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役員報酬の決定方法と変更時の注意点|損金算入のルールを解説

2025-09-15
目次

役員報酬の決定と変更は、企業の税務戦略において極めて重要です。適切な手続きを踏まないと、法人税の負担が増大するリスクがあります。本記事では、役員報酬の基本的な決定方法から、損金算入が認められるための要件、そして報酬額を変更する際の具体的な注意点まで、専門的な視点から詳しく解説いたします。

役員報酬の決定方法と基本ルール

役員報酬は、従業員の給与とは異なり、会社法および法人税法に基づいた厳格なルールに則って決定する必要があります。これは、恣意的な利益操作を防ぎ、税務上の問題を回避するためです。適切な決定プロセスを理解することが、健全な会社経営の第一歩となります。

株主総会の決議または定款での定め

会社法第361条に基づき、役員報酬は定款に定めるか、株主総会の決議によって決定されます。中小企業においては、定款で具体的な金額を定めず、毎年の定時株主総会で報酬総額の枠を決定し、その範囲内で取締役会(または代表取締役)が個別の配分を決定するケースが一般的です。この際、税務調査への備えとして、決定内容を記録した株主総会議事録を必ず作成し、会社に保管することが不可欠です。

会社設立・事業年度開始から3ヶ月以内に決定

役員報酬の金額は、会社設立日または事業年度開始日(期首)から3ヶ月以内に決定しなければなりません。この期間を過ぎてから決定・支給された報酬は、原則として損金に算入できず、法人税の課税対象となってしまいます。例えば、4月1日が事業年度開始日である法人の場合、6月30日までに役員報酬を決定し、その後の支給を開始する必要があります。

役員報酬と従業員給与の違い

役員報酬と従業員給与の主な違いを理解することは、適切な労務管理と税務対応の基礎となります。決定プロセスや損金算入の要件、各種手当の有無など、両者には明確な差異が存在します。

項目 役員報酬
決定方法 定款または株主総会の決議
変更の自由度 原則、事業年度中は変更不可
損金算入 一定の要件を満たす必要あり
残業代・手当 原則として支給対象外
項目 従業員給与
決定方法 雇用契約、就業規則
変更の自由度 昇給・降給など比較的自由
損金算入 原則、全額損金算入可能
残業代・手当 労働基準法に基づき支給

損金算入が認められる役員報酬の種類

法人税法上、役員報酬が損金として認められるためには、以下のいずれかの支給方法に該当する必要があります。これらの要件を正しく理解し、自社の状況に合った方法を選択することが、効果的な節税に繋がります。

定期同額給与

定期同額給与とは、その支給時期が1ヶ月以下の一定の期間ごとであり、その事業年度の各支給時期における支給額が同額である給与を指します。これは最も一般的な役員報酬の形態であり、例えば「毎月25日に50万円を支給する」といったケースが該当します。この金額は、前述の通り、事業年度開始から3ヶ月以内に決定されなければならず、事業年度の途中で理由なく変更することは認められません。

事前確定届出給与

事前確定届出給与は、役員に対する賞与(ボーナス)などを損金算入するための制度です。所定の時期に確定した金額を支給することを株主総会等で決議し、事前に税務署へ「事前確定届出給与に関する届出書」を提出することで、その届出どおりに支払われた給与が損金として認められます。届出期限は、原則として「株主総会等の決議日から1ヶ月を経過する日」または「会計期間開始日から4ヶ月を経過する日」のいずれか早い日です。届出た金額や支給日と1円でも、1日でも異なると支給額の全額が損金不算入となるため、極めて厳格な運用が求められます。

業績連動給与

業績連動給与は、利益の状況を示す指標や株価の状況を示す指標など、客観的な業績指標を基礎として算定される給与です。役員のインセンティブを高める目的で導入されますが、算定方法の開示義務など厳格な要件が課せられており、主に非同族会社である上場企業などで採用されています。そのため、多くの中小企業にとっては適用が難しい制度です。

役員報酬の金額設定における考慮事項

役員報酬の金額を決定する際は、税務上のリスクだけでなく、会社の経営状況や役員個人の税負担も総合的に考慮する必要があります。最適なバランスを見つけることが、持続可能な経営を実現します。

会社の利益計画との整合性

役員報酬は、年間の売上予測や経費計画を基にした利益計画から逆算して決定することが重要です。報酬額が高すぎると会社の利益を圧迫し、資金繰りの悪化や赤字転落を招く恐れがあります。一方で低すぎると、法人の利益が過大に計上され、法人税の負担が増大します。法人税率と、役員個人の所得税・住民税・社会保険料の合計負担率を比較し、会社と個人の手残りが最大化されるバランス点を見つけることが節税の鍵となります。

