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固定資産の減損会計とは?基準と適用指針を公認会計士が解説

2026-01-30
目次

事業用の固定資産は、通常、事業に使用されることで市場平均を超える成果を期待して保有されています。そのため、時価が変動したからといって直ちに投資の価値が変動するわけではなく、取得原価から減価償却等を控除した金額で評価することが原則です。しかし、収益性が予想を大きく下回り、投下資金の回収が見込めなくなった状態においてまで過大な帳簿価額を維持することは、将来へ損失を繰り延べることになります。本記事では、「固定資産の減損に係る会計基準」および「適用指針」に基づき、減損会計の対象資産、認識プロセス、測定方法、開示要件などを公認会計士の視点から詳細に解説いたします。

減損会計の基礎知識と導入背景

減損会計の基本的考え方と背景

減損処理とは、収益性が低下し投資額の回収が見込めなくなった状態において、一定の条件の下で資産の回収可能性を帳簿価額に反映させる臨時的な減額処理を指します。かつての日本では、不動産価格や収益性が著しく低下しているにもかかわらず明確な処理基準が存在せず、帳簿価額が過大に表示され財務諸表の信頼性が損なわれていました。こうした社会的批判への対応と、会計基準の国際的調和を図る目的で本基準が導入されました(減損会計意見書 二、三 1、3)。

項目 内容
原則的な評価 取得原価から減価償却累計額等を控除した金額で評価
減損処理の性質 将来に損失を繰り延べないための臨時的な帳簿価額の切り下げ

減損会計の対象となる資産

減損会計の対象となる固定資産は、有形固定資産、無形固定資産、及び投資その他の資産です。ただし、他の会計基準において既に時価評価や回収可能性の検討などの独自の定めがある資産については、評価の二重計上や実務上の混乱を避けるため、本基準の適用対象から除外されます(減損会計基準 一、注1、企業会計基準適用指針第6号第5項、第6項)。

区分 具体例
対象となる資産 建物、機械装置、土地、のれん、特許権など
対象外となる資産 金融資産、繰延税金資産、退職給付に係る資産、市場販売目的のソフトウェアなど

資産のグルーピングの重要性

個別の機械設備が単独で収益を生み出すケースは稀であるため、減損の認識や測定は原則として個々の資産ごとではなく、「他の資産のキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位」で行います。これを資産のグルーピングと呼びます。企業は、管理会計上の区分や投資の意思決定単位を考慮して実務的かつ合理的に設定する必要があります。なお、遊休資産は他の資産から切り離されているため、原則として独立した単一の資産として扱います(減損会計基準 二 6(1)、適用指針第6号第7項、第8項)。

項目 判断基準の例
最小の単位 店舗ごと、事業部ごと、製品群ごとなど収支が独立して把握される単位
遊休資産 原則として独立した単一の資産として評価

減損損失の認識から測定までの実務プロセス

減損の兆候の把握

減損処理は、すべての資産に対して毎年精緻なテストを要求するものではなく、実務的な負担を考慮してまずは減損の兆候の有無を把握します。以下の事象が生じている場合、減損損失を認識するかどうかの判定ステップへと進みます(減損会計基準 二 1、適用指針第6号第11項)。

兆候の分類 具体的な要件・事象
損益等の継続的なマイナス 営業活動から生ずる損益が概ね過去2期連続でマイナスであり、当期も見込みであること
市場価格の著しい下落 市場価格が帳簿価額から少なくとも50%程度以上下落した場合

その他、事業の廃止や再編成といった使用範囲・方法の著しい変化、材料価格の高騰や法規制の強化といった経営環境の著しい悪化も減損の兆候として扱われます(適用指針第6号第13項、第14項)。

減損損失の認識の判定

減損の兆候が認められた資産グループについては、当該資産から得られる割引前将来キャッシュ・フローの総額が、帳簿価額を下回るかどうかで減損損失の認識を判定します。将来予測には不確実性が伴うため、割引を行わない保守的なハードルを設けています。また、将来キャッシュ・フローを見積る期間は、資産の「経済的残存使用年数」と「20年」のいずれか短い方に制限されます(減損会計基準 二 2、適用指針第6号第18項)。

