企業会計において、保有する有価証券の時価や実質価額が著しく下落した場合には、適切な減損処理(強制評価減)が求められます。本記事では、「企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準」や実務指針等に基づき、減損処理の対象区分、下落率に応じた具体的な判定基準、四半期決算での留意点などを、ケーススタディを交えて詳細に解説いたします。
有価証券の減損処理の基本原則と対象
減損処理が義務付けられる有価証券の範囲
金融商品会計において、売買目的有価証券以外の有価証券(満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式、その他有価証券)については、期末の時価が著しく下落したときは、回復する見込があると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、取得原価との差額(評価差額)は当期の損失として処理しなければならないと規定されています〔企業会計基準第10号 第20項、移管指針第9号 第91項〕。これを一般に減損処理(強制評価減)と呼びます。
| 有価証券の保有目的区分 | 減損処理(強制評価減)の適用有無 |
|---|---|
| 売買目的有価証券 | 適用なし(毎期時価評価し損益計上するため) |
| その他有価証券等(満期保有目的等含む) | 適用あり(時価が著しく下落した場合) |
市場価格のない株式等における実質価額の低下
市場価格のない株式等についても同様の取り扱いが求められます。発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額を行い、評価差額は当期の損失として処理しなければなりません〔企業会計基準第10号 第21項、移管指針第9号 第92項〕。
翌期以降の帳簿価額となる切放し処理
これらの減損処理によって切り下げられた修正後の時価又は実質価額は、翌期首以降の新たな取得原価として取り扱われます。これを実務上「切放し処理」と呼び、一度減損した有価証券の帳簿価額を元の取得原価に戻すことは認められません〔企業会計基準第10号 第22項、移管指針第9号 第91項〕。
減損処理と切放し処理が求められる背景
保守主義の観点に基づく強制評価減
有価証券の時価が著しく下落した際に減損処理を求める規定は、取引所の相場のある有価証券等について、実質価額が著しく低下したときには相当の減額をすることとされてきた伝統的な会計処理の考え方を踏襲したものです〔企業会計基準第10号 第83項〕。企業会計の保守主義の観点から、価値が大きく毀損した資産を帳簿上に過大に計上し続けることを防ぐ目的があります。
その他有価証券の評価損益と純損益の認識
特に「その他有価証券」については、原則として時価評価の評価差額を純損益ではなく純資産の部に計上する洗い替え方式を採用しています。しかし、時価が著しく下落し回復する見込みがない状態に陥っている場合まで、評価損を貸借対照表の純資産の部に留め置くことは適切ではありません。そのため、当該銘柄の帳簿価額を時価により付け替えて取得原価自体を修正し、当期の損失として損益計算書に計上することが必要であると結論付けられました〔企業会計基準第10号 第84項、移管指針第9号 第283-2項〕。
時価のある有価証券における「著しく下落した」の判定基準
下落率に基づく段階的な判定基準
時価のある有価証券について、減損処理の要否を判断する「著しく下落した」という基準は一律ではなく、取得原価に対する時価の下落率に基づき、以下の通り段階的な判定が求められます〔移管指針第9号 第91項、第284項〕。
| 時価の下落率 | 減損処理の判定内容 |
|---|---|
| 50%程度以上 | 合理的な反証がない限り、回復見込みなしとして強制的に減損処理を実施 |
| 30%〜50%程度 | 各企業が定める合理的な社内基準に基づき、回復可能性の判定対象とするか判断 |
| 30%未満 | 通常の相場変動の範囲内と考えられ、原則として減損処理は不要 |
回復する見込みがあるかどうかの判断要件
減損を回避するための「回復する見込みがある」と認められるときとは、株式の場合、時価の下落が一時的なものであり、期末日後おおむね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準にまで回復する見込みのあることを合理的な根拠をもって予測できる場合を指します〔移管指針第9号 第91項〕。この合理的な根拠は、株式の取得時点、期末日及び期末日後における市場価格の推移や市場環境の動向、発行会社の業況の推移など、内的・外的要因を総合的に勘案して検討することが必要です。
市場価格のない株式等の減損と四半期決算の取扱い
実質価額の算定と減損の要否
市場価格のない株式等の減損処理において基準となる「実質価額」は、発行会社の1株当たりの純資産額を基礎として算定されます。ただし、単なる帳簿上の純資産ではなく、資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味した修正後の純資産額を用いるなど、実態に即した評価が求められます〔移管指針第9号 第92項、第285項〕。この実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合には、事業計画の達成など十分な証拠によって回復可能性が裏付けられる場合を除き、減損処理を行わなければなりません〔移管指針第12号 Q33〕。
