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IAS第36号「資産の減損」の適用範囲を徹底解説!対象資産と除外項目を事例で学ぶ

2024-11-01
目次

IFRS(国際財務報告基準)の中でも、特に実務上の判断が求められる基準の一つがIAS第36号「資産の減損」です。この基準は、資産の帳簿価額がその回収可能価額を上回らないようにするための手続きを定めていますが、どの資産に適用され、どの資産が除外されるのか、その「適用範囲」を正確に理解することが不可欠です。本記事では、IAS第36号の適用範囲について、条項番号や結論の根拠(BC)を明記しつつ、具体的なケーススタディを交えて詳しく解説します。

IAS第36号「資産の減損」の基本原則

IAS第36号は、その適用範囲から明示的に除外されている資産を除き、原則としてすべての資産の減損会計に適用されなければならないと定められています(第2項)。これは、企業の財務諸表に計上されている資産価値が過大評価されることを防ぎ、投資家に対してより信頼性の高い情報を提供することを目的としています。しかし、すべての資産に画一的なルールを適用するのではなく、他のIFRS基準書でより適切な減損や評価のルールが定められている資産については、本基準書の適用範囲から除外されています。

適用が除外される資産とその背景

IAS第36号の適用範囲から除外される資産は、主に他のIFRS基準書において、すでに認識及び測定(減損を含む)に関する詳細な要求事項が定められているものです(第3項)。これにより、基準間の重複や矛盾を避けています。以下に、主要な適用除外資産とその背景をまとめます。

適用除外資産 解説および背景(根拠条項)
棚卸資産 IAS第2号「棚卸資産」に基づき、「取得原価と正味実現可能価額のいずれか低い方」で測定されます。この正味実現可能価額による評価が、実質的に回収可能性の検討として機能しているため、IAS第36号を重ねて適用する必要はないと判断されています(第2項(a)、BCZ4項)。
契約資産 IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の範囲に含まれる契約資産や、契約獲得・履行コストから生じる資産は除外されます(第2項(b))。
繰延税金資産 IAS第12号「法人所得税」に、将来の課税所得に対する回収可能性を検討する独自の規定が含まれています。このアプローチはIAS第36号とは異なるため、統合は困難とされ、適用除外となっています(第2項(c)、BCZ5項)。
従業員給付から生じる資産 IAS第19号「従業員給付」の範囲に含まれる資産(例:年金資産)は除外されます。これは、IAS第19号自体に、資産として認識できる金額の上限(資産のシーリング)に関する規定が含まれているためです(第2項(d)、BCZ6項)。
金融資産 IFRS第9号「金融商品」の範囲に含まれる金融資産は除外されます。これらの資産には、予想信用損失(ECL)モデルといったIFRS第9号独自の減損モデルが適用されます(第2項(e))。
公正価値で測定される投資不動産 IAS第40号「投資不動産」において公正価値モデルを適用している場合、資産価値の変動はすでに損益に反映されているため、別途減損テストを行う必要はありません(第2項(f))。
売却コスト控除後の公正価値で測定される生物資産 IAS第41号「農業」の範囲に含まれる、農業活動に関連する生物資産は除外されます(第2項(g))。
売却目的で保有する非流動資産 IFRS第5号「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」に従って分類された資産は、同基準書の測定規定に従うため、IAS第36号の適用範囲から外れます(第2項(i))。

特殊な適用対象となる資産

一見すると適用除外に見える資産や、特別な条件下で適用対象となる資産も存在します。これらのケースを正しく理解することは、実務上の誤りを防ぐために重要です。

個別財務諸表における子会社・関連会社・共同支配企業への投資

親会社などが作成する「個別財務諸表」において、子会社(IFRS第10号)、関連会社(IAS第28号)、または共同支配企業(IFRS第11号)への投資を、IFRS第9号の公正価値測定ではなく原価法などで会計処理している場合、これらの投資はIAS第36号の減損テストの対象となります(第4項)。連結財務諸表とは異なる会計処理が求められる点に注意が必要です。

再評価モデルを適用している資産

IAS第16号「有形固定資産」やIAS第38号「無形資産」において、原価モデルではなく「再評価モデル」を採用し、資産を公正価値で測定している場合でも、その資産はIAS第36号の適用範囲に含まれます(第5項)。これは、再評価額(公正価値)と、IAS第36号で定義される「回収可能価額」が必ずしも一致しないためです。

特に、資産の処分に多額のコストが見込まれる場合、「処分コスト控除後の公正価値」は再評価額(公正価値)よりも低くなります。この状況で、もう一つの指標である「使用価値」も再評価額を下回る場合、その資産は減損していると判断されます(第5項(c))。公正価値で評価しているから減損は生じない、という単純な理解は誤りであるため、注意が必要です。

ケーススタディで理解する適用範囲の境界線

具体的な事例を通じて、適用範囲の判断がどのように行われるかを見ていきましょう。

ケーススタディ1:不動産会社の保有資産

状況: 不動産会社A社は、(1)販売目的で建設中のマンション、(2)賃貸収益目的で保有し公正価値モデルを採用しているオフィスビル、(3)自社本社ビル(原価モデル)を保有しています。

