件を満たして企業結合に係る特定勘定に該当したものとします(単位:千円。説明を簡潔にするため、特定勘定に係る税効果は考慮していません)。配分される純額が855,000千円となるため、のれんは145,000千円に減少します。

借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
諸資産 1,400,000 諸負債 600,000
顧客関連資産 150,000 企業結合に係る特定勘定 50,000
のれん 145,000 繰延税金負債 45,000
現金預金 1,000,000
識別可能資産及び負債に配分された純額 = 1,400,000 + 150,000 − 600,000 − 50,000 − 45,000 = 855,000
のれん = 1,000,000 − 855,000 = 145,000

配分が完了しない場合の暫定的な会計処理

取得原価の配分が企業結合年度の決算日までに完了していない場合には、暫定的な会計処理を行い、その旨およびその理由を注記します(企業結合に関する会計基準 第49項)。企業結合年度の翌年度において、暫定的な会計処理の確定に伴い取得原価の当初配分額に重要な見直しがなされた場合には、その見直しがなされた事業年度において、見直しの内容および金額を注記します(企業結合に関する会計基準 第49-2項)。

のれん・負ののれんの会計処理

取得原価が、受け入れた資産および引き受けた負債に配分された純額を上回る場合には、その超過額はのれんとなり、下回る場合には、その不足額は負ののれんとなります(企業結合に関する会計基準 第31項)。のれんは資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。ただし、のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができます(企業結合に関する会計基準 第32項)。日本基準ではのれんを規則的に償却する点が、のれんを償却しないIFRSとの大きな相違点です。

前提として、上記の配分の結果生じたのれん145,000千円を、効果の及ぶ期間を10年と見積もって定額法により償却する場合の各期の仕訳は次のとおりです(単位:千円)。

各期ののれん償却額 = 145,000 ÷ 10年 = 14,500
借方科目 借方金額 貸方科目 貸方金額
のれん償却額 14,500 のれん 14,500

償却年数をどのように設定するかは、のれんの金額が大きいほど損益への影響が大きくなります。年数の決め方については、次のコラムで具体的な考え方を整理しています。

関連コラムのれんの償却期間の決め方|20年以内の年数設定と仕訳▸

償却の開始時期・表示区分と企業結合年度の減損の兆候

償却年数と並んで実務で問われるのが、いつから償却を始め、どの区分に表示するかです。のれんの償却開始時期は企業結合日であり、企業結合日にのれんを全額費用処理することはできません。償却額は販売費及び一般管理費に計上することとされ、減損処理以外の事由でのれんの償却額を特別損失に計上することはできません。償却期間および償却方法は、企業結合ごとに取得企業が決定します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第76項)。

また、のれんの未償却残高は減損処理の対象となります。特に、取得原価のうちのれんやのれん以外の無形資産に配分された金額が相対的に多額になる場合や、被取得企業の時価総額を超えて多額のプレミアムが支払われた場合、取得時に明らかに識別可能なオークションまたは入札プロセスが存在していた場合には、企業結合年度においても減損の兆候が存在すると考えられるときがあるとされています(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第77項)。買収価格が競り上がった案件ほど、取得した期の決算で減損の検討が必要になり得る点は、あらかじめ経営層と共有しておきたいところです。

一方、負ののれんが生じると見込まれる場合には、まずすべての識別可能資産・負債(企業結合に係る特定勘定を含みます)が把握されているか、また、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかを見直します。その見直しを行ってもなお負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理します(企業結合に関する会計基準 第33項)。表示上の取扱いを含めて整理すると、次のとおりです。

のれん 負ののれん
取得原価が配分された純額を上回る場合に発生 取得原価が配分された純額を下回る場合に発生
資産に計上し20年以内の効果の及ぶ期間で規則的に償却 識別可能資産・負債と配分額を見直したうえで、発生した事業年度の利益として処理
無形固定資産の区分に表示し、当期償却額は販売費及び一般管理費に表示 原則として特別利益に表示

のれんは無形固定資産の区分に表示し、その当期償却額は販売費及び一般管理費の区分に表示します(企業結合に関する会計基準 第47項)。負ののれんは、原則として特別利益に表示します(企業結合に関する会計基準 第48項)。なお、負ののれんの金額に重要性が乏しい場合には、見直しの手続を行わずに当期の利益として処理することもできます(企業結合に関する会計基準 第33項)。

