国際財務報告基準(IFRS)の一つであるIAS第36号「資産の減損」は、資産の帳簿価額がその回収可能価額を上回らないことを確実にするための会計処理を定めています。本基準は、減損に関する会計処理だけでなく、財務諸表利用者への情報提供を目的とした詳細な開示要求を規定しています。特に、本基準の第126項から第137項にかけては、企業が遵守すべき具体的な開示項目が網羅的に記載されています。本稿では、これらの複雑な開示要求について、条項番号を明記しながら体系的に解説いたします。
減損損失及びその戻入れに関する一般開示
企業は、資産の減損に関して財務諸表利用者が理解を深められるよう、基本的な情報を開示する義務があります。これは、当期中に認識または戻入れが行われた減損損失に関する透明性を確保することを目的としています。
資産のクラスごとの開示
まず、企業は「資産のクラス」ごとに、当期中に発生した減損損失およびその戻入れに関する情報を開示しなければなりません(第126項)。「資産のクラス」とは、企業の事業活動において性質と使用目的が類似した資産のグループを指します(第127項)。
| 開示項目 | 内容 |
|---|---|
| 純損益に認識した減損損失 | 当期中に純損益に認識した減損損失の総額と、それが計上されている包括利益計算書上の科目を開示します(第126項(a))。 |
| 純損益に認識した減損損失の戻入れ | 当期中に純損益に認識した減損損失の戻入れの総額と、それが計上されている包括利益計算書上の科目を開示します(第126項(b))。 |
| その他の包括利益に認識した減損損失 | 再評価モデルを適用している資産について、当期中にその他の包括利益(OCI)に認識した減損損失の金額を開示します(第126項(c))。 |
| その他の包括利益に認識した減損損失の戻入れ | 再評価モデルを適用している資産について、当期中にその他の包括利益(OCI)に認識した減損損失の戻入れの金額を開示します(第126項(d))。 |
これらの情報は、IAS第16号「有形固定資産」で要求される帳簿価額の調整表など、資産クラスに関する他の開示情報と合わせて表示することが可能です(第128項)。
セグメント情報に関する開示
IFRS第8号「事業セグメント」に従ってセグメント情報を報告している企業は、追加の開示が求められます。各報告セグメントについて、減損損失およびその戻入れに関する情報を開示する必要があります(第129項)。
| 開示項目 | 内容 |
|---|---|
| セグメントごとの減損損失 | 各報告セグメントについて、当期中に純損益およびその他の包括利益に認識した減損損失の金額を開示します(第129項(a))。 |
| セグメントごとの減損損失の戻入れ | 各報告セグメントについて、当期中に純損益およびその他の包括利益に認識した減損損失の戻入れの金額を開示します(第129項(b))。 |
個別資産または資金生成単位に関する詳細開示
当期中に減損損失の認識または戻入れを行った個別の資産(のれんを含む)または資金生成単位(CGU)については、より詳細な情報の開示が要求されます(第130項)。これにより、財務諸表利用者は個別の減損事象の背景や影響を具体的に把握できます。
| 開示項目 | 内容 |
|---|---|
| 事象および状況 | 減損損失の認識または戻入れに至った具体的な出来事や状況を説明します(第130項(a))。 |
| 減損損失の金額 | 認識または戻入れをした減損損失の金額を開示します(第130項(b))。 |
| 個別資産に関する情報 | 資産の性質、および所属する報告セグメントを開示します(第130項(c))。 |
| 資金生成単位(CGU)に関する情報 | CGUの記述、資産クラスごとの減損額、およびCGUの識別方法に変更があった場合はその理由などを開示します(第130項(d))。 |
| 回収可能価額の情報 | 資産(CGU)の回収可能価額と、その算定基礎が処分コスト控除後の公正価値と使用価値のどちらであるかを開示します(第130項(e))。 |
回収可能価額の測定に関する追加開示
回収可能価額の算定基礎に応じて、さらに追加的な開示が求められます(第130項(f)および(g))。
回収可能価額が処分コスト控除後の公正価値の場合(第130項(f))
| 開示項目 | 内容 |
|---|---|
| 公正価値ヒエラルキーのレベル | IFRS第13号に定められる公正価値ヒエラルキー(レベル1~3)のどのレベルに分類されるかを開示します。 |
| 評価技法 | レベル2およびレベル3の場合、用いた評価技法の記述と、技法に変更があった場合はその理由を開示します。 |
| 主要な仮定と割引率 | レベル2およびレベル3の場合、経営者が公正価値算定の基礎とした主要な各仮定(価格、成長率など)と、現在価値技法を用いた場合の割引率を開示します。 |
回収可能価額が使用価値の場合(第130項(g))
使用価値の算定に用いた割引率を開示する必要があります。過去の見積りがある場合は、過去に用いた割引率も併せて開示します。
重要性のない減損に関する集約的開示
個々には重要性がなく第130項の詳細な開示対象とはならないものの、合計額としては無視できない減損損失がある場合、集約した形での開示が求められます(第131項)。
| 開示項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な資産のクラス | 減損損失およびその戻入れの影響を受けた主な資産のクラスを開示します(第131項(a))。 |
| 主な事象および状況 | これらの減損損失および戻入れを生じさせた主な事象や状況を説明します(第131項(b))。 |
