IFRS第11号「共同支配の取決め」は、複数の企業によって共同で支配されている取決めに対する持分を有する企業の財務報告に関する原則を定めた重要な会計基準です。本記事では、本基準書の目的、旧基準からの改訂の背景、および実務における具体的なケーススタディについて、権利と義務の実質的評価の観点から詳細に解説いたします。
IFRS第11号「共同支配の取決め」の目的と要件
本セクションでは、共同支配の取決めに関する財務報告の大原則と、その目的を達成するために企業に求められる具体的な要件、および適用範囲について解説いたします。
本基準書の目的
IFRS第11号の最大の目的は、共同で支配されている取決め(共同支配の取決め)に対する持分を有する企業の財務報告に関する原則を定めることにあります。これにより、投資家や債権者などの財務諸表利用者に対して、企業が関与する取決めの経済的実質を忠実に表現した情報を提供することが可能となります(IFRS11.1)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基準の目的 | 共同支配の取決めに対する持分を有する企業の財務報告原則の確立(IFRS11.1) |
目的の達成に向けた要件
上記の目的を達成するため、本基準書は「共同支配」の定義を明確にし、取決めの当事者である企業に対して厳密な評価と会計処理を要求しています。具体的には、企業は関与している共同支配の取決めの種類を、自らの権利及び義務を評価することにより決定しなければなりません。さらに、評価によって決定された共同支配の取決めの種類に従って、適切な会計処理を行うことが義務付けられています(IFRS11.2)。
| 要求事項 | 詳細内容 |
|---|---|
| 種類の決定 | 自らの権利及び義務を評価することにより取決めの種類を決定する(IFRS11.2) |
| 会計処理 | 決定された取決めの種類に従って会計処理を実施する(IFRS11.2) |
本基準書の適用範囲
本基準書の適用範囲は非常に広範であり、共同支配の取決めの当事者となるすべての企業に対して適用が義務付けられています。例外は設けられておらず、共同支配の取決めに関与する限り、企業の規模や業種を問わず本基準書の原則に従った財務報告が求められます(IFRS11.3)。
旧基準(IAS第31号)からの改訂と基準設定の背景
IFRS第11号が開発された背景には、旧基準であるIAS第31号「ジョイント・ベンチャーに対する持分」に存在していた実務上の大きな課題がありました。ここでは、その課題と新しい原則が確立された経緯を解説いたします。
旧基準における「構造偏重」と実務の不統一
旧基準(IAS第31号)では、取決めが別個のビークル(企業などの法人格)を通じて組成されているかどうかという構造(法的形態)のみを基礎として、異なる会計処理が規定されていました。さらに、企業を通じて組成された「共同支配企業」に対しては、比例連結と持分法という2つの会計処理の選択肢が認められていました(IFRS11.BC4、IFRS11.BC7)。この結果、当事者に与えられる権利及び義務が実質的に同じである取決めが異なる方法で処理されたり、逆に権利及び義務が異なる取決めが同じ方法で処理されたりするなど、財務諸表の比較可能性を大きく損なう問題が生じていました(IFRS11.BC8)。
| 旧基準の課題 | 具体的な問題点 |
|---|---|
| 構造偏重 | 別個のビークルの有無という法的形態のみで分類が行われていた(IFRS11.BC7) |
| 会計処理の選択肢 | 比例連結と持分法の選択が認められ、比較可能性が損なわれていた(IFRS11.BC8) |
経済的実質に基づく新たな原則の確立
旧基準の問題に対処するため、国際会計基準審議会は、取決めの構造や法的形態に関係なく、当該取決めへの関与の結果として各当事者が有する権利及び義務を反映すべきであるという新たな原則を確立しました(IFRS11.BC9)。旧基準の比例連結では、企業が権利又は義務を有していない資産及び負債を認識するリスクがあり、持分法ではその逆のリスクがありました。これらは財務諸表利用者の誤解を招くため、会計方針の選択肢は完全に削除されました。権利及び義務の実質に基づいて共同支配の取決めを分類し、それぞれに単一の適切な会計処理を要求することで、忠実な表現と比較可能性の向上が図られています(IFRS11.BC10、IFRS11.BC11)。
