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新リース会計基準で迫られる経営判断|適用前に企業がすべき準備

2025-09-24
目次

2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度から、原則として新リース会計基準(企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」)が適用されます。この変更は、単なる会計処理の変更に留まらず、企業の財務戦略や業務プロセスに大きな影響を及ぼすため、経営層を含めた全社的な対応と重要な経営判断が求められます。本稿では、新基準の施行に備え、企業が検討すべき経営上の判断事項を網羅的に解説します。

新リース会計基準の概要と主要な変更点

新しいリース会計基準の最も大きな特徴は、国際的な会計基準であるIFRS第16号「リース」との整合性を図るため、「使用権モデル」が採用された点です。これにより、これまでオフバランス処理が可能であったオペレーティング・リースについても、原則として貸借対照表に資産・負債として計上することが求められます。

「使用権モデル」の導入と財務諸表への影響

新基準では、借手はすべてのリースについて、リース資産を使用する権利を「使用権資産」として資産計上し、将来のリース料支払義務を「リース負債」として負債計上します。これにより、これまで費用処理のみであったオペレーティング・リースがオンバランス化され、総資産および総負債が増加します。結果として、自己資本比率や負債比率といった財務指標に大きな影響を与える可能性があります。

リースの定義と識別の厳格化

新基準における「リース」とは、「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」と定義されています(企業会計基準第34号 第6項)。契約が「特定された資産」の使用を支配する権利を移転するかどうかが識別のポイントとなり、従来リースとして認識されていなかったサービス契約の一部などがリースに該当する可能性があります。契約の実態に基づいた慎重な判断が求められます。

借手の会計処理の統一

借手の会計処理において、従来のファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分は実質的になくなります。すべてのリースについて、損益計算書上は使用権資産の減価償却費リース負債に係る支払利息を計上する単一の会計処理モデルが採用されます。これにより、支払リース料として費用計上していた旧基準と比較して、利益の計上パターンが変化し、特に営業利益やEBITDAといった指標に影響が出ます。

経営判断が求められる重要ポイント

新基準への対応は、経理部門だけの問題ではありません。財務戦略や事業計画に直結する以下の点について、経営レベルでの意思決定が不可欠です。

リース契約の見直しとリース期間の決定

リース負債の算定基礎となる「借手のリース期間」の決定は、極めて重要な判断事項です。リース期間は、解約不能期間に加えて、借手が「行使することが合理的に確実である」と判断した延長オプションの対象期間を含めて決定されます(企業会計基準第34号 第31項)。この「合理的に確実」という判断は、過去の実績だけでなく、将来の事業計画や経済的インセンティブを総合的に勘案する必要があり、経営層の意思が直接的に反映される部分です。

簡便的な取扱いの選択

実務上の負担を軽減するため、新基準では特定のリースについて簡便的な取扱いが認められています。

短期リース リース開始日においてリース期間が12か月以内であるリース。資産・負債を計上せず、リース料を費用処理することが認められます(企業会計基準適用指針第33号 第93項)。
少額リース 原資産が少額であるリース。IFRS第16号では新品時の価額が5,000米ドル以下の資産が例示されていますが、日本基準では明確な金額基準はありません。企業の実態に応じて重要性の観点から判断し、費用処理することが認められます(企業会計基準適用指針第33号 第94項)。

これらの簡便法をどの範囲で採用するかは、管理コストと財務諸表への影響を天秤にかけた経営判断となります。

適用時期の選択(早期適用)

新リース会計基準の原則適用は2027年4月1日以後に開始する事業年度からですが、2025年4月1日以後に開始する事業年度からの早期適用も可能です(企業会計基準第34号 第58項)。早期適用を行うか否かは、システム対応の準備状況、競合他社の動向、資本市場への説明責任などを考慮した戦略的な経営判断が求められます。特に、グローバルに事業展開する企業にとっては、海外子会社との会計方針統一の観点から早期適用が有力な選択肢となり得ます。

財務指標・KPIへの影響と対策

オペレーティング・リースのオンバランス化は、企業の財務指標を大きく変動させます。事前に影響額をシミュレーションし、ステークホルダーへの説明準備を整えることが重要です。

自己資本比率・負債比率の変動

リース負債の計上により、負債総額が増加するため、自己資本比率は低下し、負債比率は上昇します。これが金融機関との融資契約における財務制限条項(コベナンツ)に抵触するリスクはないか、事前に確認し、必要に応じて金融機関と協議を開始する経営判断が必要です。

