国際財務報告基準(IFRS)におけるIAS第36号「資産の減損」は、企業の資産価値を適正に財務諸表へ反映させるための重要な基準です。特に、キャッシュ・フローを独立して生み出さない資産の減損テストにおいて中心的な役割を果たすのが「資金生成単位(Cash-Generating Unit: CGU)」と、企業結合で生じる「のれん(Goodwill)」の概念です。本稿では、これらの定義、識別方法、減損テストの具体的なプロセスについて、関連条項を交えながら詳細に解説いたします。
資金生成単位(Cash-Generating Unit: CGU)とは
資金生成単位(CGU)は、個々の資産単位では減損の兆候を判断できない場合に、減損テストを実施するための資産のグループを指します。IAS第36号を適用する上で、このCGUをいかに正確に識別するかが実務上の重要なポイントとなります。
CGUの定義と識別基準
CGUの定義は、IAS第36号の第6項で明確に定められています。重要なのは、独立した「キャッシュ・インフロー」を生成する「最小の」グループという点です。
| 項目 | 内容(IAS第36号より) |
|---|---|
| 定義 | 「他の資産又は資産グループからのキャッシュ・インフローとはおおむね独立したキャッシュ・インフローを生成する最小の識別可能な資産グループ」をいいます(第6項)。 |
| 識別基準 | 独立したキャッシュ・インフローに基づいて識別されます。共有インフラのコストのようなキャッシュ・アウトフローは、CGUの識別時には考慮されません(第6項 E2脚注)。 |
つまり、費用(アウトフロー)が共通であっても、収益(インフロー)を独立して生み出す最小単位を識別することが求められます。
CGUの識別プロセスと実務上の判断
資産に減損の兆候がある場合、原則として個別資産ごとに回収可能価額を見積もります。しかし、それが不可能な場合にCGUの概念が必要となります。
CGUの識別は、企業の事業活動の実態に合わせて行われ、経営者の判断が重要となります。例えば、特定の鉱山の採掘活動を支援するためだけに存在する私設鉄道は、それ単体で独立したキャッシュ・インフローを生み出しません。この場合、鉄道資産を含めた鉱山全体が単一のCGUとして識別されることになります(第67項 例)。
また、企業内部で製品をやり取りする際の「内部振替価格」の扱いも重要です。
| 状況 | 将来キャッシュ・フローの見積り方法 |
|---|---|
| 産出物に活発な市場が存在する場合 | たとえ産出物が内部で消費される場合でも、その資産グループはCGUとして識別されます。将来キャッシュ・フローは、独立第三者間取引で達成され得る市場価格を基に見積もる必要があります(第70項、第71項)。 |
一度識別されたCGUは、変更を正当化する理由がない限り、各会計期間で継続的に適用する必要があります(第72項)。
全社資産との関係性
本社ビルや研究開発センターのように、複数のCGUのキャッシュ・フロー創出に貢献するものの、それ自体は独立したキャッシュ・インフローを生まない資産を「全社資産」と呼びます(第100項)。全社資産の減損テストは、CGUへの配分の可否によってアプローチが異なります。
| 全社資産の配分 | 減損テストの方法 |
|---|---|
| CGUに合理的・首尾一貫して配分可能な場合 | 全社資産の帳簿価額の一部をCGUの帳簿価額に含め、回収可能価額と比較します(第102項(a))。 |
| CGUに配分不可能な場合 | まず全社資産を除いてCGUの減損テストを行います。その後、全社資産を配分できる最小のCGUグループを識別し、そのグループ単位で再度減損テストを実施します(第102項(b))。 |
のれん(Goodwill)の減損会計
のれんは、企業結合によって取得された、個別に識別できない将来の経済的便益をもたらす資産です。その性質上、他の資産とは異なる特別な減損会計のルールが適用されます。
のれんの会計処理の基本原則
のれんの会計処理における最大の特徴は、償却を行わない点です。その代わりに、その価値が損なわれていないかを定期的に検証するアプローチが採用されています。
- 非償却:のれんの耐用年数や価値の減少パターンを合理的に予測することは困難であるため、定額法などによる規則的な償却は行いません(BC131E項)。
- 毎年の減損テスト:償却をしない代わりに、少なくとも年に1回、および減損の兆候がある場合にはその都度、減損テストを実施することが義務付けられています(第10項(b))。
