企業結合に関する会計基準(企業会計基準第21号)は、合併や株式取得などのM&Aを財務諸表にどう反映するかを定めた基準です。共同支配企業の形成や共通支配下の取引を除く企業結合は「取得」となり、取得した側が被取得企業の資産・負債を時価で受け入れる取得法(パーチェス法)で会計処理します企業会計基準委員会 企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準。実務の要点は、取得企業の決定、取得原価の算定、取得原価の配分(PPA)、そして生じたのれんの償却という一連の流れを正しく押さえることにあります。
本稿では、M&Aや組織再編、上場準備に携わる実務者・経営者に向けて、取得法の全体像と判断のポイントを公認会計士の視点で整理します。
企業結合の会計処理の全体像(取得法)
企業結合とは、ある企業と他の企業が1つの報告単位に統合されることをいいます。企業結合のうち、共同支配企業の形成および共通支配下の取引以外のものは「取得」に該当し、取得法によって会計処理します企業会計基準委員会 企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準。取得法とは、取得企業が支払った対価を基礎に被取得企業の資産・負債を時価評価して受け入れ、その差額をのれん(または負ののれん)とする方法です。
取得法における実務の流れと会計処理の骨格は、次のとおり整理できます。
| 会計処理の方法 | 取得法(パーチェス法) |
|---|---|
| 取得原価 | 支払対価となる財の企業結合日における時価 |
| 取得関連費用 | 発生した事業年度の費用として処理 |
| 取得原価の配分 | 識別可能資産・負債の企業結合日の時価を基礎に、企業結合日以後1年以内に配分 |
| のれん | 資産計上し、20年以内の効果の及ぶ期間にわたり規則的に償却 |
| 負ののれん | 見直しを行った後、発生した事業年度の利益として処理 |
取得企業の決定
取得とされた企業結合では、いずれかの結合当事企業を取得企業として決定する必要があります。被取得企業の支配を獲得することとなる取得企業を決定するにあたっては、企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」の考え方を用います企業会計基準委員会 企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準。連結会計基準の考え方によってどちらが取得企業となるか明確でない場合には、対価の種類や議決権比率などの要素を総合的に勘案します。
主な対価が現金その他の資産の場合には、通常、その資産を引き渡す企業が取得企業となります。一方、主な対価が株式の場合には、通常、株式を交付する企業が取得企業となりますが、必ずしも株式を交付した企業が取得企業とならない「逆取得」もあるため注意が必要です。株式が対価の場合には、結合後企業の議決権比率、取締役等を選解任できる株主の存在、取締役会等の構成、株式の交換条件などを総合的に勘案して判断します。
実務では、規模の近い企業同士が株式を対価に統合するケースで取得企業の判定が論点になりやすく、結合後の相対的な議決権比率や意思決定機関の実質的な支配関係を丁寧に検討することが求められます。上場準備の局面では、グループ内再編の対価設計が取得企業の判定や後続の会計処理に影響するため、早い段階での整理が有効です。
取得原価の算定(段階取得・取得関連費用)
被取得企業または取得した事業の取得原価は、原則として、取得の対価(支払対価)となる財の企業結合日における時価で算定します企業会計基準委員会 企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準。市場価格のある取得企業等の株式が対価として交付される場合には、取得の対価となる財の時価は、原則として企業結合日における株価を基礎にして算定します。
複数の取引を経て段階的に支配を獲得する「段階取得」では、個別財務諸表と連結財務諸表で取得原価の算定方法が異なります。個別財務諸表上は、支配を獲得するに至った個々の取引ごとの原価の合計額をもって取得原価とします。これに対して連結財務諸表上は、支配を獲得するに至った個々の取引すべてを企業結合日における時価で算定し、当該取得原価と原価の合計額との差額は、当期の段階取得に係る損益として処理します。
また、外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料などの取得関連費用は、取得原価に含めず、発生した事業年度の費用として処理します。M&Aのデューデリジェンス費用や仲介手数料を取得原価に含めてしまう誤りは実務で見られる典型的な落とし穴であり、費用処理が原則である点を押さえておく必要があります。
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取得原価の配分(PPA)と識別可能無形資産
取得原価は、被取得企業から受け入れた資産および引き受けた負債のうち企業結合日時点で識別可能なもの(識別可能資産・負債)の企業結合日時点の時価を基礎として、当該資産・負債に対して企業結合日以後1年以内に配分します企業会計基準委員会 企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準。この配分手続がいわゆる取得原価の配分(PPA:Purchase Price Allocation)であり、企業結合会計の実務上の中心的な作業となります。
受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱います。実務では、顧客関連資産・技術資産・商標などの無形資産を貸借対照表に計上済みか否かにかかわらず識別・評価する必要があり、外部の評価専門家を関与させるケースも少なくありません。取得原価の配分が期末までに完了していない場合には、暫定的な会計処理を行い、その旨と理由を注記します。
取得原価が識別可能資産・負債に配分された純額を上回る場合、その超過額はのれんとなり、下回る場合、その不足額は負ののれんとなります。関係を式で示すと次のとおりです。
