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IAS36号「資産の減損」開示要求を条項別に徹底解説

2024-11-08
目次

国際会計基準(IFRS)におけるIAS第36号「資産の減損」は、企業の資産がその回収可能価額を超えて計上されることを防ぐための重要な基準です。特に、その開示に関する規定(第126項から第137項)は、財務諸表の利用者が減損テストに用いられた経営者の見積りや判断を評価し、会計処理の信頼性を確保するために、非常に詳細な情報を要求しています。本記事では、IAS第36号が定める開示要求について、各条項番号に沿って体系的に解説いたします。

一般的な開示要求

まず、すべての企業に適用される基本的な開示要求について解説します。これらは、減損損失やその戻入れに関する全体像を把握するために不可欠な情報です。

資産クラスごとの開示(第126項)

企業は、性質と使用目的が類似した資産のグループである「資産のクラス」ごとに、以下の情報を財務諸表に開示しなければなりません。これにより、どの種類の資産に減損が生じたかを明確に把握できます。

開示項目 内容
当期中に純損益に認識した減損損失(第126項(a)) 減損損失の金額、および当該損失が含まれる包括利益計算書上の勘定科目。
当期中に純損益に認識した減損損失の戻入れ(第126項(b)) 減損損失の戻入れ額、および当該戻入れが含まれる包括利益計算書上の勘定科目。
その他の包括利益に認識した再評価資産の減損損失(第126項(c)) 再評価剰余金を取り崩す形で認識された減損損失の金額。
その他の包括利益に認識した再評価資産の減損損失の戻入れ(第126項(d)) 再評価剰余金に振り戻す形で認識された減損損失の戻入れ額。

セグメント情報の開示(第129項)

IFRS第8号「事業セグメント」に従いセグメント情報を開示している企業は、追加の開示が求められます。各報告セグメントについて、当期中に純損益およびその他の包括利益に認識した減損損失と、その戻入れの金額を開示する必要があります(第129項(a), (b))。これにより、事業セグメント別の収益性や資産効率に関するより深い洞察が可能となります。

個別の重要な減損に関する詳細な開示

当期中に個別の資産(のれんを含む)または資金生成単位(CGU)について、重要な減損損失の認識または戻入れを行った場合、その内容についてより詳細な情報開示が求められます(第130項)。

基本的な開示事項(第130項(a)~(e))

重要な減損または戻入れについては、以下の基本情報を開示する必要があります。

  • 減損損失の認識または戻入れに至った事象および状況(第130項(a))
  • 認識または戻入れをした減損損失の金額(第130項(b))
  • 個別資産の場合:資産の性質、およびそれが所属する報告セグメント(第130項(c))
  • 資金生成単位(CGU)の場合:CGUの記述(例:生産ライン、工場など)、資産クラスごとの減損損失(戻入れ)額、CGUの識別方法に変更があった場合はその内容と理由(第130項(d))
  • 資産(CGU)の回収可能価額、およびその算定基礎が「処分コスト控除後の公正価値」と「使用価値」のいずれであるか(第130項(e))

回収可能価額の算定基礎に応じた追加開示

回収可能価額の算定基礎によって、さらに詳細な情報の開示が要求されます。

算定基礎 主な追加開示項目(第130項(f), (g))
処分コスト控除後の公正価値
  • 公正価値ヒエラルキーのレベル(レベル1, 2, 3)
  • (レベル2, 3の場合)評価技法の記述、変更とその理由
  • (レベル2, 3の場合)経営者が用いた主要な各仮定(割引率など)
使用価値
  • 使用価値の見積りに用いた割引率(現在および過去)

その他の開示要求

上記の開示要求に加えて、特定の状況下で求められる開示事項があります。

個別開示されない減損損失の合計に関する開示(第131項)

第130項に基づく個別開示の対象とならない減損損失や戻入れについても、その合計額に関して以下の情報を開示する必要があります。

  • 減損損失およびその戻入れの影響を受ける主な資産のクラス(第131項(a))
  • 減損損失の認識および戻入れを生じさせた主な事象および状況(第131項(b))

未配分ののれんに関する開示(第133項)

当期中の企業結合で取得したのれんが、報告期間の末日までに資金生成単位(CGU)に配分されていない場合、配分していないのれんの金額とその理由を開示しなければなりません。これは、減損テストの対象となる資産を明確にするために重要です。

のれん・耐用年数非確定無形資産に関する厳格な開示

経営者の見積りが大きく影響する、のれんまたは耐用年数を確定できない無形資産が配分された資金生成単位(CGU)については、減損テストの信頼性を確保するため、特に厳格で詳細な開示が求められます(第134項~第137項)。

重要な資金生成単位(CGU)に関する詳細情報(第134項)

のれんまたは耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額が、企業全体と比較して重要なCGU(またはCGUのグループ)については、以下の情報を開示する必要があります。

