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IFRS概念フレームワーク第6章「測定」の規定と実務対応

2025-03-24
目次

財務報告において、資産や負債などの各要素を財務諸表に認識するためには、貨幣金額で定量化するプロセスが不可欠です。国際財務報告基準(IFRS)の「財務報告に関する概念フレームワーク」第6章では、この「測定」に関する包括的な指針を提供しています。本記事では、第6.1項から第6.95項までの規定の詳細、基準設定の背景にある結論の根拠、および製造業における具体的なケーススタディを通じて、実務における測定基礎の選択と適用方法を詳細に解説いたします。

財務報告における「測定」に関する規定の詳細

測定基礎の種類と歴史的原価の適用

財務諸表の構成要素を貨幣で定量化するためには、対象項目の識別された特徴である測定基礎を選択する必要があります(概念フレームワーク第6.1項)。有用な財務情報の質的特性とコストの制約を考慮すると、すべての項目に単一の測定基礎を適用するのではなく、異なる資産や負債について異なる測定基礎を選択する可能性が高くなります(概念フレームワーク第6.2項)。

測定基礎は大きく歴史的原価現在の価値に分類されます。歴史的原価は、資産や負債を生じさせた取引価格から導き出された情報を提供し、減損や負債が不利となる場合を除いて価値の変動を反映しません(概念フレームワーク第6.4項)。資産の歴史的原価は取得時の対価に取引コストを加算した金額であり、負債の歴史的原価は受取対価から取引コストを控除した金額となります(概念フレームワーク第6.5項)。

測定基礎の分類 特徴と具体例
歴史的原価 取引価格から導出。資産は取得対価+取引コスト。時の経過による消費や減損を反映して更新される(概念フレームワーク第6.5項、第6.7項)。金融資産の償却原価もこれに含まれる(概念フレームワーク第6.9項)。
現在の価値 測定日現在の状況を反映して更新される情報。過去の取引価格からは導出されない。公正価値、使用価値、現在原価が含まれる(概念フレームワーク第6.10項、第6.11項)。

現在の価値(公正価値・使用価値・現在原価)の定義

現在の価値は、測定日における最新の状況を反映する測定基礎であり、以下の3つに細分化されます。

第一に公正価値です。これは測定日における市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却して受け取る価格、又は負債を移転するために支払う価格を指します(概念フレームワーク第6.12項)。公正価値は市場参加者の観点を反映し、取得時や処分時の取引コストは含みません(概念フレームワーク第6.13項、第6.16項)。

第二に使用価値及び履行価値です。使用価値は資産の継続的使用と処分から得られるキャッシュ・フローの現在価値であり、履行価値は負債を履行するために移転される資源の現在価値です(概念フレームワーク第6.17項)。これらは市場参加者ではなく企業固有の仮定を反映し、処分時・履行時の取引コストを含みます(概念フレームワーク第6.18項、第6.19項)。

第三に現在原価であり、測定日において同等の資産を取得する原価、又は同等の負債を引き受ける対価を指します(概念フレームワーク第6.21項)。

現在の価値の種類 観点と取引コストの取扱い
公正価値 市場参加者の観点。取得時および処分時の取引コストは反映しない(概念フレームワーク第6.13項、第6.16項)。
使用価値・履行価値 企業固有の観点。取得時の取引コストは含まず、処分時・履行時の取引コストを含む(概念フレームワーク第6.18項、第6.19項)。

測定基礎が提供する情報と選択時に考慮すべき要因

測定基礎を選択する際は、財政状態と財務業績の両方にもたらす情報を考慮し、最も関連性の高い情報から検討を開始します(概念フレームワーク第6.43項〜第6.45項)。

歴史的原価は、取引価格から導出されるため高い関連性を持ち、資産の消費費用と関連収益を対応させることで差益(マージン)に関する情報を提供します(概念フレームワーク第6.24項、第6.27項〜第6.29項)。一方、公正価値は市場参加者の予想とリスク選好を反映し、予測価値と確認価値を有します(概念フレームワーク第6.32項)。

