2019年1月1日以後開始する事業年度から強制適用された国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」は、原則としてすべてのリースを資産計上することを求めています。この変更により、契約が「リース」に該当するかどうかの判定が、これまで以上に重要となりました。本稿では、IFRS第16号の基準書を基に、「リースの識別」に関する要件を、該当条項を引用しながら網羅的かつ具体的に解説します。
リースの定義と基本原則
IFRS第16号におけるリースの識別は、契約の実質を評価することから始まります。企業は、まず契約がリースであるか、またはリースを含んでいるかを判定しなければなりません。この最初のステップが、その後の会計処理全体を決定づける重要なプロセスとなります。
リースの定義とは?
IFRS第16号では、契約がリースと判定されるのは、その契約が「特定された資産」の使用を支配する権利を「一定期間」にわたり「対価と交換」に移転する場合であると定義されています。つまり、単なるサービスの提供を受ける契約と、資産の使用権そのものを得るリース契約とを明確に区別することが求められます。
| 要素 | 説明 |
|---|---|
| 特定された資産 | 契約の対象となる資産が、明示的または黙示的に特定されている必要があります。 |
| 一定期間 | 権利が移転される期間が定められています。期間は、時間だけでなく、資産の使用量(例:製造単位数)で記述される場合もあります(第10項)。 |
| 対価と交換 | 資産の使用権の移転に対して、対価の支払いが発生します。 |
識別における2つの重要な権利
契約がリースの定義を満たすかを評価する上で、顧客(借手)が使用期間全体を通じて以下の2つの権利を両方とも有しているかを評価する必要があります(B9項)。この2つの権利を支配しているかどうかが、リースの識別の核心となります。
- 特定された資産の使用から生じる経済的便益のほとんどすべてを得る権利
- 特定された資産の使用を指図する権利
これらの権利を顧客が有している場合、その契約はリースである、またはリースを含んでいると結論付けられます。
要件1:特定された資産
リースの識別における第一のステップは、契約の対象となる「特定された資産」が存在するかどうかを確認することです。資産が特定されていなければ、そもそもリース契約は成立しません。
資産の特定方法
資産の特定は、必ずしも契約書に資産の製造番号などが明記されている必要はありません。IFRS第16号では、以下の方法で特定されるとしています(B13項)。
| 特定方法 | 内容 |
|---|---|
| 明示的な特定 | 契約書において、資産が具体的に記載されている場合(例:「車両番号XXXのトラック」)。 |
| 黙示的な特定 | 資産が顧客に利用可能とされた時点で、事実上特定される場合(例:顧客専用に設置されたキオスク端末)。 |
実質的な入替えの権利
たとえ資産が契約上特定されていても、供給者(貸手)がその資産を自由に入れ替える権利を持っている場合は注意が必要です。供給者が「実質的な入替えの権利」を有している場合、顧客は特定の資産を支配しているとは言えず、リースには該当しません(B14項)。
この入替えの権利が「実質的」であると判断されるためには、以下の2つの条件を両方満たす必要があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 実質上の能力 | 供給者が、代替資産を物理的・技術的に入れ替える能力を保有していること。 |
| 経済的便益 | 供給者が、資産を入れ替えることによって経済的な利益を得ること(例:より効率的な資産への交換、他の顧客への貸出)。 |
なお、顧客が供給者の入替えの権利が実質的かどうかを容易に判定できない場合、その権利は実質的ではないと仮定しなければなりません(B19項)。
資産の一部分の取り扱い
契約の対象が、資産全体ではなくその一部分である場合もあります。その一部分が「特定された資産」と見なされるかどうかは、物理的な独立性によって判断されます(B20項)。
- 物理的に別個のもの(例:建物の1フロア):特定された資産と見なされます。
- 物理的に別個でないもの(例:光ファイバーケーブルの容量の一部):原則として特定された資産ではありません。ただし、その部分が資産の稼働能力の「ほとんどすべて」を占め、顧客に経済的便益のほとんどすべてを与える場合は、例外的に特定された資産と見なされます。
要件2:使用を指図する権利
特定された資産が存在することを満たした場合、次に顧客がその資産の「使用を指図する権利」を有しているかを判定します。これは、顧客が資産の使用方法と使用目的を実質的に決定できるか、という点に集約されます。
使用を指図する権利の判定基準
顧客が使用を指図する権利を有しているのは、以下のいずれかの条件を満たす場合です(B24項)。
| 判定ケース | 内容 |
|---|---|
| ケースA | 顧客が、使用期間を通じて資産の使用方法および使用目的を指図する権利を有している。 |
| ケースB | 資産の使用方法・目的が事前に決定されており、かつ顧客が(i)資産を稼働させる権利を有している、または(ii)その使用方法・目的を決定するように資産を設計した。 |
