償却原価法とは【利息法・定額法の比較表】満期保有目的債券の仕訳
目次
- 償却原価法とは|定義と金利調整差額
- 償却原価法の定義
- 金利調整差額とは
- なぜ償却原価法を適用するのか
- 利息法と定額法の違い
- 利息法の計算方法
- 定額法の計算方法
- クーポン利息と償却額の関係
- どちらを採用するか
- 償却原価法の仕訳|取得時・決算時・償還時
- 取得時の仕訳
- 決算時の仕訳(定額法の場合)
- 決算時の仕訳(利息法の場合)
- 償還時の仕訳
- 勘定科目と貸借対照表の表示
- 満期保有目的の債券を時価評価しない理由
- 時価評価しない理由
- 満期保有目的の債券の要件
- 期末評価の原則と例外
- 満期保有目的の債券に償却原価法を適用する手順
- 発行者側の社債に適用する償却原価法
- 実務で押さえておきたい論点
- 減損処理を行った場合
- 保有目的を変更した場合
- 段階的に元本が償還される債券
- その他有価証券の債券への適用
- 適用時期と改正の経緯
- まとめ
- 参考文献
- よくある質問
- Q. 償却原価法とは何ですか。
- Q. 償却原価法の計算方法を教えてください。
- Q. 金利調整差額とは何を指しますか。
- Q. 利息法と定額法はどちらを採用すべきですか。
- Q. なぜ満期保有目的の債券は時価評価しないのですか。
- Q. 償却原価法の仕訳ではどの勘定科目を使いますか。
- Q. クーポン利息と償却額はどちらも有価証券利息になりますか。
- Q. 社債を発行した側にも償却原価法は適用されますか。
- Q. 減損処理を行った債券は償却原価法を続けますか。
- Q. 利息法と定額法で毎期の償却額はどのくらい違いますか。
- Q. 満期保有目的の債券に分類するための要件は何ですか。
償却原価法とは、金融資産又は金融負債を債権額又は債務額と異なる金額で計上した場合に、その差額に相当する金額を弁済期又は償還期に至るまで毎期一定の方法で取得価額に加減する方法をいいます(金融商品に関する会計基準 注5)。加減した金額は受取利息又は支払利息に含めて処理します(同 注5)。満期保有目的の債券では、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるとき、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければなりません(同 第16項)。
たとえば額面金額10,000千円の債券を9,600千円で取得した場合、差額400千円を償還日までの各期に配分し、帳簿価額を9,600千円から10,000千円へ少しずつ近づけていきます。満期時には帳簿価額と額面金額が一致するため、償還そのものからは損益が生じません。配分の方法には利息法(原則)と定額法(継続適用を条件とする簡便法)の2つがあります(金融商品会計に関する実務指針 第70項)。
まず、満期保有目的の債券の計算例で、利息法と定額法の差がどこに出るかを比較表で示します。3月決算の会社が、X1年4月1日に額面金額10,000千円の社債を9,600千円で取得し、満期保有目的の債券に分類したうえで、X6年3月31日に額面金額で償還されるものとします。クーポン利子率は年1.0%(年1回・3月末後払)、取得差額400千円はすべて金利調整差額と認められ、利息法の実効利子率は年1.845%とします(単位:千円。端数は最終年度で調整しています)。
| 利息法(原則) | 定額法(簡便法) |
|---|---|
| 1年目:償却額77・期末簿価9,677 | 1年目:償却額80・期末簿価9,680 |
| 2年目:償却額79・期末簿価9,756 | 2年目:償却額80・期末簿価9,760 |
| 3年目:償却額80・期末簿価9,836 | 3年目:償却額80・期末簿価9,840 |
| 4年目:償却額81・期末簿価9,917 | 4年目:償却額80・期末簿価9,920 |
| 5年目:償却額83・期末簿価10,000 | 5年目:償却額80・期末簿価10,000 |
| 5年間の合計:償却額400 | 5年間の合計:償却額400 |
