国際会計基準(IFRS)におけるIAS第36号「資産の減損」は、企業の資産価値を適正に財務諸表へ反映させるための重要な基準です。その中でも特に解釈が複雑とされる「資金生成単位(CGU)とのれん」に関するセクション(第65項から第108項、および付録C)について、関連する条項番号を網羅しつつ、詳細に解説いたします。このセクションは、個別資産単独での評価が困難な場合の資産グループの特定方法や、のれん特有の減損テストの要求事項を理解する上で不可欠です。
資産が属する資金生成単位(CGU)の識別
資産に減損の兆候がある場合、原則として個別資産ごとに回収可能価額を見積もります。しかし、それが実務上困難な場合には、資産が属する資金生成単位(CGU: Cash-Generating Unit)の回収可能価額を算定し、減損テストを実施する必要があります。ここでは、CGUの識別方法に関する具体的な要件を解説します。
回収可能価額の算定が困難な場合
IAS第36号では、個別資産の回収可能価額の見積もりが不可能と判断されるのは、以下のいずれかに該当する場合であると規定しています(第67項)。
| ケース | 内容 |
|---|---|
| 使用価値が公正価値に近似しない | 当該資産の使用価値が、処分コスト控除後の公正価値に近いとは見積もれない場合。これは、資産の継続的な使用から得られる将来キャッシュ・フローが無視できないことを意味します(第67項(a))。 |
| 独立したキャッシュ・インフローを生まない | 当該資産が、他の資産からのキャッシュ・インフローからおおむね独立したキャッシュ・インフローを生成しない場合(第67項(b))。 |
資金生成単位(CGU)の定義と識別
資金生成単位(CGU)とは、「他の資産または資産グループからのキャッシュ・インフローとはおおむね独立したキャッシュ・インフローを生成する最小の識別可能な資産グループ」と定義されています(第6項)。CGUの識別には専門的な判断が伴い、経営者が企業の営業をどのように監視しているか、あるいは資産の継続・処分に関する意思決定をどのように行うかといった内部管理体制が考慮されます。
特に、資産が生産する産出物について活発な市場が存在する場合、たとえその産出物の一部または全部が内部で消費されるとしても、当該資産(または資産グループ)を一つのCGUとして識別しなければなりません(第70項、第71項)。内部振替価格がキャッシュ・インフローに影響を与える場合は、第三者間取引で想定される将来価格に関する経営者の最善の見積もりを使用する必要があります。
継続的な識別と変更時の開示
一度識別されたCGUは、変更が正当化される場合を除き、各会計期間において継続的に同じ基礎で識別しなければなりません(第72項)。もしCGUの識別方法に変更があった場合で、その期間に減損損失の認識または戻入れを行うときには、その変更内容と理由を開示することが求められます(第73項)。
資金生成単位(CGU)の回収可能価額及び帳簿価額
CGUが識別された後、減損テストを行うためには、その「回収可能価額」と「帳簿価額」を算定する必要があります。この両者を比較することで、減損損失の有無と金額を判断します。
回収可能価額の測定
CGUの回収可能価額は、個別資産の場合と同様に、「当該単位の処分コスト控除後の公正価値」と「使用価値」のいずれか高い方の金額となります(第74項)。回収可能価額を算定する目的上、IAS第36号の第19項から第57項における「資産」に関する規定は、「資金生成単位」に読み替えて適用されます。
帳簿価額の算定
CGUの帳簿価額は、回収可能価額を算定する方法と首尾一貫した基礎で算定しなければならないと定められています(第75項)。算定にあたっては、以下の点に留意が必要です。
| 項目 | 取扱い |
|---|---|
| 含めるべき資産 | CGUに直接賦課できる資産、または合理的かつ首尾一貫した基礎で配分できる資産の帳簿価額のみを含めます。これらの資産は、当該CGUの使用価値の算定に用いられる将来キャッシュ・フローを生成する資産でなければなりません(第76項(a))。 |
| 負債の取扱い | 原則として、認識済みの負債の帳簿価額はCGUの帳簿価額に含めません。ただし、CGUを処分する際に買手が特定の負債を引き受けることが不可欠であり、負債を含めなければ回収可能価額が算定できない例外的な場合は、当該負債を考慮します(第76項(b)、第78項)。この場合、比較可能性を確保するため、CGUの使用価値と帳簿価額の両方から当該負債の帳簿価額を控除します。 |
のれん — 資金生成単位への配分
企業結合により取得したのれんは、それ自体が独立してキャッシュ・フローを生成しないため、減損テストの目的上、企業結合のシナジーから便益を得ると見込まれるCGUまたはCGUのグループに配分する必要があります(第80項)。
配分の目的と単位の要件
のれんが配分されるCGUまたはCGUグループは、以下の要件を両方とも満たさなければなりません(第80項)。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| (a) 内部管理上の最小レベル | のれんを内部管理目的で監視している企業内の最小のレベルを表していること。 |
| (b) 事業セグメント以下の大きさ | IFRS第8号「事業セグメント」で定義される事業セグメントよりも大きくないこと。 |
この要求事項は、のれんの減損テストが、企業の経営実態を反映し、かつ当該のれんが関連するレベルで適切に行われることを意図しています(第82項)。
配分の時期と特殊なケース