不相当に高額な報酬の否認リスク

たとえ定期同額給与の要件を満たしていても、役員の職務内容、会社の収益状況、他の従業員への給与支給状況、同業・同規模他社の役員報酬水準などからみて、不相当に高額であると判断された部分の金額は、損金算入が認められません。国税庁が公表している「民間給与実態統計調査」などを参考に、社会通念上、妥当な範囲内の金額を設定することが不可欠です。

社会保険料の負担

役員報酬の額は、役員が負担する健康保険料や厚生年金保険料の基準となる標準報酬月額に直結します。報酬額を高く設定すれば、将来受け取る年金額は増えますが、毎月の保険料負担も増大します。特に、標準報酬月額の上限(健康保険:139万円、厚生年金:65万円 ※令和6年度)を超えると、それ以上報酬を増やしても保険料は変わりません。この点も考慮して報酬額をシミュレーションすることが望ましいです。

役員報酬の変更時の注意点

一度決定した役員報酬は、事業年度の途中で自由に変更することはできません。しかし、会社の状況に大きな変化があった場合には、例外的に変更が認められます。その要件を正確に把握しておくことが重要です。

原則的な変更可能時期

定期同額給与の額を変更できるのは、原則として事業年度開始の日から3ヶ月以内に行われる定時株主総会等での改定に限られます。この期間内であれば、前期の業績や当期の事業計画などを踏まえて報酬額を見直すことが可能です。この期間を過ぎてしまうと、後述の例外的なケースを除き、変更は認められません。

期中の変更が認められる例外的ケース(臨時改定事由)

事業年度の途中であっても、役員の職制上の地位の変更(例:取締役から代表取締役への昇格)や、職務内容の重大な変更など、客観的な事情がある場合には報酬の変更が認められます。これは臨時改定事由と呼ばれ、変更には臨時株主総会の決議など、正規の手続きが必要となります。

業績悪化による減額(業績悪化改定事由)

経営状況が著しく悪化し、株主や債権者、取引先といった第三者との関係上、役員報酬を減額せざるを得ない客観的な事情がある場合も、期中の減額が認められます。これを業績悪化改定事由と呼びます。金融機関からの要請で報酬をカットする場合などが典型例です。単に「業績が予測より悪化したから」という社内的な理由だけでは認められないため、適用には慎重な判断が求められます。

役員賞与・株式報酬に関する会計基準

役員に対する報酬は、月々の金銭だけでなく、賞与や株式といった多様な形態で支給されることがあります。これらには、それぞれ特定の会計基準が適用され、適切な会計処理が求められます。

役員賞与の会計処理

企業会計基準委員会(ASBJ)が公表する「企業会計基準第4号 役員賞여に関する会計基準」では、役員賞与は発生した会計期間の費用として処理することが定められています(第3項)。株主総会の決議を経て期末後に支給される賞与であっても、その原因となる職務執行はその事業年度中に行われているため、利益の処分としてではなく、費用(販売費及び一般管理費)として計上する必要があります。

ストックオプションの会計処理

役員や従業員へのインセンティブとして付与されるストックオプションについては、「企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準」および「企業会計基準適用指針第17号 ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」が適用されます。この基準に基づき、ストックオプションはその公正な評価額を算定し、権利が確定するまでの期間にわたって按分し、株式報酬費用などの科目で費用計上することが求められます。

まとめ

役員報酬の決定と変更には、会社法と法人税法が定める厳格なルールが存在します。損金算入を確実にするためには、「定期同額給与」や「事前確定届出給与」といった制度を正しく理解し、事業年度開始から3ヶ月以内に株主総会で決定するなどの手続きを遵守することが不可欠です。また、報酬額は会社の利益計画や社会通念上の相場、社会保険料負担などを総合的に勘案して決定する必要があります。安易な決定や変更は予期せぬ税務リスクを招くため、計画的な報酬設計と、必要に応じた専門家への相談が企業の健全な発展を支えます。

参考文献:

事務所概要
社名
公認会計士事務所プライムパートナーズ
住所
〒107-0052
東京都港区赤坂5丁目2−33
IsaI AkasakA 17階
電話番号
03-6773-5062
対応責任者
公認会計士 島本 雅史

本記事は正確な情報提供を心掛けておりますが、執筆時点の情報に基づいているため、法改正や人的ミス、個別のケースにより適用が異なる可能性があります。最新の情報や具体的なご相談については、お気軽に弊所の会計士までお問い合わせください。

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