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IFRS第13号「公正価値測定」の実務解説とケーススタディ

2025-12-26
目次

国際財務報告基準(IFRS)第13号「公正価値測定」は、公正価値の定義を統一し、測定方法に関する明確なフレームワークを提供しています。本記事では、IFRS第13号の第9項から第90項にわたる「測定」の規定を中心に、基準設定の背景や具体的なケーススタディを交えて詳細に解説いたします。企業の財務担当者や監査に携わる皆様にとって、実務適用の参考となる内容を網羅しています。

IFRS第13号における公正価値測定の基本原則

公正価値の定義と測定対象

公正価値は、測定日において市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取る価格、または負債を移転するために支払う価格(出口価格)として定義されています(IFRS13.9)。測定にあたっては、対象となる資産や負債の特定の特性を考慮する必要があります。

考慮すべき特性の例 概要
状態および所在地 資産の物理的な状態や現在の所在地が価格に与える影響(IFRS13.11)
売却や使用に対する制約 当該資産に付随する法的な制約などが市場参加者の価格付けに及ぼす影響(IFRS13.11)

これらの特性が測定に与える影響は、市場参加者の視点に依存します(IFRS13.12)。また、資産や負債を単独で測定するか、グループとして測定するかは、他の関連するIFRS基準が定める会計処理単位によって決定されます(IFRS13.13、IFRS13.14)。

取引、市場参加者、および価格の決定

公正価値測定は、現在の市場状況下での秩序ある取引を仮定して行われます(IFRS13.15)。この取引は、対象資産や負債に関する主要な市場で行われると仮定し、主要な市場が存在しない場合には最も有利な市場で行われると仮定します(IFRS13.16)。

市場の定義 選択の優先順位と要件
主要な市場 活動の量および水準が最大の市場。企業が通常取引を行う市場が推定される(IFRS13.17)
最も有利な市場 主要な市場がない場合、取引コストおよび輸送コスト考慮後の正味受取額が最大となる市場(IFRS13.16)

企業は測定日においてその市場へのアクセスを有している必要がありますが、実際に取引を行える状態であることは必須ではありません(IFRS13.19、IFRS13.20)。価格は出口価格であり、取引コストを含めて調整してはなりませんが、所在地が特性である場合の輸送コストについては調整が求められます(IFRS13.24、IFRS13.25、IFRS13.26)。

資産および負債の特性に応じた測定アプローチ

非金融資産への適用と最有効使用

非金融資産の公正価値測定においては、市場参加者による最有効使用を考慮することが不可欠です(IFRS13.27)。最有効使用とは、物理的に可能、法的に許容され、かつ財務的に実行可能な用途を指します(IFRS13.28)。

評価の前提 測定のアプローチ
他の資産・負債との組み合わせ 対象資産を他の資産や負債と組み合わせて使用する場合の価値(IFRS13.31)
単独での使用 対象資産を単独で使用する場合の価値(IFRS13.31)

現在の使用方法が最有効使用であると推定されますが(IFRS13.29)、企業が防衛的使用など異なる意図を持っている場合であっても、市場参加者の視点に基づく最有効使用を仮定して測定を行わなければなりません(IFRS13.30、IFRS13.32)。

負債および自己の資本性金融商品への適用

負債や企業自身の資本性金融商品は、測定日に第三者へ移転され、未決済のまま存続すると仮定して測定します(IFRS13.34、IFRS13.35)。

保有状況 測定方法の原則
他の者が資産として保有している場合 該当する資産の相場価格等の観察可能なインプットを用いて測定する(IFRS13.37)
他の者が資産として保有していない場合 負債を負う市場参加者の観点から現在価値技法等の評価技法を用いて測定する(IFRS13.40)

負債の測定においては、企業自身の信用リスクを含む不履行リスクを必ず反映させる必要があります(IFRS13.42、IFRS13.43)。移転を妨げる制約はすでに価格に反映されているため、別個の調整は行いません(IFRS13.45)。また、要求払金融負債の公正価値は、要求払金額を割り引いた金額を下回らないものとされています(IFRS13.47)。

