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IAS第37号「引当金」の適用範囲を徹底解説!不利な契約から除外規定まで

2025-02-02
目次

IFRS(国際財務報告基準)におけるIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」は、将来の不確実な事象に備えるための会計処理を定める重要な基準です。しかし、その「適用範囲」は一見単純に見えて、実務上は多くの論点を含んでいます。どの項目がIAS第37号の対象となり、どの項目が他の基準書の管轄となるのかを正確に理解することは、適切な財務報告の基礎となります。本記事では、IAS第37号の適用範囲について、基本原則から他の基準書との関係、そしてIFRIC(IFRS解釈指針委員会)が示した具体的なケーススタディまで、条項番号を明記しながら詳細に解説します。

IAS第37号の基本的な適用範囲

IAS第37号は、企業の会計処理における引当金、偶発負債、偶発資産の認識と測定に関するルールを定めています。まずは、その適用の基本となる原則と、重要な例外規定について確認します。

適用の大原則

本基準書は、原則として、すべての企業が引当金、偶発負債及び偶発資産を会計処理する際に適用しなければなりません。これにより、比較可能性と透明性の高い財務情報が提供されることを目的としています(第1項)。ただし、後述するように、他のIFRS基準書が特定の項目を扱っている場合は、そちらが優先されます。

「未履行の契約」は原則適用外

IAS第37号は、原則として「未履行の契約(Executory Contracts)」から生じる引当金等には適用されません(第1項(a))。未履行の契約とは、契約当事者のいずれもが自らの義務を全く履行していないか、あるいは双方が同程度に部分的にしか履行していない契約を指します(第3項)。例えば、まだ納品も支払いも行われていない商品の売買契約などがこれに該当します。

例外:「不利な契約」への適用

未履行の契約に関する原則には、極めて重要な例外があります。それは、契約が「不利な契約(Onerous Contracts)」であると判断される場合です。不利な契約とは、契約に基づく義務を履行するために発生する「回避不能なコスト」が、その契約から得られると見込まれる経済的便益を上回る契約を指します。このような不利な契約については、未履行であってもIAS第37号が適用され、損失が見込まれる部分について引当金を認識する必要があります(第1項(a), 第3項)。

他のIFRS基準書との関係(適用除外規定)

IAS第37号は包括的な基準ですが、特定の種類の引当金や偶発負債については、より専門的な他のIFRS基準書が規定を設けています。その場合、企業はIAS第37号ではなく、当該他の基準書を適用しなければなりません(第5項)。この関係性を理解することは、適用範囲を正確に把握する上で不可欠です。

主な適用除外項目と、それに対応する基準書の関係は以下の通りです。

対象項目 適用される基準書と補足説明
金融商品 IFRS第9号「金融商品」の範囲に含まれる金融商品(金融保証契約を含む)には適用されません。(第2項)
法人所得税 法人所得税から生じる負債や資産は、IAS第12号「法人所得税」に従って会計処理されます。(第5項(b))
リース リース契約は原則としてIFRS第16号「リース」の対象ですが、例外的に、リースの開始日前に不利となったリースや、短期リース・少額資産リースで不利なものには本基準書が適用されます。(第5項(c))
従業員給付 退職給付引当金や年金債務など、従業員給付に関連する項目はIAS第19号「従業員給付」が適用されます。(第5項(d))
保険契約 保険会社が発行する保険契約から生じる権利及び義務は、IFRS第17号「保険契約」の範囲となります。(第5項(e))
顧客との契約から生じる収益 収益認識に関する会計処理はIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に従いますが、IFRS第15号には不利な契約に関する規定がないため、顧客との契約が不利なものとなった場合には、本基準書(IAS第37号)が適用されます。(第5項(g))

適用範囲の境界線:IFRICによるケーススタディ

実務においては、ある取引がIAS第37号の範囲に含まれるか、それとも他の基準書の範囲となるかの判断が難しいケースが存在します。ここでは、IFRS解釈指針委員会(IFRIC)が公表したアジェンダ決定から、適用範囲の境界線を示す具体的な事例を3つ紹介します。

ケース1:リターナブル容器の預り金(金融商品との境界)

飲料メーカーなどが製品販売時に容器の預り金(デポジット)を顧客から受け取り、容器が返却された際に返金する義務を負う場合があります。この返金義務は、IAS第37号の引当金か、IFRS第9号の金融負債か、という論点です。

IFRICの見解によれば、結論は容器の「認識の中止(売却処理)」が行われているかどうかで異なります。

  • 認識の中止が行われない場合:企業が容器を資産として認識し続けている場合、顧客の権利は「返金を受ける権利」のみです。この場合、企業の義務は現金を支払う義務であり、金融負債の定義を満たすためIFRS第9号の範囲となります。(E1)
  • 認識の中止が行われる場合:容器の所有権が顧客に移転している(売却処理されている)場合、企業の返金義務は「現金(預り金)」と「容器(非金融資産)」の交換となります。これは非金融項目との交換を伴うため金融負債の定義を満たさず、IAS第37号の適用範囲となる可能性があります。(E1)

