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IAS第27号「個別財務諸表」の作成原則とケーススタディ

2025-07-10
目次

国際財務報告基準(IFRS)を適用する企業において、個別財務諸表を作成する際の会計方針の選択や実務上の取り扱いは、グループ全体の財務報告に直結する重要なテーマです。本記事では、IAS第27号「個別財務諸表」における第9項から第14項、およびIFRIC(国際財務報告基準解釈指針委員会)のアップデート(E1〜E4)に基づく規定の詳細、その背景、そして具体的なケーススタディを詳しく解説いたします。

個別財務諸表の作成原則と会計処理の選択

企業が個別財務諸表を作成する場合、後述する特定の投資に関する会計処理を除き、すべての適用可能なIFRSに従って作成することが求められます(IAS27.9)。これにより、連結財務諸表と個別財務諸表の間で、基本的な会計方針の整合性が保たれることになります。

すべての適用可能なIFRSの遵守と投資の会計処理

子会社、共同支配企業、および関連会社に対する投資については、投資の区分ごとに同一の会計処理を首尾一貫して適用しなければなりません(IAS27.10)。企業は、以下の表に示す3つの方法からいずれかを選択して会計処理を行います。

会計処理の選択肢 適用される基準と特徴
取得原価による測定 投資を取得時の原価で評価し、減損の兆候がある場合はIAS第36号に従い処理します(IAS27.10(a))。
公正価値による測定 IFRS第9号「金融商品」に従い、公正価値の変動を純損益またはその他の包括利益に認識します(IAS27.10(b))。
持分法による測定 IAS第28号「投資会社および共同支配企業に対する投資」に規定される持分法を用いて処理します(IAS27.10(c))。

なお、取得原価または持分法で会計処理している投資が、IFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」に従って売却目的保有に分類された場合は、同基準書に従って測定されます。一方で、IFRS第9号に従って公正価値で会計処理していた投資については、売却目的保有に分類されても測定方法は変更されません(IAS27.10)。かつては個別財務諸表における持分法の適用が禁止されていましたが、一部の国の国内法規とのコンプライアンス・コスト軽減を目的として、2014年の改訂により持分法の選択肢が復活したという背景があります(IAS27.BC10A、IAS27.BC10B)。

IFRICによる実務上の見解(減損、段階取得、部分処分)

個別財務諸表の作成実務において判断が分かれやすい論点について、IFRICは具体的な見解(E1〜E3)を示しています。これにより、企業はより統一的な基準で会計処理を行うことが可能となります。

投資の減損テストにおける適用基準

取得原価で計上している子会社、共同支配企業、および関連会社に対する投資の減損テストについては、金融商品の減損ルールであるIFRS第9号ではなく、IAS第36号「資産の減損」の定めを適用すべきであると明確化されています(IAS27.10 E1)。これにより、投資の回収可能価額と帳簿価額を比較する厳密な減損テストが要求されます。

段階的な取得における取得原価の決定アプローチ

当初、IFRS第9号を適用して他の企業に対する持分を保有していた企業が、追加で持分を取得して子会社に対する支配を獲得した場合、「取得原価」の決定方法が問題となります。この場合、企業は以下のいずれかのアプローチを選択し、継続して適用する必要があります(IAS27.10 E2)。

アプローチの名称 会計処理の概要
みなし原価としての公正価値アプローチ 支配獲得日における既存持分の公正価値と、追加取得の対価の合計を取得原価とします。
累積原価アプローチ 当初持分に対して支払った対価と、追加取得の対価の合計を取得原価とします。

累積原価アプローチを適用する場合、支配獲得日における当初持分の公正価値と当初の対価との差額は、当期の純損益として認識しなければなりません(IAS27.10 E2)。

部分的な処分に伴う保持持分の会計処理

取得原価で会計処理していた子会社投資の一部を処分し、支配、共同支配、および重要な影響力のすべてを喪失した場合、企業の手元に残った保持持分はIFRS第9号の適用対象となります。この際、保持持分について公正価値の変動をその他の包括利益(OCI)に表示する選択が可能です。また、保持した持分の取得原価と支配喪失日の公正価値との差額は、純損益に認識する必要があります(IAS27.10 E3)。

投資が公正価値で測定される場合の取扱い

特定の状況下では、投資を純損益を通じて公正価値で測定することが義務付けられる、あるいは選択される場合があります。個別財務諸表においても、連結財務諸表と同様の測定方法が求められます。