負ののれんは、発生した事業年度に一括して利益となるため、損益計算書への影響が大きい論点です。見直しの手続と発生益の計上手順は、次のコラムで仕訳とあわせて解説しています。

関連コラム負ののれんの会計処理|発生益を特別利益に計上する手順と仕訳▸

企業結合の注記事項

企業結合年度において、取得とされた企業結合に係る重要な取引がある場合には、次の事項を注記します(企業結合に関する会計基準 第49項)。個々の企業結合については重要性が乏しいものの、企業結合年度における複数の企業結合全体について重要性がある場合には、企業結合の概要・取得原価の算定等に関する事項・取得原価の配分に関する事項を企業結合全体で注記します。

企業結合の概要 被取得企業の名称および事業の内容、企業結合を行った主な理由、企業結合日、企業結合の法的形式、結合後企業の名称、取得した議決権比率、取得企業を決定するに至った主な根拠
被取得企業の業績の期間 財務諸表に含まれている被取得企業または取得した事業の業績の期間
取得原価の算定等に関する事項 取得原価および対価の種類ごとの内訳、株式を交付した場合の交換比率と算定方法、条件付取得対価の内容と今後の会計処理方針、段階取得に係る損益の金額、主要な取得関連費用の内容および金額
取得原価の配分に関する事項 受け入れた資産・負債の額および主な内訳、のれん以外の無形資産に大部分が配分された場合の金額と種類別の内訳・加重平均償却期間、配分が完了していない場合はその旨と理由、のれんの金額・発生原因・償却方法・償却期間(負ののれんの場合は金額および発生原因)
比較損益情報 企業結合が当期首に完了したと仮定したときの当期の連結損益計算書への影響の概算額、算定方法および重要な前提条件(重要性が乏しい場合は省略可)

また、貸借対照表日後に完了した企業結合や、貸借対照表日後に主要条件が合意された企業結合が重要な後発事象に該当する場合にも、これらに準じて注記を行います(企業結合に関する会計基準 第55項)。上場準備の局面では、これらの注記に必要な情報を企業結合の実行時点から漏れなく整えておくことが、後の監査対応を大きく左右します。

取得法を適用しない企業結合と適用時期

企業結合に該当する取引には、共同支配企業の形成および共通支配下の取引も含めて本会計基準を適用します(企業結合に関する会計基準 第3項)。ただし、会計処理は取得法とは異なります。共同支配企業の形成では、共同支配企業は共同支配投資企業から移転する資産・負債を、移転直前に共同支配投資企業において付されていた適正な帳簿価額により計上します(企業結合に関する会計基準 第38項)。共通支配下の取引により企業集団内を移転する資産・負債も、原則として移転直前に付されていた適正な帳簿価額により計上します(企業結合に関する会計基準 第41項)。いずれも時価評価とのれんの計上を行わない点で、取得法と大きく異なります。

関連コラム共通支配下の取引とは|グループ内再編の会計処理と簿価引継ぎ▸

適用時期については、本会計基準は2003年に公表され、2006年4月1日以後実施される企業結合から適用されました(企業結合に関する会計基準 第56項)。その後、2008年改正会計基準は2010年4月1日以後実施される企業結合から適用され(企業結合に関する会計基準 第57項)、2013年改正会計基準は原則として2015年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されています(企業結合に関する会計基準 第58-2項)。

最新の改正は2019年改正会計基準で、2019年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される企業結合から適用されています(企業結合に関する会計基準 第58-3項)。適用初年度において、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われました(企業結合に関する会計基準 第58-4項)。また、適用指針についても、リースに関する会計基準(企業会計基準第34号)の公表に伴う改正が行われ、リースに係る使用権資産およびリース負債への取得原価の配分の定めが追加されています(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第61-2項、第61-3項)。企業結合の対象会社がリース契約を有する場合には、この定めを踏まえた配分が必要です。