違いは「どの期にいくら配分するか」だけで、5年間の合計は必ず一致します。利息法は帳簿価額が増えるにつれて配分額も増えるため償却額が後半ほど大きくなり、定額法は毎期80千円で固定され、期末簿価の差は最大でも4千円にとどまります。以下では、この設例をそのまま使いながら、定義と金利調整差額の意味、利息法・定額法それぞれの計算式、取得時・決算時・償還時の仕訳、満期保有目的の債券を時価評価しない理由、発行者側の社債への適用までを順に整理します。
償却原価法とは|定義と金利調整差額
償却原価法の定義
償却原価法の定義は冒頭のとおりですが、押さえておきたいのは「差額を一括で損益にしない」という点です。取得価額と額面金額の差額の実質は、クーポン利率が市場利子率と釣り合っていないことに対する調整なので、これを取得時や償還時の損益とせず、保有期間にわたる利息として期間配分します。会計基準も、償却原価法による加減額を受取利息又は支払利息に含めて処理するものと定めています(金融商品に関する会計基準 注5)。
満期保有目的の債券について、期末の貸借対照表価額は原則として取得原価とされますが、取得価額と債券金額との差額の性格が金利の調整と認められるときは、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければなりません(金融商品に関する会計基準 第16項)。つまり償却原価法は、満期保有目的の債券にとって「選べる方法」ではなく、要件を満たせば適用が求められる処理です。
金利調整差額とは
取得価額と債券金額との差額(取得差額)が生じる要因には、クーポンレートと取得時の市場利子率との調整に基づくものと、債券の発行体の信用力の変動や減損及びその他の要因があり、償却原価法の対象となるのは前者、すなわち金利調整差額により生じた場合に限定されます(金融商品会計に関する実務指針 第70項)。
実務でつまずきやすいのはこの切り分けです。額面より安く買えたのが「もともとクーポンが市場金利より低いから」であれば金利調整差額であり、償却原価法の対象になります。一方、「発行会社の信用力に不安があるから安い」のであれば、その部分は金利調整差額ではなく、償却原価法で毎期利益に振り替えてよいものではありません。
| クーポンレートと 市場利子率との調整 |
金利調整差額に該当し、償却原価法の対象になります |
|---|---|
| 発行体の信用力の変動・ 減損その他の要因 |
金利調整差額に該当せず、償却原価法の対象外です |
もっとも、満期保有目的の債券はその適格要件から信用リスクの高くないものが対象となるため、一般に取得差額は大部分が金利調整差額のみから構成されるものとみなすことができます(金融商品会計に関するQ&A Q26)。これに対し、その他有価証券に分類された債券には信用リスクの高いものも含まれうるため、取得差額を信用リスクを反映した部分と金利調整差額部分とに区分する必要が生じます(金融商品会計に関するQ&A Q26)。
なぜ償却原価法を適用するのか
「わざわざ毎期の計算をせず、取得原価のまま置いておけばよいのでは」という疑問は実務でもよく出ます。会計基準の考え方は、債権の取得において債権金額と取得価額とが異なる場合、その差異が金利の調整であると認められるならば、金利相当額を適切に各期の財務諸表に反映させることが必要である、というものです。そのため償却原価法を適用し、当該加減額を受取利息に含めて処理することとされています(金融商品に関する会計基準 第68項)。
この考え方を数値で確かめると分かりやすくなります。冒頭の設例で償却原価法を適用しない場合、5年間の収益はクーポン100千円×5年=500千円だけで、償還した期に400千円の利益が突然発生します。実質的には5年かけて稼いだ利息なのに、損益の出方が最終年度に偏ってしまうわけです。償却原価法は、この400千円を保有期間に配分して各期の利回りを正しく見せるための処理だと捉えると、目的が理解しやすくなります。
利息法と定額法の違い
償却原価法は、有価証券利息をその利息期間(受渡日から償還日まで)にわたって期間配分する方法で、利息法と定額法の2つがあります。原則は利息法ですが、継続適用を条件として、簡便法である定額法を採用することができます(金融商品会計に関する実務指針 第70項)。
| 利息法(原則的な方法) | 定額法 (継続適用を条件とする簡便法) |
|---|---|
| クーポン受取総額と金利調整差額の合計額が帳簿価額に対して一定率(実効利子率)となるように、複利をもって各期の純損益に配分します | 金利調整差額を取得日(又は受渡日)から償還日までの期間で除して、各期の純損益に均等に配分します |
