国際財務報告基準(IFRS)第11号「共同支配の取決め」は、複数の当事者が共同で支配を有する取決めの会計処理を定めた重要な基準です。本記事では、IFRS第11号における「範囲(Scope)」の規定の詳細、基準設定の背景、およびベンチャー・キャピタル企業を例とした具体的なケーススタディについて、関連する条項番号を付記しながら詳細に解説いたします。
「範囲」の規定の詳細と原則的な適用範囲
すべての企業に対する原則的な適用
IFRS第11号の適用範囲は、共同支配の取決めの当事者となるすべての企業に対して適用されることが明確に規定されています(IFRS11.3)。旧基準から一貫して、契約によって複数の当事者に共同支配が与えられている場合、企業はその取決めの形態に関わらず本基準書の適用対象となります。
| 適用対象 | 詳細要件 |
|---|---|
| 原則的な適用範囲 | 共同支配の取決めの当事者であるすべての企業(IFRS11.3) |
別個のビークル自身の財務諸表への適用外
本基準書が適用されるのは、あくまで共同支配事業者による会計処理に対してのみです。共同支配事業として設立された別個のビークル(法的主体など)自身の財務諸表の作成には適用されません(IFRS11.E1)。別個のビークル自身の財務諸表は、IFRS第11号ではなく、そのビークルに適用される他の関連するIFRS基準書(IFRS第9号やIAS第39号など)に従って作成されることになります。
| 対象財務諸表 | 適用される基準書 |
|---|---|
| 共同支配事業者の財務諸表 | IFRS第11号「共同支配の取決め」(IFRS11.3) |
| 別個のビークル自身の財務諸表 | その他の関連するIFRS基準書(IFRS11.E1) |
基準設定の背景と旧基準からの変更点
ジョイント・ベンチャーの基本的な特徴の維持
旧基準(IAS第31号)からIFRS第11号への移行にあたり、国際会計基準審議会(IASB)は、取決めを「ジョイント・ベンチャー(共同支配の取決め)」とみなすための2つの基本的な特徴を変更しないことを決定しました(IFRS11.BC13)。すなわち、「取決めの当事者を拘束する契約上の取決めが存在すること」と、「その契約上の取決めで複数の当事者が当該取決めに対する共同支配を有することが定められていること」です。IFRS第10号「連結財務諸表」の新しい支配の定義により再判定が行われる可能性はありますが、基本的には旧基準の範囲内であった取決めは、引き続きIFRS第11号の範囲に含まれます(IFRS11.BC14)。
範囲除外から測定の特例への移行
旧基準や公開草案(ED第9号)では、ベンチャー・キャピタル企業やミューチュアル・ファンド、ユニット・トラスト(投資連動型保険ファンドを含む)が保有するジョイント・ベンチャーに対する持分を、基準の適用範囲から完全に除外する提案がありました(IFRS11.BC15)。しかし、審議会は、これらの企業が関与する取決めであっても、契約上の取決めにより共同支配が存在する以上、IFRS第11号の適用範囲の例外(除外)として扱うことは不適切であると結論付けました(IFRS11.BC16、IFRS11.BC18)。その一方で、ベンチャー・キャピタル企業等にとっては、持分法を適用するよりも投資を公正価値で測定する方が財務諸表利用者に有用な情報を提供できるという事実が認められました(IFRS11.BC17)。そのため、適用範囲からの除外ではなく、IFRS第9号に従って純損益を通じて公正価値で測定することを認める持分法測定の適用の免除(測定の特例)として制度化されました(IFRS11.BC15、IFRS11.BC18)。
具体的なケーススタディ:ベンチャー・キャピタル企業
ベンチャー・キャピタル企業における適用範囲の判定
ここでは、ベンチャー・キャピタル企業である企業Vが、他の投資者とともに別個の法人(新興企業S)の株式を50%ずつ取得し、関連性のある活動の決定について全員一致の合意(共同支配)を定めた契約を締結したケースを想定します。旧基準の考え方では適用範囲外とされることもありましたが、IFRS第11号の下では、企業Vはこの取決めが契約によって複数の当事者に共同支配を与えている特徴を有するため、自らが共同支配の取決めの当事者であると判断し、IFRS第11号の適用対象(範囲内)に該当することを認識しなければなりません(IFRS11.3、IFRS11.BC16)。
測定の特例を活用した実務的な会計処理
IFRS第11号の範囲に該当し、当該取決めが共同支配企業に分類される場合、原則として持分法による会計処理が要求されます。しかし、企業Vのようなベンチャー・キャピタル企業は、事業モデル上の特徴から、持分法よりも投資の公正価値測定を行う方が有用な情報を提供できます(IFRS11.BC17)。したがって、企業VはIFRS第11号の適用範囲に属しつつも、この持分を持分法ではなくIFRS第9号に従って純損益を通じて公正価値で測定するという測定の特例(持分法適用の免除)を選択して会計処理を行うことが可能です(IFRS11.3、IFRS11.BC18)。
| 項目 | ベンチャー・キャピタル企業の会計処理(IFRS第11号) |
|---|---|
| 適用範囲の判定 | IFRS第11号の範囲に含まれる(IFRS11.3、IFRS11.BC16) |
| 測定の特例 | IFRS第9号に従い純損益を通じて公正価値で測定可能(IFRS11.BC18) |
まとめ
IFRS第11号「共同支配の取決め」における「範囲」の規定は、すべての共同支配の取決めの当事者を一貫して基準の範囲内に含めるという明確な原則に基づいています(IFRS11.3)。同時に、ベンチャー・キャピタル企業やミューチュアル・ファンドなどの特定の事業モデルを有する企業に対しては、実態に即した有用な財務情報を提供できるよう、持分法の適用を免除し公正価値測定を認める「測定の特例」が設けられています(IFRS11.BC18)。企業はこれらの規定を正しく理解し、適切な会計処理と開示を行うことが求められます。
IFRS第11号「共同支配の取決め」のよくある質問まとめ
Q. IFRS第11号「共同支配の取決め」はどのような企業に適用されますか?
A. IFRS第11号は、共同支配の取決めの当事者である「すべての企業」に対して原則として適用されます(IFRS11.3)。
Q. 別個のビークル自身の財務諸表にIFRS第11号は適用されますか?
A. 適用されません。IFRS第11号は共同支配事業者による会計処理に適用されるものであり、別個のビークル自身の財務諸表は他の関連するIFRS基準書に従って作成されます(IFRS11.E1)。
Q. 取決めを「ジョイント・ベンチャー」とみなす基本的な特徴は何ですか?
A. 当事者を拘束する契約上の取決めが存在することと、その契約で複数の当事者が共同支配を有することが定められていることの2点です(IFRS11.BC13)。
Q. ベンチャー・キャピタル企業はIFRS第11号の適用範囲から除外されますか?
A. 除外されません。共同支配が存在する以上、IFRS第11号の適用範囲に含まれますが、持分法適用の免除(測定の特例)を受けることができます(IFRS11.BC16、IFRS11.BC18)。
Q. ベンチャー・キャピタル企業に認められる測定の特例とはどのような会計処理ですか?
A. 共同支配企業に対する持分を持分法ではなく、IFRS第9号に従って純損益を通じて公正価値で測定することが認められる特例です(IFRS11.BC18)。
Q. なぜベンチャー・キャピタル企業に測定の特例が設けられているのですか?
A. ベンチャー・キャピタル企業等の事業モデルにおいては、持分法を適用するよりも投資を公正価値で測定する方が、財務諸表利用者にとってより有用な情報を提供できると判断されたためです(IFRS11.BC17)。