判定要素 内容
判定基準 割引前将来キャッシュ・フローの総額 < 帳簿価額 の場合に減損を認識
見積り期間の制限 経済的残存使用年数と20年のいずれか短い期間

減損損失の測定と回収可能価額の算定

減損損失を認識すべきと判定された場合、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、その減少額を当期の損失とします。回収可能価額とは、「正味売却価額」と「使用価値」のいずれか高い方の金額を指します。企業にとって有利な(高い)価値を選択できるという経済的合理性に基づいています(減損会計基準 二 3、注1 1.、適用指針第6号第25項、第28項)。

価値の概念 算定方法
正味売却価額 時価(公正な評価額や不動産鑑定評価額など)から処分費用見込額を控除した金額
使用価値 継続的使用および処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値

将来キャッシュ・フローと割引率の具体的な見積り方法

将来キャッシュ・フローの見積り

将来キャッシュ・フローの見積りは、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定(取締役会等の承認を得た中期経営計画など)に基づいて行われます。現在の価値を維持するための合理的な設備投資は含めますが、計画されていない将来の設備の増強や事業再編によるキャッシュ・フローは除外します。また、支払利息や法人税等の支払額も見積りには含めません(減損会計基準 二 4、適用指針第6号第36項、第38項、第41項)。

見積りの対象 取扱い
現状維持のための設備投資 将来キャッシュ・フローの見積りに含める
支払利息や法人税等 将来キャッシュ・フローの見積りに含めない

割引率の算定

使用価値の算定に用いる割引率は、貨幣の時間価値を反映した税引前の利率を使用します。具体的には、企業に要求される借入資本コストと自己資本コストの加重平均(WACC)や、類似の資産に要求される市場平均の収益率などを総合的に勘案して決定します。将来キャッシュ・フローの見積りにおいてリスクを反映させていない場合は、割引率にリスクプレミアムを上乗せする必要があります(減損会計基準 二 5、適用指針第6号第43項、第45項)。

算定要素 内容
使用する利率 貨幣の時間価値を反映した税引前の利率
リスクの反映 キャッシュ・フローに反映しない場合は割引率にリスクプレミアムを上乗せ

特殊な資産の取扱いと処理後の対応

共用資産とのれんの取扱い

本社ビルや試験研究施設などの共用資産、および買収等で生じたのれんは、単独では独立したキャッシュ・フローを生み出しません。そのため、実務上対応可能な以下のいずれかのアプローチを選択適用して減損テストを行います(減損会計基準 二 7、8、適用指針第6号第48項、第49項)。

評価方法 概要
より大きな単位で行う方法 共用資産等を含む複数の資産グループ全体を一つの単位として判定・測定を行う
各資産グループに配分する方法 共用資産等の帳簿価額を合理的な基準で各グループに配分した上で判定・測定を行う

減損処理後の会計処理と戻入れの禁止

減損処理を行った資産については、減損損失を控除した後の帳簿価額をベースとし、その後の残存耐用年数にわたり計画的・規則的に減価償却を実施します。また、一度認識した減損損失については、その後の市況回復等により回収可能価額が帳簿価額を上回ったとしても、減損損失の戻入れは行わないと厳格に規定されています。これは、利益の恣意的な操作を防ぐための保守的なアプローチです(減損会計基準 三 1、2、適用指針第6号第55項)。

処理後の対応 内容
減価償却の実施 減損後の帳簿価額を基礎として残存耐用年数にわたり規則的に実施
戻入れの可否 その後の市況回復等があっても減損損失の戻入れは一切禁止

リースに関する取扱い(一部改正対応)

リース基準の改正により、借手は原則としてすべてのリースについて使用権資産を計上することとされたため、貸借対照表に計上された使用権資産も減損会計の対象となります。減損損失を測定するにあたっては、使用権資産を含む資産グループの未経過リース料の現在価値等を帳簿価額とみなして処理し、配分された減損損失は負債として計上して残存期間にわたり規則的に取り崩す特有の処理が行われます(減損会計基準(一部改正) 注12 1.、2.、適用指針第6号第60項、第143項)。