のれん・負ののれんの会計処理
のれんは、資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。ただし、のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができます企業会計基準委員会 企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準。表示上、のれんは無形固定資産の区分に表示し、その当期償却額は販売費及び一般管理費の区分に表示します。日本基準ではのれんを規則的に償却する点が、のれんを償却しないIFRSとの大きな相違点です。
一方、負ののれんが生じると見込まれる場合には、まずすべての識別可能資産・負債が把握されているか、また取得原価の配分が適切に行われているかを見直します。その見直しを行ってもなお負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理し、原則として特別利益に表示します。のれんと負ののれんの取扱いを整理すると次のとおりです。
| のれん | 負ののれん |
|---|---|
| 取得原価が配分純額を上回る場合に発生 | 取得原価が配分純額を下回る場合に発生 |
| 資産計上し20年以内で規則的に償却 | 見直し後、発生年度の利益として処理 |
| 無形固定資産に表示、償却額は販管費 | 原則として特別利益に表示 |
計上したのれんは償却を通じて費用化されるほか、収益性の低下により減損の対象にもなります。のれんの減損の実務については、以下のコラムも参考にしてください。
関連コラム共用資産とのれんの減損処理を徹底解説!実務ケースと算定手順▸
関連コラムIFRSのれんを徹底解説!日本基準との違いや非償却の理由、会計処理▸
開示と適用時期
取得とされた企業結合に係る重要な取引がある場合には、企業結合の概要、取得原価の算定に関する事項、取得原価の配分に関する事項などを注記します。特に取得原価の配分に関しては、企業結合日に受け入れた資産・負債の額と主な内訳、のれん以外の無形資産に配分された金額とその主な種類別の内訳・加重平均償却期間、発生したのれんの金額・発生原因・償却方法・償却期間などの開示が求められます企業会計基準委員会 企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準。上場準備の局面では、これらの注記に必要な情報を企業結合の実行時点から漏れなく整えておくことが重要です。
適用時期については、本会計基準は平成15年に公表され、平成18年4月1日以後実施される企業結合から適用されました。その後、平成20年改正は平成22年4月1日以後実施される企業結合から、平成25年改正は原則として平成27年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されています企業会計基準委員会 企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準。
実務で陥りやすい落とし穴
企業結合会計では、次のような論点で判断を誤りやすいため、あらかじめ整理しておくことをおすすめします。
- 取得関連費用(仲介手数料・デューデリジェンス費用等)を取得原価に含めてしまう誤り。原則は発生年度の費用処理です。
- 取得企業の決定を対価の形式だけで判断し、逆取得の可能性を見落とすこと。議決権比率や意思決定機関の支配関係を総合的に勘案する必要があります。
- 取得原価の配分(PPA)で識別可能無形資産の把握が不十分となり、本来は無形資産として計上すべき価値をのれんに含めてしまうこと。
- 段階取得における個別財務諸表と連結財務諸表の取得原価の算定方法の相違を見落とすこと。連結上は企業結合日の時価で算定し、差額を段階取得に係る損益として処理します。
まとめ
企業結合に関する会計基準では、共同支配企業の形成と共通支配下の取引を除く企業結合は取得となり、取得法により会計処理します。実務では、取得企業の決定、支払対価の時価による取得原価の算定、識別可能資産・負債への取得原価の配分(PPA)、そして生じたのれんの20年以内での規則的償却という流れを正確に押さえることが要点です。取得関連費用の費用処理や逆取得の判定、無形資産の識別など、判断を要する論点が多いのが特徴です。個別の企業結合は事実関係により結論が変わり得るため、具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
参考文献
よくある質問
企業結合の会計処理で用いる取得法(パーチェス法)とは何ですか。
取得法とは、取得企業が支払った対価を基礎に被取得企業の資産・負債を企業結合日の時価で受け入れ、その差額をのれん(または負ののれん)として処理する方法です。共同支配企業の形成および共通支配下の取引以外の企業結合は取得となり、取得法で会計処理します。
取得原価の配分(PPA)はいつまでに行う必要がありますか。
取得原価は、識別可能資産・負債の企業結合日時点の時価を基礎として、企業結合日以後1年以内に配分します。期末までに配分が完了していない場合には暫定的な会計処理を行い、その旨と理由を注記します。
のれんは償却しますか。
日本基準では、のれんは資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって定額法その他の合理的な方法により規則的に償却します。金額に重要性が乏しい場合には、発生した事業年度の費用として処理することもできます。この点は、のれんを償却しないIFRSと異なります。
M&Aの仲介手数料やデューデリジェンス費用は取得原価に含めますか。
外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料などの取得関連費用は、取得原価には含めず、発生した事業年度の費用として処理します。
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