実務で陥りやすい落とし穴

企業結合会計では、次の論点で判断を誤りやすいため、あらかじめ整理しておくことをおすすめします。いずれものれんの金額や損益計算書の区分に直接影響します。

  • 仲介手数料やデューデリジェンス費用などの取得関連費用を取得原価に含めてしまうこと。原則は発生した事業年度の費用処理です。
  • 株式の交付に伴う登録免許税・業務委託手数料を取得関連費用と同列に扱うこと。これらは株式交付費として別に処理します。
  • 取得企業の決定を対価の形式だけで判断し、逆取得の可能性を見落とすこと。議決権比率や意思決定機関の支配関係を総合的に勘案する必要があります。
  • 識別可能無形資産の把握が不十分となり、本来は無形資産として計上すべき価値をのれんに含めてしまうこと。
  • 識別した無形資産に係る繰延税金負債の認識を忘れ、のれんの金額を過小に計上すること。のれん自体に税効果は認識しません。
  • 企業結合後の事業再編費用を、要件を確認しないまま企業結合に係る特定勘定として計上すること。契約条項や事業計画による裏付けが必要です。
  • 段階取得における個別財務諸表と連結財務諸表の算定方法の相違を見落とすこと。連結上は企業結合日の時価で算定し、差額を段階取得に係る損益として処理します。

まとめ

企業結合の会計処理は、取得企業の決定、支払対価の時価による取得原価の算定、識別可能資産・負債への取得原価の配分という3ステップで進み、配分後の差額がのれんまたは負ののれんとなります。取得関連費用と株式交付費の区別、識別可能無形資産の切り出しとそれに係る繰延税金負債の認識、企業結合に係る特定勘定の要件、段階取得における個別と連結の相違など、判断を要する論点が多いのが特徴です。配分は企業結合日以後1年以内に行い、完了しない場合は暫定的な会計処理として注記します。のれんは企業結合日から20年以内の効果の及ぶ期間にわたり販売費及び一般管理費として償却し、配分額が相対的に多額な場合には企業結合年度から減損の兆候の検討が必要になります。個別の企業結合は事実関係により結論が変わり得るため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。

参考文献

よくある質問

取得法とパーチェス法は違うものですか。

同じ会計処理を指します。共同支配企業の形成および共通支配下の取引以外の企業結合は取得となり、その場合の会計処理が定められていますが、このうち取得企業の決定から負ののれんの処理までの一連の会計処理が「パーチェス法」と呼ばれています(企業結合に関する会計基準 第17項)。取得の会計処理=取得法=パーチェス法と理解して差し支えありません。

企業結合に係る特定勘定とは何ですか。

取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用または損失であって、その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合に、負債として認識するものです。原則として固定負債に表示し、主な内容および金額を注記します(企業結合に関する会計基準 第30項)。計上には、対象事象が契約条項等で明確にされているなどの要件を満たす必要があります(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第64項)。

取得原価の配分(PPA)はいつまでに行う必要がありますか。

識別可能資産・負債の企業結合日時点の時価を基礎として、企業結合日以後1年以内に配分します(企業結合に関する会計基準 第28項)。企業結合年度の決算日までに配分が完了していない場合には、暫定的な会計処理を行い、その旨と理由を注記します(企業結合に関する会計基準 第49項)。

のれんは何年で償却しますか。

20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。のれんの金額に重要性が乏しい場合には、発生した事業年度の費用として処理することもできます(企業結合に関する会計基準 第32項)。この点は、のれんを償却しないIFRSと異なります。

無形資産を識別すると、のれんはその金額だけ減りますか。

減るとは限りません。識別した無形資産に係る一時差異について繰延税金負債を計上するため、配分される純額は無形資産の額から繰延税金負債の額を控除した金額だけ増加し、のれんはその分だけ減少します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第71項)。のれん自体は取得原価の配分残余であるため、のれんに対する税効果は認識しません(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第72項)。

M&Aの仲介手数料やデューデリジェンス費用は取得原価に含めますか。

含めません。外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等の取得関連費用は、発生した事業年度の費用として処理します(企業結合に関する会計基準 第26項)。なお、株式の交付に伴い発生する登録免許税や証券会社への業務委託手数料は、取得原価に含めず株式交付費として処理します(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第49項)。

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