| 各期の配分額とクーポン計上額との差額を帳簿価額に加減します | 各期の配分額をそのまま帳簿価額に加減します |
| 帳簿価額が増えるにつれて配分額も増えるため、各期の償却額は一定になりません | 各期の償却額は毎期同額になり、帳簿価額は直線的に額面金額へ近づきます |
| 実効利子率の算定が必要で、キャッシュ・フローの金額と時期を把握しておく必要があります | 除算のみで算定でき、計算・検証の負担が小さい方法です |
利息法の計算方法
利息法とは、債券のクーポン受取総額と金利調整差額の合計額を債券の帳簿価額に対し一定率(実効利子率)となるように、複利をもって各期の純損益に配分する方法をいい、当該配分額とクーポン計上額との差額を帳簿価額に加減します(金融商品会計に関する実務指針 第70項(1))。
実効利子率は、その債券から生じる将来キャッシュ・フロー(各期のクーポンと償還元本)の現在価値が取得価額と一致する割引率として求めます。額面より安く取得した債券であれば、実効利子率はクーポン利子率より高くなります。冒頭の設例では、クーポン利子率が年1.0%であるのに対し、実効利子率は年1.845%になります。
2年目は期首簿価が9,677千円に増えるため、配分額は9,677千円×1.845%=179千円、償却額は79千円と増えていきます。この積み上げを5年分行うと、冒頭の表の数値になります。
同じ計算を5年分並べると、次のとおりです。配分額のうちクーポン計上額100千円を超える部分が償却額となり、その分だけ翌期の期首簿価が増えていきます(単位:千円)。
| 1年目 期首簿価9,600 |
配分額177(うちクーポン100)、償却額77、期末簿価9,677 |
|---|---|
| 2年目 期首簿価9,677 |
配分額179(うちクーポン100)、償却額79、期末簿価9,756 |
| 3年目 期首簿価9,756 |
配分額180(うちクーポン100)、償却額80、期末簿価9,836 |
| 4年目 期首簿価9,836 |
配分額181(うちクーポン100)、償却額81、期末簿価9,917 |
| 5年目 期首簿価9,917 |
配分額183(うちクーポン100)、償却額83、期末簿価10,000 |
実効利子率の求め方や、期中取得・端数処理を含む計算手順をさらに詳しく確認したい場合は、計算例に特化した次のコラムもあわせてご覧ください。
関連コラム償却原価法の計算例【利息法・定額法】取得差額の配分と仕訳▸
定額法の計算方法
定額法とは、債券の金利調整差額を取得日(又は受渡日)から償還日までの期間で除して各期の純損益に配分する方法をいい、当該配分額を帳簿価額に加減します(金融商品会計に関する実務指針 第70項(2))。
期中に取得した場合は月割で按分するのが実務上一般的です。計算が単純で検証もしやすいため、多くの一般事業会社が採用しています。ただし採用にあたっては継続適用が条件であり、期ごとに利息法と定額法を使い分けることはできません(金融商品会計に関する実務指針 第70項)。
クーポン利息と償却額の関係
読者からの質問が多いのが、クーポン(表面利率で受け取る現金)と償却額の関係です。両者はいずれも有価証券利息として損益計算書に計上されますが、性質は異なります。クーポンは現金の入金を伴い、償却額は現金の入金を伴わずに帳簿価額を増やす(又は減らす)だけの計上です。
| クーポン利息 | 額面金額に表面利率を乗じて計算し、利払日に現金で受け取ります。設例では毎期100千円です |
|---|---|
| 償却原価法による 償却額 |
金利調整差額の当期配分額で、現金の入金はなく債券の帳簿価額に加減します。設例では定額法で毎期80千円です |
| 有価証券利息の 当期計上額 |
上記2つの合計です。設例の定額法では毎期180千円、5年合計で900千円になります |
設例の5年間で受け取る現金はクーポン500千円と償還元本10,000千円の合計10,500千円、取得に支払ったのは9,600千円ですから、差額900千円が5年間の有価証券利息の総額です。利息法でも定額法でも総額は900千円で変わらず、変わるのは各期への配分だけです。なお、債券利息はその利息計算期間(約定日からではなく受渡日から起算します。)に応じて算定します(金融商品会計に関する実務指針 第95項)。
