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IAS第19号を徹底解説!従業員給付の定義と4つの分類

2024-12-06
目次

従業員給付の全体像と4つの分類

IAS第19号「従業員給付」では、「従業員給付」を「従業員が提供した勤務と交換に、又は雇用の終了と交換に企業が与えるあらゆる形態の対価」と定義しています(第8項)。この定義は、会計処理の出発点となる非常に重要な概念です。実務上、この給付は性質に応じて以下の4つのカテゴリーに分類され、それぞれ異なる会計処理が求められます。

短期従業員給付

短期従業員給付とは、従業員が関連する勤務を提供した事業年度の末日後12か月以内にすべてが決済されると予想される従業員給付(解雇給付を除く)を指します(第8項)。例えば、給与、賞与、有給短期休暇などがこれに該当します。この分類の重要な点は、割引計算を行わないなど、比較的簡便な会計処理が認められていることです。これは、決済までの期間が短いため、貨幣の時間的価値の影響が僅少であるという考えに基づいています(BC16項-BC18項)。

退職後給付

退職後給付は、雇用関係の完了後に支払われる従業員給付(解雇給付及び短期従業員給付を除く)と定義されます(第8項)。具体的には、退職年金や退職一時金、退職後生命保険などが含まれます。これらの給付は支払いが遠い将来にわたるため、数理計算を用いた複雑な測定が必要となります。

その他の長期従業員給付

その他の長期従業員給付は、短期従業員給付、退職後給付、解雇給付のいずれにも該当しない、すべての従業員給付を指します(第8項)。代表例としては、長期勤続休暇、サバティカル休暇(研究休暇)、長期障害給付などが挙げられます。会計処理は退職後給付に類似しますが、再測定の項目をその他の包括利益(OCI)ではなく当期損益(P/L)で認識する点で異なります。

解雇給付

解雇給付は、企業の決定(通常の退職日前の雇用終了)または従業員の決定(雇用の終了と交換の給付受諾)の結果として支給される従業員給付です(第8項)。この給付は、将来の勤務とは無関係に「雇用の終了」という事象によって発生する点が最大の特徴です。したがって、将来の勤務を条件とする「残留ボーナス」のような給付は、解雇給付ではなく勤務の対価として扱われます(BC256項)。

ドイツの「時短労働制度」に関するIFRICの議論では、報奨金の支払いが「一定期間にわたる従業員の勤務の完了」を条件としていたため、これは勤務の見返りであり解雇給付の定義を満たさないと結論付けられました。このケーススタディは、給付の発生原因が「雇用の終了」そのものか、「勤務の提供」かを見極める重要性を示しています(E24)。

退職後給付制度の2つの区分

退職後給付制度は、その経済的実質、特に企業が負うリスクの所在によって「確定拠出制度」「確定給付制度」の2つに厳密に分類されます。この分類は会計処理を大きく左右するため、極めて重要です。

確定拠出制度 (Defined Contribution Plans)

確定拠出制度とは、企業が基金などの別個の事業体へ掛金を拠出する義務を負うものの、その基金が従業員へ給付を支払うための十分な資産を保有しない場合でも、企業がさらに掛金を支払うべき「法的義務又は推定的義務」を負わない制度をいいます(第8項)。この制度では、数理計算上のリスク(給付が予想より少なくなるリスク)や投資リスク(資産運用が不調となるリスク)は、実質的に従業員が負担します(第28項)。

確定給付制度 (Defined Benefit Plans)

確定給付制度は、確定拠出制度以外のすべての退職後給付制度と定義されます(第8項)。この制度では、企業が従業員に対して合意した給付を支給する最終的な義務を負います。したがって、数理計算上のリスクや投資リスクは、実質的に企業が負担することになります(第30項)。

制度分類の判断(ケーススタディ)

制度の分類は、契約条件だけでなく経済的実質に基づいて判断する必要があります。例えば、ある制度で企業が一定の掛金を支払う義務を負い、制度の積立状況が良い場合には掛金の割引(減額)を受ける権利がある一方、積立不足が生じても追加掛金を支払う義務はない、というケースがIFRICで議論されました(E7)。この場合、重要なのは積立不足時の追加支払義務(ダウンサイド・リスク)の有無です。IFRICは、企業のリスクが拠出済の掛金に限定されているならば、割引を受ける権利があること自体で確定給付制度には分類されず、確定拠出制度の定義を満たす可能性があると結論付けています。分類の判断は、企業が負う義務の本質を見極めることが肝要です。