四半期決算における切放し処理の徹底
四半期決算や中間決算において減損処理(四半期評価損等)を行った有価証券については、その後の四半期末や年度末において時価や実質価額が回復したとしても、洗替処理を行って帳簿価額を戻し入れることは一切認められません。減損時点の時価等が新たな取得原価となる切放し処理が厳格に適用されます〔移管指針第12号 Q31〕。
有価証券の減損処理に関する実務ケーススタディ
取得原価から50%以上下落した強制減損の事例
企業が長期保有目的で上場株式を取得原価1,000万円で取得し、「その他有価証券」に分類していたとします。当期末において、発行会社の業績悪化を背景に時価が400万円となりました。この下落率は60%であり、「50%程度以上下落した場合」に該当します。企業が、おおむね1年以内に株価が1,000万円近くまで回復するという合理的な反証を提示できない場合、回復見込みなしと判断し、差額の600万円を「投資有価証券評価損」として当期の特別損失に計上する減損処理を実施します。翌期以降、この株式の帳簿上の取得原価は400万円となります〔企業会計基準第10号 第20項、第22項、移管指針第9号 第91項〕。
下落率30%〜50%の範囲における社内基準の適用事例
取得原価1,000万円の上場株式の当期末時価が600万円となり、下落率が40%となったケースです。この企業は社内の経理規程において「下落率が30%以上の場合は回復可能性を判定し、回復見込みがない場合は減損する」という合理的な基準を設けていました。経理担当者が業況推移や市場環境を勘案した結果、この株価下落は構造的な不振によるものであり、おおむね1年以内に取得原価にほぼ近い水準まで回復する見込みはないと判断されました。その結果、社内基準に基づき、差額の400万円について減損処理を行います〔移管指針第9号 第91項、第284項〕。
四半期決算での減損と年度末の会計処理事例
3月決算の企業が、第1四半期末(6月末)において保有株式(取得原価1,000万円)の時価が300万円に急落したため、700万円の減損処理を行いました。その後、発行会社の業績が急回復し、年度末(翌年3月末)には時価が800万円に上昇しました。しかし、四半期決算において既に減損処理を実施しているため、年度末に損失を戻し入れることはできません。第1四半期末の時価300万円が「新たな取得原価」として確定しているため、年度末においては新たな取得原価300万円と時価800万円を比較し、差額の500万円を「その他有価証券評価差額金」として純資産の部に計上します〔企業会計基準第10号 第22項、移管指針第12号 Q31〕。
有価証券の減損処理まとめ
有価証券の減損処理は、取得原価に対する時価の下落率に応じた客観的な判定基準と、四半期決算を含めた厳格な切放し処理が求められます。企業は適切な会計処理を実施するために、あらかじめ合理的な社内規程を整備するとともに、市場環境や発行会社の業績推移を継続的にモニタリングし、回復可能性に関する合理的な根拠を文書化しておくことが重要です。
参考文献
有価証券の減損処理に関するよくある質問まとめ
Q.減損処理の対象となる有価証券は何ですか?
A.売買目的有価証券以外の有価証券(満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式、その他有価証券)が対象となります〔企業会計基準第10号 第20項〕。
Q.時価が「著しく下落した」と判定される基準は何ですか?
A.時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合は客観的に著しく下落したとみなされます。30%〜50%程度の場合は社内基準等に基づき判断します〔移管指針第9号 第91項〕。
Q.減損処理後の帳簿価額はどのように扱われますか?
A.減損処理により切り下げられた修正後の時価又は実質価額は、翌期首以降の「新たな取得原価」として取り扱われます(切放し処理)〔企業会計基準第10号 第22項〕。
Q.四半期決算で減損処理した有価証券の時価が年度末に回復した場合、戻し入れは可能ですか?
A.戻し入れ(洗替処理)は一切認められません。四半期末の減損時点の時価が新たな取得原価として確定します〔移管指針第12号 Q31〕。
Q.市場価格のない株式の減損処理の基準となる「実質価額」とは何ですか?
A.発行会社の1株当たり純資産額を基礎とし、資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味した修正後の純資産額を指します〔移管指針第9号 第92項〕。
Q.「回復する見込みがある」と判断するための要件は何ですか?
A.時価の下落が一時的であり、期末日後おおむね1年以内に時価が取得原価に近い水準まで回復する見込みがあることを合理的な根拠をもって予測できる場合です〔移管指針第9号 第91項〕。