どちらを採用するか
基準上の建て付けは「原則は利息法、継続適用を条件に定額法も可」です。したがって、保有債券の銘柄数が少なく、金利調整差額の重要性も乏しい会社であれば、定額法を選び、その旨を会計方針として継続適用するのが現実的な選択になります。上場準備の局面では、この会計方針が過年度から一貫しているか、銘柄間で扱いがぶれていないかが確認されやすい点に留意が必要です。
なお、償却原価法は債券だけの処理ではありません。債権の支払日までの金利を反映して債権金額と異なる価額で債権を取得した場合にも償却原価法に基づく処理を行い、その適用については利息法によることを原則としつつ、契約上、元利の支払が弁済期限に一括して行われる場合又は規則的に行われることとなっている場合には、定額法によることができます(金融商品会計に関する実務指針 第105項)。
償却原価法の仕訳|取得時・決算時・償還時
冒頭の設例に基づき、実際の仕訳を確認します。単位は千円で、この債券は一年内に償還期限が到来しないため投資その他の資産に区分されるものとします(金融商品に関する会計基準 第23項)。
取得時の仕訳
取得時は、支払った取得価額9,600千円をそのまま計上します。額面金額との差額400千円は、この時点では損益にしません(金融商品に関する会計基準 第16項)。この仕訳は利息法・定額法のいずれを採用しても同じです。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 投資有価証券 | 9,600 | 現金預金 | 9,600 |
決算時の仕訳(定額法の場合)
1年目の決算日であるX2年3月31日には、クーポン利息100千円(10,000千円×1.0%)の受取りと、償却額80千円の計上を行います。償却原価法による加減額は受取利息に含めて処理するものとされており(金融商品に関する会計基準 注5)、債券については有価証券利息として計上します。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 100 | 有価証券利息 | 100 |
| 投資有価証券 | 80 | 有価証券利息 | 80 |
この結果、1年目の有価証券利息は180千円、投資有価証券の帳簿価額は9,680千円になります。同じ仕訳を5年間繰り返すことで、帳簿価額は額面金額10,000千円へ到達します。決算日と利払日がずれている場合は、経過期間に対応する未収利息を計上する点にも注意が必要です。
決算時の仕訳(利息法の場合)
同じ1年目でも、利息法を採用している場合は償却額が77千円になります(金融商品会計に関する実務指針 第70項(1))。クーポン利息の金額は表面利率で決まるため、方法が変わっても100千円のままです。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 100 | 有価証券利息 | 100 |
| 投資有価証券 | 77 | 有価証券利息 | 77 |
1年目の有価証券利息は177千円で、定額法より3千円小さくなります。使う勘定科目は定額法とまったく同じで、変わるのは金額だけです。翌期以降は償却額が79千円、80千円、81千円、83千円と増えていき、5年間の合計は定額法と同じ400千円に一致します。
償還時の仕訳
X6年3月31日の償還時点では、帳簿価額はすでに額面金額と一致しています。そのため、償還の仕訳から償還損益は生じません。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 10,000 | 投資有価証券 | 10,000 |
償却原価法を適用しないまま取得原価9,600千円で据え置いていた場合、償還時に400千円の利益が一度に発生します。償却原価法は、この400千円を「償還した期の利益」ではなく「保有期間にわたる利息」として期間配分するための処理である、と捉えると理解しやすくなります。
勘定科目と貸借対照表の表示
仕訳で使う勘定科目と表示区分は次のとおりです。有価証券の表示区分について、売買目的有価証券及び一年内に満期の到来する社債その他の債券は流動資産に属するものとし、それ以外の有価証券は投資その他の資産に属するものとされています(金融商品に関する会計基準 第23項)。
| 一年内に満期が 到来する債券 |
流動資産に「有価証券」として表示します |