  • 1. 販売用マンション: IAS第36号の範囲外です。これは「棚卸資産」に該当し、IAS第2号に従い正味実現可能価額で評価されます(第2項(a))。
  • 2. 賃貸用オフィスビル(公正価値モデル): IAS第36号の範囲外です。これは「投資不動産」であり、IAS第40号の公正価値モデルを適用しているため、公正価値の変動が損益に反映されます(第2項(f))。
  • 3. 自社本社ビル(原価モデル): IAS第36号の適用範囲内です。これは通常の有形固定資産であり、減損の兆候が識別された場合には、IAS第36号に従って減損テストを実施する必要があります。

ケーススタディ2:子会社株式の減損(個別財務諸表)

状況: 親会社B社は、個別財務諸表において子会社C社株式を取得原価で計上しています。近年、C社の業績が悪化し、C社から受け取った配当金が、C社の当該期間の包括利益合計額を超過しました。

  • 適用有無: この子会社株式は、IFRS第9号の公正価値測定ではなく原価で測定されているため、IAS第36号の適用範囲内となります(第4項)。
  • 減損の兆候: 子会社からの配当がその包括利益を超過しているという事実は、IAS第36号において投資の減損の兆候の一つとして例示されています(第12項(h)(ii))。したがって、B社はC社株式の回収可能価額を見積り、帳簿価額と比較して減損テストを行う必要があります。

ケーススタディ3:再評価モデルの工場と処分コスト

状況: 製造業D社は、工場用地をIAS第16号の再評価モデルで測定しています。現在の帳簿価額(公正価値)は1,000万円です。この土地を売却する場合には100万円の仲介手数料(処分コスト)がかかり、継続使用から得られるキャッシュ・フローの現在価値(使用価値)は850万円と見積もられています。

  • 適用有無: 再評価モデル採用資産であっても、IAS第36号の適用範囲内です(第5項)。
  • 減損テスト:
    • 処分コスト控除後の公正価値 = 1,000万円 – 100万円 = 900万円
    • 使用価値 = 850万円
    • 回収可能価額(上記2つのうち高い方) = 900万円
  • 結論: 帳簿価額(1,000万円)が回収可能価額(900万円)を100万円上回っているため、D社は100万円の減損損失を認識する必要があります(第5項(c))。この例は、公正価値で評価していても、処分コストが重要な要因となり減損が発生する典型的なケースです。

まとめ

IAS第36号「資産の減損」は、原則としてすべての資産に適用される広範な基準ですが、その適用範囲には多くの重要な例外規定が存在します。特に、他のIFRS基準書に独自の測定・評価ルールを持つ棚卸資産、金融資産、投資不動産などは適用除外となります。一方で、個別財務諸表における子会社投資や、再評価モデルを適用している有形固定資産など、判断に注意を要する項目も含まれます。自社の保有資産がどの基準の適用対象となるかを正確に把握し、適切な会計処理を行うことが、財務諸表の信頼性を確保する上で極めて重要です。

資産の減損に関するよくある質問まとめ

Q. なぜ棚卸資産はIAS第36号の適用範囲から除外されるのですか?

A. IAS第2号「棚卸資産」に「正味実現可能価額」での評価が定められており、この評価手続きが実質的に減損テストとして機能するためです。したがって、IAS第36号を重ねて適用する必要がないとされています(IAS第36号 第2項(a)、BCZ4項)。

Q. 個別財務諸表における子会社株式は、常にIAS第36号の対象ですか?

A. いいえ、常にではありません。IFRS第9号に従い公正価値で測定されている場合は対象外です。原価法や持分法などで測定されている場合に限り、IAS第36号の適用対象となります(IAS第36号 第4項)。

Q. 公正価値(再評価モデル)で測定している資産でも減損は発生しますか?

A. はい、発生する可能性があります。特に、資産の処分に多額のコストがかかる場合、帳簿価額である公正価値が、回収可能価額(処分コスト控除後の公正価値と使用価値の高い方)を上回ることがあり、その差額が減損損失となります(IAS第36号 第5項(c))。

Q. 繰延税金資産にIAS第36号が適用されないのはなぜですか?

A. IAS第12号「法人所得税」に、繰延税金資産の回収可能性を検討するための独自のルールが含まれているためです。このルールはIAS第36号のアプローチとは異なるため、適用範囲から除外されています(IAS第36号 第2項(c)、BCZ5項)。

Q. IFRS第5号で「売却目的保有」に分類された資産の減損はどうなりますか?

A. IFRS第5号に「売却目的保有」として分類された時点でIAS第36号の適用範囲から外れ、その後はIFRS第5号に定められた測定ルール(帳簿価額と売却コスト控除後の公正価値のいずれか低い方)に従うことになります(IAS第36号 第2項(i))。

Q. IAS第36号は原則としてどの資産に適用されますか?

A. 本基準書で個別に適用が除外される資産を除き、原則としてすべての資産の減損会計に適用されます。これには有形固定資産、のれん、無形資産などが含まれます(IAS第36号 第2項)。

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