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金融資産の時価評価と取得付随費用の会計処理を徹底解説

2026-01-11
目次

本記事では、企業の財務担当者や会計実務に携わる方々に向けて、金融資産および金融負債の評価基準の基本概念と、取得時に発生する付随費用の具体的な取扱いについて解説いたします。時価評価が導入された背景から、個別財務諸表と連結財務諸表における処理の違い、さらには具体的な金額を用いた実務ケーススタディまで、会計基準に基づき詳細に紐解いていきます。

金融資産及び金融負債の評価基準の基本概念

企業が保有する金融資産や金融負債を財務諸表にどのように計上すべきかについては、明確な会計基準が設けられています。ここでは、その基本となる評価基準の考え方を解説いたします。

金融資産の時価評価の原則と導入の背景

金融資産については、一般的に市場が存在すること等により客観的な価額として時価を把握できるとともに、その価額により換金・決済等を行うことが可能です(企業会計基準第10号 第64項)。本会計基準において、金融資産の評価に時価評価が導入された背景には、主に以下の3つの理由があります。

導入の背景(結論の根拠) 詳細な理由
投資者の自己責任による判断 金融資産の多様化や価格変動リスクが増大する中、投資者が自己責任で投資判断を行うために、企業の財務活動の実態を適切に財務諸表に反映させる必要があるため(企業会計基準第10号 第64項(1))。
企業側のリスク管理と成果把握 企業側においても、取引内容の十分な把握とリスク管理の徹底、および財務活動の成果を的確に把握するために不可欠であるため(企業会計基準第10号 第64項(2))。
国際的な比較可能性の確保 日本企業の国際的な事業活動や海外投資者の日本市場への投資が進む中、財務諸表等の企業情報に国際的な観点からの同質性や比較可能性が強く求められているため(企業会計基準第10号 第64項(3))。

また、金融資産の時価情報は単に注記として開示するだけでは不十分であり、客観的な時価の測定が可能なものについては、投資情報としても企業の財務認識としても、財務諸表本体(貸借対照表価額)に適切に反映させることが必要であると結論付けられています(企業会計基準第10号 第65項)。

保有目的に応じた処理と金融負債の特例

すべての金融資産が画一的に時価評価されるわけではありません。金融資産の属性や保有目的に鑑み、実質的に価格変動リスクを認める必要がない場合や、直ちに売買・換金を行うことに事業遂行上の制約がある場合(例:満期保有目的の債券や子会社株式など)には、時価評価をすることが必ずしも企業の財政状態や経営成績を適切に反映することにはならないと考えられます。そのため、時価評価を基本としつつも、保有目的に応じた処理方法(取得原価や償却原価法など)を定めることが適当とされています(企業会計基準第10号 第66項)。

一方、金融負債については、借入金のように一般的には市場がないか、社債のように市場があっても自己の発行した負債を時価により自由に清算するには事業遂行上の制約があると考えられます。したがって、デリバティブ取引により生じる正味の債務を除き、原則として債務額(又は償却原価法に基づいて算定された価額)をもって貸借対照表価額とし、時価評価の対象としないことが適当であるとされています(企業会計基準第10号 第67項)。

当初認識時の測定と取得価額の定義

金融資産や金融負債を新たに貸借対照表に計上する際のルールについて確認します。

取得価額の算定と経過利子の取扱い

金融資産又は金融負債を当初認識(貸借対照表に初めて計上)する際は、原則として、当該金融資産又は金融負債の時価により測定します(移管指針第9号 第29項)。実務上、金融資産の取得価額は以下の表のように算定されます。

項目 取扱いの詳細
取得価額の基本原則 金融資産の取得にあたって支払った対価の支払時の時価に、手数料その他の付随費用を加算した金額とします(移管指針第9号 第57項(1))。
経過利子の取扱い 債券を流通市場から購入する場合に支払う、前回利払日から受渡日までの経過利子については、原則として債券の取得価額には含めず、別途未収収益等として処理します(移管指針第9号 第57項(1))。

取得時における付随費用の取扱い

金融資産を取得する際に発生する支払手数料などの付随費用について、原則と例外、および子会社株式に関する特殊な取扱いを解説します。

付随費用の原則と例外処理

デリバティブを除く金融資産の取得時に発生する付随費用(支払手数料等)は、取得した金融資産の取得価額に含めることが原則です(移管指針第9号 第56項)。しかし、実務上の煩雑さを考慮した例外規定として、経常的に発生する費用であり、かつ個々の金融資産との対応関係が明確でない付随費用については、取得価額に含めず発生時の費用として処理することが認められています(移管指針第9号 第56項)。

子会社株式の付随費用と個別・連結の違い

この付随費用の規定は、有価証券の1区分である子会社株式を取得した場合にも適用されます。子会社株式等の取得原価には、購入手数料やアドバイザリー費用などの付随費用を含めて計上します。これは、金融資産以外の資産の取得の場合と同様に、購入の手数料その他その資産の取得のために直接要した費用を取得価額の計算に含めるのが適当であるという考え方に基づいています(移管指針第12号 Q15-2)。

ただし、連結財務諸表を作成する際の企業結合会計基準等との違いに注意が必要です。以下の表に個別財務諸表と連結財務諸表における取扱いの違いをまとめました。

財務諸表の種類 特定のアドバイザリー費用等の取扱い
個別財務諸表 従来通り、子会社株式の取得原価に当該付随費用を含めて計上します(移管指針第12号 Q15-2)。
連結財務諸表 企業結合会計基準に基づき、取得関連費用として発生した事業年度の費用として処理します(移管指針第12号 Q15-2)。