リース資産の対応 内容
対象資産 貸借対照表に計上された使用権資産(短期・少額リース等を除く)
損失の処理方法 使用権資産に配分された減損損失は負債に計上し、支払リース料等と相殺

財務諸表における開示と注記事項

貸借対照表及び損益計算書における表示

認識された減損損失は臨時的な事象であるため、損益計算書においては原則として特別損失として表示します。貸借対照表においては、原則として取得原価から減損損失を直接控除し、控除後の金額をその後の取得原価とする形式を採用しますが、減損損失累計額として間接控除する形式も認められています(減損会計基準 四 1、2、適用指針第6号第57項)。

財務諸表 表示方法
損益計算書 原則として特別損失の区分に計上
貸借対照表 原則として取得原価から減損損失を直接控除(間接控除等も容認)

必須となる注記事項

重要な減損損失を認識した場合には、財務諸表の注記において詳細な情報開示が求められます。これにより、投資家に対して企業の真の財政状態と経営環境の変化を透明性高く伝達することが可能となります(減損会計基準 四 3、適用指針第6号第58項)。

主な注記事項 具体的な記載内容
経緯と概要 減損損失を認識した資産の用途、種類、場所、および認識に至った経緯(収益悪化など)
算定根拠 減損損失の金額の内訳、グルーピング方法、回収可能価額の算定方法(使用した割引率など)

まとめ

固定資産の減損会計は、収益性が著しく低下した資産の帳簿価額を適正な回収可能価額まで切り下げることで、企業の真の財政状態を投資家に適時に開示するための極めて重要なプロセスです。対象資産の特定から実態に即したグルーピング、減損の兆候の把握、割引前将来キャッシュ・フローによる判定、そして厳密な測定に至るまで、会計基準および適用指針に則った正確な実務対応が求められます。特に将来キャッシュ・フローの見積りや割引率の算定には高度な専門的判断が必要となるため、客観的かつ合理的な根拠に基づく慎重な検討が不可欠です。

参考文献

企業会計審議会 固定資産の減損に係る会計基準

企業会計基準第35号 「固定資産の減損に係る会計基準」の一部改正

企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針

減損会計に関するよくある質問まとめ

Q. 減損会計の対象外となる資産は何ですか?

A. 金融商品に関する会計基準における「金融資産」や、税効果会計基準における「繰延税金資産」、退職給付に係る資産などが対象外となります。これらは他の基準で時価評価などの評価ルールが既に確立されているためです。(減損会計基準 一、注1)

Q. 資産のグルーピングはどのように行いますか?

A. 他の資産のキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行います。企業の管理会計上の区分や投資の意思決定単位を考慮して、実務的かつ合理的に決定します。(減損会計基準 二 6(1)、適用指針第6号第7項)

Q. 減損の兆候となる市場価格の下落の目安はどのくらいですか?

A. 市場価格が帳簿価額から少なくとも50%程度以上下落した場合、著しい下落として減損の兆候に該当すると判断されます。(適用指針第6号第15項、第89項)

Q. 減損損失の認識の判定に用いる期間の制限はありますか?

A. 割引前将来キャッシュ・フローを見積る期間は、対象となる資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方と規定されています。長期にわたる見積りは不確実性が高すぎるためです。(減損会計基準 二 2(2)、適用指針第6号第18項(1))

Q. 一度計上した減損損失は、その後に市況が回復した場合に戻入れできますか?

A. 日本の会計基準では、減損の存在が相当程度確実な場合に限定して損失を認識する保守的なアプローチをとっているため、その後の市況回復等があっても減損損失の戻入れは厳格に禁止されています。(減損会計基準 三 2、適用指針第6号第55項)

Q. 本社ビルなどの共用資産はどのように減損テストを行いますか?

A. 共用資産は単独でキャッシュ・フローを生み出さないため、複数の資産グループ全体をより大きな単位としてまとめて判定するか、共用資産の帳簿価額を合理的な基準で各資産グループに配分して個別に判定する方法のいずれかを選択します。(減損会計基準 二 7、8、適用指針第6号第48項)

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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