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IAS第36号 資産の減損損失の認識と戻入れの原則を解説

2024-10-09
目次

国際会計基準第36号「資産の減損」(IAS 第36号)は、企業が保有する資産の帳簿価額が、その資産から回収できると見込まれる金額(回収可能価額)を上回らないようにするための手続きを定めています。本稿では、IAS 第36号における減損損失の認識および戻入れに関する主要な原則と詳細を、該当する条項番号を交えながら分かりやすくご説明いたします。

減損損失の認識及び測定

減損損失の認識と測定は、資産の経済的価値が帳簿上の価値を下回った場合に、その差額を損失として会計処理する手続きです。このプロセスは、資産の過大評価を防ぎ、財務諸表の信頼性を確保するために不可欠です。

減損損失を認識する基本原則

減損損失は、特定の経済的規準に基づいて認識されます。資産の回収可能価額が帳簿価額を下回っている場合に限り、その差額を減損損失として認識し、資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額する必要があります(第59項)。

減損損失の定義 資産または資金生成単位の帳簿価額が回収可能価額を超過する金額第6項
認識のタイミング 回収可能価額が帳簿価額を下回る場合にはいつでも認識される(BCZ105項

減損損失の計上先:純損益かその他の包括利益か

認識された減損損失を、純損益(P/L)とその他の包括利益(OCI)のどちらに計上するかは、対象資産の会計モデルによって異なります。

原価モデルの資産 減損損失は直ちに純損益に認識しなければなりません(第60項)。
再評価モデルの資産 減損損失は、まず当該資産に係る再評価剰余金を取り崩す形でその他の包括利益(OCI)に認識されます。減損損失が再評価剰余金の残高を超える部分については、純損益に認識されます(第61項)。

減損損失認識後の会計処理

減損損失を認識した後、いくつかの追加的な会計処理が必要となります。

  • 負債の認識:減損損失の見積額が当該資産の帳簿価額を上回る場合でも、他のIFRS基準が要求する場合にのみ負債を認識します(第62項)。
  • 減価償却費の調整:減損損失を認識した後は、減損後の新たな帳簿価額(改訂後の帳簿価額)に基づき、残存耐用年数にわたって将来の減価償却費を再計算し、調整する必要があります(第63項)。

資金生成単位(CGU)における減損損失の配分

個別の資産ではなく、複数の資産が一体となってキャッシュ・フローを生み出す「資金生成単位(CGU)」で減損が認識された場合、減損損失は以下の順序でCGU内の各資産に配分されます(第104項)。

  1. のれんへの配分:最初に、そのCGUに配分されているのれんの帳簿価額を減額します。
  2. 他の資産への配分:残額を、CGU内の他の各資産の帳簿価額に基づいて比例按分で配分します。

ただし、この配分には上限があります。各資産の帳簿価額は、以下のうち最も高い金額を下回るように減額してはなりません(第105項)。

  • 処分コスト控除後の公正価値
  • 使用価値
  • ゼロ

この上限により特定の資産に配分しきれなかった減損損失は、上限に抵触しない他の資産に再度、比例配分されます。

減損損失の戻入れ

過去に認識した減損損失が、その後の経済状況の変化などにより、もはや存在しないか減少している可能性が示された場合、減損損失を戻し入れる会計処理を行います。ただし、すべての資産で戻入れが認められるわけではありません。

減損損失を戻し入れる基本原則

企業は各報告期間の末日に、のれん以外の資産について過去に認識した減損損失が減少した可能性を示す兆候がないか検討する義務があります(第110項)。戻入れが認められるのは、最後の減損損失を認識した後、回収可能価額の算定に用いた見積りに変更があった場合のみです(第114項)。単なる時間の経過による割引計算の「振戻し」効果だけでは、戻入れは認められません(第116項)。