|---|---|
| それ以外の債券 | 投資その他の資産に「投資有価証券」として表示します |
| クーポン利息と 償却額の計上科目 |
損益計算書の営業外収益に「有価証券利息」として表示します |
実務では、償還期限が1年以内に入った期に流動資産へ振り替える処理が漏れやすい論点です。銘柄ごとの償還日を管理表に持たせ、決算のたびに区分を見直す運用にしておくと誤りを防げます。
満期保有目的の債券を時価評価しない理由
時価評価しない理由
金融資産は時価評価が基本的な考え方とされる一方、金融資産の属性及び保有目的に鑑み、実質的に価格変動リスクを認める必要のない場合や直ちに売買・換金を行うことに事業遂行上等の制約がある場合が考えられ、このような保有目的等をまったく考慮せずに時価評価を行うことが、必ずしも企業の財政状態及び経営成績を適切に財務諸表に反映させることにならないと考えられることから、時価評価を基本としつつ保有目的に応じた処理方法を定めることが適当とされました(金融商品に関する会計基準 第66項)。
満期保有目的の債券については、企業が満期まで保有することを目的としていると認められる債券は、時価が算定できるものであっても、満期まで保有することによる約定利息及び元本の受取りを目的としており、満期までの間の金利変動による価格変動のリスクを認める必要がないことから、原則として、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額とすることとされています(金融商品に関する会計基準 第71項)。
実務的な言い方をすれば、「途中で売らないと決めている以上、途中の値段の上下は損益に関係しない」ということです。そのため、期中に金利が動いて債券の時価が下がっても、満期保有目的に分類されている限り、その評価差額は損益にも純資産にも反映されません。裏を返せば、時価評価を避けるためだけに満期保有目的へ分類することは、後述の要件からも認められないという整理になります。
満期保有目的の債券の要件
満期保有目的の債券とは、満期まで所有する意図をもって保有する社債その他の債券をいいます(金融商品に関する会計基準 第16項)。ここでいう「満期まで所有する意図をもって保有する」とは、企業が償還期限まで所有するという積極的な意思とその能力に基づいて保有することをいい、保有期間が漠然と長期であると想定し保有期間をあらかじめ決めていない場合や、市場金利・為替相場の変動等の将来の不確定要因の発生いかんによっては売却が予測される場合には、満期まで所有する意思があるとは認められません(金融商品会計に関する実務指針 第69項)。
また、債券を満期保有目的に分類するためには、あらかじめ償還日が定められており、かつ、額面金額による償還が予定されていることを要します(金融商品会計に関する実務指針 第68項)。償還日の定めのない永久債や、償還元本が株価・為替により増減する仕組債は、この条件を満たしません。なお、満期まで所有する意図は取得時点において判断すべきものであり、いったん他の保有目的で取得した債券をその後満期保有目的の債券に振り替えることは認められません(金融商品会計に関する実務指針 第69項)。
期末評価の原則と例外
期末の貸借対照表価額は、原則は取得原価、金利の調整と認められる取得差額があるときは償却原価という二段構えになっています(金融商品に関する会計基準 第16項)。
| 原則 | 取得原価をもって貸借対照表価額とします |
|---|---|
| 取得差額の性格が 金利の調整と認められる場合 |
償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額とします |
満期保有目的の債券に償却原価法を適用する手順
満期保有目的の債券に償却原価法を適用する前に、実務では次の順で確認しておくと判断の抜けを防げます。分類の要件を満たさない債券に償却原価法だけを当てはめてしまう誤りは、上場準備の監査でも指摘されやすい論点です。
- 償還条件の確認:あらかじめ償還日が定められ、かつ額面金額による償還が予定されている債券かを確認します。転換社債型新株予約権付社債は、その性質上、基本的には満期保有目的になじみません(金融商品会計に関する実務指針 第68項)。
