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IAS第36号「資産の減損」を徹底解説!減損テストの兆候と識別方法

2024-11-03
目次

国際会計基準(IFRS)におけるIAS第36号「資産の減損」は、企業の資産価値を適正に財務諸表へ反映させるための重要な基準です。特に、減損の可能性を識別するプロセスは、実務において的確な判断が求められます。本記事では、IAS第36号の第7項から第17項に基づき、企業がどのような状況で資産の減損テストを実施すべきか、その具体的な兆候と要件について条項番号を交えながら詳細に解説します。

減損テストの基本原則と実施要件

資産の減損会計を適用するにあたり、まずはその基本的な考え方と、いつ回収可能価額を見積もる必要があるのかを理解することが不可欠です。すべての資産が毎期減損テストの対象となるわけではなく、特定の「兆候」の有無が判断の起点となります。

減損の定義とは

IAS第36号第7項において、資産の減損とは、その資産の帳簿価額回収可能価額を超過している状態を指します。回収可能価額とは、資産の売却によって得られる正味売却価額と、資産の継続的使用によって得られる使用価値のいずれか高い方の金額です。この定義に基づき、帳簿価額が将来のキャッシュ・フローで回収できないと判断された場合に、減損損失を認識する必要があります。

回収可能価額の見積りが必要なタイミング

企業は、各報告期間の末日において、保有する資産に減損の可能性を示す「兆候」が存在するかどうかを評価する義務があります(第9項)。もし何らかの兆候が存在すると判断された場合、企業は当該資産の回収可能価額を正式に見積り、帳簿価額と比較する減損テストを実施しなければなりません。この要求事項は、個別の資産だけでなく、複数の資産が一体となってキャッシュ・フローを生み出す「資金生成単位」にも同様に適用されます。

兆候がない場合の対応

後述する特定の資産(第10項)を除き、減損の可能性を示す兆候が存在しない場合には、企業は回収可能価額の正式な見積りを行う必要はありません(第9項)。これにより、実務上の負担が過大になることを防いでいます。ただし、兆候の有無を判断するプロセス自体は、毎期末に必ず実施する必要があります。

年次減損テストが義務付けられる特定の資産

前述の原則には例外があり、減損の兆候の有無にかかわらず、毎年必ず減損テストを実施しなければならない資産が存在します。これらは本質的に価値の不確実性が高い資産であり、より厳格な評価が求められます。

耐用年数を確定できない無形資産・未利用の無形資産

第10項(a)では、耐用年数を確定できない無形資産(例:特定のブランド権)や、まだ事業の用に供されていない無形資産(例:開発中のソフトウェア)について、毎年の減損テストを義務付けています。これは、これらの資産が将来の経済的便益を生み出す能力に関する不確実性が特に高いためです。減損テストは、毎年同時期に行うことが推奨されており、当事業年度中に新たに認識した場合は、当該年度の末日までに実施する必要があります(第11項)。

企業結合で取得したのれん

企業結合によって取得したのれんも、減損の兆候の有無を問わず、毎年減損テストを実施しなければなりません(第10項(b))。のれんは自己創設が認められず、他の資産のように独立してキャッシュ・フローを生み出さないため、のれんが配分された資金生成単位または資金生成単位グループのレベルでテストが行われます。

減損の可能性を示す具体的な兆候

IAS第36号第12項では、企業が減損の兆候を評価する際に最低限考慮すべき項目を例示しています。これらは企業の外部環境から得られる情報と、内部から得られる情報に大別されます。

外部からもたらされる情報

企業のコントロールの及ばない外部環境の変化は、資産価値に大きな影響を与える可能性があります。以下の兆候には特に注意が必要です。

兆候の分類 具体的な内容(第12項(a)~(d))
資産価値の著しい低下 時間の経過や正常な使用による予想を著しく超える市場価値の低下が観察される場合。
経営環境の悪化 企業が事業を行う技術的、市場的、経済的、法的な環境において、企業に悪影響のある著しい変化が発生した、または発生が見込まれる場合。
市場金利の上昇 市場金利や投資収益率が上昇し、それが資産の使用価値計算に用いる割引率に影響を与え、回収可能価額を著しく減少させる可能性が高い場合。
純資産と時価総額の乖離 企業の純資産の帳簿価額が、その企業の株式の市場価値(時価総額)を超過している場合。

企業内部で発生する情報

資産そのものの状態や使用状況の変化など、企業内部の情報も減損の重要な兆候となり得ます。

兆候の分類 具体的な内容(第12項(e)~(g))
資産の物理的な問題 資産の陳腐化や物理的な損害の証拠が入手可能な場合。
使用状況の悪化 資産が遊休化している、事業の廃止やリストラクチャリングが計画されている、当初の予定より早期に処分する計画があるなど、資産の使用範囲や方法に悪影響のある変化が発生した場合。
経済的成果の悪化 内部報告により、資産が生み出す経済的成果が当初の予測よりも悪化している、または今後悪化することが示唆される場合。

内部報告から読み解く減損のサイン

第12項(g)で示された「経済的成果の悪化」について、第14項ではさらに具体的な例が挙げられています。予算と実績の比較は、減損の兆候を客観的に把握するための有効な手段です。