確定給付負債・資産及び費用の構成要素

確定給付制度の会計処理では、財政状態計算書に計上される負債・資産や、損益計算書に計上される費用を構成する様々な要素が定義されています。

負債・資産の純額に関連する定義

財政状態計算書に計上される「確定給付負債(資産)の純額」は、以下の要素から構成されます。

構成要素 定義
確定給付制度債務の現在価値 当期及び過去の期間の従業員の勤務により生じる債務を決済するために必要な、将来の予想支払額の現在価値です(制度資産控除前)。
制度資産 長期の従業員給付基金が保有する資産および適格な保険証券から構成されます。報告企業が発行した譲渡不能な金融商品は制度資産から除外されます(第8項, E3, E4)。
積立不足又は積立超過 確定給付制度債務の現在価値から、制度資産の公正価値を控除したものです。
資産上限額 制度からの返還や将来掛金の減額という形で利用可能な経済的便益の現在価値を指します。
確定給付負債(資産)の純額 積立不足または積立超過を、資産上限額の影響で調整した後の金額です。

例えば、確定給付制度が長寿リスクをヘッジするために保有する長寿スワップは、通常、制度資産の一部として公正価値で測定されます(E23)。このように、制度資産の範囲を正確に理解することが重要です。

確定給付費用に関連する定義

当期の損益またはその他の包括利益に認識される確定給付費用は、主に以下の3つの要素で構成されます。

構成要素 定義
勤務費用 (a) 当期勤務費用、(b) 過去勤務費用(制度改訂・縮小による変動)、(c) 清算損益の3つから構成されます。これらは通常、当期損益(P/L)に認識されます。
利息純額 期首の確定給付負債(資産)の純額に割引率を乗じて計算される、時の経過による変動額です。これも当期損益(P/L)に認識されます。
再測定 (a) 数理計算上の差異、(b) 利息純額以外の制度資産に係る収益、(c) 利息純額以外の資産上限額の影響の変動の3つから構成されます。これらはその他の包括利益(OCI)に認識され、その後の純利益への組替(リサイクリング)は行われません。

2011年の基準修正により「再測定」という概念が導入され、OCIに認識されることになりました。これは、予測価値の異なる要素(経常的な勤務費用や利息)と、仮定の変更や市場変動による予測困難な要素(再測定)を明確に区別し、財務報告の有用性を高めることを目的としています(BC86項-BC87項)。

まとめ

本稿では、IAS第19号の第8項で定められている「従業員給付」に関する主要な定義について、その分類、制度区分、および関連する構成要素を解説しました。短期、退職後、その他長期、解雇という4つの給付分類、そして確定拠出と確定給付という2つの制度区分は、それぞれ会計処理の根幹をなすものです。また、確定給付制度における負債や費用の各構成要素の定義を正確に理解することは、適切な会計処理と透明性の高い財務報告を実現するために不可欠です。IFRICのケーススタディが示すように、形式的な契約だけでなく経済的実質に基づいた判断が常に求められます。

IAS第19号「従業員給付」のよくある質問まとめ

Q.短期従業員給付の「12か月」はいつから数えますか?

A.従業員が関連する勤務を提供した事業年度の末日から数えます。この日を基準に12か月以内にすべてが決済されると「予想」されるものが該当します。(第8項)

Q.解雇給付と退職後給付の違いは何ですか?

A.解雇給付は「雇用の終了」という事象そのものと交換に支払われるのに対し、退職後給付は「雇用関係の完了後」に支払われる給付全般を指します。解雇給付は、通常の退職日前に雇用が終了する場合に特有のものです。(第8項)

Q.企業のリスクが限定的なら、必ず確定拠出制度になりますか?

A.重要なのは、制度資産が不足した場合に企業が追加の掛金を支払う「法的義務又は推定的義務」を負うかどうかです。この義務がなければ確定拠出制度と分類されます。単に積立超過時に掛金割引の権利があるだけでは判断できません。(第8項, E7)

Q.「再測定」はなぜ損益(P/L)ではなく、その他の包括利益(OCI)に計上するのですか?

A.再測定は、数理計算上の仮定の変更や資産の期待収益と実績の差異など、予測が困難で変動の大きい要素から生じます。これらを当期の業績を示す損益から区分し、OCIに計上することで、財務報告の有用性を高めることが目的です。(BC86項-BC87項)

Q.自社が発行した金融商品を退職給付制度の「制度資産」に含めることはできますか?

A.いいえ、報告企業が発行した譲渡不能な金融商品は制度資産の定義から除外されます。これは、企業が自らの債務を自らが発行した金融商品で決済することになり、実質的に資金が拠出されていないためです。(第8項)

Q.「資産上限額」とは何ですか?

A.制度資産が確定給付制度債務を上回る「積立超過」状態の場合でも、企業がその超過額から実際に得られる経済的便益(将来の掛金の減額や制度からの返還)には上限がある場合があります。この利用可能な経済的便益の現在価値を「資産上限額」といいます。(第8項)

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