ポートフォリオ例外の適用要件

企業が市場リスクや信用リスクを正味エクスポージャー(純額)で管理している場合、一定の要件を満たすことで、そのグループの公正価値を正味ポジションに基づいて測定するポートフォリオ例外が認められます(IFRS13.48、IFRS13.52)。

適用要件 詳細
リスクの同一性 管理対象の市場リスクがほぼ同一であること(IFRS13.53)
デュレーションの同一性 金融商品群のデュレーションが同一であること(IFRS13.55)

この例外規定は会計方針として首尾一貫して適用する必要があり、財務諸表上での総額・純額の表示要件とは区別して扱われます(IFRS13.50、IFRS13.51)。マスターネッティング契約などの信用リスク軽減措置も考慮することが可能です(IFRS13.56)。

評価技法と公正価値ヒエラルキー

評価技法とインプットの選択

当初認識時の取引価格(入口価格)は、必ずしも公正価値(出口価格)と一致するとは限りません(IFRS13.57、IFRS13.58)。関連当事者間取引などにより差異が生じた場合、その差額は原則として純損益として認識します(IFRS13.59、IFRS13.60)。

評価技法の種類 特徴
マーケット・アプローチ 同一または類似の資産・負債の市場取引から生じる価格等を使用(IFRS13.62)
インカム・アプローチ 将来のキャッシュ・フロー等を単一の現在価値に割り引く技法(IFRS13.62)

測定においては、観察可能なインプットを最大限に使用し、観察可能でないインプットの使用を最小限に抑える必要があります(IFRS13.67)。大口保有要因によるプレミアムやディスカウントの適用は認められません(IFRS13.69)。

公正価値ヒエラルキー(レベル1〜3)

IFRS第13号では、測定の比較可能性と検証可能性を高めるため、インプットを3つのレベルに区分する公正価値ヒエラルキーを定めています(IFRS13.72)。

ヒエラルキー インプットの定義
レベル1 企業がアクセスできる同一資産/負債の活発な市場における無調整の相場価格(IFRS13.76)
レベル2 レベル1以外の、直接または間接に観察可能なインプット(類似資産の価格等)(IFRS13.81)
レベル3 市場活動がほとんどない状況で企業自身のデータ等を用いて作成される観察可能でないインプット(IFRS13.86)

公正価値測定の全体は、使用された重大なインプットのうち最も低いレベルに区分されます(IFRS13.73)。レベル3のインプットを使用する場合でも、市場参加者のリスク仮定を適切に反映させる必要があります(IFRS13.87)。

基準設定の背景とコンバージェンス

出口価格の明確化と主要な市場の重視

従来のIFRSにおける「交換価格」という定義は、取得価格(入口価格)と解釈される余地がありました(IFRS13.BC29)。IASBは、市場参加者の将来キャッシュ・フローへの期待が客観的に反映されるのは出口価格であると結論付け、企業の意図に関わらず出口価格への統一を図りました(IFRS13.BC36)。また、当初提案された「最も有利な市場」の探索は実務的負担が大きいため、米国会計基準と整合させ、企業が通常取引を行う主要な市場を優先する方針を採用しました(IFRS13.BC51、IFRS13.BC54)。

負債の移転概念と金融危機後の対応

負債の測定においては、「決済」ではなく「第三者への移転」を仮定することで、企業固有の有利不利を排除し、純粋な市場ベンチマークとしての価値を提供することとしました(IFRS13.BC81)。この際、企業自身の信用リスクを反映させることが義務付けられました(IFRS13.BC92)。さらに、金融危機を受けて、市場活動が著しく低下した場合でも、その取引が「秩序ある取引」であるかを評価し、投売りでない限り観察可能な価格を考慮するガイダンスが追加されました(IFRS13.BC178、IFRS13.BC181)。

