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IAS第16号 有形固定資産の測定を解説!原価モデルと再評価モデルの選択

2024-10-25
目次

会計方針の選択:原価モデルと再評価モデル

IAS第16号「有形固定資産」では、資産として認識した後の測定方法について、企業に選択肢を与えています。具体的には、会計方針として「原価モデル」または「再評価モデル」のいずれかを選択し、適用することが求められます。

基本原則とクラス単位での適用

企業は、有形固定資産の測定について、原価モデルまたは再評価モデルのいずれかを会計方針として選択しなければなりません(第29項)。この選択は、個々の資産ごとではなく、有形固定資産の「クラス」全体に対して一貫して適用する必要があります(第29項)。クラスとは、土地、建物、機械装置、車両といった、企業の営業において性質及び用途が類似した資産のグループを指します(第37項)。これにより、恣意的なモデル選択を防ぎ、財務諸表の比較可能性を担保します。

投資ファンド等の例外規定

一般的な原則には例外も存在します。投資ファンドやそれに類する企業が、ファンドの一部として自己使用の不動産を保有している場合、IAS第16号の代わりにIAS第40号「投資不動産」の公正価値モデルを適用することを選択できます(第29A項)。この特例を適用する場合、当該不動産は他の不動産とは独立したクラスとして扱われます(第29B項)。

原価モデル(Cost Model)の詳細

原価モデルは、実務において最も広く採用されている測定方法です。このモデルでは、有形固定資産は取得原価から「減価償却累計額」および「減損損失累計額」を控除した価額で計上されます(第30項)。この方法は、客観的な取得原価を基礎とするため、測定の信頼性が高いという特徴があります。資産の帳簿価額を正しく算定するためには、減価償却(第43項~第62項)および減損テスト(第63項、IAS第36号参照)を適切に実施することが不可欠です。

再評価モデル(Revaluation Model)の詳細

再評価モデルは、資産の現在価値を財務諸表に反映させるための測定方法です。このモデルを選択した場合、資産は「再評価額」で計上されます。再評価額とは、再評価日現在の公正価値から、その後の減価償却累計額および減損損失累計額を控除した金額を指します(第31項)。このモデルを適用するための大前提として、対象資産の公正価値が信頼性をもって測定可能でなければなりません(第31項)。

再評価の頻度と範囲

再評価モデルを適用する際は、その頻度と範囲に厳格なルールが定められています。

項目 規定内容
再評価の頻度 帳簿価額が報告期間末日における公正価値と著しく乖離しないよう、十分な規則性をもって実施する必要があります(第31項)。公正価値の変動が激しい資産は毎年の再評価が、変動が僅少な資産は3年から5年ごとの再評価が適切とされています(第34項)。
再評価の範囲 ある資産項目を再評価する場合、その資産が属するクラスの有形固定資産全体を再評価しなければなりません(第36項)。これは、含み益のある資産のみを選択的に再評価するなどの恣意的な会計処理を防ぎ、同一クラス内で原価と再評価額が混在する状況を避けるためです(第38項)。

再評価時の減価償却累計額の取扱い

再評価を実施する際、既存の減価償却累計額は以下のいずれかの方法で処理します(第35項)。

  1. 比例修正法(Gross restatement):資産のグロス帳簿価額を、再評価後の帳簿価額(ネット)の変動に合わせて比例的に修正する方法です(第35項(a))。この方法は、資産の総額と累計額の両方を現在価値に近づけるアプローチです。
  2. 相殺消去法(Elimination):減価償却累計額を資産のグロス帳簿価額と相殺し、その純額を資産の再評価額に修正する方法です(第35項(b))。

結論の根拠(BC)として、審議会は、減価償却累計額の修正が必ずしもグロス帳簿価額の変動と比例しない場合があることを認め、第35項(a)を修正しました。これにより、計算の不整合が生じる可能性を低減させています(BC25C, BC25I)。

再評価差額の会計処理(評価益・評価損)

再評価によって生じた帳簿価額の増減は、その資産の過去の処理履歴に応じて会計処理が異なります。

状況 会計処理
帳簿価額の増加(評価益) 原則として、増加額は「その他の包括利益(OCI)」に認識し、資本の部に「再評価剰余金」として累積します(第39項)。ただし、過去に同一資産の評価損を純損益(P/L)で認識している場合は、その戻入れの範囲内で増加額をP/Lに認識します。
帳簿価額の減少(評価損) 原則として、減少額は「純損益(P/L)」に費用として認識します(第40項)。ただし、過去に同一資産の評価益による「再評価剰余金」の残高がある場合は、その残高を限度としてOCIで認識(剰余金の取り崩し)します。

再評価剰余金の利益剰余金への振替

資本に計上された再評価剰余金は、将来的に利益剰余金に振り替えることができます。この振替は、資産が認識中止(売却や廃棄)された時点で、残高全額を直接利益剰余金に振り替える方法が認められています(第41項)。また、資産を使用する過程で、再評価後の減価償却費と原価ベースの減価償却費との差額を、毎期利益剰余金に振り替えることも可能です。いずれの振替も、純損益(P/L)を経由しない点に注意が必要です(第41項)。