投資企業における個別財務諸表の公正価値測定

関連会社または共同支配企業に対する投資を、IAS第28号の例外規定に従ってIFRS第9号に基づき純損益を通じて公正価値で測定することを選択している場合、個別財務諸表でも同じ方法で会計処理しなければなりません(IAS27.11)。また、親会社が「投資企業」に該当し、IFRS第10号に従って子会社に対する投資を純損益を通じて公正価値で測定することが要求される場合も同様です(IAS27.11A)。

親会社が投資企業としての地位を喪失した場合、その地位の変動日を「みなし取得日」とし、その日現在の公正価値を移転されたみなし対価として、以後はIAS第27号第10項に従って会計処理を行います(IAS27.11B(a))。反対に、企業が新たに投資企業となった場合には、子会社への投資をIFRS第9号に従って純損益を通じて公正価値で測定するよう変更し、従前の帳簿価額と公正価値との差額は純損益に利得または損失として認識します(IAS27.11B(b))。

配当の認識基準と持分法の例外

子会社や関連会社からの配当金の受領は、個別財務諸表における重要な収益認識の論点です。IFRSでは、配当の源泉が取得前の利益剰余金であるか取得後の利益剰余金であるかを問わず、統一的な認識基準を設けています。

純損益での配当認識と持分法適用時の帳簿価額減額

子会社、共同支配企業、または関連会社からの配当は、企業が配当を受け取る権利が確定した時点で、個別財務諸表の純損益に認識されます(IAS27.12)。過去の基準では、配当が「取得前の利益剰余金」から支払われた場合は投資の回収とみなし、投資の取得原価を減額するルールが存在しました(IAS27.BC14)。しかし、取得前後で利益剰余金を厳密に区分することは実務上極めて困難であるため、この区分要求は削除されました(IAS27.BC17、IAS27.BC18)。過大評価を防ぐ担保としては、IAS第36号に基づく減損テストが重視されています(IAS27.BC19)。

ただし、投資の会計処理として「持分法」を選択している場合は例外です。持分法適用下では、受取配当金は収益として認識せず、「投資の帳簿価額からの減額」として処理しなければなりません(IAS27.12)。

企業集団の再編と新しい親会社設立時の特例

純粋持株会社の設立など、企業集団の再編が行われる場合、個別財務諸表における新しい親会社の子会社株式の取得原価の算定が問題となります。単なる組織再編で莫大な評価益が計上されることを防ぐため、特例が設けられています。

帳簿価額による取得原価の測定要件

親会社(または親会社でない企業)が、新しい企業を自らの親会社として設立することにより企業集団を再編する場合、特定の要件を満たすときには、新しい親会社は旧親会社に対する投資の取得原価を「再編日現在で旧親会社の個別財務諸表に示されていた資本項目に対する持分の帳簿価額」で測定しなければなりません(IAS27.13、IAS27.14)。この特例の適用には以下の要件をすべて満たす必要があります。

特例適用の特定の要件 内容の詳細
支配獲得の方法 新しい親会社が旧親会社の既存の資本性金融商品と交換に自らの株式等を発行して支配を獲得すること(IAS27.13(a))。
資産・負債の同一性 再編の前後で、新しい企業集団と従来の企業集団の資産および負債が完全に同一であること(IAS27.13(b))。

さらに、再編の前後で所有者の持分比率が同一であることも求められます(IAS27.13(c))。この規定は、純資産の持分や企業集団の実態に変更がないにもかかわらず、株式を公正価値評価することで人工的な巨大な損益が生じるのを防ぐ目的で導入されました(IAS27.BC21、IAS27.BC22)。ただし、IFRICは、新しい中間親会社が複数の直接の子会社を有する結果を生じるような、より複雑な再編に対してはこの例外規定を直接にも類推にも適用できないとの見解を示しています(IAS27.13 E4)。

個別財務諸表に関するケーススタディ

ここからは、これまでに解説したIAS第27号の規定が実務においてどのように適用されるのか、具体的なケーススタディを通じて確認していきます。

ケーススタディ1:会計処理の選択と配当の認識

A社は個別財務諸表を作成するにあたり、子会社B社に対する投資の会計処理として「取得原価」を選択しています(IAS27.10(a))。当期、B社が1,000万円の配当決議を行い、A社が受け取る権利が確定しました。A社はこの1,000万円の配当をそのまま自社の純損益(受取配当金)として認識します(IAS27.12)。