のれんの当初配分は、企業結合が生じた事業年度の末日までに完了できない場合、取得日以後開始する最初の事業年度の末日までに完了しなければなりません(第84項)。
また、のれんを配分したCGUの一部事業を処分する場合、その処分事業に関連するのれんは、処分損益の計算上、当該事業の帳簿価額に含める必要があります。この金額は、処分する部分と保持する部分の相対的な価値に基づいて測定されます(第86項)。企業が報告構造を再編成した場合も、同様の相対価値アプローチを用いて、影響を受けるCGUにのれんを再配分します(第87項)。
のれんを配分した資金生成単位の減損テスト
のれんが配分されたCGU(またはCGUグループ)は、減損の兆候の有無にかかわらず、特有の減損テスト手続きが要求されます。
年次テストの義務とテストの時期
のれんを配分したCGUは、毎年、および減損の兆候がある場合にはその都度、減損テストを行わなければなりません(第90項)。毎年の減損テストは、事業年度中のどの時点でも実施可能ですが、毎年同じ時期に実施する必要があります。ただし、当期に取得したのれんを含むCGUについては、当事業年度の末日より前にテストを完了させる必要があります(第96項)。
減損テストの順番
のれんを含むCGUの減損テストを、そのCGUを構成する個別の資産やより小さなCGUのテストと同時に行う場合、必ず個別の資産(またはより小さなCGU)の減損テストを先に行わなければなりません(第97項)。これは、まず他の資産に関する減損損失を認識し、その上で、のれんを含むCGU全体の帳簿価額を正しく評価するためです。
回収可能価額計算の繰り越し
特定の要件がすべて満たされる場合に限り、前年度に実施した回収可能価額の詳細な計算結果を当期の減損テストに用いることが認められています(第99項)。主な要件には、直近の計算で回収可能価額が帳簿価額を大幅に上回っていたことや、その後の重要な変動がないことなどが含まれます。
全社資産の取扱い
全社資産とは、本社ビルや共通のITシステムなど、特定のCGUだけでなく複数のCGUの将来キャッシュ・フローに貢献する、のれん以外の資産を指します(第6項)。これらの資産は独立したキャッシュ・インフローを生まないため、減損テストにおいて特別な取扱いが必要です(第100項)。
全社資産に減損の兆候がある場合、まず、当該全社資産の帳簿価額の一部を、合理的かつ首尾一貫した基礎により個別のCGUに配分できるかを検討します。
- 配分できる場合: 配分後のCGUの帳簿価額と回収可能価額を比較して減損テストを行います(第102項(a))。
- 配分できない場合: 以下の二段階のテストを実施します(第102項(b))。
- まず、全社資産を含まないCGU単独で減損テストを行い、必要に応じて減損損失を認識します。
- 次に、当該CGUを含み、かつ全社資産の帳簿価額の一部を配分できる「最小のCGUグループ」を識別し、そのグループ全体で帳簿価額と回収可能価額を比較します。
資金生成単位の減損損失の認識と配分
減損テストの結果、CGUの回収可能価額がその帳簿価額を下回った場合、その差額を減損損失として認識しなければなりません(第104項)。認識した減損損失は、CGUを構成する資産の帳簿価額を減額するために、以下の順序で配分されます。
減損損失の配分順序
- 最初に、当該CGUに配分されたのれんの帳簿価額をゼロになるまで減額します(第104項(a))。
- 次に、残額を当該CGU内の他の各資産の帳簿価額に比例して配分します(第104項(b))。
減額の下限
減損損失を各資産に配分する際、いかなる資産の帳簿価額も、以下のうち最も高い金額を下回るように減額してはなりません(第105項)。
- 処分コスト控除後の公正価値(測定可能な場合)
- 使用価値(算定可能な場合)
- ゼロ
この下限ルールによって配分しきれなかった減損損失は、下限に抵触しない他の資産に対して、帳簿価額の比率で追加配分されます。
【付録C】非支配持分がある場合の特則
親会社が子会社を100%所有しておらず、非支配持分(NCI)が存在する場合、のれんを含むCGUの減損テストには特別な調整が必要となります。付録Cでは、NCIの測定方法に応じた具体的な手続が規定されています。
NCIを比例的持分として測定する場合の調整
NCIを被取得企業の識別可能純資産の持分割合(比例的持分)で測定した場合、NCIに帰属するのれんは連結財務諸表で認識されません。このため、減損テストを行う前に、CGUの帳簿価額に、認識されていないNCI帰属のれんを加算(グロス・アップ)して、理論上ののれん総額を含む帳簿価額を算定する必要があります(C4項)。この調整後の帳簿価額とCGUの回収可能価額を比較して、減損損失の総額を算定します。
減損損失の配分
算定された減損損失総額のうち、親会社に帰属する部分のみが連結財務諸表で認識されます。具体的には、減損損失は、まず理論上ののれん総額(親会社帰属分とNCI帰属分)を減額し、残額を他の資産に配分します。このうち、親会社に帰属するのれんから生じた減損損失と、他の資産から生じた減損損失が、連結上の減損損失として認識されることになります(C6項、C8項)。
まとめ
IAS第36号における「資金生成単位とのれん」の減損会計は、CGUの適切な識別から始まり、のれんの配分、年次の減損テスト、そして減損損失の認識・配分といった一連の厳格な手続きが求められます。特に、のれんや全社資産、非支配持分が関わるケースでは、特有のルールを正確に理解し、適用することが財務報告の信頼性を確保する上で極めて重要です。本記事が、これらの複雑な規定を理解するための一助となれば幸いです。