ケース2:法人所得税の利息及び罰金(税金との境界)

法人所得税の申告漏れや納付遅延により、利息や罰金が課されることがあります。この支払義務をIAS第12号(法人所得税)で処理すべきか、IAS第37号(引当金)で処理すべきかが問題となりました。

IFRICは、これに対して企業が会計方針を選択できるわけではないと結論付けています。判断の基準は、その支払いの経済的実質が「法人所得税」であるか否かです。

  • 企業が、当該利息及び罰金を法人所得税の一部であると判断する場合 → IAS第12号を適用
  • 企業が、法人所得税とは別の性質の支払いであると判断する場合 → IAS第37号を適用

この判断が財務諸表に重要な影響を与える場合、企業はその判断根拠を開示する必要があります。(E2)

ケース3:税務預託金の返還請求権(資産の定義との境界)

法人所得税以外の税金について税務当局と係争中であり、その税額に相当する金額を預託金として支払った場合、この預託金の返還請求権はIAS第37号の「偶発資産」に該当するのでしょうか。

IFRICは、この権利は偶発資産ではなく、通常の「資産」であると結論付けました。偶発資産は「発生し得る資産」ですが、この返還請求権は、将来の返金または納税への充当によって経済的便益をもたらす現在の権利であり、資産の定義を満たします。したがって、これはIAS第37号の範囲外となり、偶発資産としての開示は行われません。(E3)

【2020年修正】不利な契約のコストの明確化

IAS第37号の適用範囲の中でも特に重要な「不利な契約」について、その判定に用いる「契約履行のコスト」の範囲が曖昧であるという実務上の課題がありました。この課題に対応するため、2020年に基準書の明確化が行われました。

契約履行コストの構成要素

IASB(国際会計基準審議会)は、不利な契約であるかどうかを評価する際の「契約履行のコスト」には、以下の両方が含まれることを明確化しました(第68A項)。

コストの種類 内容の例
契約履行の増分コスト 契約を履行するために直接発生するコスト。例えば、直接材料費や直接労務費など。
契約履行に直接関連する他のコストの配分 契約を履行するために使用される資産に関連するコストの合理的な配分額。例えば、契約履行に不可欠な有形固定資産の減価償却費や、管理・監督コストの配分額など。

この修正により、従来は増分コストのみを考慮していた企業も、関連する固定費の配分額を含めて不利な契約の判定を行う必要が生じました。

修正の背景と目的

この修正の背景には、コストの範囲に関する会計実務の多様性がありました(BC1-BC2項)。一部の企業が減価償却費などの配分コストを考慮していなかったため、本来は損失を認識すべき契約が不利な契約と判定されず、企業の財政状態が忠実に表現されていないとの懸念がありました。この明確化は、財務報告の忠実な表現を確保し、他のIFRS基準書(IFRS第15号など)との整合性を高めることを目的としています(BC3-BC6項, BC13項)。

まとめ

IAS第37号の適用範囲は、その基本原則だけでなく、他のIFRS基準書との複雑な関係性や、個別の取引の経済的実質を深く理解することが求められます。特に、「未履行の契約」の例外である「不利な契約」の論点や、そのコストに何を含めるかという2020年の修正内容は、実務担当者が正確に押さえるべき重要なポイントです。また、IFRICが示すケーススタディは、金融商品や税金といった隣接領域との境界線を判断する上での貴重な指針となります。これらの規定を正しく適用し、企業の財政状態を適切に報告することが、IFRSが求める透明性の高い会計処理の実現につながります。

IAS第37号「引当金」の適用範囲に関するよくある質問

Q. IAS第37号はすべての契約に適用されますか?

A. いいえ、原則として「未履行の契約」には適用されません。ただし、その契約が「不利な契約」である場合は適用対象となります。(第1項, 第3項)

Q. 金融保証契約にはIAS第37号が適用されますか?

A. いいえ、IFRS第9号「金融商品」の範囲に含まれる金融保証契約には、IAS第37号ではなくIFRS第9号が適用されます。(第2項)

Q. 「不利な契約」とは何ですか?

A. 契約に基づく義務を履行するための回避不能なコストが、その契約下で受け取ると見込まれる経済的便益を超える契約のことです。(第10項)

Q. 不利な契約のコストには何が含まれますか?

A. 契約履行の増分コスト(例:材料費)と、契約履行に直接関連する他のコストの配分(例:関連設備の減価償却費)の両方が含まれます。(第68A項)

Q. 法人所得税の罰金はIAS第37号の対象ですか?

A. 企業の判断によります。その支払いの実質が「法人所得税」の一部であると判断する場合はIAS第12号、そうでないと判断する場合はIAS第37号が適用されます。(IFRICアジェンダ決定)

Q. 偶発資産とは何ですか?

A. 過去の事象から生じた発生し得る資産で、その存在が、企業が完全には支配できない不確実な将来の事象の発生又は不発生によってのみ確認されるものを指します。(第10項)

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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