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IFRS基準 IAS第26号を徹底解説!退職給付制度の会計と報告

2024-12-13
目次

本記事では、IFRS(国際財務報告基準)の一つであるIAS第26号「退職給付制度の会計及び報告」について、その全体像を専門家が丁寧に解説します。本基準は、事業主(企業)側の会計を定めるIAS第19号とは異なり、退職給付制度そのものを一つの報告主体として捉え、その財務諸表の作成方法を規定しています。適用範囲から確定拠出制度と確定給付制度それぞれの会計処理、開示要求、さらには具体的なケーススタディまで、条項番号を交えながら網羅的にご説明します。

範囲と目的

IAS第26号は、退職給付制度自体の財務諸表に適用される会計基準です。その基本的な考え方と適用対象について解説します。

適用範囲と位置づけ

本基準書は、退職給付制度(Retirement Benefit Plans)が作成する財務諸表に適用されます(第1項)。最大の特徴は、退職給付制度を、その制度へ掛金を拠出する事業主(企業)とは「別個の報告主体」として扱う点です(第2項)。事業主側における退職給付費用や負債の会計処理は、IAS第19号「従業員給付」の範囲であり、本基準書はIAS第19号を補完する関係にあります(第4項)。

対象となる制度

本基準書は、確定拠出制度確定給付制度の両方に適用されます(第5項)。制度の形態は問われず、例えば以下のようなケースも適用対象となります。

  • 拠出及び給付を行うための別個の基金(ファンド)が設定されているか否か
  • 受託者が存在するか否か
  • 保険会社に資産を投資している制度(ただし、給付責任が保険会社のみに帰属する場合を除く)(第6項)

非公式な制度への適用

多くの退職給付制度は公式な契約に基づいていますが、中には公式な文書がなくとも、確立された慣行として事業主が支払義務を事実上負っている場合があります。本基準書は、こうした非公式ながら実質的に存在する制度に対しても、公式な制度と同様の会計及び報告の基礎を適用することを求めています(第10項)。

定義と分類

本基準書を理解する上で基本となる用語の定義と、制度の分類について説明します。

退職給付制度の定義

退職給付制度とは、事業主が従業員に対し、退職時またはその後に所得(年金や一時金)を提供する取決めのことを指します(第8項)。

制度の分類

制度は、その仕組みによって主に2つに分類されます。両方の性質を持つ混合的な制度は、本基準書の目的上、確定給付制度として扱われます(第12項)。

制度の種類 内容
確定拠出制度 退職給付額が、基金への掛金額とその投資収益によって決定される制度です(第8項)。事業主のリスクは拠出額に限定され、運用リスクは従業員が負います。
確定給付制度 退職給付額が、従業員の収入や勤続年数などに基づいた計算式によってあらかじめ定められている制度です(第8項)。事業主は約束した給付額を支払う責任を負い、運用リスクや数理計算上のリスクを負担します。

確定拠出制度の会計及び報告

確定拠出制度は、事業主の債務が掛金の拠出によって概ね完了するため、会計処理は比較的シンプルです。

報告の目的

確定拠出制度の財務報告の主な目的は、制度とその投資の成果に関する情報を定期的に提供することにあります(第16項)。これは、加入者(従業員)が「掛金が適切に受領され、管理されているか」を、事業主が「制度が効率的に運営されているか」を評価するために重要な情報となるためです(第15項)。

財務諸表の内容

確定拠出制度の財務諸表には、以下の情報を含めなければなりません(第13項)。事業主の将来の給付支払義務は生じないため、保険数理専門家による将来給付の見積りは通常不要です(第14項)。

財務諸表の構成要素 説明
給付のために利用可能な純資産の計算書 報告日時点における制度の資産と負債の状況を示します。
積立方針の説明 掛金の決定方法など、制度の資金繰りに関する方針を説明します。