項目 開示内容
基本情報(第134項(a)~(c))
  • CGUに配分されたのれんの帳簿価額
  • CGUに配分された耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額
  • 回収可能価額の算定基礎(使用価値 or 処分コスト控除後の公正価値)
使用価値に基づく場合(第134項(d))
  • キャッシュ・フロー予測の基礎とした主要な仮定
  • 各仮定の値を算定した経営者の手法
  • キャッシュ・フローの予測期間(5年超の場合はその理由)
  • 予測期間を超えるキャッシュ・フローの推定に用いた成長率
  • キャッシュ・フロー予測に適用した割引率
処分コスト控除後の公正価値に基づく場合(第134項(e))
  • 評価技法、主要な仮定、公正価値ヒエラルキーのレベル
  • (割引キャッシュ・フロー予測を用いる場合)予測期間、成長率、割引率

感応度分析の開示(第134項(f))

回収可能価額の算定に用いた主要な仮定について、合理的に考え得る変更により、CGUの帳簿価額が回収可能価額を上回る(つまり減損が生じる)可能性がある場合には、感応度分析の開示が必須となります。

  • 回収可能価額が帳簿価額を上回っている金額
  • 主要な仮定に割り当てた値
  • 回収可能価額が帳簿価額と等しくなるために、主要な仮定の値がどれだけ変化する必要があるか

総計で重要なCGUに関する開示(第135項)

個々のCGUとしては重要でなくても、それらに配分されたのれんまたは耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額の合計が、企業全体で見て多額である場合、その旨と、それらのCGU群に関する第134項で要求される詳細な情報(主要な仮定や感応度分析など)を開示しなければなりません。

まとめ

IAS第36号「資産の減損」における開示要求は、単なる数値の報告に留まりません。財務諸表の利用者が、経営者の将来予測や重要な判断を理解し、その合理性を評価するための根幹となる情報を提供することを目的としています。特に、のれんや耐用年数を確定できない無形資産のように、客観的な価値評価が難しい資産については、その減損テストのプロセスと根拠を透明化することが極めて重要です。企業はこれらの詳細な要求事項を正確に理解し、投資家やその他の利害関係者に対する説明責任を果たすために、適切かつ十分な開示を行うことが求められます。

IAS第36号「資産の減損」の開示に関するよくある質問まとめ

Q. 減損損失を計上した場合、財務諸表で最低限開示しなければならないことは何ですか?

A. 資産クラスごとに、当期に純損益やその他の包括利益で認識した減損損失やその戻入れ額、および関連する包括利益計算書の科目を開示する必要があります(IAS第36号 第126項)。セグメント情報を開示している場合は、セグメントごとの情報も必要です(IAS第36号 第129項)。

Q. 個別の資産や資金生成単位(CGU)で重要な減損損失を計上した場合、どのような詳細情報を開示する必要がありますか?

A. 減損に至った事象や状況、減損損失額、資産の性質やCGUの記述、回収可能価額(使用価値か処分コスト控除後の公正価値か)などを開示します。また、回収可能価額の算定方法に応じて、割引率や評価技法、主要な仮定といった追加情報も必要です(IAS第36号 第130項)。

Q. のれんが配分された資金生成単位(CGU)の減損テストでは、特にどのような開示が求められますか?

A. のれんや耐用年数を確定できない無形資産が配分された重要なCGUについては、特に詳細な開示が求められます。具体的には、配分されたのれん等の帳簿価額、回収可能価額の算定基礎、キャッシュ・フロー予測に用いた主要な仮定(成長率、割引率など)、その算定方法、予測期間などを開示する必要があります(IAS第36号 第134項)。

Q. 減損テストで用いた「主要な仮定」とは何ですか?また、それについて何を開示しますか?

A. 「主要な仮定」とは、売上成長率や割引率など、回収可能価額の算定に大きな影響を与える見積りのことを指します。のれん等が配分された重要なCGUについては、これらの仮定の内容、経営者がその値をどのように算定したか、そしてその仮定が少し変わった場合に減損損失が発生する可能性があるか(感応度分析)などを開示する必要があります(IAS第36号 第134項(d), (f))。

Q. 減損テストの結果、減損の必要はないと判断されました。しかし、回収可能価額が帳簿価額をわずかに上回っているだけで、少し状況が悪化すると減損しそうです。この場合、何か開示は必要ですか?

A. はい、必要です。のれん等が配分された重要なCGUについて、主要な仮定が合理的に考え得る範囲で変化した場合に帳簿価額が回収可能価額を上回ってしまう(減損が発生する)可能性がある場合、「感応度分析」の開示が求められます。具体的には、回収可能価額が帳簿価額を上回っている超過額や、減損が発生するまでに仮定がどの程度変化する必要があるかなどを開示します(IAS第36号 第134項(f))。

Q. 小規模な減損損失がたくさん発生した場合、一つ一つ詳細に開示する必要がありますか?

A. 個別には重要でなく詳細な開示(第130項)を行わない減損損失については、合計額として開示します。その際、減損の影響を受けた主な資産クラスや、減損を引き起こした主な事象・状況をまとめて記載する必要があります(IAS第36号 第131項)。

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対応責任者
公認会計士 島本 雅史

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