のれんのCGUへの配分
のれんは独立してキャッシュ・フローを生まないため、減損テストを行うには、企業結合によるシナジー効果の恩恵を受けるCGUまたはCGUのグループに配分する必要があります。この配分には厳格なルールが定められています。
| 配分要件 | 詳細 |
|---|---|
| 便益の享受 | 企業結合のシナジーから便益を得ると見込まれるCGUまたはCGUグループであること(第80項)。 |
| 監視レベル | のれんが内部管理目的で監視されている企業内の最小のレベルであること(第80項(a))。 |
| セグメント制限 | 配分先の単位は、IFRS第8号「事業セグメント」で定義される事業セグメント(集約前)より大きくないこと(第80項(b))。 |
のれんを含むCGUの減損テストと損失の配分
のれんが配分されたCGU(またはCGUグループ)は、配分されたのれんの帳簿価額を含めた金額と、その単位全体の回収可能価額とを比較して減損テストを行います。帳簿価額が回収可能価額を上回る場合、減損損失を認識し、以下の順序で配分しなければなりません(第104項)。
- 最初に、当該CGUに配分されたのれんの帳簿価額を減額する。
- 次に、残額があれば、当該CGU内の他の資産の帳簿価額に応じて比例的に配分する。
この際、他の資産の帳簿価額を、その資産の処分コスト控除後の公正価値、使用価値、またはゼロのうち、最も高い金額未満に減額することはできません(第105項)。
のれんの減損損失の戻入れ禁止
IAS第36号における、のれんに関する最も厳格なルールの一つが減損損失の戻入れです。
のれんについて一度認識した減損損失は、その後の期間において戻入れをしてはなりません(第124項)。
これは、減損後ののれんの価値の回復は、内部で創出された「自己創設のれん」の増加によるものと見なされ、IAS第38号で自己創設のれんの資産計上が禁止されていることと整合性を図るためです(第125項)。
まとめ
IAS第36号における「資金生成単位(CGU)」とのれんの減損会計は、IFRSに基づく財務報告の信頼性を確保する上で極めて重要です。CGUは独立したキャッシュ・インフローを基準に客観的に識別し、のれんは非償却を前提に、配分されたCGU単位で毎年の減損テストを実施する必要があります。特に、減損損失を最初にのれんへ配分するルールや、のれんの減損損失の戻入れが禁止されている点は、実務上必ず遵守すべき重要なポイントです。これらの規定を正確に理解し適用することが、適正な資産評価の基礎となります。
IAS第36号「資産の減損」に関するよくある質問
Q. 資金生成単位(CGU)とは何ですか?
A. IAS第36号によれば、他の資産や資産グループから独立してキャッシュ・インフロー(収入)を生み出す、識別可能な最小の資産グループのことです。個々の資産で減損テストができない場合に、このCGUを単位として減損テストを行います。
Q. のれんの減損テストはいつ行う必要がありますか?
A. のれんは償却されない代わりに、少なくとも年に1回、毎年減損テストを実施する必要があります。また、減損の兆候が見られる場合は、その都度、より頻繁にテストを行う必要があります。
Q. CGUの減損損失はどのように配分されますか?
A. CGUで減損損失が認識された場合、まずそのCGUに配分されている「のれん」の帳簿価額から優先的に減額します。それでも損失が残る場合は、CGU内の他の資産に、それぞれの帳簿価額に応じて比例的に配分します。
Q. なぜ、のれんの減損損失は戻し入れてはいけないのですか?
A. のれんの減損損失の戻入れは禁止されています。これは、減損後の価値の回復が、会計上認識が認められていない「自己創設のれん」の増加によるものか、取得したのれんの価値が純粋に回復したものかを区別することが極めて困難なためです。
Q. 本社ビルなどの全社資産はCGUの減損テストでどのように扱われますか?
A. 全社資産は、それ自体ではキャッシュ・フローを生み出さないため、個別の減損テストはできません。合理的かつ一貫した基準で特定のCGUに配分できる場合は、そのCGUの帳簿価額に含めてテストします。配分できない場合は、全社資産を配分できるより大きなCGUグループ単位でテストを行います。
Q. CGUを識別する際の最も重要なポイントは何ですか?
A. 最も重要なポイントは、「他の資産からおおむね独立したキャッシュ・インフロー(収入)を生み出す最小の資産グループ」を識別することです。コスト(支出)の共有は考慮せず、収入の独立性に着目して判断します。