確定給付制度の会計及び報告

確定給付制度は、将来の給付額を事業主が約束しているため、より複雑な会計と報告が求められます。

報告の目的

確定給付制度における報告の目的は、制度の財政状態、運用実績、そして将来の拠出能力を評価するための情報提供です(第22項)。具体的には、現在までに累積された資源(資産)と、制度が支払うべき給付額(負債)との関係性を示すことが重要となります。そのため、定期的に保険数理専門家の助言を得ることが不可欠です(第20項、第21項)。

財務諸表の様式(選択肢)

確定給付制度の財務諸表は、約束された退職給付(負債)の表示方法について、以下の3つの選択肢が認められています(第17項、第28項)。

様式 内容
(a) 財政状態計算書での完全表示 「給付のために利用可能な純資産」と「約束された退職給付の保険数理による現在価値」を一つの計算書に表示し、その差額である「過不足(余剰又は不足)」も示す形式です。
(b) 注記による開示 計算書には「給付のために利用可能な純資産」のみを表示し、「約束された退職給付の保険数理による現在価値」は注記で開示する形式です。
(c) 保険数理報告書の参照 計算書には「給付のために利用可能な純資産」のみを表示し、「約束された退職給付の保険数理による現在価値」については、添付される別個の保険数理報告書を参照させる形式です。

様式に関する背景

これらの選択肢が認められている背景には、専門家の間での見解の相違があります。資産と負債を直接比較することの有用性を重視する見解((a)や(b)を支持)と、性質の異なる両者を並記することは誤解を招くため、別個の報告書で説明すべきだとする見解((c)を支持)が存在します(第29項、第30項)。IAS第26号はこれらのアプローチを全て許容しつつも、退職給付債務の数量化そのものを否定する考えは受け入れていません(第31項)。

約束された退職給付の保険数理による現在価値

確定給付制度の負債である「約束された退職給付の保険数理による現在価値」の測定方法には、2つのアプローチがあります。

測定の基礎(現在給与 vs 予測給与)

制度の負債は、「現在給与水準」または「予測給与水準」のいずれかに基づいて計算し、報告しなければなりません(第23項)。それぞれの根拠は以下の通りです。

測定方式 根拠
現在給与方式 将来の昇給を考慮せず、報告日時点の給与水準で計算します。客観性が高く、制度が仮に清算された場合の支払額に近いという利点があります(第24項)。
予測給与方式 将来の昇給やインフレを予測に織り込んで計算します。継続企業の前提に沿っており、特に最終給与基準の制度では、積立状況をより実態に即して評価できるとされています(第25項)。

開示要求

本基準書は、両方の情報が有用であるとの観点から、報告日までに発生した債務を示すために「現在給与に基づく現在価値」を開示し、かつ、継続企業を前提とした積立の妥当性を示すために「予測給与に基づく現在価値」も開示することを推奨しています(第26項)。

制度資産の評価

退職給付制度が保有する資産の評価方法について解説します。

測定原則

退職給付制度が保有する投資(制度資産)は、公正価値(Fair Value)で計上しなければなりません(第32項)。市場性のある有価証券の場合、公正価値は通常、市場価格となります。これは、報告日時点における制度の財政状態を評価する上で最も有用な情報を提供するためです(第33項)。もし公正価値の見積りが不可能な投資がある場合は、その理由を開示する必要があります(第32項)。

ケーススタディ:IFRICアジェンダ決定

過去に、IAS第26号と金融商品に関する基準(旧IAS第39号)との関係について、解釈の明確化が求められたことがあります。IFRIC(解釈指針委員会)は、「IAS第26号第32項の規定は明確であり、制度資産は公正価値で計上しなければならない」と結論付けました。また、公正価値の変動は、第35項に従い「給付のために利用可能な純資産の変動計算書」で適切に表示・開示することも明白であるとし、例外的な処理の余地がないことを確認しました。この決定により、制度資産の公正価値評価が必須であることが改めて強調されました。