EBITDA・営業利益の変化

新基準では、支払リース料が減価償却費と支払利息に分解されます。支払利息は営業外費用となるため、営業利益やEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)は増加する傾向にあります。これらの指標を業績評価(KPI)や事業計画の目標値として用いている場合、新基準適用後の水準に見直す必要があります。

項目 旧基準(オペレーティング・リース)
貸借対照表 オフバランス
損益計算書 支払リース料(販売費及び一般管理費など)
項目 新基準
貸借対照表 使用権資産(資産) / リース負債(負債)
損益計算書 減価償却費(販売費及び一般管理費など) + 支払利息(営業外費用)

業務プロセスとシステム対応の準備

新基準への対応は、会計方針の決定だけでなく、それを支える業務プロセスとITシステムの構築が不可欠です。

リース契約情報の一元管理

本社・支社・子会社など、社内に散在するすべてのリース契約を網羅的に把握し、契約期間、リース料、更新・解約オプション、残価保証といった会計計算に必要な情報を一元的に管理する体制が必須となります。Excelでの管理は限界があるため、リース管理システムの導入が現実的な選択肢となり、その投資判断が求められます。

リース資産・負債の計算ロジックの構築

リース負債の割引現在価値計算、使用権資産の当初測定、その後の減価償却と利息配分、さらには契約条件変更に伴う再測定(企業会計基準第34号 第39項、第40項)など、複雑な計算を正確に行うための業務プロセスとシステム対応が必要です。特に再測定は頻繁に発生する可能性があるため、手作業に頼らない効率的な仕組みの構築が重要です。

関係部署との連携と社内体制の構築

新リース会計基準対応は、経理部門単独で完結するものではなく、全社横断的なプロジェクトとして推進する必要があります。

契約担当部署との連携

不動産や設備などをリース契約する事業部門や総務部門との連携が不可欠です。特に、リース期間の決定に影響する延長オプションの行使意図など、会計処理に必要な情報を契約段階で正確にヒアリングし、経理部門へ連携するフローを確立する必要があります。法務部門とも連携し、契約書の雛形を見直すことも有効です。

経営層へのレポーティング

プロジェクトの進捗、財務指標への影響シミュレーション結果、システム投資の見積額などを定期的に経営層へ報告し、重要な意思決定をタイムリーに仰ぐ体制を構築することが、円滑な移行の鍵となります。経営層が当事者意識を持ってプロジェクトを主導することが、全社的な協力を得る上で極めて重要です。

まとめ

新リース会計基準への対応は、単なる会計ルールの変更ではなく、企業の財務戦略、資産効率、契約管理体制そのものを見直す好機と捉えるべきです。適用開始までに残された時間は限られています。早期に専門のプロジェクトチームを組成し、影響度分析に着手するとともに、本稿で示したような経営判断事項を一つひとつクリアにしていくことが求められます。計画的な準備を進め、円滑な基準移行を実現してください。

参考文献

新リース会計基準に関するよくある質問まとめ

Q.新リース会計基準で何が一番変わるのですか?

A.これまでオフバランスだったオペレーティング・リースも、原則として資産と負債に計上(オンバランス化)される点が最大の違いです。これにより、企業の財政状態がより実態に近く表示されます。

Q.すべてのリース契約が新基準の対象になりますか?

A.原則としてすべてのリースが対象ですが、短期リース(12か月以内)や少額リース(重要性が乏しいもの)については、簡便的な処理が認められています。自社の契約がどちらに該当するか判断が必要です。

Q.新基準の適用で、財務諸表にはどんな影響が出ますか?

A.資産と負債が両建てで計上されるため、総資産が増加し、自己資本比率や負債比率などの財務指標が悪化する可能性があります。また、損益計算書では、減価償却費と支払利息が計上される形に変わります。

Q.経営判断として、まず何から着手すべきですか?

A.まずは社内のすべてのリース契約を網羅的に把握し、新基準の対象となる契約を特定することから始めます。その上で、財務諸表への影響額を試算し、今後の設備投資や資金調達計画への影響を検討する必要があります。

Q.リースバック取引の扱いは変わりますか?

A.はい、変わります。資産の売却が要件を満たすかどうかで会計処理が異なります。要件を満たさない場合、売却取引とは認められず、金融取引(借入れ)として扱われるため、注意が必要です。

Q.システムや業務プロセスの見直しは必要ですか?

A.はい、必要になる可能性が高いです。リース契約の情報を一元管理し、複雑な計算を行うためのシステム改修や新規導入、また契約管理から会計処理までの業務プロセスの見直しが求められます。

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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