個別資産に係る減損損失の戻入れ

個別資産の減損損失を戻し入れる際には、上限額と計上先に注意が必要です。

戻入れの上限 戻入れ後の帳簿価額は、過去に減損損失を認識しなかったと仮定した場合の(償却又は減価償却控除後の)帳簿価額を超えてはなりません(第117項)。
戻入れの計上先(原価モデル) 戻入れ額は直ちに純損益に認識します(第119項)。
戻入れの計上先(再評価モデル) 原則としてその他の包括利益(OCI)に認識し、再評価剰余金を増加させます。ただし、過去に同じ資産の減損損失を純損益に認識していた場合は、その範囲内で戻入れ額も純損益に認識します(第120項)。

また、戻入れを認識した後は、その改訂後の帳簿価額に基づいて将来の減価償却費を修正する必要があります(第121項)。

資金生成単位(CGU)に係る減損損失の戻入れ

CGUについて認識した減損損失の戻入れは、そのCGUを構成するのれん以外の資産の帳簿価額に基づき、比例的に配分されます(第122項)。この際、個別資産の帳簿価額は、以下のいずれか低い方の金額を超えて増額することはできません(第123項)。

  1. その資産の回収可能価額
  2. 過去に減損損失を認識しなかったと仮定した場合の帳簿価額

のれんに係る減損損失の戻入れ禁止

最も重要な規則の一つとして、のれんについて一度認識した減損損失は、その後の期間において戻入れをしてはならないという点があります(第124項)。これは、減損後ののれんの価値の回復は、内部で創出された「自己創設のれん」の増加によるものである可能性が高く、IAS第38号で認識が禁止されている自己創設のれんとの区別が困難であるためです(第125項)。

まとめ

IAS 第36号における減損損失の認識と戻入れは、資産の価値を財務諸表に公正に反映させるための重要な会計手続きです。認識のトリガーは「回収可能価額が帳簿価額を下回る」ことであり、戻入れは「回収可能価額算定の見積りに変更があった」場合に限られます。特に、のれんの減損損失は戻入れが一切認められないという点は、実務上極めて重要なポイントです。これらの原則を正確に理解し、適用することが、IFRSに準拠した信頼性の高い財務報告の基礎となります。

IAS第36号「資産の減損」に関するよくある質問まとめ

Q. 減損損失は、どのような場合に認識する必要があるのですか?

A. 資産の「回収可能価額」が「帳簿価額」を下回った場合に、その差額を減損損失として認識する必要があります。これは、資産が帳簿価額ほどの価値を生み出せなくなったことを財務諸表に反映させるための手続きです(IAS第36号 第59項)。

Q. 減損損失は、損益計算書のどこに計上されますか?

A. 資産の評価モデルによって異なります。通常の資産(原価モデル)では「純損益」に費用として計上されます。一方、再評価を行っている資産(再評価モデル)では、まず「その他の包括利益」で再評価剰余金を取り崩し、超過分を純損益として認識します(IAS第36号 第60項、第61項)。

Q. 複数の資産グループ(資金生成単位)で減損した場合、損失はどのように配分しますか?

A. まず、そのグループに配分されている「のれん」の帳簿価額から優先的に減額します。それでも損失が残る場合は、残りの損失額をグループ内の他の資産の帳簿価額に応じて比例的に配分します(IAS第36号 第104項)。

Q. 一度計上した減損損失は、後で資産価値が回復した場合に戻せますか?

A. はい、「のれん」以外の資産については、減損の要因が解消され、資産の回収可能価額が帳簿価額を上回った場合に、減損損失の「戻入れ」が可能です。ただし、戻入れできる金額には上限があります(IAS第36号 第114項)。

Q. 減損損失を戻し入れる際、いくらまで戻すことができますか?

A. 戻入れ後の帳簿価額が、「もし過去に減損をしていなかった場合の帳簿価額(減価償却などを考慮後)」を超えない金額が上限となります。減損前よりも高い価額にすることはできません(IAS第36号 第117項)。

Q. なぜ「のれん」の減損損失だけは戻し入れが禁止されているのですか?

A. のれんの価値が回復した場合、その回復分は買収後に自社で生み出した価値(自己創設のれん)と区別することが困難だからです。会計基準では自己創設のれんの資産計上を認めていないため、一度減損したのれんの戻入れは禁止されています(IAS第36号 第124項、第125項)。

事務所概要
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