具体的なケーススタディ:別個の法人を設立した場合
本基準書の「目的」と「目的の達成」のための要求事項が実務でどのように適用されるのか、企業Aと企業Bが共同で別個の法人(新会社)を設立し、共同支配する取決めを締結したケースを用いて解説いたします。
旧基準下での会計処理アプローチ
旧基準(IAS第31号)の下では、新会社という別個のビークルを通じて組成されているという構造(法的形態)のみを理由に、この取決めは自動的に「共同支配企業」に分類されていました。そして、企業Aと企業Bは、それぞれ自社の会計方針として、この持分を「比例連結」で処理するか「持分法」で処理するかを自由に選択することが可能でした(IFRS11.BC7、IFRS11.BC10)。
IFRS第11号適用による実質的評価への転換
IFRS第11号の適用により、このアプローチは根本から変わります。企業Aと企業Bは、単に法人が設立されたという形式的な構造だけでなく、契約内容等を通じて自らの権利及び義務を評価しなければなりません(IFRS11.2)。例えば契約上、設立した新会社の生産物を両社がすべて引き取る義務があり、新会社のコストをすべて両社が直接的に負担する場合、実質的には企業Aと企業Bが当該取決めの「資産に対する権利と負債に対する義務」を有していると評価されます(IFRS11.BC9)。この結果、本取決めは「共同支配事業」に分類され、両社は会計方針の選択の余地なく、自らの権利と義務に相当する資産及び負債を直接認識する単一の会計処理を行わなければなりません(IFRS11.BC11)。
| 基準 | 分類と会計処理の決定方法 |
|---|---|
| 旧基準(IAS第31号) | 別個のビークルの有無で自動分類し、比例連結か持分法を選択(IFRS11.BC7) |
| 新基準(IFRS第11号) | 権利及び義務の実質を評価して分類し、単一の会計処理を強制(IFRS11.2) |
まとめ
IFRS第11号「共同支配の取決め」は、形式的な法的構造に囚われることなく、経済的実質である権利と義務を忠実に表現することを目的としています。旧基準における構造偏重や会計処理の選択肢による比較可能性の低下という問題を解消し、企業に対して自らの権利及び義務の厳格な評価と、それに基づく単一の適切な会計処理を求めています。実務においては、契約内容の綿密な精査と実質的な権利・義務の把握が不可欠となります。
IFRS第11号「共同支配の取決め」に関するよくある質問まとめ
Q.IFRS第11号の主な目的は何ですか?
A.共同で支配されている取決め(共同支配の取決め)に対する持分を有する企業の財務報告に関する原則を定めることです(IFRS11.1)。
Q.IFRS第11号はどのような企業に適用されますか?
A.共同支配の取決めの当事者であるすべての企業に対して適用が義務付けられています(IFRS11.3)。
Q.共同支配の取決めの種類はどのように決定しますか?
A.企業が関与している共同支配の取決めにおいて、自らの権利及び義務を評価することにより決定しなければなりません(IFRS11.2)。
Q.旧基準(IAS第31号)の問題点は何でしたか?
A.別個のビークルを通じて組成されているかという構造(法的形態)のみを基礎とし、比例連結と持分法の選択肢を認めていたため、比較可能性が損なわれていました(IFRS11.BC7、IFRS11.BC8)。
Q.新しい基準で会計方針の選択肢が削除された理由は何ですか?
A.権利及び義務の実質に基づいて分類し、それぞれに単一の適切な会計処理を要求することで、財務諸表の忠実な表現と比較可能性を向上させるためです(IFRS11.BC10、IFRS11.BC11)。
Q.別個の法人を設立した場合、自動的に「共同支配企業」に分類されますか?
A.いいえ。法人の設立という形式だけでなく、契約内容等を通じて資産に対する権利と負債に対する義務を評価した結果、「共同支配事業」に分類されるケースもあります(IFRS11.2、IFRS11.BC9)。