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IFRS徹底解説!IAS第37号「引当金・偶発負債」の要点を設例で学ぶ

2025-02-01
目次

本記事では、IFRS(国際財務報告基準)の中でも特に実務上の判断が求められるIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」について、その目的から認識、測定、開示に至るまでを網羅的に解説します。具体的な設例やIFRICの解釈事例を交えながら、複雑な会計処理のポイントを明確にしていきます。

目的と適用範囲

IAS第37号は、引当金、偶発負債、偶発資産に関する会計処理と開示の基準を定めています。その主な目的は、財務諸表利用者がこれらの項目の内容、時期、金額を正確に理解できるよう、適切な認識規準と測定基礎を適用することにあります。(IAS第37号 目的)

適用範囲

本基準は、原則としてすべての企業の引当金、偶発負債、偶発資産の会計処理に適用されます。ただし、以下の項目は他のIFRS基準書が優先されるため、適用範囲から除外されます。(第1項)

範囲外となる項目 適用される基準書
未履行の契約(ただし、不利な契約は除く) IAS第37号(不利な契約部分)
金融商品(一部の金融保証契約を除く) IFRS第9号
法人所得税 IAS第12号
リース(一部の不利なリースなどを除く) IFRS第16号
従業員給付 IAS第19号
保険契約 IFRS第17号
顧客との契約から生じる収益 IFRS第15号

【ケーススタディ:法人所得税に係る利息及び罰金】
法人所得税の未払に関連して発生する利息や罰金は、企業がこれを「法人所得税」の一部と判断する場合はIAS第12号の対象となります。一方で、そうでないと判断した場合は、IAS第37号に基づき引当金として会計処理される可能性があります。この判断は企業の会計方針に基づき一貫して適用される必要があります。(E2)

主要な定義

本基準を理解する上で重要な用語の定義は以下の通りです。(第10項)

用語 定義
引当金 時期又は金額が不確実な負債。
負債 過去の事象から発生した現在の義務で、その決済により経済的便益を有する資源の流出が企業から予想されるもの。
義務発生事象 法的義務または推定的義務を生じさせ、企業がその義務を決済する以外に現実的な選択肢がない状態を生じさせる事象。
法的義務 契約、法律の制定、またはその他法律の運用から生じる義務。
推定的義務 企業の行動(確立された実務慣行や公表された方針)により、企業が責務を受諾することを外部者に示し、その結果、企業が責務を履行するという妥当な期待を外部者に生じさせている義務。
偶発負債 (a) 過去の事象から生じた発生し得る義務で、その存在が企業の支配下にない不確実な将来事象の発生有無によってのみ確認されるもの、または (b) 認識規準を満たさない現在の義務。
偶発資産 過去の事象から生じた発生し得る資産で、その存在が企業の支配下にない不確実な将来事象の発生有無によってのみ確認されるもの。
不利な契約 契約に基づく義務を履行するための不可避的なコストが、その契約から受け取ると見込まれる経済的便益を上回る契約。

引当金の認識

引当金は、財務諸表において負債として認識されます。しかし、すべての将来の支出が引当金となるわけではありません。厳格な要件を満たす必要があります。

引当金の3つの認識要件

引当金は、以下の3つの条件をすべて満たす場合にのみ認識しなければなりません。(第14項)

  1. 現在の義務の存在: 過去の事象の結果として、企業が現在の義務(法的または推定的)を有していること。
  2. 資源流出の可能性: その義務を決済するために、経済的便益を有する資源の流出が必要となる可能性が高い(more likely than not)こと。
  3. 信頼性のある見積り: 義務の金額について、信頼性のある見積りができること。

これらの要件が一つでも満たされない場合、引当金を認識することはできず、偶発負債として開示を検討することになります。

過去の事象と義務発生事象

引当金の根源となる「現在の義務」は、企業の将来の行動とは独立して存在していなければなりません。つまり、企業が将来の支出を自身の行動によって回避できる場合、現在の義務は存在しないと判断されます。(第19項)

【ケーススタディ:汚染された土地の浄化義務】
ある企業が土地を汚染したとします。

  • 法的義務のケース: その後、汚染の浄化を義務付ける法律が制定された場合、法律の制定がほぼ確実になった時点で「義務発生事象」が成立し、過去の汚染行為に基づき引当金を認識します。(設例2A)
  • 推定的義務のケース: 法律が存在しない国であっても、企業が「環境汚染は浄化する」という方針を公表し、過去にも実行してきた実績がある場合、社会に対して「推定的義務」を負っていると判断され、引当金を認識する必要があります。(設例2B)

引当金の測定

引当金として認識する金額は、どのように決定されるのでしょうか。測定にあたっては、客観性と合理性が求められます。

最善の見積り

引当金の計上額は、報告期間の末日において現在の義務を決済するために必要となる支出の「最善の見積り」でなければなりません。(第36項)

  • 期待値: 製品保証のように、類似の義務が多数存在する場合には、考えられるすべての結果にそれぞれの発生確率を乗じて加重平均した「期待値」を用いて見積ります。(第39項)
  • 最も可能性の高い結果: 訴訟のように単一の義務である場合には、最も可能性の高い単独の結果が最善の見積りとなることがあります。ただし、その他の起こり得る結果も考慮に入れる必要があります。(第40項)