開示

IAS第26号では、制度の利害関係者に対して十分な情報を提供するため、詳細な開示が求められています。

すべての制度に共通の開示

制度の種類にかかわらず、財務諸表には以下の情報を含めなければなりません(第34項)。

  • (a) 給付のために利用可能な純資産の変動計算書
  • (b) 重要な会計方針
  • (c) 制度の概要及び期中における重要な変更の影響

詳細な開示内容

さらに、財務諸表またはその注記には、以下の詳細な情報を含めることが求められます(第35項)。

  • 適切に分類された資産の内訳
  • 純資産の5%超を占める単一の投資や、事業主に対する投資の詳細
  • 資産の変動要因(事業主掛金、従業員掛金、投資収益、支払済給付など)
  • 積立方針の説明
  • (確定給付制度の場合)約束された退職給付の保険数理による現在価値、及びその計算に用いた重要な仮定(割引率、将来の給与予測など)

制度の説明

財務諸表の一部または別添の報告書として、加入者の区分、制度の種類(確定拠出か確定給付か)、給付内容、制度の終了条件など、制度の仕組みに関する包括的な説明を提供する必要があります(第36項)。

発効日

本基準書は、1988年1月1日以後に開始する会計期間から適用されています(第37項)。なお、近年の改訂による「会計方針の開示」に関する修正は、2023年1月1日以後に開始する事業年度から適用されます(第38項)。

まとめ

IAS第26号「退職給付制度の会計及び報告」は、従業員の退職後の生活を支える重要な制度の財政状態と運営状況を透明化するための基準です。事業主側の会計(IAS第19号)とは視点が異なり、制度自体を独立した報告主体として捉え、その資産(公正価値で評価)と負債(保険数理計算に基づく)を適切に報告することを求めています。特に確定給付制度においては、複数の報告様式が認められている点や、負債の測定方法に関する論点など、専門的な理解が必要です。本記事が、IAS第26号の的確な理解と実務適用の一助となれば幸いです。

退職給付制度(IAS第26号)のよくある質問まとめ

Q. IAS第26号とIAS第19号の主な違いは何ですか?

A. IAS第26号は「退職給付制度」自体が作成する財務諸表のルールを定めています。一方、IAS第19号は制度に加入している「事業主(企業)」が自社の財務諸表で退職給付費用や負債をどのように会計処理するかを定めています。報告主体が異なります。

Q. 確定拠出制度と確定給付制度で報告内容はどのように違いますか?

A. 確定拠出制度の報告は、主に資産の状況と変動に焦点を当てます。一方、確定給付制度では、資産に加えて、将来の給付支払義務を示す「約束された退職給付の保険数理による現在価値」という負債の報告が求められ、より複雑になります。

Q. 確定給付制度の財務諸表に3つの様式が認められているのはなぜですか?

A. 制度資産(公正価値)と退職給付債務(数理計算値)を同じ計算書に並べて比較することの妥当性について、専門家の間で意見が分かれているためです。本基準書は、直接比較する様式と、注記や別報告書で示す様式の両方を許容しています。

Q. 制度資産を公正価値で評価する理由は何ですか?

A. 公正価値(通常は市場価格)は、報告日時点における資産の価値を最も客観的かつ適切に反映する測定値だからです。これにより、利害関係者は制度の財政状態をより正確に評価することができます。

Q. 退職給付債務の計算で「現在給与方式」と「予測給与方式」のどちらを使うべきですか?

A. IAS第26号は、報告日時点の債務を示す「現在給与方式」と、継続企業を前提とした積立状況を示す「予測給与方式」の両方の情報が有用であるとしており、両方を開示することを推奨しています。どちらか一方のみを開示することも認められています。

Q. 契約書がない非公式な退職給付制度にもIAS第26号は適用されますか?

A. はい、適用されます。公式な契約がなくとも、確立された慣行によって事業主が実質的に給付の支払義務を負っている場合は、公式な制度と同様に本基準書に基づく会計及び報告が求められます。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

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