- 保有の意思と能力の確認:取得時点で償還期限まで所有する積極的な意思があるか、また資金繰り計画等から見て継続的な保有が可能かを確認します。継続保有が困難と判断される場合は、満期まで所有する能力があるとは認められません(金融商品会計に関する実務指針 第69項)。
- 取得差額の性格の確認:取得差額が金利調整差額により生じたものかを確認します。償却原価法の対象はこの場合に限定されます(金融商品会計に関する実務指針 第70項)。
- 償却方法の決定:原則の利息法か、継続適用を条件とする定額法かを会計方針として決め、銘柄間・期間で一貫させます(金融商品会計に関する実務指針 第70項)。
- 表示区分の確認:決算日ごとに償還期限を確認し、一年内に満期が到来する債券は流動資産へ区分します(金融商品に関する会計基準 第23項)。
発行者側の社債に適用する償却原価法
償却原価法は、債券を持つ側だけの処理ではありません。支払手形、買掛金、借入金、社債その他の債務は、原則として債務額をもって貸借対照表価額としますが、社債を社債金額よりも低い価額又は高い価額で発行した場合など、収入に基づく金額と債務額とが異なる場合には、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としなければならないとされています(金融商品に関する会計基準 第26項)。
この点は、資産に計上された債券の処理方法である償却原価法の処理が、負債に計上された社債等にも適用されることを意味します(金融商品会計に関する実務指針 第126項)。たとえば額面100,000千円の社債を98,000千円で発行した場合、当初は98,000千円で計上し、差額2,000千円を償還期限までの各期に配分して社債の帳簿価額に加算していきます。この加算額は支払利息に含めて処理します(金融商品に関する会計基準 注5)。
会計基準の考え方としても、金融負債は借入金のように一般的には市場がないか、社債のように市場があっても自己の発行した社債を時価により自由に清算するには事業遂行上の制約があると考えられることから、債務額(収入に基づく金額と債務額とが異なる場合には償却原価法に基づいて算定された価額)をもって貸借対照表価額とし、時価評価の対象としないことが適当と整理されています(金融商品に関する会計基準 第67項)。「社債の償却原価法」と検索したときに、保有者側の説明と発行者側の説明が混在しがちですが、根拠条項は第16項(資産側)と第26項(負債側)で分かれている点を押さえておくと混乱しません。
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実務で押さえておきたい論点
減損処理を行った場合
満期保有目的の債券についても、市場価格のない株式等以外のものについて時価が著しく下落したときは、回復する見込があると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額は当期の損失として処理しなければなりません(金融商品に関する会計基準 第20項)。「著しく下落した」といえるかは、個々の銘柄の有価証券の時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合が該当し、下落率がおおむね30%未満の場合には一般的には該当しないものと考えられています(金融商品会計に関する実務指針 第91項)。また債券の場合、単に一般市場金利の大幅な上昇によって時価が著しく下落した場合であっても、いずれ時価の下落が解消すると見込まれるときは回復する可能性があると認められる一方、格付けの著しい低下があった場合や、信用リスクの増大に起因して時価が著しく下落した場合には、通常は回復する見込があるとは認められません(金融商品会計に関する実務指針 第91項)。
そして減損処理を行った債券については、取得差額はもはや金利調整差額とは考えられないため、以後、償却原価法の適用はありません(金融商品会計に関するQ&A Q25)。減損を計上した銘柄について、そのまま従来の償却スケジュールを回し続けてしまうのは典型的な誤りですので、減損の年度に償却計算を止める手当てが必要です。
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保有目的を変更した場合