選択においては、キャッシュ・フローの変動可能性などの「資産又は負債の特徴」(概念フレームワーク第6.49項〜第6.53項)や「将来キャッシュ・フローへの寄与」が重要です。例えば、有形固定資産のように組み合わせて間接的にキャッシュ・フローを生む資産には歴史的原価が適しており(概念フレームワーク第6.55項)、単独で直接キャッシュ・フローを生む資産には現在の価値が適しています(概念フレームワーク第6.56項)。また、会計上のミスマッチを防ぐための忠実な表現や、比較可能性、検証可能性、理解可能性、およびコストの制約も総合的に考慮する必要があります(概念フレームワーク第6.58項、第6.64項〜第6.68項)。

基準設定の背景と結論の根拠

混合測定アプローチの採用と測定基礎の分類

2018年の概念フレームワーク改訂において、測定に関する包括的な指針が導入されました。一部の利害関係者からは、すべての項目に歴史的原価または公正価値といった単一の測定基礎を適用すべきとの意見が寄せられました(概念フレームワークBC6.5項〜BC6.9項)。しかし、国際会計基準審議会(IASB)は、状況によって異なる測定基礎のほうが利用者に有用な情報を提供すると判断し、複数の測定基礎を認める混合測定アプローチを採用しました(概念フレームワークBC6.10項、BC6.11項)。

また、キャッシュ・フローを基礎とした測定は単なる技法であり別個の測定基礎ではないこと(概念フレームワークBC6.13項)、「入口価値」と「出口価値」の区分は基準設定に有用ではないこと(概念フレームワークBC6.14項)が整理されました。

基準設定における主な論点 IASBの結論(結論の根拠)
単一測定 vs 混合測定 状況に応じて有用な情報(理解可能性、検証可能性、コスト等)が異なるため、複数の基礎を認める混合測定アプローチを採用(概念フレームワークBC6.10項)。
使用価値の位置づけ 減損テストで歴史的原価の回収可能性判定に使われるが、概念的には別個の「現在の価値」の測定基礎として位置づけた(概念フレームワークBC6.25項)。

測定基礎の選択要因と持分の測定に関する整理

測定基礎を選択する際、どの要因を優先すべきかというヒエラルキーを設けることは不可能であると結論付けられました(概念フレームワークBC6.35項)。その代わり、企業の事業活動の性質が将来キャッシュ・フローへの寄与に影響を与えるため、これを測定基礎選択の考慮事項に含めることが決定されました(概念フレームワークBC6.38項〜BC6.41項)。

さらに、測定の不確実性が許容できないほど高い場合は忠実な表現を提供しないため、他の測定基礎の使用を検討すべきとされました(概念フレームワークBC6.44項、BC6.45項)。持分に関しては、合計額は資産から負債を控除した残余として測定されるため企業の市場価値とは一致しませんが(概念フレームワーク第6.87項、第6.88項)、優先株などの個々の持分クラスを直接測定することは有用な情報を提供すると結論付けられました(概念フレームワークBC6.52項〜BC6.55項)。

製品製造業における具体的なケーススタディ

事業活動に基づく関連性と測定基礎の選択

企業Aが原材料を10,000千円で購入し、自社の工場(有形固定資産、取得原価100,000千円)で加工して製品を製造・販売する事業活動を想定します。

企業Aの工場や棚卸資産は、それ単独で市場で売却されて直接キャッシュ・フローを生むわけではありません。これらは組み合わせて使用され、「財を生産し顧客に販売する」という事業活動を通じて間接的にキャッシュ・フローを生み出します(概念フレームワーク第6.54項)。したがって、これらの資産の測定においては、市場の出口価値(公正価値)よりも、インプットのコストを示す歴史的原価が最も関連性の高い情報を提供します(概念フレームワーク第6.55項、BC6.38項)。

資産の種類 キャッシュ・フローの生み出し方と適切な測定基礎
工場設備(有形固定資産) 他の資産と組み合わせて間接的にキャッシュ・フローを生む。歴史的原価が適切(概念フレームワーク第6.54項、第6.55項)。
製品(棚卸資産) 事業活動を通じて販売され間接的にキャッシュ・フローを生む。歴史的原価が適切(概念フレームワーク第6.54項、第6.55項)。

歴史的原価による事後測定とマージンの提供

工場設備は取得時の歴史的原価100,000千円で当初測定され、時の経過に伴い減価償却(資源の消費)を通じて帳簿価額が更新されます。例えば当期の減価償却費が10,000千円であれば、帳簿価額は90,000千円となります(概念フレームワーク第6.7項(a))。