果実生成型植物の測定モデル

2014年の改訂により、ブドウの木やリンゴの木などの「果実生成型植物」もIAS第16号の適用範囲に含まれることになりました。したがって、企業はこれらの資産についても、原価モデルまたは再評価モデルのいずれかを選択適用することができます(BC92項)。
結論の根拠(BC)によれば、審議会は多くの企業が原価モデルを選択すると予想しています。その理由として、果実生成型植物の公正価値を定期的に測定するコストや複雑性、また土地や農業機械など他の関連資産で原価モデルが適用されているケースが多く、会計方針の整合性を保つためとされています(BC103項)。

ケーススタディで学ぶ認識後の測定

具体的な事例を通じて、IAS第16号のルールがどのように適用されるかを見ていきましょう。

ケース1:本社ビルの再評価

状況:ある企業が本社ビル(帳簿価額100億円)に再評価モデルを適用しています。X1年度末に公正価値が120億円に上昇し、X2年度末には90億円に下落しました。

  • X1年度末(20億円の増加):第39項に基づき、増加額20億円を「その他の包括利益(OCI)」として認識し、資本の「再評価剰余金」に計上します。
  • X2年度末(30億円の減少):第40項に基づき、まず「再評価剰余金」の残高20億円を取り崩し(OCIのマイナス)、残りの減少額10億円を当期の「純損益(P/L)」に損失として計上します。

この処理により、未実現の利益は純損益に影響を与えず、取得原価を割り込んだ部分のみが損失として認識されます。

ケース2:果樹園のクラス別会計方針

状況:ある食品メーカーがリンゴ農園を運営しており、資産は「土地」「リンゴの木(果実生成型植物)」「収穫機」で構成されています。土地は時価を反映させたい一方、リンゴの木は評価コストを抑えたいと考えています。

第29項および第37項に基づき、企業は資産の「クラス」ごとに異なる会計方針を選択できます。

  • 土地(クラス:土地):「再評価モデル」を選択し、地価の変動を財務諸表に反映させることが可能です。ただし、農園内の土地すべてを再評価する必要があります(第36項)。
  • リンゴの木(クラス:果実生成型植物):「原価モデル」を選択し、毎年の評価コストを回避しつつ、取得原価に基づいて減価償却を行います。
  • 収穫機(クラス:機械装置):「原価モデル」を選択します。

このように、クラスごとの会計方針選択により、企業は管理目的とコストのバランスを取りながら、適切な会計処理を行うことができます。

まとめ

IAS第16号における「認識後の測定」は、企業の会計方針に大きな選択肢を与えています。客観性と簡便性に優れた原価モデルと、資産の現在価値を反映できる再評価モデルの特性を正しく理解し、自社の事業内容や資産の性質に最も適したモデルを「クラス」ごとに選択することが重要です。特に再評価モデルを選択する際は、再評価の頻度や範囲、差額の会計処理に関する厳格なルールを遵守し、透明性の高い財務報告を心掛ける必要があります。

有形固定資産の測定に関するよくある質問

Q. なぜ会計方針を資産ごとではなく「クラス」ごとに適用する必要があるのですか?

A. 資産の「クラス」ごとに会計方針を統一するのは、企業が含み益のある資産だけを選択的に再評価するなどの恣意的な会計処理を防ぐためです(第36項)。また、同一クラス内で取得原価と現在の価値が混在することを避け、財務諸表の比較可能性と信頼性を確保する目的もあります(第38項)。

Q. 再評価は毎年必ず実施しなければならないのですか?

A. 必ずしも毎年実施する必要はありません。再評価は、帳簿価額が報告期間末日の公正価値と著しく異ならないよう、十分な規則性をもって行うことが求められます(第31項)。公正価値の変動が激しい資産は毎年の評価が必要になる場合がありますが、変動が僅少な資産であれば3年から5年ごとの再評価で十分な場合もあります(第34項)。

Q. 再評価モデルで評価益が出た場合、その利益はすぐに株主へ配当できますか?

A. いいえ、すぐには配当できません。再評価による評価益は、原則として「その他の包括利益(OCI)」として認識され、資本の部の「再評価剰余金」に累積されます(第39項)。これは当期の純利益(P/L)には含まれないため、直接的な配当原資とはなりません。再評価剰余金は、資産の売却時などに利益剰余金へ振り替えることができますが、それまでは資本の一部として留保されます(第41項)。

Q. 一度選択した原価モデルや再評価モデルは、後から変更できますか?

A. 会計方針の変更は、より信頼性があり目的適合的な情報を提供する場合にのみ認められます(IAS第8号)。したがって、単に利益を調整する目的などでの安易な変更はできません。再評価モデルから原価モデルへの変更は、一般的に目的適合性が低下すると見なされるため、正当化が特に困難です。

Q. 再評価剰余金は、どのようなタイミングで利益剰余金に振り替えられますか?

A. IAS第16号第41項では、2つのタイミングが示されています。1つは、対象となる資産が認識中止(売却や廃棄)された際に、再評価剰余金の残高全額を直接利益剰余金に振り替える方法です。もう1つは、資産を使用している期間にわたり、再評価後の減価償却費と原価ベースの減価償却費との差額を毎期振り替える方法です。

Q. すべての有形固定資産で再評価モデルを選択できますか?

A. いいえ、できません。再評価モデルを適用するための大前提は、その資産の公正価値が「信頼性をもって測定できる」ことです(第31項)。特殊な機械装置など、活発な市場が存在せず、信頼性のある公正価値を算定することが困難な資産については、再評価モデルを適用することはできず、原価モデルを使用する必要があります。

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