一方で、関連会社C社に対しては「持分法」を選択しています(IAS27.10(c))。当期、C社から200万円の配当を受け取る権利が確定しましたが、A社はこの200万円を収益とはせず、C社に対する投資の帳簿価額を200万円減額する会計処理を行います(IAS27.12)。

ケーススタディ2:段階的な取得の会計処理

D社は、E社の株式の10%を保有し、これをIFRS第9号に従って純損益を通じて公正価値で測定していました。当期、D社はE社の株式をさらに50%追加取得し、合計60%の持分を有して支配を獲得し、E社を子会社としました。D社は個別財務諸表において子会社を「取得原価」で評価する方針です(IAS27.10(a))。

この時、D社はIFRICの見解に基づき「累積原価アプローチ」を採用しました。そのため、当初の10%持分に対して支払った対価と、追加の50%に対して支払った対価の合計を取得原価とします(IAS27.10 E2)。そして、支配獲得日における当初持分(10%)の公正価値と当初の対価との差額を、当期の純損益として認識する処理を行います(IAS27.10 E2)。

ケーススタディ3:新しい持株会社の設立

F社(旧親会社)の株主は、純粋持株会社であるG社(新しい親会社)を新たに設立し、F社の発行済株式の100%をG社の新株と交換する株式移転を行いました。これにより、F社はG社の完全子会社となりました。この再編の前後で、企業集団全体の資産や負債、ならびに株主の持分比率は全く変わっていません。

G社は個別財務諸表においてF社株式を「取得原価」で測定する方針です(IAS27.10(a))。この場合、G社は株式移転日のF社の株式の時価(公正価値)で取得原価を測定するのではなく、特例規定に従い「再編日現在でF社の個別財務諸表に示されていた純資産(資本項目)に対する持分の帳簿価額」をF社株式の取得原価としてそのまま引き継ぎます(IAS27.13)。これにより、実態を伴わない評価益の計上が適切に防がれます。

まとめ

IAS第27号「個別財務諸表」は、企業が単体ベースでの財務諸表を作成する際の明確なルールを提供しています。子会社や関連会社への投資を「取得原価」「IFRS第9号」「持分法」のいずれかで首尾一貫して処理する原則や、配当の受領を権利確定時に純損益に認識するルールは、実務上の明確性をもたらします。また、段階的な取得や持株会社設立時の特例など、IFRICの見解や基準書の例外規定を正しく理解し適用することで、経済的実態を適切に反映した個別財務諸表を作成することが可能となります。

IAS第27号「個別財務諸表」に関するよくある質問まとめ

Q. 個別財務諸表において子会社投資はどのように会計処理すべきですか?

A. 企業は投資の区分ごとに、取得原価、IFRS第9号に従った公正価値測定、またはIAS第28号に基づく持分法のいずれかを選択して首尾一貫して適用しなければなりません(IAS27.10)。

Q. 取得原価で測定している子会社投資の減損テストはどの基準を適用しますか?

A. IFRS第9号ではなく、IAS第36号「資産の減損」の定めを適用して厳密な減損テストを実施する必要があります(IAS27.10 E1)。

Q. 子会社からの配当金は個別財務諸表でどのように認識しますか?

A. 配当を受け取る権利が確定した時に純損益に認識します。ただし、投資の会計処理に持分法を選択している場合は、収益とせずに投資の帳簿価額からの減額として処理します(IAS27.12)。

Q. 段階的な取得によって子会社の支配を獲得した場合の取得原価はどう決定しますか?

A. 「みなし原価としての公正価値アプローチ」か「累積原価アプローチ」のいずれかを選択し適用します。累積原価アプローチの場合、支配獲得日の当初持分の公正価値と当初対価の差額は純損益に認識します(IAS27.10 E2)。

Q. 親会社が「投資企業」である場合、子会社投資の会計処理はどうなりますか?

A. IFRS第10号に従って子会社に対する投資を純損益を通じて公正価値で測定することが要求されるため、個別財務諸表においても同じ方法で会計処理しなければなりません(IAS27.11A)。

Q. 新しい親会社(持株会社)を設立するグループ再編時の特例とは何ですか?

A. 再編前後で資産・負債や持分比率が同一である等の要件を満たす場合、新親会社は旧親会社株式の取得原価を、再編日現在の旧親会社の個別財務諸表に示された資本項目の帳簿価額で測定します(IAS27.13)。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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