製造された製品が顧客に15,000千円で販売された際、企業Aは販売対価を収益として認識し、同時に消費された棚卸資産の歴史的原価10,000千円を費用(売上原価)として認識します(概念フレームワーク第6.27項)。この収益と費用の差額である5,000千円が「当期のマージン(差益)」として報告されます(概念フレームワーク第6.28項)。財務諸表利用者は、このマージン情報を用いて、企業Aの将来の利益創出能力(予測価値)や、経営者が資源を効率的に活用したか(受託責任)を評価することができます(概念フレームワーク第6.30項)。

使用価値を用いた減損の評価

もし市況が急激に悪化し、工場で製造する製品が全く売れなくなった場合、工場設備の歴史的原価90,000千円を将来の収益で回収できない可能性が生じます。この場合、企業Aは企業固有の仮定に基づく将来キャッシュ・フローの現在価値である使用価値を見積もります(概念フレームワーク第6.19項)。

工場単体でのキャッシュ・フローの見積りは困難なため、製品を生み出す資産グループ単位で見積もります。このプロセスは主観的で恣意的になりやすいため日常的な測定基礎としては実務的ではありませんが(概念フレームワーク第6.75項)、歴史的原価が回収可能かどうか(減損しているか)を判定する臨時的な測定においては極めて有用な情報を提供します(概念フレームワーク第6.75項、BC6.25項)。見積もられた使用価値が60,000千円であった場合、回収不能と判断され、歴史的原価の帳簿価額は30,000千円の減損を反映して60,000千円に更新(減額)されます(概念フレームワーク第6.7項(c))。

まとめ

IFRSの「財務報告に関する概念フレームワーク」第6章における「測定」の規定は、財務諸表の構成要素を適切に定量化するための根幹を成すものです。歴史的原価と現在の価値(公正価値、使用価値、現在原価)という複数の測定基礎を認める混合測定アプローチにより、資産や負債の特徴および事業活動の性質に応じた最も関連性の高い情報が提供されます。実務においては、資産がどのようにキャッシュ・フローに寄与するかを見極め、コストと便益のバランスを考慮しながら、忠実な表現を実現する測定基礎を選択することが求められます。

IFRS概念フレームワーク「測定」のよくある質問まとめ

Q.財務諸表における測定基礎とは何ですか?

A.財務諸表の構成要素を貨幣金額で定量化するための、対象項目の識別された特徴(歴史的原価や公正価値など)を指します(概念フレームワーク第6.1項)。

Q.歴史的原価と現在の価値の主な違いは何ですか?

A.歴史的原価は過去の取引価格から導出され価値の変動を原則反映しないのに対し、現在の価値は測定日現在の状況を反映して更新され、過去の取引価格からは導出されません(概念フレームワーク第6.4項、第6.10項)。

Q.公正価値と使用価値の違いは何ですか?

A.公正価値が市場参加者の観点を反映し取引コストを含まないのに対し、使用価値は企業固有の仮定を反映し処分時の取引コストを含みます(概念フレームワーク第6.13項、第6.16項、第6.18項、第6.19項)。

Q.測定基礎の選択において考慮すべき重要な要因は何ですか?

A.資産や負債の特徴、将来キャッシュ・フローへの寄与の仕方、会計上のミスマッチを防ぐための忠実な表現、およびコストの制約などを総合的に考慮します(概念フレームワーク第6.49項、第6.54項、第6.58項、第6.64項)。

Q.なぜ単一の測定基礎ではなく混合測定アプローチが採用されたのですか?

A.すべての項目に単一の基礎を適用するよりも、状況に応じて異なる測定基礎を使用する方が、利用者にとって理解しやすく検証可能な有用な情報を提供できると判断されたためです(概念フレームワークBC6.10項)。

Q.有形固定資産の減損評価において使用価値が用いられる理由は何ですか?

A.使用価値の算定は主観的になりやすいものの、歴史的原価が将来のキャッシュ・フローによって回収可能かどうかを判定する臨時的な測定においては極めて有用な情報を提供するためです(概念フレームワーク第6.75項、BC6.25項)。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
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電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。