企業が保有する非流動資産のうち、継続的な使用ではなく売却によって資金を回収する予定のものについては、IFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」に基づき適切な分類を行う必要があります。本記事では、分類の基本原則から即時売却可能性、1年要件の例外、さらには具体的なケーススタディまで、実務担当者が押さえておくべきポイントを網羅的に解説いたします。
売却目的保有への分類の基本原則
即時売却可能性の判断基準
非流動資産(又は処分グループ)の帳簿価額が、継続的使用ではなく主に売却取引により回収されると見込まれる場合、企業は当該資産を「売却目的保有」に分類しなければなりません(IFRS5.6)。この分類を行うためには、対象となる資産が通常又は慣例的な条件のみに従って現状のままで直ちに売却が可能でなければなりません(IFRS5.7)。
例えば、企業が本社建物を売却する計画を確約した場合でも、「新しい本社建物が完成して移転するまで(例えば1年後まで)現在の建物を引き渡さない」といった条件が付与されているケースがあります。このような場合、買手との間で売却の確定契約が締結されていたとしても、移転時期の遅れが存在するため「現状のままで直ちに売却が可能」とは認められません。したがって、新しい建物が完成し引き渡しが可能になるまでは、当該建物を売却目的保有に分類することはできません(IFRS5.7)。
売却の可能性が非常に高いとされるための要件
直ちに売却可能であることに加え、売却の可能性が非常に高い状態でなければなりません。この要件を満たすためには、以下のすべての条件をクリアする必要があります(IFRS5.8)。
| 分類要件 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 経営者の確約 | 適切な地位の経営者が資産(又は処分グループ)の売却計画の実行を確約していること |
| 積極的な計画着手 | 買手を探し、売却計画を完了させるための積極的な計画にすでに着手していること |
| 合理的な価格設定 | 現在の公正価値との関係において、合理的な価格で積極的な売込みを行っていること |
| 1年以内の完了見込み | 原則として、分類の日から1年以内に売却が完了し、認識される要件を満たす見込みであること |
| 計画変更の可能性の低さ | 計画を完了させるための行動が、計画の重大な変更や撤回の可能性が低いことを示していること |
また、該当する法域において株主の承認が要求されている場合には、その承認が得られる蓋然性も、売却の可能性が非常に高いかどうかの判定に含めて考慮する必要があります(IFRS5.8)。
子会社の支配喪失を伴う売却計画
すべての資産及び負債の分類
企業が子会社に対する支配の喪失を伴う売却計画を確約している場合、前述の要件が満たされていれば、企業が旧子会社に対する非支配持分を売却後も保持し続けるかどうかにかかわらず、当該子会社のすべての資産及び負債を売却目的保有に分類しなければなりません(IFRS5.8A)。
支配喪失がもたらす経済的実質
この規定の背景には、子会社の支配喪失が投資の性質を変える重大な経済的事象であるという認識があります。支配を喪失することにより、新たな投資者と投資先の関係が構築されるため、たとえ一部の非支配持分を手元に残すとしても、会計上は子会社全体を売却目的保有として取り扱うことが、財務諸表利用者にとって有用な情報提供につながると判断されています。
1年要件の例外と交換取引への適用
1年要件の例外が認められる状況
事象や状況によっては、売却を完了するための期間が1年を超えて延長される場合があります。しかし、その遅延の原因が企業の支配の及ばない事象又は状況によるものであり、企業が売却計画の実行を依然として確約している十分な証拠がある場合には、1年を超えても売却目的保有に分類し続けることが認められます(IFRS5.9)。
例えば、企業が事業の重要な部分を構成する施設を売却する確定契約を締結し、売却目的保有に分類したとします。その後、買手側の実地検査によって以前から存在していた環境汚染が判明し、買手から汚染の浄化を要求された結果、売却完了までに当初見込んでいた1年を超える期間がかかることが確実になるケースがあります。この遅延は企業にとって支配の及ばない予想外の事象であり、企業がすでに浄化活動に着手し、満足できる浄化の可能性が非常に高い場合には、例外規定が適用され、引き続き売却目的保有に分類することが可能です(IFRS5.9)。
交換取引における適用範囲
売却取引には、金銭による売却だけでなく、他の非流動資産との交換も含まれます。ただし、この交換取引がIAS第16号「有形固定資産」に従った商業的実質(経済的実質)を有している場合に限られます(IFRS5.10)。単なる同種資産の交換ではなく、将来キャッシュ・フローに変化をもたらすような実質的な交換取引であれば、売却目的保有の分類対象となります。
転売目的取得と報告期間後の事象
転売目的取得の特例条件