現在価値による測定

義務の決済時期が遠い将来にわたる場合など、貨幣の時間価値の影響に重要性があるときは、将来の支出額を現在価値に割り引いて測定する必要があります。この際に用いる割引率は、負債に固有のリスクを反映した税引前の利率を使用します。(第45-47項)

特定の引当金の適用ルール

IAS第37号では、実務で頻出する特定の状況について、具体的な適用ルールを定めています。

不利な契約

不利な契約とは、契約を履行するための「不可避的なコスト」が、契約から得られる経済的便益を上回る契約を指します。企業が不利な契約を識別した場合、その契約から生じる現在の義務を引当金として認識・測定しなければなりません。(第66項)

ここでいう「不可避的なコスト」とは、「契約を履行するためのコスト」「契約を履行しなかった場合に生じる補償または違約金」のいずれか低い方の金額を指します。(第68項)

なお、2022年1月1日より適用された基準の改訂により、「契約を履行するためのコスト」には、直接的な増分コスト(材料費など)に加え、契約履行に直接関連する他のコストの配分額(関連する固定資産の減価償却費の配分額など)も含まれることが明確化されました。(第68A項)

リストラクチャリング

リストラクチャリングとは、事業の範囲や運営方法を大幅に変更する、経営者の管理下にある計画を指します。リストラクチャリング引当金は、企業が推定的義務を負った時点で認識されます。推定的義務は、以下の両方の要件が満たされたときに発生します。(第72項)

  1. 企業がリストラクチャリングに関する詳細な公式計画を有していること。
  2. その計画の実行を開始したか、または計画の主要な特徴を利害関係者に公表したことにより、企業がリストラクチャリングを実行するという妥当な期待を利害関係者に生じさせていること。

取締役会での決定だけでは、推定的義務は発生しません。また、引当金に含められるのは、リストラクチャリングから直接生じる支出(例:従業員の解雇手当、不利な契約の解約費用)に限定され、従業員の再教育費用やマーケティング費用など、将来の事業運営に関連するコストは含まれません。(第80-81項)

【ケーススタディ:事業部の閉鎖】
取締役会が事業部の閉鎖を決定しました。

  • 期末までに未通知のケース: 決定はしたものの、期末日までに従業員や顧客など、影響を受ける人々に通知していない場合、推定的義務は発生しておらず、引当金は認識できません。(設例5A)
  • 期末までに通知済みのケース: 計画を策定し、従業員や顧客に通知した場合、妥当な期待が生じているため、推定的義務が発生し、引当金を認識します。(設例5B)

まとめ

IAS第37号は、将来の不確実な事象に関する会計処理の拠り所となる重要な基準です。引当金を認識するためには、「現在の義務」「資源流出の可能性」「信頼性のある見積り」という3つの厳格な要件を満たす必要があります。特に、法的義務だけでなく「推定的義務」の概念を理解すること、そして「不利な契約」や「リストラクチャリング」といった特定の状況における適用ルールを正しく把握することが実務上不可欠です。本基準を適切に適用することで、企業の財政状態と経営成績をより忠実に表現することが可能となります。

IAS第37号(引当金、偶発負債及び偶発資産)のよくある質問まとめ

Q.引当金の3つの認識要件とは何ですか?

A.引当金を認識するには、(1) 過去の事象の結果として現在の義務(法的または推定的)があること、(2) その義務を決済するために資源が流出する可能性が高いこと、(3) 義務の金額を信頼性をもって見積れること、という3つの要件をすべて満たす必要があります。(IAS第37号 第14項)

Q.推定的義務とはどのような義務ですか?

A.推定的義務とは、法律や契約には基づかないものの、企業の過去の実務慣行や公表した方針などにより、企業が特定の責務を受け入れることを外部に示し、その結果、他者が「企業はその責務を履行するだろう」という妥当な期待を抱くようになった場合に生じる義務のことです。(IAS第37号 第10項)

Q.不利な契約の引当金はどのように計算しますか?

A.不利な契約に関する引当金は、「契約を履行するためのコスト」と「契約不履行による補償・違約金」のうち、いずれか低い方の金額で測定されます。この「履行コスト」には、直接的な増分コストに加え、関連する減価償却費などの配分コストも含まれます。(IAS第37号 第68項, 第68A項)

Q.リストラクチャリング引当金はいつ認識できますか?

A.リストラクチャリング引当金は、詳細な公式計画が存在し、かつ、その計画の実行を開始したか、主要な内容を利害関係者に公表したことで、企業が計画を実行するという妥当な期待を生じさせた時点(推定的義務が発生した時点)で認識します。取締役会での決定だけでは認識できません。(IAS第37号 第72項)

Q.偶発資産はなぜ財務諸表で認識されないのですか?

A.偶発資産は、その存在が不確実な将来事象に依存しており、実現が確実ではないため、財務諸表に資産として認識されません。これは、確実性の低い収益を認識することを避けるという、会計における慎重性の観点に基づいています。ただし、経済的便益の流入の可能性が高い場合には、注記での開示が求められます。(IAS第37号 第31-33項)

Q.引当金に関連する支出が第三者から補填される場合、会計処理はどうなりますか?

A.支出の一部または全部が第三者(保険会社など)から補填されることが「ほぼ確実」である場合に限り、その補填額を別個の資産として認識します。認識する資産の額は、引当金の額を超えることはできません。損益計算書上では、引当金に関連する費用と補填による収益を相殺して表示することが認められています。(IAS第37号 第53-54項)

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