IAS第36号「資産の減損」資金生成単位とのれんに関するよくある質問まとめ
Q. IAS第36号における「資金生成単位(CGU)」とは何ですか?どのように識別すればよいのでしょうか?
A. 資金生成単位(CGU)とは、他の資産グループからおおむね独立したキャッシュ・インフローを生み出す、識別可能な最小の資産グループのことです(第6項)。CGUの識別は、経営者がどのように事業を監視し、意思決定を行っているかに基づいて判断します。例えば、店舗や事業ラインごとなどが考えられます。個別資産だけでは回収可能価額を見積もれない場合に、このCGU単位で減損テストを行います(第67項)。
Q. 企業結合で取得した「のれん」は、どのように資金生成単位(CGU)へ配分すればよいですか?
A. 減損テストの目的上、取得したのれんは、企業結合のシナジー効果から便益を受けると見込まれる資金生成単位(CGU)またはCGUグループに配分しなければなりません(第80項)。この配分先は、社内で管理している最小単位であり、かつIFRS第8号で定義される事業セグメントより大きくない単位である必要があります。この配分は、原則として企業結合が生じた事業年度の末日までに完了させる必要があります(第84項)。
Q. のれんを配分した資金生成単位(CGU)の減損テストは、いつ、どのような順番で行うのですか?
A. のれんを配分したCGUは、①毎年、そして②減損の兆候がある場合にはその都度、減損テストを行う必要があります(第90項)。毎年のテストは、事業年度中のどの時期に行っても構いませんが、毎年同じ時期に実施する必要があります(第96項)。テストの順番として、まずCGU内の個別の資産やより小さなCGUの減損テストを先に行い、その後にのれんを含むCGU全体のテストを実施します(第97項)。
Q. 資金生成単位(CGU)で減損損失を認識する場合、どのように各資産へ配分すればよいですか?
A. CGUの回収可能価額が帳簿価額を下回った場合、減損損失を認識し、次の順序で資産の帳簿価額を減額します。最初に、そのCGUに配分された「のれん」の帳簿価額を全額減額します。それでも減損損失が残る場合は、次に、CGU内の他の資産へ、各資産の帳簿価額に応じて比例的に配分します(第104項)。ただし、個々の資産の帳簿価額を、その処分コスト控除後の公正価値や使用価値などを下回るまで減額することはできません(第105項)。
Q. 本社ビルなどの「全社資産」は、どのように減損テストを行えばよいですか?
A. 全社資産は、それ自体が独立したキャッシュ・インフローを生まないため、単独での減損テストは困難です(第100項)。まず、全社資産の帳簿価額の一部を、合理的かつ首尾一貫した基準で各資金生成単位(CGU)に配分できるか検討します。配分できる場合は、そのCGUに含めて減損テストを行います。配分できない場合は、①まず全社資産を除いたCGUで減損テストを行い、②次にそのCGUを含み、全社資産を配分できる最小のCGUグループ全体で減損テストを行う、という二段階のアプローチをとります(第102項)。
Q. 非支配持分(NCI)がある子会社ののれんの減損テストで、特別な考慮事項はありますか?
A. はい、あります。特に非支配持分(NCI)を被取得企業の識別可能純資産の持分割合(比例的持分)で測定している場合、注意が必要です。この場合、連結財務諸表上、NCIに帰属するのれんは認識されていません。そのため、減損テストを行う前に、資金生成単位(CGU)の帳簿価額に、この未認識ののれん相当額を上乗せ(グロスアップ)して、のれんの全額(100%ベース)を対象とした減損テストを行う必要があります(付録C C4項)。