企業が非流動資産(又は処分グループ)をその後の処分だけを目的に取得した場合、取得日時点で直ちに売却目的保有に分類するための特例的な条件が存在します。具体的には、1年以内に売却が完了する要件を満たし、かつ取得日時点では満たされていない他の要件(即時売却可能性や積極的な売込みなど)が、取得後短期間(通常3か月以内)に満たされる可能性が非常に高いときにのみ、取得日時点で売却目的保有に分類しなければなりません(IFRS5.11)。
報告期間後(期末後)の事象の取り扱い
売却目的保有の要件が満たされるのが報告期間末日後(期末後)である場合、企業は財務諸表の発行時に当該資産を売却目的保有に分類してはなりません(IFRS5.12)。ただし、要件を満たした日が財務諸表の発行承認前である場合には、財務諸表の注記において当該事実や詳細を開示することが求められます。
所有者分配目的保有への分類
所有者分配目的保有の要件
企業が非流動資産(又は処分グループ)を所有者に分配することを確約している場合、当該資産等は「所有者分配目的保有」に分類されます(IFRS5.12A)。この分類を行うための要件は、売却目的保有の要件と類似しています。
| 分配目的保有の要件 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 即時分配可能性 | 資産が現状のままで、通常又は慣例的な条件のみで直ちに分配に利用できること |
| 分配の可能性の高さ | 分配を完了するための行動に着手しており、分類の日から1年以内に完了が見込まれること |
| 計画の確実性 | 分配計画の重大な変更や撤回の可能性が低く、必要に応じて株主承認の蓋然性も満たすこと |
まとめ
IFRS第5号の導入以前は、保有及び使用される非流動資産と売却予定の非流動資産との明確な区分は存在していませんでした。しかし、処分予定の資産に関する情報を独立して提供することは、財務諸表利用者が将来キャッシュ・フローの時期、金額及び不確実性を評価するうえで極めて有用です。
経営者の意図による濫用を防ぐため、分類には客観的で厳密な要件が設けられています。例えば、不要となった土地を1億円で売りに出し売却目的保有に分類した後、不動産市況の急速な悪化により1年以上買い手がつかないケースを想定します。この際、企業が現在の公正価値(例えば7,000万円)まで価格を引き下げることを拒否し、1億円のまま売出しを継続した場合、「現在の公正価値との関係において合理的な価格で積極的に売り込んでいる」という要件(IFRS5.8)を満たさなくなります。価格を引き下げないことは直ちに売却可能でないことを示し、1年要件の例外(IFRS5.9)にも該当しません。結果として、企業はこの土地の売却目的保有の分類を中止し、通常の非流動資産として再分類しなければなりません。
実務においては、これらの厳格な要件を常にモニタリングし、状況の変化に応じて適切な会計処理を行うことが求められます。
IFRS第5号における売却目的保有資産のよくある質問まとめ
Q.売却目的保有に分類するための基本的な要件は何ですか?
A.資産が主に売却取引により回収される見込みであり、現状のままで直ちに売却が可能であること(IFRS5.7)、かつ、経営者の確約や合理的な価格での積極的な売込みなど、売却の可能性が非常に高いとされる5つの要件を満たす必要があります(IFRS5.8)。
Q.資産の売却に1年以上かかる場合でも売却目的保有に分類できますか?
A.遅延の原因が企業の支配の及ばない事象や状況によるものであり、企業が売却計画の実行を依然として確約している十分な証拠がある場合には、例外として1年を超えても分類を継続することが認められます(IFRS5.9)。
Q.子会社の一部株式を売却し支配を喪失する場合の会計処理はどうなりますか?
A.支配の喪失を伴う売却計画を確約している場合、企業が非支配持分を保持し続けるかどうかにかかわらず、当該子会社のすべての資産及び負債を売却目的保有に分類しなければなりません(IFRS5.8A)。
Q.報告期間末日後(期末後)に売却の要件を満たした場合、当期の財務諸表で売却目的保有に分類できますか?
A.報告期間末日後に要件を満たした場合は、当期の財務諸表で売却目的保有に分類することはできません。ただし、財務諸表の発行承認前であれば、注記においてその事実を開示する必要があります(IFRS5.12)。
Q.転売目的で取得した資産を直ちに売却目的保有に分類するための条件は何ですか?
A.取得日時点で1年要件を満たしており、かつ、取得日時点では満たされていない他の要件が取得後短期間(通常3か月以内)に満たされる可能性が非常に高い場合に限り、取得日時点で分類しなければなりません(IFRS5.11)。
Q.市況が悪化し当初の売却価格で買い手がつかない場合、分類はどうなりますか?
A.現在の公正価値との関係において合理的な価格で積極的に売り込んでいない場合、売却の可能性が非常に高いという要件を満たさなくなります。そのため、売却目的保有の分類を中止し、通常の非流動資産として再分類する必要があります(IFRS5.8)。