収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)は、顧客との契約から生じる収益を「5ステップ」の手順で認識するためのフレームワークです。結論から言えば、収益は「約束した財やサービス(履行義務)を顧客に移転した時点、または移転するにつれて認識する」という考え方に統一されました。従来の実現主義による包括的な定めに代わり、契約単位で収益をいつ・いくら計上するかを判断する枠組みが導入されています。
この基準は2018年3月に公表され、2020年3月の改正で注記や表示の定めが追加されたうえで、2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度から原則適用されています。企業会計基準委員会 改正企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準等の公表本記事では、上場準備企業の経理・財務のご担当者に向けて、公認会計士事務所の実務視点から5ステップの全体像と各ステップの判断ポイント、実務上の落とし穴を整理します。
収益認識に関する会計基準の全体像
収益認識に関する会計基準は、企業会計基準第29号を本体とし、実務上の具体的な取扱いを企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」で補完する構成になっています。まずは基準の狙いと適用対象を押さえることが、個別論点の判断を誤らないための出発点です。
基準の目的と適用範囲
本基準の目的は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理と開示について定めることにあります。原則として顧客との契約から生じる収益に適用されますが、いくつかの取引は適用範囲から除かれます。代表的なものとして、金融商品会計基準の対象となる金融商品に係る取引、リース会計基準の対象となるリース取引、保険契約、同業他社との棚卸資産の交換取引などが挙げられます。企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準等の公表
ここで言う「顧客」とは、企業の通常の営業活動により生じたアウトプットである財またはサービスを対価と交換に得るために、企業と契約した当事者を指します。したがって、対価が顧客以外の第三者から支払われる取引や、リスクを共有する共同研究のような取引は、そもそも本基準の対象になるかどうかから検討する必要があります。
適用時期と早期適用
適用時期は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から原則適用です。2020年改正では、それまで積み残されていた注記事項や表示(収益の分解情報、契約資産と顧客との契約から生じた債権の区分表示など)に関する定めが追加されました。企業会計基準委員会 改正企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準等の公表
上場準備企業では、監査対象期間や申請期をにらんで早い段階から適用状況を整えておくことが重要です。会計方針の決定、システム対応、内部統制の整備には相応の準備期間を要するため、収益の計上パターンが複雑な事業ほど前倒しでの検討をおすすめします。
収益認識 会計基準の5ステップ
本基準の中核が、収益を認識するための5つのステップです。契約の識別から収益の認識まで、一連の手順を順番に適用することで、いつ・いくらの収益を計上するかを判断します。まず全体像を一覧で確認します。
| ステップ1 契約の識別 |
顧客との契約を識別します。当事者が契約を承認し、権利・支払条件が特定でき、経済的実質があり、対価の回収可能性が高いことなどが要件です。 |
|---|---|
| ステップ2 履行義務の識別 |
契約における履行義務を識別します。財やサービスが「別個のもの」かどうかで、単位を分けるか一体で扱うかを判断します。 |
| ステップ3 取引価格の算定 |
取引価格を算定します。変動対価、重要な金融要素、現物対価、顧客に支払われる対価を考慮します。 |
| ステップ4 取引価格の配分 |
各履行義務に取引価格を配分します。原則として独立販売価格の比率で配分します。 |
| ステップ5 収益の認識 |
履行義務を充足した時に、または充足するにつれて収益を認識します。一時点か一定期間かを判定します。 |
この5ステップは「顧客との契約を識別する」「契約における履行義務を識別する」「取引価格を算定する」「契約における履行義務に取引価格を配分する」「履行義務を充足した時にまたは充足するにつれて収益を認識する」という順序で構成されています。企業会計基準委員会 企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準等の公表
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各ステップの実務判断と落とし穴
5ステップは一見シンプルですが、実務では判断を要する論点が各所に潜んでいます。ここでは、上場準備の局面で監査上の論点になりやすいポイントを整理します。
履行義務の識別における単位の判断
ステップ2では、契約に含まれる財やサービスを「別個のもの」として区分するか、一体の履行義務として扱うかが論点になります。例えば、ソフトウェアのライセンス提供と、その後の保守サービスやカスタマイズを一括で契約する場合、それぞれが顧客にとって単独で便益を得られるかどうかを検討します。単位の切り分けを誤ると、収益の計上時期そのものがずれてしまいます。
変動対価と取引価格の見積り
ステップ3では、値引き、リベート、返品権、業績連動のインセンティブなど、対価が変動する可能性がある「変動対価」の見積りが必要になります。変動対価は、計上した収益の著しい減額が生じない可能性が高い部分に限って取引価格に含めるという制約があります。見積りが過大だと、後に収益の取消しが発生するリスクがある点に注意が必要です。
独立販売価格に基づく配分
ステップ4では、複数の履行義務がある契約について、取引価格を各履行義務へ配分します。原則は独立販売価格の比率による配分です。独立販売価格が直接観察できない場合は、市場評価アプローチや予想コストに利益相当額を加算する方法などで見積ります。計算式で示すと次のとおりです。
一時点か一定期間かの判定
ステップ5では、履行義務を「一時点で充足する」か「一定の期間にわたり充足する」かを判定します。一定の期間にわたり充足すると判断される場合は、進捗度を見積って収益を認識します。物品の販売は一時点、長期の工事契約やサブスクリプション型のサービスは一定期間となることが多く、事業モデルごとに丁寧な当てはめが求められます。この判定は収益計上のタイミングを大きく左右するため、監査上も重点的に確認される領域です。
開示(注記)と表示の実務
2020年の改正により、収益認識に関する注記と表示の定めが整備されました。財務諸表利用者が収益の性質、金額、時期および不確実性を理解できるようにすることが開示の目的です。具体的には、収益を財やサービスの種類・地域・契約類型などの区分で分解して示す「収益の分解情報」や、契約資産・契約負債の残高情報などが求められます。企業会計基準委員会 改正企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準等の公表
表示面では、顧客との契約から生じた債権と契約資産を区分すること、契約負債を適切に表示することなどが論点になります。開示は決算作業の終盤に集中しがちですが、必要なデータを日常の販売管理プロセスから取得できる体制を、あらかじめ整えておくことが実務のポイントです。
収益認識の適用は、会計方針の選択だけでなく、契約書のレビュー、システム設計、内部統制の整備までを横断する論点です。具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)は、契約の識別・履行義務の識別・取引価格の算定・取引価格の配分・収益の認識という5ステップで収益を計上する枠組みです。2021年4月1日以後開始する事業年度から原則適用され、2020年改正で注記・表示の定めも整いました。実務では、履行義務の単位、変動対価の見積り、独立販売価格による配分、一時点か一定期間かの判定が判断の要所となります。上場準備企業では、会計処理の設計と開示・内部統制の整備を早期に進めることが、円滑な適用の鍵になります。