例えば、ケースAでは、顧客が輸送トラックの目的地や積荷を自由に決定できる場合が該当します。ケースBでは、特定のルートのみを走行する太陽光パネル付きの輸送船について、顧客がその設計段階で仕様を決定した場合などが考えられます。
供給者の権利が与える影響
契約には、供給者が一定の権利を留保する条項が含まれることがよくあります。しかし、すべての供給者の権利が、顧客の使用を指図する権利を否定するわけではありません。
- 防御的な権利:供給者の資産や人員、コンプライアンス上の利益を保護するための権利(例:危険地域への立ち入り禁止)は、顧客が使用を指図する権利を妨げるものではなく、単に権利の範囲を定めるものと解釈されます(B30項)。
- 稼働・維持管理:供給者が資産の稼働やメンテナンスを担当する場合でも、その指示が顧客の決定(使用方法・目的)に従うものである限り、使用を指図する権利は顧客にあると判断されます(B27項)。
リースの再判定と構成部分の分離
一度リース契約に該当しないと判定された契約も、状況の変化によっては見直しが必要となります。また、リース契約と判定された場合、契約内容を適切に分離して会計処理を行う必要があります。
契約変更時のリースの再判定
企業は、契約がリースに該当するかどうかの判定を、契約開始時に一度だけ行うのが原則です。ただし、契約の条件に変更があった場合にのみ、その契約がリースであるか、またはリースを含んでいるかを再判定しなければなりません(第11項)。
リース構成部分と非リース構成部分の分離
一つの契約に、リース要素(例:機器のレンタル)とサービス要素(例:保守サービス)の両方が含まれている場合、原則としてこれらを区分して会計処理する必要があります(第12項)。
ただし、借手には実務上の負担を軽減するための「実務上の便法」が認められています。借手は、原資産のクラスごとに、非リース構成部分を分離せず、全体を単一のリース構成部分として会計処理することを選択できます(第15項)。
リースの識別フローチャート
IFRS第16号の付録B(B31項)では、ここまでの判定プロセスをまとめたフローチャートが示されています。この流れに沿って検討することで、判定漏れを防ぐことができます。
- 特定された資産は存在するか?
→ Noの場合、リースではない。Yesの場合、次のステップへ。 - 顧客は、資産の使用から生じる経済的便益のほとんどすべてを得る権利を有しているか?
→ Noの場合、リースではない。Yesの場合、次のステップへ。 - 使用方法および使用目的を指図する権利を有しているのは誰か?
- 顧客である場合 → リースに該当する。
- 供給者である場合 → リースではない。
- 事前に決定されている場合 → 顧客が資産を稼働させる権利を持つか、または資産を設計したか?
- Yesの場合 → リースに該当する。
- Noの場合 → リースではない。
まとめ
IFRS第16号における「リースの識別」は、契約の実質を見極め、「特定された資産」と「使用を指図する権利」という2つの重要な要素を慎重に評価するプロセスです。特に、供給者の「実質的な入替えの権利」の有無や、資産の一部分の取り扱いなど、実務上判断に迷う論点が多く含まれています。本稿で解説した基準書の条項と判定フローチャートを参考に、個々の契約内容を正確に分析し、適切な会計処理を行うことが不可欠です。この最初の識別を誤ると、財務諸表全体に大きな影響を及ぼす可能性があるため、細心の注意が求められます。
IFRS第16号「リースの識別」に関するよくある質問まとめ
Q. IFRS第16号における「リース」の定義を教えてください。
A. IFRS第16号では、契約が「特定された資産」の使用を支配する権利を「一定期間」にわたり「対価と交換」に移転する場合にリースと定義されます。
Q. 契約がリースに該当するかどうかを判断する際の重要なポイントは何ですか?
A. 顧客が「特定された資産の使用から生じる経済的便益のほとんどすべてを得る権利」と「資産の使用を指図する権利」の両方を持っているかどうかが重要な判断ポイントです。
Q. 貸主(供給者)が資産をいつでも交換できる契約はリースになりますか?
A. 供給者が資産を入れ替える「実質的な権利」を持っている場合、それは特定された資産とは見なされず、リース契約には該当しません。実質的かどうかは、供給者に入れ替える能力があり、それによって経済的便益を得るかどうかが基準となります。
Q. 「使用を指図する権利」があるとは、どのような状態を指しますか?
A. 顧客が、使用期間を通じて資産の「使用方法」と「使用目的」を決定できる状態を指します。例えば、いつ、どこで、何のためにその資産を使うかを顧客が決められる場合です。
Q. 契約の途中でリースかどうかの判定を見直すことはありますか?
A. はい、契約条件に変更があった場合にのみ、その契約がリースに該当するかどうかを再判定する必要があります。契約変更がなければ、当初の判定を継続します。
Q. リース契約の中に、リースではないサービス部分(非リース構成部分)が含まれている場合はどうすればよいですか?
A. 原則として、リース部分と非リース部分を区分して会計処理する必要があります。ただし、借手は実務上の便法として、これらを区別せず、まとめて単一のリースとして会計処理することも選択できます。