実務ケーススタディ:上場株式の取得と時価評価

企業A社が、余裕資金の運用を目的として(売買目的有価証券として)、市場で他社の上場株式を1,000万円で買い付け、その際、証券会社に売買手数料として5万円を支払ったケースを想定します。

A社は当初認識時において、支払った対価の時価である1,000万円に付随費用である5万円を加算した1,005万円を当該株式の取得価額として貸借対照表に計上します(移管指針第9号 第56項、第57項(1))。

その後、決算期末においてこの株式の時価が1,050万円に上昇していた場合、A社は客観的な時価を財務諸表に反映させるという基本原則に従い、帳簿価額を1,050万円に修正(時価評価)し、取得価額との差額である45万円を評価益として当期の損益に計上します(企業会計基準第10号 第64項、第65項)。

実務ケーススタディ:M&Aと金融負債の評価

次に、M&Aによる子会社買収と、金融機関からの資金借入のケースについて解説します。

M&Aによる子会社買収時の付随費用

企業B社が、事業拡大のためにC社の全株式を5億円で取得し子会社化しました。この買収手続きに際して、外部のコンサルティング会社等にデューデリジェンス費用やアドバイザリー費用として2,000万円を支払ったとします。

B社の個別財務諸表上は、この2,000万円はC社株式の取得原価に含められるため、子会社株式の取得価額は5億2,000万円として計上されます(移管指針第9号 第56項、移管指針第12号 Q15-2)。しかし、B社が作成する連結財務諸表上では、企業結合会計基準に基づき、このアドバイザリー費用2,000万円は取得関連費用として発生した事業年度の費用(販管費等)として処理されます(移管指針第12号 Q15-2)。このように、個別と連結で付随費用の取扱いが異なる点に実務上の注意が必要です。

金融機関からの資金借入と時価評価の対象外

企業D社が、設備投資資金として銀行から長期借入金3億円を固定金利で借り入れました。その後、市場金利が大きく上昇し、もしD社が今同じ条件で借り入れようとすれば、より高い金利を支払わなければならない状況(D社にとって有利な時価変動が生じた状況)になったとします。

金融資産であれば時価評価が行われるケースですが、借入金(金融負債)については、D社が自らの意思で自由に時価で清算(返済)できるような市場環境にはなく、事業遂行上の制約があるため、時価評価の対象とはなりません(企業会計基準第10号 第67項)。したがって、D社の貸借対照表には引き続き借入金3億円(債務額)として計上され続けます。

まとめ

金融資産および金融負債の評価基準は、企業の財務状態を適切に反映させるための重要なルールです。金融資産は原則として時価評価を行いますが、保有目的に応じて取得原価や償却原価法が適用される場合もあります。また、金融負債は事業遂行上の制約から原則として債務額で計上されます。取得時の付随費用の取扱いについては、原則として取得価額に含めるものの、子会社株式の取得に関する特定のアドバイザリー費用などは、個別財務諸表と連結財務諸表で処理が異なるため、実務上十分な注意が必要です。これらの基準を正確に理解し、適切な会計処理を行うことが求められます。

参考文献

企業会計基準第10号 金融商品に関する会計基準

移管指針第9号 金融商品会計に関する実務指針

移管指針第12号 金融商品会計に関するQ&A

金融資産の時価評価と取得付随費用に関するよくある質問まとめ

Q.金融資産の評価に時価評価が導入された背景は何ですか?

A.金融資産の多様化や価格変動リスクが増大する中で、投資者が自己責任で投資判断を行うため、また企業側がリスク管理や財務活動の成果を的確に把握するためです。さらに、国際的な比較可能性を確保する目的もあります(企業会計基準第10号 第64項)。

Q.すべての金融資産が時価評価されるのですか?

A.いいえ、すべての金融資産が画一的に時価評価されるわけではありません。満期保有目的の債券や子会社株式など、価格変動リスクを認める必要がない場合や換金に制約がある場合は、保有目的に応じた処理方法が適用されます(企業会計基準第10号 第66項)。

Q.金融負債は時価評価の対象になりますか?

A.原則として時価評価の対象とはなりません。借入金や社債などは、市場がないか、自由に清算するには事業遂行上の制約があるため、デリバティブ取引を除き、債務額等をもって貸借対照表価額とします(企業会計基準第10号 第67項)。

Q.金融資産の取得価額はどのように算定しますか?

A.金融資産の取得価額は、取得にあたって支払った対価の支払時の時価に、手数料その他の付随費用を加算して算定します。ただし、経過利子については取得価額に含めず、別途未収収益等として処理します(移管指針第9号 第57項(1))。

Q.金融資産取得時の付随費用は常に取得価額に含めますか?

A.原則として取得価額に含めますが、例外として、経常的に発生し個々の金融資産との対応関係が明確でない付随費用については、発生時の費用として処理することが認められています(移管指針第9号 第56項)。

Q.子会社株式取得時のアドバイザリー費用はどのように処理しますか?

A.個別財務諸表では子会社株式の取得原価に含めて計上します。一方、連結財務諸表では企業結合会計基準に基づき、取得関連費用として発生した事業年度の費用として処理します(移管指針第12号 Q15-2)。

事務所概要
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公認会計士 島本 雅史

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