実務に役立つ具体的なケーススタディ

ケース1:主要な市場と最も有利な市場の判定

ある企業が資産を保有しており、市場Aと市場Bの両方にアクセス可能なケースを想定します。市場Aの価格はCU26、取引コストはCU3、輸送コストはCU2(正味CU21)です。市場Bの価格はCU25、取引コストはCU1、輸送コストはCU2(正味CU22)です。

市場の条件 公正価値の算定結果
市場Aが主要な市場である場合 価格CU26 - 輸送コストCU2 = CU24(IFRS13.16、IFRS13.IE20)
主要な市場が存在しない場合 最も有利な市場Bの価格CU25 - 輸送コストCU2 = CU23(IFRS13.16、IFRS13.IE22)

主要な市場が存在する場合、他の市場(市場B)の方が正味受取額が有利であっても、主要な市場(市場A)の価格を使用しなければなりません。なお、取引コストは公正価値の計算から除外されます(IFRS13.25、IFRS13.26)。

ケース2:非金融資産の最有効使用と評価前提

企業が工場用地として使用している土地について、近隣開発により高層住宅用地としての開発が可能となったケースです。

用途の仮定 評価アプローチ
工場用地としての継続使用 他の資産との組み合わせによる価値評価(IFRS13.31、IFRS13.IE8)
高層住宅用地としての開発 解体コスト考慮後の更地としての単独使用価値評価(IFRS13.31、IFRS13.IE8)

企業の意図が工場としての継続使用であっても、市場参加者の視点で物理的・法的・財務的に可能な最有効使用を評価します(IFRS13.27)。仮に住宅用地としての価値が高い場合、最有効使用は「住宅用地(単独使用)」となり、住宅開発を行う市場参加者に単独で売却する取引を仮定して公正価値が測定されます(IFRS13.31、IFRS13.IE8)。

まとめ

IFRS第13号「公正価値測定」は、出口価格の概念に基づき、市場参加者の視点から一貫した測定を行うための厳格な枠組みを提供しています。主要な市場の特定、非金融資産における最有効使用の評価、負債における自己の信用リスクの反映など、実務において判断が求められるポイントは多岐にわたります。公正価値ヒエラルキーに基づく適切なインプットの選択と評価技法の適用を通じて、透明性の高い財務報告を実現することが求められます。

IFRS第13号「公正価値測定」のよくある質問まとめ

Q.公正価値はIFRS第13号でどのように定義されていますか?

A.公正価値は、測定日時点で、市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取る価格、または負債を移転するために支払う価格(出口価格)と定義されています(IFRS13.9)。

Q.主要な市場と最も有利な市場の違いは何ですか?

A.主要な市場は対象資産や負債の活動量と水準が最大の市場であり、存在する場合はその価格を優先します(IFRS13.16)。主要な市場がない場合のみ、取引・輸送コスト考慮後の正味受取額が最大となる「最も有利な市場」を使用します(IFRS13.16)。

Q.取引コストは公正価値の測定に含めるべきですか?

A.いいえ、取引コストは出口価格の計算から除外されます。ただし、所在地が資産の特性である場合の輸送コストについては価格から控除する調整が求められます(IFRS13.25、IFRS13.26)。

Q.非金融資産の測定における「最有効使用」とは何ですか?

A.最有効使用とは、市場参加者の視点で物理的に可能、法的に許容され、かつ財務的に実行可能な用途のことです。企業の現在の使用意図に関わらず、この最有効使用を仮定して公正価値を測定します(IFRS13.27、IFRS13.28)。

Q.負債の公正価値測定に企業自身の信用リスクは反映させますか?

A.はい、負債の測定には企業自身の信用リスクを含む「不履行リスク」を必ず反映させる必要があります。これは、市場参加者が信用度の低い負債を引き受ける際に異なる価格を提示するためです(IFRS13.42、IFRS13.BC92)。

Q.公正価値ヒエラルキーのレベル1とはどのようなインプットですか?

A.レベル1のインプットとは、企業が測定日にアクセスできる、同一の資産または負債の活発な市場における「無調整の相場価格」を指します。最も信頼性が高く、原則として調整は禁止されています(IFRS13.76)。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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