満期保有目的の債券について、その保有目的が変更され、又はその一部を売却したため残りの銘柄の満期保有目的が否定されたことにより、保有目的区分を売買目的有価証券又はその他有価証券に変更するときは、変更時の償却原価をもって振り替えます(金融商品会計に関する実務指針 第84項)。会計基準上も、満期保有目的の債券の保有目的を変更した場合、当該債券は変更後の保有目的に係る評価基準に従って処理するものとされています(金融商品に関する会計基準 注6)。振替時点までの償却は行い、その後の評価は変更後の区分のルールに従う、という整理です。
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段階的に元本が償還される債券
満期償還日までの間に元本の償還が行われる債券についても、償却原価法は利息法を原則とし、継続適用を条件として定額法を採用することができます(金融商品会計に関する実務指針 第70項)。ただし、元本の償還を無視して金利調整差額を取得日(又は受渡日)から償還日までの期間で単純に除して各期の純損益に均等に配分すると、償還元本に配分されるべき金利調整差額が償還後の年度に繰り延べて償却されることとなるため、その方法は認められません(金融商品会計に関するQ&A Q24-2)。
元本の償還を反映させる必要があるため、将来キャッシュ・フローの金額と入金時期を合理的に予測できる場合には、元本の償還を反映した利息法によるか、償却期間として加重平均残存期間を用いる定額法によります。合理的に予測できない場合には、償却期間として約定残存期間を用いる定額法によることになります(金融商品会計に関するQ&A Q24-2)。
| 将来キャッシュ・フローを 合理的に予測できる場合 |
元本の償還を反映した利息法、又は償却期間として加重平均残存期間を用いる定額法によります |
|---|---|
| 将来キャッシュ・フローを 合理的に予測できない場合 |
償却期間として約定残存期間を用いる定額法によります |
その他有価証券の債券への適用
償却原価法は満期保有目的の債券だけの処理ではありません。その他有価証券のうち、取得差額が金利調整差額と認められる債券にはまず償却原価法を適用し、取得原価と償却原価との差額を有価証券利息の修正として処理したうえで、時価のある債券については償却原価と時価との差額を評価差額として処理します(金融商品会計に関する実務指針 第74項)。「償却原価法を適用してから時価評価する」という二段階になる点が、満期保有目的の債券との違いです。
適用時期と改正の経緯
金融商品に関する会計基準は1999年1月に公表され、2000年4月1日以後開始する事業年度から適用されました(金融商品に関する会計基準 第41項)。その後、純資産の部の表示や会社法への対応を踏まえた2006年改正、金融商品取引法の施行に対応した2007年改正、金融商品の時価等の開示の充実を図った2008年改正が行われ、直近では時価算定会計基準の公表に伴い時価の定義を見直した2019年改正が行われています(同 第50項から第50-4項)。2019年改正会計基準は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています(同 第44-2項)。償却原価法に関する第16項・第26項・注5の枠組み自体は、これらの改正を通じて維持されています。
まとめ
償却原価法とは、債権額又は債務額と異なる金額で計上した金融資産・金融負債について、その差額を弁済期又は償還期に至るまで毎期一定の方法で取得価額に加減する方法です(金融商品に関する会計基準 注5)。満期保有目的の債券では、取得差額の性格が金利の調整と認められるときに適用が求められ(同 第16項)、配分方法は原則として利息法、継続適用を条件に定額法も採用できます(金融商品会計に関する実務指針 第70項)。冒頭の比較表のとおり、利息法と定額法で5年間の合計は同じ400千円になり、違いは各期への配分(利息法は77千円から83千円へ逓増、定額法は毎期80千円)にとどまります。
実務では、①取得差額が金利調整差額かどうかの切り分け、②利息法・定額法いずれを会計方針として継続適用するか、③クーポン利息と償却額をあわせて有価証券利息に計上できているか、④減損を行った銘柄で償却を止められているか、⑤保有目的を変更した銘柄を変更時の償却原価で振り替えているか、の5点を毎期の決算手続に落とし込んでおくと、誤りが起きにくくなります。とくに上場準備の局面では、会計方針の一貫性と銘柄ごとの計算根拠の残し方が確認されやすい領域です。