未配分ののれんに関する開示
企業結合で取得したのれんのうち、報告期間の末日時点でいずれの資金生成単位にも配分されていない部分がある場合、その未配分のれんの金額と、配分していない理由を開示しなければなりません(第133項)。
のれん又は耐用年数を確定できない無形資産を含む資金生成単位に関する特別開示
のれんや耐用年数を確定できない無形資産は、それ自体が独立してキャッシュ・フローを生まないため、資金生成単位(または単位グループ)に配分して減損テストが行われます。これらの資産を含むCGUについては、特に詳細な開示が要求されます。
重大な単位に関する詳細な開示
配分されたのれん又は耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額が、企業全体の合計額と比較して重大である資金生成単位(単位グループ)については、以下の詳細な情報を開示する必要があります(第134項)。
| 開示項目 | 内容 |
|---|---|
| のれん・無形資産の帳簿価額 | 当該単位に配分されたのれん及び耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額を開示します(第134項(a), (b))。 |
| 回収可能価額の算定基礎 | 使用価値か処分コスト控除後の公正価値かを開示します(第134項(c))。 |
| 使用価値に基づく場合の情報 | 経営者が用いた主要な仮定(成長率、マージン等)、キャッシュ・フロー予測期間(5年超の場合はその正当性)、予測期間後の成長率、適用した割引率などを詳細に記述します(第134項(d))。 |
| 処分コスト控除後の公正価値に基づく場合の情報 | 用いた評価技法、主要な仮定、公正価値ヒエラルキーのレベルなどを開示します。割引キャッシュ・フロー法を用いた場合は、予測期間、成長率、割引率も開示します(第134項(e))。 |
| 感応度分析 | 主要な仮定が合理的に考え得る範囲で変化した場合に、当該単位の帳簿価額が回収可能価額を上回ることになるかどうかの分析を開示します。具体的には、回収可能価額が帳簿価額を上回っている金額や、両者が等しくなるために必要な仮定の変化量などです(第134項(f))。 |
総計で重大となる単位に関する開示
個々の単位に配分されたのれん等の金額は重要でなくても、それらを合計すると企業全体にとって重要となる場合があります。その場合、企業は、それらの単位に関する情報を集約して開示しなければなりません(第135項)。具体的には、対象となる単位の合計帳簿価額や、それらの回収可能価額の算定に共通して用いられた主要な仮定などを開示します。
まとめ
IAS第36号「資産の減損」が要求する開示は、多岐にわたり非常に詳細です。これらの開示は、投資家や債権者などの財務諸表利用者が、企業の資産価値の実態や経営者の将来予測の妥当性を評価するための極めて重要な情報を提供します。特に、のれんや耐用年数を確定できない無形資産に関する開示は、経営者の見積りの要素が強く反映されるため、その透明性を確保することが強く求められます。本基準の要求事項を正確に理解し、適切に開示することは、IFRSに準拠した信頼性の高い財務報告を行う上で不可欠です。
IAS第36号「資産の減損」の開示に関するよくある質問
Q. IAS第36号「資産の減損」では、どのような情報を開示する必要がありますか?
A. 資産のクラスごとに、当期に認識した減損損失やその戻入れの金額、それが財務諸表のどこに含まれるかを開示します。また、セグメントごとの情報や、減損が生じた個別の資産・資金生成単位(CGU)に関する詳細な情報(減損の理由、回収可能価額の算定根拠など)も開示が求められます(第126項、第129項、第130項)。
Q. 個別の資産や資金生成単位(CGU)で減損があった場合、何を開示すればよいですか?
A. 減損に至った事象や状況、減損損失の金額、資産の性質やCGUの記述、そして回収可能価額(処分コスト控除後の公正価値か使用価値か)などを開示する必要があります。さらに、回収可能価額の算定に用いた主要な仮定(割引率など)についても追加の開示が求められます(第130項)。
Q. 回収可能価額を「使用価値」で計算した場合、特に開示が必要な項目は何ですか?
A. 使用価値を計算する際に用いた「割引率」を開示する必要があります。これは、現在と過去の見積りの両方で使われた割引率が対象となります(第130項(g))。
Q. のれんや耐用年数を確定できない無形資産の減損テストでは、どんな特別な開示が求められますか?
A. のれん等の帳簿価額が企業全体で見て「重大」な資金生成単位(CGU)については、特に詳細な情報開示が必要です。具体的には、配分されたのれん等の金額、回収可能価額の算定基礎、そして計算に用いた主要な仮定(成長率や割引率など)とその算定根拠を開示しなければなりません(第134項)。
Q. 減損テストで使った「主要な仮定」が変わると、将来減損する可能性についても開示が必要ですか?
A. はい。主要な仮定が合理的な範囲で変化した場合に、帳簿価額が回収可能価額を上回ってしまう可能性があるなら、その旨を開示しなければなりません。具体的には、現在の回収可能価額が帳簿価額を上回っている差額や、減損が発生するために必要な仮定の変化の程度などです(第134項(f))。
Q. 減損損失や戻入れの金額は、どこでどのように開示するのですか?
A. 資産のクラスごとに、当期中に純損益またはその他の包括利益に認識した減損損失およびその戻入れの金額と、それらを含んでいる包括利益計算書上の科目をそれぞれ開示する必要があります(第126項)。