内部報告における兆候 具体的な内容
予算超過 資産を取得するため、またはその後の操業・維持に必要な資金が、当初の予算を著しく上回っていること。
業績の悪化 資産から生じる実際の正味キャッシュ・フローや営業損益が、予算額を著しく下回っていること。
予測の下方修正 予算化されていた正味キャッシュ・フローや営業利益が著しく悪化、または予算化されていた損失が著しく増加していること。
継続的な損失 当期の営業損失や正味キャッシュ・アウトフローが、将来の予算上の数値を加味してもなおマイナスとなる状況。

子会社等からの配当と減損の兆候

子会社、共同支配企業、または関連会社への投資についても、減損の兆候を検討する必要があります。特に、配当金の受領が減損の兆候となるケースがあります(第12項(h))。

配当に関連する減損の兆候 判断基準
投資の帳簿価額超過 投資者が配当を認識し、かつ、個別財務諸表上の投資の帳簿価額が、連結財務諸表における投資先の純資産(関連するのれんを含む)の帳簿価額を超えている場合。
配当額の超過 投資者が配当を認識し、かつ、その配当額が、配当が宣言された期間における投資先の包括利益の合計額を超えている場合。これは、利益の分配ではなく資本の払い戻しの性質を帯びている可能性を示唆します。

実務上の留意点:重要性と見積りの省略

減損の兆候の識別と回収可能価額の見積りには、実務的な判断が伴います。基準は、過度な負担を避けるための規定も設けています。

重要性の原則の適用

第15項では、減損の兆候があるかどうかを判断する際に「重要性」の概念を適用することを認めています。識別された事象が、資産の回収可能価額に与える影響が軽微であると合理的に判断できる場合には、正式な減損テストに進む必要はありません。

見積りを省略できるケース

過去に減損テストを実施し、資産の回収可能価額が帳簿価額を著しく上回っていることが判明している場合、その差額を解消するような重大な悪化事象が発生していなければ、回収可能価額の再見積りを省略できる場合があります(第15項)。また、例えば市場金利が上昇した(第12項(c)の兆候)としても、その資産の割引率に与える影響が小さい、または将来キャッシュ・フローの増加が見込まれる等の理由で、回収可能価額が著しく減少しないと判断できる場合には、正式な見積りは不要とされます(第16項)。

減損の兆候が示すもう一つのシグナル

資産に減損の兆候がある場合、それは必ずしも減損損失の認識に直結するわけではありませんが、重要な経営上のシグナルとなります。第17項では、減損の兆候は、たとえ減損損失が認識されなかったとしても、当該資産の残存耐用年数減価償却(償却)方法、または残存価額を見直し、必要に応じて修正する必要があることを示唆している場合があると指摘しています。資産の経済的実態を財務諸表に適切に反映させるための、包括的な見直しのきっかけと捉えるべきです。

まとめ

IAS第36号に基づく資産の減損の識別プロセスは、企業の財政状態を正確に報告するための根幹をなす手続きです。本記事で解説した外部・内部の様々な「兆候」を常に監視し、基準に沿って客観的かつ慎重に評価を行うことが求められます。特に、年次テストが必須の無形資産やのれんについては、計画的な対応が不可欠です。これらの規定を正しく理解し、実務に適用することが、信頼性の高い財務報告に繋がります。

IAS第36号「資産の減損」に関するよくある質問

Q. 資産の減損テストは、いつ実施する必要がありますか?

A. 毎期末に、資産が減損している可能性を示す「兆候」があるかどうかを検討します。兆候があれば、回収可能価額を見積もり、減損テストを実施する必要があります。兆候がなければ、原則としてテストは不要です。

Q. 減損の兆候がなくても、毎年必ず減損テストが必要な資産はありますか?

A. はい、あります。具体的には、(1)耐用年数を確定できない無形資産や、まだ使用可能でない無形資産、(2)企業結合で取得したのれん、の2つは、減損の兆候の有無にかかわらず、毎年減損テストを実施しなければなりません。

Q. 資産の減損を検討する「外部の兆候」には、どのようなものがありますか?

A. 主に4つあります。(1)資産の市場価値が予測以上に著しく低下した、(2)市場環境や法規制などに不利な変化があった、(3)市場金利が上昇し、資産の価値に影響を与えそうな場合、(4)自社の株価時価総額が純資産の帳簿価額を下回っている、などです。

Q. 資産の減損を検討する「内部の兆候」には、どのようなものがありますか?

A. 主なものとして、(1)資産の陳腐化や物理的な損傷、(2)資産の遊休化や事業再編の計画、(3)資産が生み出すキャッシュフローや利益が、予算より著しく悪化している、といった社内情報から判断される兆候が挙げられます。

Q. 減損の兆候がある場合、必ず回収可能価額を計算し直さなければなりませんか?

A. いいえ、必ずしもそうではありません。例えば、前回の計算で回収可能価額が帳簿価額を大幅に上回っており、その差を覆すような大きな変化が起きていない場合は、再計算を省略できることがあります。

Q. 減損の兆候があったけれど、テストの結果、減損損失は発生しませんでした。この場合、他に何か検討すべきことはありますか?

A. はい。減損損失を認識しなかった場合でも、減損の兆候があったという事実は、その資産の残存耐用年数や減価償却方法、残存価額の見直しが必要であることを示している可能性があります。これらを再検討する必要があります。

事務所概要
社名
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公認会計士 島本 雅史

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