具体的なケースは公認会計士へのご相談をおすすめします。
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よくある質問
Q. 償却原価法とは何ですか。
A. 金融資産又は金融負債を債権額又は債務額と異なる金額で計上した場合に、当該差額に相当する金額を弁済期又は償還期に至るまで毎期一定の方法で取得価額に加減する方法です。加減額は受取利息又は支払利息に含めて処理します(金融商品に関する会計基準 注5)。
Q. 償却原価法の計算方法を教えてください。
A. 利息法では、各期の配分額を期首の帳簿価額に実効利子率を乗じて求め、その配分額とクーポン計上額との差額を帳簿価額に加減します。定額法では、金利調整差額を取得日(又は受渡日)から償還日までの期間で除した金額を各期に均等配分します(金融商品会計に関する実務指針 第70項)。
Q. 金利調整差額とは何を指しますか。
A. 取得価額と債券金額との差額のうち、クーポンレートと取得時の市場利子率との調整に基づいて生じた部分をいいます。発行体の信用力の変動や減損等に基づく部分は金利調整差額に当たらず、償却原価法の対象外です(金融商品会計に関する実務指針 第70項)。
Q. 利息法と定額法はどちらを採用すべきですか。
A. 原則は利息法です。ただし継続適用を条件として、簡便法である定額法を採用することができます(金融商品会計に関する実務指針 第70項)。期ごとに使い分けることはできないため、会計方針として一方を選び継続適用します。
Q. なぜ満期保有目的の債券は時価評価しないのですか。
A. 満期まで保有することによる約定利息及び元本の受取りを目的としており、満期までの間の金利変動による価格変動のリスクを認める必要がないためです(金融商品に関する会計基準 第71項)。保有目的を考慮せずに時価評価すると、財政状態及び経営成績を適切に反映しないと考えられています(同 第66項)。
Q. 償却原価法の仕訳ではどの勘定科目を使いますか。
A. 債券の帳簿価額は投資有価証券(一年内に満期が到来するものは有価証券)で処理し、償却額は受取利息に含めるものとされているため、債券では有価証券利息として計上します(金融商品に関する会計基準 注5、第23項)。
Q. クーポン利息と償却額はどちらも有価証券利息になりますか。
A. いずれも有価証券利息として計上します。クーポン利息は現金の入金を伴い、償却原価法による償却額は現金の入金を伴わずに債券の帳簿価額に加減する点が異なります(金融商品に関する会計基準 注5)。
Q. 社債を発行した側にも償却原価法は適用されますか。
A. 適用されます。社債を社債金額よりも低い価額又は高い価額で発行した場合など、収入に基づく金額と債務額とが異なる場合には、償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額とします(金融商品に関する会計基準 第26項、金融商品会計に関する実務指針 第126項)。
Q. 減損処理を行った債券は償却原価法を続けますか。
A. 続けません。減損処理を行った債券については取得差額がもはや金利調整差額とは考えられないため、以後、償却原価法の適用はありません(金融商品会計に関するQ&A Q25)。
Q. 利息法と定額法で毎期の償却額はどのくらい違いますか。
A. 額面金額10,000千円の債券を9,600千円で取得し5年で償還される本記事の計算例では、利息法の償却額は77千円から83千円へ逓増し、定額法は毎期80千円です。5年間の合計はいずれも400千円で、違いは各期への配分だけです。原則は利息法で、定額法は継続適用を条件に採用できます(金融商品会計に関する実務指針 第70項)。
Q. 満期保有目的の債券に分類するための要件は何ですか。
A. あらかじめ償還日が定められ、かつ額面金額による償還が予定されている債券であることが必要です(金融商品会計に関する実務指針 第68項)。そのうえで、償還期限まで所有する積極的な意思とその能力に基づいて保有していることが求められ、満期まで所有する意図は取得時点で判断します(同 第69項)。
本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。



